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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「レ・ミゼラブル」あらためて一から紹介(古い記事)NHKドラマは終盤。大ネタ小ネタのオマージュについて

単純な番組紹介の過去記事にアクセスが多いので、機会があればもっと紹介しておこう、と思っていた「レ・ミゼラブル(ああ無情)」。
まずは、原作小説を紹介した自分の古い文章を再掲載したい。どれぐらい古いかというと、1990年代半ばに書いた。全5巻だかの新潮文庫をよんだのだよね。


「古典」と言うと、あまりいいイメージを持っていない方も多いかも知れない。
とっつきにくい、難解だ、話が古臭い、退屈…という声もよく耳にする。


 しかしである。金八先生ではないが我々が先入観を持って奴らを見るから、あっちもそう見えるのではなかろうか。 古典を映画や漫画やノベルズ小説と同じ次元で捕らえて、面白いかどうかを判断する。奴らも伊達に数百年人々に
読まれてきたわけではあるまい。まさにエンターティメントとして、現代のものに負けないものがあるはずである。そこから人類の遺産に足を踏み入れるのもいいのでは無かろうか。


 と、いうのがこのコーナーの趣旨だが、はっきり言って無謀である。何が無謀かというと、筆者が他人に教える程、古典を読んではいないのである。だからこのコーナーは中身の無いものになるか、もしくは種切れですぐに終わる可能性が高い。
いかん、自分で内幕をばらしてどうする。
 とにかく第一回である。やはり気合いの入った作品を取り上げねばなるまい。 そこで「レ=ミゼラブル」である。
わははは、驚いたか。フランス文学の代表作であり、日本でも「ああ無情」の訳で崇められてきた小説である。  さぞかし小難しい代物に違いないと筆者も思って読んだのだが、以外やこれが面白い。後で知ったのだが、これは元は新聞小説だそうだ。今でもそうだが新聞小説は毎日の読者を満足させるため、必然的に波乱万丈の物語となる。(デュマの「三銃士」もそう。)そしてまた泣かせる。


ストーリーについて、昔の名作はあちこちでパクられたり、引用されたりしているので皆断片的な知識は知っているものだ。以下の事はご存じだろうか。
   

・主人公の名はジャン=バルジャン。
・舞台はナポレオン没落後しばらくのフランス。
・ジャンは、貧乏と空腹の為に、たった一個のパンを盗んで何年も懲役に服した。   
 

1:さてさて、物語はここから始まる。牢獄を出て旅をするジャンだが、前科者に世間は冷たく、宿も食事もさせてくれない。そこで彼を泊めてくれたのはある教会の司教だった。暖かいもてなしを受けるジャンだが、世間の仕打ちに心がすさみきった彼はその夜、銀の燭台を盗んで逃げ警官に捕まってしまう。しかし司教は、その燭台は彼にあげたのだと主張し彼を逃がす。
 人の心の優しさに触れた彼は改心し、真人間への道を歩む。(ちなみにこのエピソードは余りの素晴らしさの為か、一々あげたらきりが無いくらいよく真似される。みんなも探そう。)
 

2:ある町でジャンは、発明の特許を取って大富豪となった。高潔で、慈善事業に熱心な彼は人々の支持を受け、市長にまで鳴り、その仕事でもた尊敬を集めた。だが彼の部下ジャベール警察長は、彼こそジャン=バルジャンではないかと疑っていた。しかしその頃、遠くの町でジャンバルジャンが逮捕された(もちろん別人で、冤罪なのだが)と言うニュースが飛び込んできた。
この男が有罪になれば、自分はもう一生疑われない。しかも彼は、ある死んだ女性から幼い娘の事を依頼されていた。・・・・・・
  

3,:自分がいなければこの町や娘はどうなる。
彼は自分がジャンだという証拠となりうる、あの燭台を壊すことにした。これさえ捨てれば、誰とも知らないこそ泥が自分の代わりに刑務所に行ってくれる。
 しかし、その燭台を火にくべようとしたとき、司教の思い出が鮮やかに甦ってきた。ジャンは馬車を全力で裁判所へ走らせた。有罪となるため、市長の職を失うために・・・・・
 

レ・ミゼラブル (上) (角川文庫)

レ・ミゼラブル (上) (角川文庫)

レ・ミゼラブル (2012) (字幕版)

レ・ミゼラブル (2012) (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
レ・ミゼラブル (下) (角川文庫)

レ・ミゼラブル (下) (角川文庫)


ふう、疲れた。しかしこれでもまだ1巻が終わらないのである。この後ジャンは、娘コゼットのために再び刑務所を脱獄、ある悪人が働かせていた彼女を救い出す。しかしその連中と、警察長ジャベールから二人は長く危険な逃避行を続けて、ようやく安住の地を得る。そこでコゼットは恋をするが、相手は革命家だった。時は、ナポレオン失脚後の王政復古を経て、またも「革命」の足音が近づいていたのである。


