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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「酒場で見ず知らずの人と親しく話し、取材する方法」を書いた朝日新聞記者の記述が面白かった(「ルポ トランプ王国2」)

今なお、アメリカをひっくり返す力を持っているのか、Qアノンの暴走によって命脈を絶たれつつあるのか…ドナルド・トランプをめぐる勢力図はイマイチ外国からはわかりづらい。

まあそれが現在進行形であれ過去の話であれ、トランプ支持者の実態をルポした金成隆一・朝日新聞記者の
「ルポ トランプ王国」


「記者 ラストベルトに住む」


両方のルポとも大変面白く、貴重なジャーナリズムの記録となっている。
関連の紹介記事を何度か書いた。
togetter.com

「テレビに映るカリフォルニア、ニューヨーク、ワシントンは、オレたちとは違う。あれは 偽のアメリカだ。ルイ・ヴィトンのカバン? サックス・フィフス・アベニュー(ニューヨー クの高級百貨店)でお買い物?そんなのアメリカじゃねえ。みんなが映画で見ているのはニ ューヨークやロサンゼルスばかり、オレたちのことなんて誰も見ない。ここが本物のアメリカ だ、バカ野郎!」
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「彼はクソ野郎だ。聞いていれば分かるだろ?それでもワシントンの政治家たちにむかって「たわ言をほざくな(no bullshit)」と言えるやつだから、もしかすると本当に変化を起こせるかもしれない 」
「白人が誰かより優秀というつもりはない。しかし私の仲間=白人が最も醜くて愚かでも、守られる権利があると考えるのだ」
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そしてトランプ王国は、岩波新書なのに何か俗っぽいタイトルの(笑)

「ルポ トランプ王国2」

があることは知っていた。

ニューヨークを飛び出し中西部に広がるラストベルトへ。再訪のロードトリップで見えてきたトランプ王国のその後を追う。都市と地方の中間に位置し揺れる「郊外」、さらには深南部(ディープサウス)に広がる熱心なキリスト教徒の多い「バイブル(聖書)ベルト」へ。4年半で1005人に取材した真のアメリカがここに。


ただ
「読めば面白いことは分かり切ってるから、急いで読むまでもない」

と言った変な意識が出てね、積ん読状態だった。


何の気なしに読み始めたらやっぱりおもしろく、そして考えさせられた。



で普通に最初から最後まで紹介したらすごい膨大になるから

金成記者は、どのように普通のアメリカ人と仲良くなって「あなたはトランプ支持者か?そうでないか?その理由は?」と聞けるようになるのか


・そうやって答えた人たちの 「アメリカ無名人語録」ともいうべき印象深いフレーズや、印象深い行動、生い立ちなど


を中心にメモしておきたい。(※と言いつつも…後述)


※「はてなブックマークで同時期に話題になってた記事」の記録なんて残らないだろうから
togetter.com
が一緒にホットエントリだった、とも記録しておきたい。繋がる話。


どのように、東洋人の記者が「普通のアメリカ人」に政治インタビューするのか?

初めてのバーへの入店は、何度やっても緊張する。
車外の気温は摂氏2°c。それでも入店時はコートを着ない。何物も持たない。
人口のほとんどが白人の町。しかも地元民しか入らないようなバーに、コートを着込んだ、見知らぬアジア人の男が一人で入店すれば 、みんなぎょっとする 。

こいつ誰だ、まさか銃を乱射するんじゃねえのか。やばいぞ_____。
そんな視線を一斉に浴びることになる。彼らの視点は私の手元と腰回りに集中する。これが銃社会アメリカの現実だ。相手の警戒心を解くには、できるだけ薄着にして腰回りを隠さない、手ぶら。これが一番だ。

入り口のドアを開けた。想像していた以上に小さな店だった。
「あら一人?」少し驚いた様子でバーテンダーの女性が最初に声をかけてくれた。助かった。存在に気づかれなかったり、無視されたりするのが一番辛い。
「はい、一人です。初めて来ました」「ニューヨークからオハイオに向けてロードトリップ中で、お腹が空いていて、できれば地元ビールも飲みたいです」
カウンターをほぼ埋めている客にも聞こえるような声で目的を告げた。「私は無害な来客ですよ」というメッセージを送るためだ。そしてカウンターに近いテーブル席に座った。
先ほどのバーテンダーがメニューを持ってきた。やり過ぎぐらいの笑顔で礼を伝え「あなたの一番のおすすめ、地元の生ビールをください」と注文した。
こう注文して喜ばないバーテンダーに出会ったことがない。
初めての店では、とにかく店の人と打ち解けることを最優先にしている。
大抵は「 任せなさい」といった表情でビールを持ってきてくれる。目の前に「Breaker」という銘柄が運ばれてきた。(略)うまそうに飲んだ。最初の10分ぐらいは、とにかく必死に「無害ですよ」メッセージを送り続けた。


一杯目を飲みながら、頭の中で取材相手のターゲットリストを作った。この日の最上位は、カウンター席で最も大きな声を出して楽しんでいた女性だ。彼女と仲良くなれれば、他の人ともうまくいくのではないか、そんな気がした。

