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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

新作ギャラリーフェイクで『トランプ大統領』と『プロレス』の或る一面を、細野不二彦が一挙に描いてしまった

えーと、理由はわからんのだけど……小学館の「ビッグコミック増刊」はキンドル版が出てないのだろうか?今検索した限りでは出てこない…
公式でも「電子版」への誘導ボタンとか無いから、紙版だけなんだろうね。さすが電子問題については当代きっての保守派出版社・小学館だ。
と、そんなこと感心してもしょうがないや。その分、まだ店頭にも並んでいる可能性があるし。
bigcomicbros.net

で、この巻頭カラーを飾るのが、一度は長期連載を終了したものの、さすがの人気作として不定期復活連載を始めた細野不二彦ギャラリーフェイク」。

なんと今回は『プロレス』について非常に、面白い描写をしている。実は、なんとなくの印象論だが、いわゆる「ミスター高橋ショック」の後、いわゆる「総合エンターテインメント/純粋スポーツ『ではない』」プロレスを描けるのは、細野不二彦氏ではないか、という漠然とした印象論はあったんだ。時々、なんかけっこうツボを衝くような形でプロレスラーや格闘家が登場していたから、だろうか(最初の「ギャラリーフェイク」や「電波の城」など)。
で、今回は、別にそんなに暴露的な話でもないのに、非常に強い印象を与えてくれる回。

アプローチの違い、何より費やしたページ数が違うので、完全に同じ地平では比べられないが、それでも読んだとき、「井上雄彦がプロレスを漫画で描いた時の衝撃」を思い出したのだった。
m-dojo.hatenadiary.com

REAL 13 (ヤングジャンプコミックス)

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だから、あとで紹介しておこうと思いつつちょっと時間がかかってしまったんだが、そうやって取り置いているうちに………実は今回のエピソードは、2020年初頭から、一躍悪い意味で世界に衝撃を与えた「ドナルド・トランプ」論にも、結果的に重なってしまったのであった。
www3.nhk.or.jp

以下、紹介します。ネタバレ回避したい人は、以下は自己責任にて。

・日ごろから不養生と不健康で有名なギャラリーフェイクオーナーのフジタは、いきつけの腕のいい整体師がいた。この人はかつて「ビッグ・バン・カミカゼ」の名で全米で知られた元プロレスラー。破天荒な生活で離婚され、財産は失い、腕一本で生活しているが後悔はない。その破天荒なプロレス時代の友人が、プロレス番組にも登場するスポンサーだった不動産王「マイケル・デッカード(間違いなくトランプがモデル)」現アメリカ大統領だという。

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ギャラリーフェイク プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)

・マイケルは、整体師カミカゼも「つるんで遊んで、悪さしていた」と証言する俗物。だがカミカゼは「悪役(ヒール流)のアピール方法は、わたしが教えた」とも語る。『暴言・キラワレキャラ』をプロレスで学んだ大統領…

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ギャラリーフェイク プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)


デッカード大統領は、その俗物性を美術方面でも発揮し、私有する”ルノワール”の…だれがどうみても贋作というシロモノを本物だと主張し、多方面で議論を呼んでいた(この話には、実際に元ネタがあり、作品内でも紹介されている)。そこに旧シリーズからのレギュラー、融通の利かない贋作ハンター「三田村館長」が登場、その真贋を暴こうとする。慌ててデッカード側近がフジタに、それに対抗するウラの手段は無いかとアプローチして……だが、この絵画話についてはあまり詳しくは説明せず、伏せておく。

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ギャラリーフェイク プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)


・中途を大幅に省略した上で結論を言うと、その一件でフジタは大きな貸しをデッカードサイドに作り、フジタは交換条件として「ある要求」をする。それは、交通事故で体が不自由になり、復帰には高額の費用をかけてリハビリする必要がある元ビッグ・バン・カミカゼと大統領のサプライズ対面。国賓の大統領が相撲観戦した国技館で、という要求だったが………

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ギャラリーフェイク プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)

※確認しておくと、ギャラリーフェイクで求められるであろうフジタの法律・道徳スレスレの美術品にまつわる悪知恵・トリックはプロレス話とは別に展開されており、それだけで十分、山あり谷ありのスリリングな展開なのだ。また、三田村からフジタが一本勝ちを奪う一方でデッカードのほうも「美術品の価値など何も分からない、虚栄心とハッタリだけの俗物」とだけしておけば、それで話は十分成立するのだ。だが、どうもプロレスに造詣の深い可能性が高い細野不二彦は、ちょっと踏み込んだサプライズを用意していた…

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ギャラリーフェイク プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)

元々は、こういう目立つ場で車いすの姿を世間にさらし、大統領も含めての同情や支援を仰ごうと考えたフジタの戦略。
しかし、プロレスラーの『一分』を立てようとしたのだろうか、血が騒いだのだろうか。カミカゼ車いすでの、笑顔での握手なんぞではなく、世界最大の権力を誇るアメリカ大統領閣下の顔面に、毒霧をぶちまけることを選んだのだ!!!

