年頭に「イスラーム国」の新書を出して以来、ことしの顔の一人でもあった池内恵氏。
- 作者: 池内恵
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/01/20
- メディア: 単行本
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氏はそれだけの売れっ子、多忙になっても、ブログの更新もかなり多いほうではある。
http://ikeuchisatoshi.com/
だが、フェイスブックではそれを超えるほどのペース、分量で様々な考察をしている。正直、この旺盛な執筆欲には本当に驚かざるを得ない。
まず物理的にすごいのだ。
https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi
(申請必要)
ただ、たとえば今から過去の記事を読もうと思うと、本当に物理的にたいへん。
なので、勝手にそこから抜き出し「箴言集」としてみた。
もちろん、箴言というのはごく短く切り詰めた引用要約なので、本当の考察を知りたい人は申請して直接読んでもらうのが大前提だ。
箴言化するための文章の一部変形のほか、その言葉の骨子は(同意しての)引用である、などというものも入っているのだが、その異同は各自比較されたい。あと、めちゃくちゃ時事的な、箴言というよりニュース分析なものもあるよ。
こういうの、本当は高坂正堯で作ってみたかったんだよね……
それでは。
池内恵 時事・中東問題箴言集(すべて氏のフェイスブックより)
「ロシアの防空システムS-300の中東への配備は、軍事バランスを大きく変えかねない。これに最も神経を尖らせるイスラエルが、ギリシア・クレタ島に置いてあったS-300を出してきてもらって訓練したという」
「まあ中東専門研究者が「業界イデオロギー」として「サイクス・ピコ協定」を持ち出してきたことがそもそも悪かったんだけど・・・「本当に大事なのはセーブル条約だよ」というフォーリン・ポリシー」
「シャルリー・エブド紙事件は、それが「ヨーロッパ近代の普遍主義の終わり」を意味する」
「明らかに、シリア内戦をめぐる水面下の交渉が、現地のレベルとリヤードやウィーンやジュネーブのレベルで動いている気がする」
「気に入ったフレーズ。【あらためて肝に銘じよう。経済予測でもっとも当たるのは人口動態で、もっとも外れるのは石油価格である。】はい、肝に銘じます」
「『アラブの春』以来の教訓は、どんな状態でも原油は世界市場に出るということ。「イスラーム国」だろうが民兵集団だろうが、原油があったらさっさと売るのである。原油を飲むわけにはいかない」
「陰謀論に価値があるとしたら、そのまま信じるのではなく、なぜそのようなことを言い出す人が出てくるのかを考えるきっかけにする場合である」
「私が伝記を書くならタイトルは『バラク・オバマ 思想としての大統領』。思想としての大統領。中東分析も的確。的確すぎて「何もできることないよね」という本音の結論が見えてしまう」
「ジハード思想が存在することを認めて脅威認識を持ちつつ、それがジハード思想に基づくからこそ、それによって先導できるテロは物理的にはそれほど大きな挑戦者とならない…重要なのは理念的な優位性を保つことである
「カリフォルニア州サンベルナルディーノの銃撃犯・・・脱中心的、指導者なきジハードの典型例。「現象」としてのジハードを唱導した、アブー・ムスアブ・アッ=スーリーの思想の現実化といえる」
「アメリカでは、政治的なテロとしての意思があろうとなかろうと、そもそも銃乱射事件が多すぎる」
「一知半解に「サイクスピコ協定が諸悪の根源」などと言いながら、次に「トルコが資金源」「石油施設をなぜ攻撃しないのか」などと言って見せる人は、無知であると同時に、植民地主義に後から悪のりして結局ひどい目にあったかつての日本を思い出させる」
「近代史において繰り返されてきたことなのだが、「イスラーム教は平和の宗教だ」という信念が、一部の人には→「そのことを認めない者はイスラーム教を誹謗している。だから武力で制圧することが正当だ」というところに結びついてしまう」
