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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

北岡伸一(集団自衛権見直しの主導者)の「軍国日本復活は杞憂」論が、悪魔的な対中挑発をしている件。

読売新聞の2013年9/22「地球を読む」にて掲載されたのが北岡伸一氏の論考。
ウィキペディアの「北岡伸一」

北岡伸一(きたおか しんいち、1948年(昭和23年)4月20日 - )は、日本の政治学者・歴史学者国際大学学長、政策研究大学院大学教授(東京大学博士)[1]、東京大学名誉教授。2004年4月から2006年8月まで日本政府国連代表部次席大使を歴任。専門は、日本政治外交史。

こういう人だけど、今のニュース的には、この「地球を読む」の冒頭にもあるように「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の座長を務めている、というプロフィルが一番有名だろう。
当然、それへの反発や批判も強いのだが、北岡氏はそのテーマを果敢にも自ら取り上げ、とくに「軍国主義復活」への懸念などに反論している。
その反論の仕方が、けっこう毒とトゲがあるのでちょっと目を惹かれた(笑)。

自衛力強化の議論をしているのに、すぐに「いつか来た道」と言い、戦争につながると批判する人がいる。それは彼らが、戦争がなぜ起きたかを真剣に考えていないからではないだろうか。

 
そして、
昭和の戦前期、日本を戦争の道に進ませた諸条件を考えろ、という。
それを考えると「今の日本に当てはまらないことは自明」だと自信を見せるのだが…その列挙が、後述するように、あるすごい…『受即攻』になっているのだ。
それは5つ。

【昭和戦前期、日本を戦争の道に進ませた5条件】

1:「地理的膨張が国家の安全と繁栄を保証する」という観念

戦前期は軍事大国として復活するソ連への防護地帯、市場、資源、移民先の確保、国家の栄光などからら中国や東南アジアに膨張しようとした(世界的な傾向でもあった)。小日本主義石橋湛山のような人物もいたのに。
しかし、今の日本では「地理的膨張を求める声」は皆無。
米韓同盟は朝鮮半島を安定させているし、自由貿易体制は日本が最大の受益者、地理的膨張は繁栄につながり得ない
  

2:「相手は弱い」という認識

昭和戦前期の中国軍閥中華民国の軍隊は、基本的に傭兵で戦意が低い。しかし、現在の日本で、「中国は弱い」と考える人は私(北岡)の知る限りいない。
  

3:「国際社会は無力で、制裁する力はない」という認識

満州事変当時、米国は直前の大恐慌、中国は国共対立、ソ連も慎重。結果的に満州事変は「悪い意味でうまく行ってしまった」。だが現在、日本は高度に発達した経済があり、制裁を受けた場合のダメージは大きい。
  

4:政治の軍に対する統制の弱さ

(引用)
戦前期は、関東軍の独走に始まり、軍が日増しに膨張し発言力を増すのを政治はとめられなかった。しかし、現在の日本では自衛隊に対する統制は十二分に効いている。

 

5:言論の自由の欠如。

満洲事変前まで比較的自由で後世に残る論文も多い言論がその後当局に統制されていった。現在の日本では言論の自由がしっかりと確保されている。
 

【結論】

(引用)要するに、かつての日本の軍事的膨張を促した5条件は、今日の日本には全くあてはまらない。日本が平和国家であるのは、憲法9条ゆえではなく、より根本的な、現在日本の繁栄を支えている基礎条件によるのである。


そして、ここからが芸なのだが・・・、北岡氏はこの矛先をくるりとかえる。

ところが、この5条件を現在の中国で見てみるとかなりあてはまるのだ。

ぶほっ。
だが、なるほど…
【上の5条件で中国を見ると】

1:資源獲得活動のほか、。海洋活動膨張の背景として安全確保・国威発揚の観念・発想が顕著。
2:東アジアにおける軍事的優位にかなりの自信。
3:国際社会からの制裁を恐れず、しばしば国際法を無視して行動する。安保理常任理事国であり、対中制裁はかなり困難で、経済力で反大国を沈黙させることもある。
4:近年は、政府の軍統制が弱まりつつあるのとの懸念が強まっている。
5:政府に対する批判的言論がかなり難しい。