※再度うるさくて申し訳ないが、この展開は確かに驚いたけど、読者としては『なるほど、プロレスラーのほうがプロレスラーの一分を貫いて「かぶいて」みせた。それに対して、虚栄心とハッタリだけの俗物たる大統領が大恥をかく、というお話か。いやよく出来ているねー、さすがベテランだし、プロレスをよくわかってるねー・・・』と、驚きつつも『予定調和の驚き』に、心を収めようとしていたのだ。しかし…

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<b>プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)</b>

なんとトランプは…じゃない、デッカード大統領は、猛然と反撃、車いすの相手の首を猛烈なスリーパーホールドで締め上げる。SPが「暴漢」扱いで排除しようとする人物相手に…翌日のメディアは「やりすぎパフォーマンス」との批判も。


いつも、事件が成功裏に解決すれば神の視点のごとき冷笑ぶくみの皮肉を放つフジタだが、今回ばかりは彼も「しかしな…実を言えばXXXXXXXXXXXXXXXXではXXXXXXXXXXだった」「・・・・・・・・ってのはXXXXぜ」と、困惑気味に語る。

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ギャラリーフェイク プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)

ただ、その事件は事件として、人物評としてはそのこのこと考えていない訳ではなく…この一件の前に、こうフジタは三田村に忠告していたのだった。

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ギャラリーフェイク プロレスとトランプがモデルの大統領の話(2019年12月増刊号)

「需要と供給は世の習い」「俗物のデッカードはそれをよく知っている」…
それだけで「トランプ現象」「トランプ王国」は説明し切れるものではないだろうし、また、「そうだとしても、そもそもそれがアメリカ大統領であられると、いろいろマズイのではないか」という問題が立ちはだかるのだけれども(笑)、それでもトランプを論じる時に絶対に必要であるピースのひとつ、「俗物で”フェイク”であるからこその強み」みたいなものを、ザクザクザクッとえぐっているのですよ、細野不二彦は。それも、実際にトランプが関わっていた事実がある「プロレス」が内蔵するある種の特徴にうまく見立て、共振させながら……だれが今できる、こんな芸当をよ??

いまなら、まだ書店を捜せば置いてある店もあることでしょう。一読をお薦めします。


連載再開後の作品をまとめたのが、34巻ということに現在ではなっているのか。

ギャラリーフェイク (34) (ビッグコミックス)

ギャラリーフェイク (34) (ビッグコミックス)

アートコミックの金字塔、最新刊登場!!

元NYメトロポリタン美術館の凄腕キュレーターにして、贋作専門の画廊、『ギャラリーフェイク』の店主、藤田玲司と、秘書のサラ。この名コンビが再び芸術の謎を解き明かす!!
登場する美術品は、カラバッジョ若冲デュシャンの『泉』など今集も多岐に渡ります。さらに、サラがギャラリーフェイクを辞める危機に…!?
波乱も感動も盛りだくさん!最高の名作アートコミック最新刊!!


実際のドナルド・トランプとプロレスのとのかかわり

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…トランプが入場、トランプはマイクをつかむと「ビンスのグレープフルーツでは、オレ様のトランプタワーにかなうわけがないぞ」といきなりの下ネタで挑発。試合契約にサインをしながらもビンスは「貴様が髪の毛を乗っけたまま契約書にサインするのはこれが最後だ」などとトランプを嘲笑……オースティンがシェーンの足を引っ張り場外に引きずりだし、無造作に鉄柵に放り投げる。これを見ていたトランプ、カメラ目線で「一体どうなっているんだ!」と激怒。その直後、トランプが場外でビンスにスピア敢行!そのまま馬乗りになってパンチ連打。猫パンチではあったものの、これには観客大熱狂。…

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最近では2013年のホール・オブ・フェイムのセレブリティ部門でドナルド・トランプが殿堂入りしてますね。

――WWEの功労者ですもんねぇ(笑)。

フミ ホール・オブ・フェイムでは、インダクターと言って殿堂入りする本人を呼び込む役割の人間がいるんです。トランプのときは、ほかならぬビンスだったんですね。ビンスはスピーチの中で「彼は親友です。私たちの共通点はビリオネアであること、それから髪の毛をとても大切にしていること」と。

(略)

フミ トランプ本人にはもともとビンス的な素養があったということもあるんでしょうけど、 24時間そういう自分を演じてるうちに区別がつかなくなってしまった。

――トランプからすれば、ビンス・マクマホンという自分に近い理想の人間像がたまたまいたということですよね。

フミ トランプからすれば、“ビンス的な人物”を演じてるところにオルガズムがあるんでしょうね。オーディエンスも気持ちよくなってるところはあります。トランプが言っちゃいけないことを言ってるにも関わらず、心の隅に隠していたマッチョイズム、白人優位主義みたいなもの、もう一度アメリカを偉大な国にするというスローガン、国粋主義的なもので盛り上がるというか。強いアメリカを戻すという目標を掲げた単純明快なアメリカのダークヒーローに見えてしまったんでしょう。