「サウジの新世代指導部が「粗暴で衝動的」なのか「創造的でダイナミック」なのかは、後になってみないとわかりませんが、全世界で不安になっているのは確かです。イエメン内戦介入が、一般市民の犠牲ばかり大きく、結果が出ていないと見られ始めている」
「プーチンとエルドアンの泥仕合はプロレスみたいなもんなので真に受けて陰謀論にはまってもしょうがない。実際ロシアの対外宣伝メディアをきちんと読めば、騙される人が馬鹿なのよ、とわかるように書いてある」
「政府官僚が、「国連に仕事ないかな〜」とソワソワしている国というのも、決して良い状態ではないんです。往々にして内戦や地域紛争で乱れている国の外交官は、国連での経験が長く、専門知識や人脈も豊富に身につけて、影響力があります」
「国連の制裁というのは、超大国と地域大国が絡む極めて高度な政治の結果・・・大国間の国際政治の最先端情報が詰まっている・・・そういう場に出て主導的に場と組織を動かしていける人材は、日本には多くない」
「中東の基礎的な現実を知らない人が陰謀論に引っかかる。密輸にしても、あるいは「イスラーム国」にしても、現地の文脈ではありふれた日常の上に乗っかっているのだ」
「「イスラーム国」は既存の政治・経済のほころびの上で存在している。そのほころびを直すのは、理由があって存在しているので、容易ではない」
「欧米へのテロの拡散について、「組織的」としばしば言われるが、その「組織」とはどのようなものかを正確に知る必要がある。我々が通常考えるような組織ではなく、むしろ家族・親族、幼馴染や刑務所友達といった元々ある紐帯が連なって広がっていく」
「中東の文脈でのイスラーム教の教義は、政治・軍事的な側面で明確に上下関係・優劣関係を定めることで「平和」を達成しようとする。そのため、他の一神教徒は一旦従属下に置かれた上で、反抗しないという条件での「生存」を許される」
「通常は、東南アジアのイスラーム教指導者は、アラブ世界や中東の宗教指導者の前では「しゅん」としている。」
「トルコは大国で、安全保障に関しては、アメリカの言うことも西欧の言うことも、聞いてくれません。人質問題の際に、「トルコにやってもらえば良かった」という人がいるのですが、トルコは安全保障に関しては、日本の言うことなど聞いて動いてはくれません。アメリカの言うことすら聞かないのだから」
「アラブ世界が政治的にも宗教的にもあまりに混乱し、ついには「イスラーム国」まで出てきたので、東南アジアの人たちがついに中東を「見放した」感じがじわじわとする。過去10年の間にも意識変化が大きい」
「シーア派はイマームの救世主信仰なので、アハマディーヤについては必ずしも全否定ではなかった。最後の預言者とその啓典が下った後にも、啓典の「真の」意味を解釈して引き出す能力を持つ人物を設定することで実質上信仰の内実を変えていくという形式においては同じ」
「シーア派はアリーをはじめとしたイマームのハディースによって、コーランから「文面上は隠された意味」をどんどん読み込んでいく。それはスンナ派から言えば宗教を揺るがす由々しき改悪なのだろう」
「ジハードによる殺害が行われるたびに、「イスラームとは無関係」という護教論が出てきて、過激派ではなく、過激派の思想について論じる人が非難されるので、なぜジハードを扇動する側が一定数の人を動員できているのか、という問題に取り組むことが困難になる。認識の混乱と紛糾が起こるのは、これはイスラーム教の教義の中に厳然として存在するジハードの規範が、近現代の国内法・国際法とは異なる原理に基づいているからである」
「過去のジハードは近代国際法に合致した自衛権の発動だったとか、(根拠は乏しいけど)あるときムハンマドが、「これからは内面を清める大ジハードだ」と言ったといった、少数学説を強調して近代世界に合致させようとしてきた。しかしこのような主張は、コーランやハディースや、積み重ねられて合意を得られた正統的解釈を根拠にしていないので、過激派の議論と正面から戦うと、教義論争としては分が悪い。だから、強権支配の政府が力で抑え込む」
「イスラーム教の教義の中には、イスラーム教の観点からあってはならない国内・国際秩序を武力で制圧することが義務であるという主張が正統化される余地があるという事実は、直視しなければ対峙できない」