いや、実はこれはただのイヤミじゃなく、実は戦後の国際秩序の中で日本を自己規定すると、大きな思想的分岐がある。

これを安倍晋三首相が言えるか言えないかはわからんが
「戦前の日本はワルかった!反省します!!」というとき、
A:「戦前は軍国国家でした!だから反省し、平和国家として、武力を使わないようにします!」
B:「戦前は非民主国家でした!だから反省し、自由主義国家としてデモクラシーと自由を至上の価値とします!」


は、一致するようでいて、実はときどき相互に矛盾するのだ。デモクラシーと自由をまあまあ実現している国家はそのまま平和主義国家かといえば、某お米の国が見事にその反例になっているわけで(笑)。
ただし日本の侘び証文としては、ともに形式は整えている。民主主義体制の価値を標榜し、守るという概念に、文句はあまりつけられない。第二次大戦を「反ファシズム闘争」と位置づけ、その反ファシズム陣営に、自分たちの指導者は毛沢東スターリンである(爆笑)ことはスルーしながら入り込む中ロにとっても文句はつけられない。


だから北岡氏がここで示した
『戦前の「いつか来た道」にならないよう、日本は政治が軍を統制し、言論の自由があります。おや?ところで中国は・・・?』
というのは、日本危険視論への防御でありながら、中国を強く牽制する攻撃にもなっている、という、つまり防御即攻撃、「受即攻」になってるというね(笑)。


東大教授から国連大使になった異色の経歴を持つ人だから、こんな喧嘩芸も見せることができるんだろうか。実際、八月の終戦記念日の首相談話などでも「平和」以上に「自由」や「民主主義」をちりばめてもいいような気がする。


ともあれ、集団的自衛権見直しの中心人物でもある北岡氏が、「いつか来た道」「軍国主義の復活だ」に対してそれを否定するといった守りの言論が、そのまま対中牽制の言論にもなるという攻撃兼防御の構えがおもしろかった。
この論文は本日、9月23日の「ジャパン・ニューズ」に英文が掲載されるという。

付記。

書き忘れていたことを追加したい。
実は北岡氏、文章の最後半部で「戦前の日本が、中国を侵略した」ことをまったく,ためらい無く認めているのだ。

「平和のためには平和的手段しか用いるべきではない」という主張をするという意味での「平和主義者」の中に「すべての戦争は悪だ」と主張する人がいることも、併せて論じたい…日本が中国を侵略したとき、それに抵抗した中華民国の自衛の戦いも悪い戦争だったのだろうか。日本のなすがまま降伏し、圧政を受け入れるべきだったというのだろうか。

さて、
安倍晋三首相はこういえるだろうか(笑)。
 
ただ、北岡氏の悪魔的天才ぶりが冴えているのは、それをもって「日本国の、日本民族(限定)の反省」材料とは露ほども思っていないところである。「歴史は、特定の国や民族を超えた人類共通の教訓である」という、これまた反対しにくい正論を背後に示しながら、堂々とこう言い放つのである。

今、考えるべきことは、日本に侵略された中華民国の側に逆に身を置き、不当な侵略をどう防ぐか、より効果的な自衛のためにどうすればよいかということである。

なにげに「中華民国」という言い方をしているところも、正確ではあるが性格が悪いと思う(笑)。


付記2つめ 彼の人となり

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100301/p4
「バッターボックスに立て!」 東京大学教授 北岡伸一


ゼミの時間にときどきテキストを離れて、現代の問題について「君ならどうしますか?」と質問することにしている。少し前のことだが、フジモリ元ペルー大統領が日本に亡命をしようとしているが、君ならどう判断するか、李登輝台湾総統が訪日しようとしていて中国が反対しているが、君ならどう判断するか、という具合である。
すると、 「えっ、僕が答えるのですか」
「そうです」
「えっーと、個人的には…」
「君は一介の学生だよ。個人的な立場以外にあるはずがないんだから、そんな前置きはいらない」
「……」
という風に話が進む。
 答えが正しいかどうかはさほど重要ではない。その問題を考えるための基礎的な知識をきちんと身につけていて、それを使いこなせるかどうかが、重要なのである。
 20年近く前、ある高名な評論家に、「意見の賛否は別として、この北岡という人は、いつもバッターボックスに立っている」と言われたことがあった。大変な賛辞だとありがたく受け止めて、そうありたいと努めている・・・(後略)