店内の壁に地元誌の切り抜きがあった。バーの経営者の紹介記事だ。立ち上がって読んでいると背後で陽気な声がした。「なー--に読んでんのよ!」

振り向くと、 さっきまで友人らと大声で話していた彼女だった。「私はヘザーよ」。どうやら今夜はついているようだ。ターゲットが向こうから声をかけてきてくれた。


私は丁寧に自己紹介した。

日本からやってきた記者です。今はニューヨークに住んでいますが、運転してここまでやってきました…地方の人々の声を聞くことが旅の目的です__。

記者証も二つ示し、名刺も渡した。店の客の半分ぐらい、10人ぐらいはヘザーと私のやり取りを眺めている。 この頃には私への警戒心はだいぶ溶けていた気がする。名称眺めていたヘザーがまた大声を出した。

「ちょっとみんな聞いて!私、!ニューヨークタイムズよ!!ニューヨーク!」

勘違いされているので慌てて訂正する。「朝日新聞という日本の新聞の記者です。ニューヨークタイムズではありません」朝日新聞ニューヨーク支局はニューヨークタイムズの本社ビルに間借りしており、名刺の住所欄に New York Times の文字が入るためしょっちゅう勘違いされる。
ヘザーは私の訂正 など全く聞いていない。きっとそんなことはどうでも良いのだ。
ヘザーはしばらく騒いだあと「何であれ、インタビューなんて初めてよ。何が聞きたいの?」

ルポ トランプ王国2 取材対象者と酒場で仲良くなるまで


これで一丁上がり。

彼女をきっかけにバーの人たちが次から次へと話しかけられ酒を奢られ、そこでトランプに関する、愛憎様々な意見をそれぞれのライフストーリーとともに聞く…という展開になる。

そして最初はそれを紹介するはずだったのだが、
上の文章を写すだけで結構くたびれたし、お腹いっぱいなので今回はこれでいいや(笑)




何しろこの直後も、同店では
「ジャパンから来たのか!ジャパニーズの男よ、手の甲に塩を振れ!」
「さあ一緒に飲むぞ」
「いいか、手の甲の塩を舐めてからウォッカは一気飲みだ。その後にレモンをかじるんだぞ。何度も言うがレモンを忘れるなよ」
という、「アルハラ」概念はどこへ行ったんだ的な歓迎をされる。


他のお店では掲示板にオススメとして紹介されていた「ドイツ風ザワークラウトポーランド風ソーセージ定食」を注文しただけで、近くの白人男性が振り向いて「良い選択だ!」と大声を上げつつ「だがここのザワークラウトは酸っぱさが足りないんだ」などと言い出しそこから話が弾んでいき、「82歳の俺はトランプ支持で、オバマ支持の息子夫婦とは折り合いが悪くなった」何て告白を聞く。


オハイオ州のバーでは、日本製クッキーをカウンター客に配って歩いたところ
「これはあっちに座ってるベティのおごりよ」「今度はあちらの男性の奢りよ」と『1ドルも使わせてくれないバー』となった…

…なんて話が続くのだけど、そこまで紹介したらこの本を直接読んでもらったほうが早いし(笑)




んで、
改めてこのやり取りを映して思ったのだけど、著者の記者としての優秀さも,もちろんある。
多分、個人的な資質も
人懐こくて
陽キャ
ウェーイ
…なあれなんじゃなかろうか(偏見)。


だけどそうだとしても、いやだからこそ、陰キャの「 オタクくんさぁ…」な人間でも応用できるスキルがあるわけです。

・地元民が集まるような小さな飲み屋に行く
・初めは笑顔で、大きな声で「自分がどこの誰か」を話して警戒心を解く。
・安心感を与えたところで「この人と話して仲良くなれば他の人とも話が広がりそう」な陽キャをターゲットに定める。
・相手が声をかけやすいような行動をとる。
・そこから丁寧に自己紹介し、先方に語ってもらえるように話を振る

…これ、本質的に共通してるから当たり前なんだけど、ジャーナリストでなく凄腕のスパイ、諜報員もおそらく同じようなスキルを身につけてる。ついでに言うと遺憾ながら、凄腕のカルト勧誘員もこういうスキルを身につけてそうである(笑)
※ここについて、類書を紹介してみました。
m-dojo.hatenadiary.com


ただまあ最後の人達は警戒するとして、我々そういう冒険や陰謀に縁のない人間としては「出張先、一人旅の旅先で、地元の人たちと話して盛り上がってみたい」というような人間は、 これは試してみていいのではないでしょうか。


一人旅と言うけど、本当に一人で旅して、旅先の人々と全く交流がないまま帰ってきた、というのもそれはそれで味気ないものだ。

特に海外で、せっかく来たのだからその土地の人々と、この種の政治思想と言うか、「おたくの国の大統領は好きですか?」「選挙ではどこに投票してますか?」くらいのことを(当然語学力がいるけど)バーで話し込めたらそれは楽しいし、司馬遼太郎になった気にもなれそうだ(笑)

それに思ったより上手くいかなくても、どうせそれは旅先での失敗だ、あまり引きずらなくていい……


ということで、本題も大変面白かった「ルポ トランプ王国」だが、その本題はいつかかくとして今回は「朝日新聞ルポ記者が語る 旅先の飲み屋でそこの常連客と仲良くなって話を聞く方法」というのを抜き出してみました(笑)