・・・すごいね。シドニィ=シェルダンなんか目じゃない(笑)。というわけで、筆者もまだ2巻までしか読んどらんが、確かに手に汗握る物語である。

ただ、19世紀の小説の特徴だが、本筋に余り縁のない枝葉のストーリーがやたらと長いのである。例えば、ジャンを救う司教はとてもいい人なのだが、彼がいかに「いいひと」かをわざわざ1章をさいて延々と書いてあるのだ!
しかも「第一章」、つまりしょっぱなからである。間違って「赤ひげ神父奮戦記」とか言う本でも買ったのかと思ってしまった。まあ彼にそれほどのスペースを割くのは何とか納得できても、ジャンとコゼットが隠れる修道院の歴史やら戒律やら、あげくの果てに修道院は要るのか要らないのかを延々と議論するのを読まされるとなると、てめえいい加減にしろともいいたくなる。
この小説は逆に少年向けの妙訳がいいかも知れない。
 それも文章自体には手を加えず、枝葉をカットとしたものである。探せばあると思う。


最後に笑えるシーンを紹介しよう。ジャンはある事情で、潜伏先の修道院から脱出しなければいけないのだが、味方である修道院の下男が出したアイデアは、棺桶に入って墓地へ意気、埋められる前に墓堀のじいさんを下男が酔わせてその隙に逃げるというものだった。「酒となれば全てに優先する人だから絶対大丈夫」という目論見のもと、墓地へ来た下男と棺桶の中のジャンが会ったのは、昨日泥酔したじいさんの代わりとなった、真面目で働き者の墓堀人だった。(笑)
・・この後どうなったかは、・・・教えない。


ここから、2020年の補遺を。

レ・ミゼラブルの小ネタ大ネタは、無数の他作品でオマージュされている。

いちばん有名なのは、ジョジョの奇妙な冒険第一部における「本当は死体からの剥ぎ取りをしようとしていた悪人を、自分を助けてくれた恩人と思い込む」というネタ+その後、「盗みがバレた男を、善人が『それは盗品でなく、彼にあげたものだ』とかばう」という話だ

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ジョジョの奇妙な冒険」冒頭はレ・ミゼラブルのネタ

けれど、そりゃ観測範囲だよな。そもそも、今、「ジョジョの奇妙な冒険」を第一部から読んでる人なんて世代的に少なくなってますから。我等、そこを勘違いしちゃいけねえ。


「盗人をかばうため、その盗品はあげたと言ってくれる慈悲深い人」パターン、こっちのほうはよく使われる。
あと、自分が「ああ、結構見るパターンだよな」とあとから思ったのは
「いまは改心した悪人は、かつての自分の特殊能力も封印している。だが、誰かの大ピンチという状況で、その能力=過去の自分のことがバレるリスクも承知で、その能力を使って人助けをする」という筋立て。ジャン・バルジャンは囚人時代「起重機のジャン」と異名をとるほどの怪力で、その怪力を発揮して馬車事故の老人を助けるのだけど、そのおかげでジャベールがジャンを疑う目がますます強くなる…のである。オー・ヘンリーが「改心した金庫破りが前歴を隠していたが、誤って金庫に閉じ込められた女の子を救うために…」、をやったのはそのあと。
これ、青空文庫がある。

…だしぬけに、女性の悲鳴が一声、二声上がって、場は騒然とした。誰も見ていなかったところで、年長の九歳の方の娘のメイが、おふざけで、アガサを金庫の中に閉じこめてしまったのだ。そしてアダムス氏がやっていたのをまねして、かんぬきを差し、ダイヤルを回してしまった。
 老銀行家はハンドルに飛びついて、ぐっと引っ張ったが、
「ドアが開かない。時計のねじも巻いていなかったし、ダイヤルも合わせておかなかった。」
 アガサの母親がまたヒステリックに悲鳴を上げた。
「静かに!」とアダムス氏は手をふるわしながら上げた。「しばらく、誰も静かにしなさい。アガサ!」と声の限りに呼びかけた。「聞こえるか!」
 一瞬の静寂があってから、中から子どものかすかな声が聞こえてきた。真っ暗な金庫の中でパニックになって、怖くて泣きじゃくる声だった。
「アガサ! アガサ! 今にもおびえて死んでしまうわ! ドアを開けて! いいから、こじ開けて! 男のくせに、何もできないの!」
 と母親が泣き叫ぶと、アダムス氏はふるえた声で答えた。
「これは、リトル・ロックまで行かんと、誰も開けられるものがおらんのだよ。弱った、スペンサーくん、どうしたらいいんだ? 子どもが……あの中じゃ、長くはもたんのだ。酸素は十分にないし、それに、恐怖でひきつけをおこすかもしれん。」
 アガサの母親は我を失って、金庫室の扉を手でたたいている。ダイナマイトを使ったらどうだ、という意見まで出る次第だった。アナベルはジミィの方を向いた。その目は苦痛に満ちてはいたが、完全に希望を捨て去ってはいなかった。女性にとって、自分の尊敬する人の力さえあれば、不可能なことは何もないと思えるらしい。
「どうにかならないの、ラルフ。ねぇ……ラルフ!」
 スペンサー氏はくちびると鋭い目を、そっとほころばせ、妙な笑みを浮かべて、アナベルを見た。
アナベル、君の挿している、その薔薇をくれないか。」
 一瞬、自分の耳を疑いながらも、アナベルはドレスの胸に挿していた薔薇のつぼみを外して、スペンサー氏の手の上に置いた。ジミィはそれをヴェストのポケットに押し込み、上着を脱ぎ捨て、シャツの袖をまくった。それとともに、ラルフ・D・スペンサーなる男は消え失せ、ジミィ・ヴァレンタインが姿を現した…
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そのころ、大衆小説だっけそうたくさんあるわけではなかった。市長様が人助けのために往年の「起重機のジャン」の姿を見せる挿話は、かなり直接的にオー・ヘンリーのこの短編に影響を与えたのかなーと想像してる。
オー・ヘンリー自体がやたらとアイデアの元ネタ王として殿堂入りする存在、「ビッグ・O」だが、さらにその師匠格かもしれないわけ。
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そういえば、ジャベールの「社会的地位の高い犯罪容疑者に、一見慇懃ながら、ひやりとする牽制球を投げて徐々に相手を追い詰める」というやり方が、刑事コロンボの元ネタだ、という説も。


