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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「薩摩ラグビー ひえもんとり」で検索してウチ来るな(笑)「薩摩義士伝」無料配信は「スキマ」で月末まで!

タイトル以上のことを言うつもりはない(笑)※と言いつつ長々と書いちゃいました。

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薩摩義士伝に登場する「ひえもんとり」とは実在するんだろうか


ときに、この作品ではひえもんとりを
・死刑囚を馬に載せて刑場に送り込む
・東西に分かれた武士団が、その肝を奪い合う
・死刑囚が万が一、その攻撃をかわしてある地点に到達できたら、罪を許される

とあるが、これはちょっと現実のひえもんとりとは違うだろう、と思っている。というのは、ちょっとエビデンスは無いけど「話として出来過ぎている」と思うのです。
これってローマ帝国の見世物…剣闘士奴隷の話とかが60年代?くらいにハリウッドでブームとなり、そこから翻案したようなもんじゃないか…?という、雰囲気だけで眉唾としておきたい。

それに、司馬遼太郎が描写しているこれとも相当違うし(孫引き)

薩摩藩郷中制度には)肝だめしはある。自分の肝だめしどころか、他人の肝までとる。刑場で打首の刑があるときけば競って刀で腹を割いて肝をとるのである。その肝を蔭干しにして薬にするとも言い、あるいは単に度胸の競いあいだけだともいい、あるいはそれをその場で食って

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それであっても、、平田弘史先生の画力は有無を言わさぬ迫力があり、この作品も漫画の基礎教養として読むべき作品だが、
ただひとことでいうと、宝暦治水工事を大テーマとしつつも、基本は「連作短編集」で、宝暦治水の全体像みたいなものはそれほど解り易くない。
そういう点では、まず全体像が分かる
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↑このみなもと太郎「宝暦治水伝」を先によむことを推奨するものであるよ。「マンガ図書館Z」で無料配信中。

ただし、これ全体が、後世の伝説化の影響を多く受けていることも、また事実で…って、以前も書いたか。
togetter.com


そんな中で、「薩摩義士伝」はそもそも冒頭から、薩摩藩の宿痾であった「上士・下士郷士)の身分差別」をテーマとしています。
そして薩摩という地域が、シラス台地のせいで面積と比較して米の取れない地域で、武士階級が総じてかなりの貧困であったこと、それへの憤懣が、一種の中世的な勇敢さ=野蛮さを維持する力ではなかったか?を大きく描いています。

何しろ、薩摩藩の「武士内での差別」は…土佐藩もそうだったらしいが…かなりに強烈で、西南戦争の時には政府軍の側に立った川路利良(最初「川路聖謨」と書いたが、維新の際に自決した彼である筈がないやな。ただ、このミスで二人の名前が似てることに気づいた)が郷士階級を中心にした警察からの抜刀隊を編成、その出撃の際には「かつておはんらが、上士から受けた仕打ちを思い出せ」と鼓舞する材料になったぐらいで、相当だったようだ。

薩摩義士伝 (1) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

薩摩義士伝 (1) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

  • 作者:平田 弘史
  • 発売日: 2001/06/01
  • メディア: コミック
薩摩義士伝 2巻

薩摩義士伝 2巻

薩摩義士伝 (3) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

薩摩義士伝 (3) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

  • 作者:平田 弘史
  • 発売日: 2001/08/01
  • メディア: コミック
薩摩義士伝 (4) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

薩摩義士伝 (4) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

  • 作者:平田 弘史
  • 発売日: 2001/09/01
  • メディア: コミック
薩摩義士伝 (5) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

薩摩義士伝 (5) (SPコミックス―時代劇シリーズ)

  • 作者:平田 弘史
  • 発売日: 2001/10/01
  • メディア: コミック


ちなみに、連作短編集であるこの作品内には、工事の目付をした、幕府役人の視点で描かれたものもある。
ヒジョーに不思議なのは、賄賂をもらって村の陳情を受け入れる幕府役人と、品行方正で公正で、最後は旗本の身分を失っても治水に尽くすまじめな幕府役人を対比させた作品があり…それだったら、後者をふつうにヒーローにして前者を悪人にすればいいかと思うのだが、前者は、収賄を平然と続けながら、清廉な与力を「えらいやつだ」と評価しかばい続けるという、複雑な関係性を描く内容で、いまだに読んでもやっとした読後感を消化しきれていない。(※賄賂で受ける要請が「村にまで工事を拡張してください」という、島津藩にとってはたまったもんじゃない不正だが、全体的には民のためになる、みたいなニュアンスもあるのがミソ?)

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薩摩義士伝 幕府旗本、賄賂平気な役人と清廉な役人の奇妙な対比を描く一編