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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

小坂俊史「まどいのよそじ」最新回(女性アマ力士)が、実に傑作でした。ジェンダー論、スポーツ論、メディア論……


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まどいのよそじ 小坂俊史 小さな相撲大会で「女性初の横綱」に

この作品は、雑誌名がややこしくて間違えやすいが「ビッグコミックオリジナル増刊」にて連載中

四十にして惑わずとと言いますが、実際に40歳で迷わず生きてる人なんています?そんな作者の思いが詰まったオムニバスショート。様々な40歳が抱える悩み、夢、現実をコミカルにいきいきと描きます。「四十にして惑わず」とか言うけど、40歳で迷わず生きている人なんているの?人生の節目(?)40歳を主人公にしたオムニバスショート。さまざまな40歳をコミカルに生き生きと描く、脂ノリノリの第2集。


マンガを含むエンタメって、本当の人気は「キャラクター」につくもので、作品にはあまりつかない(少なくとも商業的価値としてはそうだ)。だから、主要キャラクターを決めない「オムニバス形式」のエンタメは、労多くして報われることは少ない。
そして、だからこそそういう形式を今とっている作品は「意欲作」「野心作」が多い……と思う。黄昏の流星のあれは置いとけ(笑…といいつつ、いや実際に”たまには”意欲的な良作もあると思うよ)

で、この「まどいのよそじ」は40代…昭和の御世ならまさに社会の重鎮として仕事も家庭も(子どもはそろそろ成人…)完成系に近くなり、人生70時代の、幕の降ろし方も考える時代だった。

だが、21世紀も五分の一を過ぎた今は、40代はたしかに「不惑」どころか迷いっぱなし。自分の可能性、好奇心、向上心、諦念、人間関係、仕事、恋愛……とはいっても、確かに「青春時代」とはやっぱり違う。
そんな微妙なところを描いて…特に技法としては、以前から研鑽を重ねた「モノローグ」の手法を洗練させている。(重野なおき氏と文学的な同人誌を出したこともあったとか。その後商業出版もされた)

はちゃめちゃ教師とその教室の生徒を描く「せんせいになれません」とは、ちょっと別の路線なのだ。



そして今回、その中でも実に面白いシチュエーションで……コマで紹介したように、40代の女性体育教師が面白半分に、小さな神社の伝統の相撲大会に出たら優勝。
「史上初の女性横綱」となる。
星新一曰く、「すぐれたシチュエーションを考えたら、そこで作業はある意味終わりで、話は自然に出来てくる」と。

まさに、この設定から話が展開されるのだが、短いページの中に
いまの日本社会におけるジェンダー、女性の地位とは何か、スポーツの意味や公正さとはなにか、そして、何より(小さな神社の大会なのに)「史上初の、相撲の女性横綱誕生!」というトピックを前にしたメディアはどう振る舞うか…というメディア論として、実に風刺と批評が利いている話が連続して続く。
そして、最後を締めくくる、あぜんとさせるオチ……


おしなべてこのシリーズは水準が高いけど、シリーズ全体を通しても屈指の傑作といえるのではないでしょうか。



くしくも、女性は土俵に上がれるのか?の問題に火をつけた、女性初(にして現在唯一)の官房長官森山真弓氏の訃報も伝えられた。

www.shimotsuke.co.jp

news.yahoo.co.jp


そんな、ちょっとした因縁も連想しつつ。


小坂氏は、同じようなオムニバス作品として、いろんな「最後」をお題とした「これでおわりです。」もかいている