本当に「ジャン・バルジャンの心を救った神父様(司教ミリエル)がどんなにいい人か」だけを描く章は、一種の短編として読める

あとでどこかにある原本が見つかるか、借りるかしたらそれを紹介してみよう。



みなもと太郎推薦 「レ・ミゼラブルのこの部分は超絶ギャグ!!」

潮社版の無印風雲児たちで、呉智英と対談してる時に語ってた。記憶で要約すると

レ・ミゼラブルには、一か所だけすごいギャグがあるんです。ジャン・バルジャンは、人違いで逮捕されて終身刑になろうとしてる見知らぬ男のために、自分がジャン・バルジャンだと告白するため――行けば自分の破滅ですよね。 そのために、裁判所までの道中を急ぎます。途中で川が増水したりとか、いろんなトラブルがあるんですけど、彼はその都度ものすごいチップを払って、無理して裁判に間に合うよう、最高速度で急ぐんです。でも、最後の最後で、どうやってもそのままじゃ間に合わない状況になって、ついにジャン・バルジャンも、身がわりの出頭を諦めようとするんです…が、そのときにそれまでのあまりの気前の良さを見て、そこで早馬を提供してくれる男が現れたんです。ようやく、裁判所に間に合うことができそうなジャン・バルジャンは、…「お前には、チップはやらん」(爆笑)


みなもと太郎が漫画化した「レ・ミゼラブル」、ギャグ仕立てなのに複雑なこの作品の要点はほぼ抑えた傑作。以前は無料公開されていたが…

自分、結局この大長編の「見取り図」を、この漫画で知ってたから読みとおすことができたんだと思う。そのまま小説に挑んだらやばかった。
最初読んだとき「へんてこなアレンジしてるなあ」と思ったところが、原典通りだったのもしばしば(笑)

で、以前はマンガ図書館Zで公開されていたんだけど、いまは終わっているようだ。
kenakamatsu.hatenablog.com

復刊されたのかな?
そのようでしたーーー

完全版レ・ミゼラブル (fukkan.com)

完全版レ・ミゼラブル (fukkan.com)

これはまじで、推奨に値しますよ。ただ…

数年前に、「ゲッサン」でなぜかの漫画化。画力高し。

1話、丸ごと読めます。

作品紹介
フランス文学史上に燦然と輝く超大作「レ・ミゼラブル」。
宿業の男ジャン・ヴァルジャンの波瀾の生涯を通して描かれる究極の人間賛歌を俊英・新井隆広が描き尽くす。
読破が難しいと言われるヴィクトル・ユーゴーの壮大な「原書」を基に、映像では描き切れない「真のレ・ミゼラブル」の物語が今始まる!

作者プロフィール
漫画:新井隆広(あらいたかひろ)

1982年生まれ。神奈川県出身。
2003年、少年サンデー「まんがカレッジ」に入賞。
2004年、少年サンデー超増刊号にて「グランバトラー」でデビュー。
2006年、週刊少年サンデー36・37合併号より「ダレン・シャン」(全12巻)で初連載。
2010年、週刊少年サンデー4・5合併号より「ARAGO」(全9巻)を連載。
2013年、ゲッサン10月号より「レ・ミゼラブル」を連載開始!

原作:ヴィクトル・ユーゴー
gekkansunday.net


pages.comicdrive.jp


みなもと太郎版でなく、こちらを読むという選択も十分にあり。


映画・ミュージカル版の「民衆の歌」は世界各国で、デモなどでうたわれる定番


民衆の歌 The People's Song 「レ・ミゼラブル」より /


民衆の歌 マンドリンオーケストラ(デモ音源)

民衆の歌 大合唱 2018年4月6日 国会前

「レ・ミゼラブル」の劇中歌「民衆の歌」を歌いながら香港国際空港を行進するデモ参加者たち

闘う者の歌が聞こえるか 鼓動があのドラムと響き合えば 新たに熱い 命が始まる   明日(あす)が来た時そうさ 明日が