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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「セーラームーンは『東洋人らしく』描かれるべきだ」で思い出した「金井君」の話(呉智英「大衆食堂の人々」より)

togetter.com



そのブクマに、こういうコメントがあった

外国人が東洋人っぽく描いたセーラームーンへのリアクションに「みんな彼女を白人化してる(東洋人っぽく描くのは)人種的に正しい」と言われてる事への反応 - Togetter

何故かポリコレ叩きが沸いているが、「アジア人は全て細い吊り目であるべき」というのはポリコレどころか反ポリコレだろう。

2020/05/22 10:39
b.hatena.ne.jp


そこで、思い出した話。
この前も紹介した呉智英氏「大衆食堂の人々」から。

(略)……(※私の大学時代の友人で、学生運動の指導者だった)金井君は、名家の出身であった。
彼の実家は東北の某県の大地主で、室町時代から本家分家を合わせて金井一族がその辺り一帯に勢力を持っていた。
金井一族からは、肩書きに「長」とつく人が輩出している。これは金井一族の家訓によるもので、上に立つ人になれ、「長」のつく人になれ、と一族はことごとにいいやっていたのである。大臣は国会議員も何人か出ている。
(略)
…金井君は、非常にナイーブな青年で、 支配者階級然とした金一族のあり方に耐えられなかった…、家への反逆が学生運動に走らせたのである。
こうして金井君はあえて三流私大に入り「長」の人生を拒否したのだが、歴史の皮肉と言おうか運命の悪戯と言おうか彼はここで闘争委員「長」になったのだった。
(略)
ある日、金井君が暗い表情で麻婆定食を食っているのに出会った。近くに行って見ると暗い表情に見えたのも無理はない。実際に彼の顔は青黒かったのである。彼の顔は打ちあざだらけなのであった。
「やられたのか!」
私は体育会の連中にでも襲撃されたのかと思った。しかし彼は首を振るばかりである。
「後で話すから」
(略)
…コーヒーを飲みながら、金井君は話し出した。
「社問研でやられたんだよ」
ええっ。
私が驚いたのも当然である。
金井君は社会問題研究会の有力メンバーの一人であり、活動にも熱心であり何の疑わしい点もないはずだ。


「俺の名前が問題にされたんだ…」
「名前が?」

、金井君が社会問題研究会の部屋に行くと、他のメンバーの様子が違っていた。金井君の何か秘密を掴んだような雰囲気が全員の挙動に見られ、 こりゃ変だと思ったスタン追求の口火が切られた。

「お前、同志である俺たちの気持ちがなぜ分からないんだ!」
「?」
「お前が他の奴らに隠すのはいい。だけど、俺たちに隠すというのは、 どういうことなんだ!」
「?」
「ぐすっぐすっ(すでに泣いている)、あなたには民族の誇りというものがないの!
「?」
「どうして、どうして(絶句)、俺たちの前だけででも『金』と名乗らないんだ!
金井君はやっと事情が飲み込めた。彼の金井 という姓が、在日朝鮮*がやむなく名乗らざるを得ない”通姓”だと思われていたのだ。
「ち、ちがう」
金井君は慌てて否定しようとしたが、どう否定すればいいのだろう。まさか、 俺は朝鮮人じゃない、現に親父は市長だし、おじさんは自民党の国会議員だ、とは、 彼の思想から絶対言えない。よしんば言ったとしてもかえって事態を悪くするだけだ。
困った。、金井君が戸惑っているうちに、はや、 社問研の同志たちの愛の鉄拳は彼の顔や頭や体の至る所に浴びせかけられた。もちろん同志たちは全員泣きながら愛の鉄拳を下したのであった。
金井君は、沈痛な面持ちでやりきれない経験を語った。(後略)

大衆食堂の人々 (双葉文庫)

大衆食堂の人々 (双葉文庫)

  • 作者:呉 智英
  • 発売日: 1996/07/01
  • メディア: 文庫