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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「麒麟が死ぬ」。明智光秀が引用した「論語」で、孔子が見た光景…を「孔子暗黒伝」から

こういう場面。

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諸星大二郎孔子暗黒伝」孔子が死んだ麒麟を見る
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諸星大二郎孔子暗黒伝」孔子が死んだ麒麟を見る
孔子暗黒伝 (集英社文庫(コミック版))

孔子暗黒伝 (集英社文庫(コミック版))

もとより、この作品は孔子の忠実な伝記でもなんでもない。おなじデンキでも記の字ではなく「奇」、伝奇ものだ(笑)。

だが、この場面は…というか作品全体が、やはり孔子の真実の一部をうがっている、といえる。

戦乱の中で、人々は何よりもまず秩序の回復を求める。秩序と言っても、悪い状況での秩序構築を望むものはいないから、そこに、「理想社会」のイメージを託すのは普通だろう。
しかし、そんな秩序回復の時代は来ないこともあるし、ついにやってきた秩序の回復者=新しい征服者は、みんながダビデ王でもソロモン王でも湯王でも武王でもない。麒麟を待つ者、あるいは麒麟になる者は敗北に賭けたほうが確実なものなのだ。




ちなみに麒麟の死体云々は、論語などではなく史記のほうの「孔子世家」に出てくるらしい

魯の哀公十四年の春、山東の大野で狩猟が行われ、叔孫氏の車馬を掌る微賤の士の鉏商が獣をしとめた。人々はその獣を見た事がなかったので不吉とした。仲尼がそれを見て麒麟だと言ったので、取って帰った。孔子が言うよう、「黄河が図を負った竜馬を出すこともなく、洛水から書を負うた神亀が現われることなく、(聖王が世に出てわが道を用いてくれる見込みもない。)ああ、世も末で止んぬるかな!」と。

魯哀公十四年春、狩大野。叔孫氏車子鉏商獲獸、以爲不祥。仲尼視之、曰「麟也。」取之。曰「河不出圖、雒不出書、吾已矣夫!」顔淵死、孔子曰「天喪予!」及西狩見麟、曰「吾道窮矣!」喟然歎曰「莫知我夫!」子貢曰「何爲莫知子?」子曰「不怨天、不尤人、下學而上達、知我者其天乎!」

魯の哀公十四年春、大野に狩す。叔孫子の車子鉏商(ショショウ、獣を獲たり。以て不祥と為す。仲尼、之を視て、曰く、「麟なり。」之を取りて、曰く、「河は図を出ださず、雒は書を出ださず、吾、已んぬるかな。」
https://hayaron.kyukyodo.work/siryou/siki/post-3917.html


孔子とは、晩年はひたすら絶望と諦念を抱えて生きていた。
結局彼は、世に入れられないまま終わったから…この場合は、教育者や徳人として尊敬される、ではなく、一国を、天下の政治を執るということである。
それはままならなかった。
浅野裕一氏は、孔子は比喩でなく本当に自分が天下を統べる王、になり得ると思っていたがそれは果たせず、それがルサンチマンになった、とまで考えている。

孔子神話―宗教としての儒教の形成

孔子神話―宗教としての儒教の形成

儒教ルサンチマンの宗教 (平凡社新書 (007))

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儒教 怨念と復讐の宗教 (講談社学術文庫)

儒教 怨念と復讐の宗教 (講談社学術文庫)


孔子の作と伝えられる歴史書『春秋』は哀公14年(紀元前481年)に魯の西の大野沢(だいやたく)で狩りが行われた際、叔孫氏に仕える御者が、麒麟を捉えたという記事(獲麟)で終了する。このことから後の儒学者は、孔子は、それが太平の世に現れるという聖獣「麒麟」であるということに気付いて衝撃を受けた。太平とは縁遠い時代に本来出てきてはならない麒麟が現れた上、捕まえた人々がその神聖なはずの姿を不気味だとして恐れをなすという異常事態に、孔子は自分が今までやってきたことは何だったのかというやり切れなさから、自分が整理を続けてきた魯の歴史記録の最後にこの記事を書いて打ち切ったとも解釈している。ここから「獲麟」は物事の終わりや絶筆のことを指すようになった。この年、一番弟子だった顔回が死去している。次いで紀元前480年には衛に仕えていた子路も殺された。
ja.wikipedia.org

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諸星大二郎 孔子暗黒伝 泰山は崩れんか 梁柱は折れんか 哲人は死なんか




谷崎潤一郎麒麟」は、孔子を題材にしているものの、ちょっとというか大いに趣が違う(題も比喩だし)。けど、まだ青空文庫にはなっていないようで、惜しくはある。


余談 麒麟がくる初回の展開で、松永久秀が注目され、こんな過去記事などがもりあがりました

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