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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

中高生に薦めたい。百人一首から自由に想像を広げた「うた恋い。」

コンピューターやビデオ映像が無い頃。
そんな頃からでも、ひとは、「受け継ぐ者たち」によって、文化を伝えてきた。
日本で、そんな継承をされた文化遺産のひとつが、13世紀初頭に作られたという小倉百人一首であります。

ただ、個人的なことを言わせて貰うと、もともと自分は歴史好きではあるが、この平安鎌倉の京都風の『みやび〜』な文化は肌にあわない!どっかの偉い歴史家の言葉だが「日本の歴史で、今我々と直結しているのは応仁の乱以降だ」というのがある。自分もたぶん下克上のころに暴れた足軽や土民のほうの側なのだろう(笑)。


それにそもそも、詩情にとぼしいのでね。百人一首では「ちはやふる…」と「瀬を早み…」だけは思い入れがある、と言ったら一発で「落語経由ですね」と分かってしまうし(笑)。

そんな自分がなぜ、この「超訳百人一首 うた恋い。」を知って興味を持ったのか?

超訳百人一首 うた恋い。

超訳百人一首 うた恋い。

超訳百人一首 うた恋い。2 DVD付特装版

超訳百人一首 うた恋い。2 DVD付特装版

超訳百人一首 うた恋い。3 DVD付特装版

超訳百人一首 うた恋い。3 DVD付特装版

偶然としか言いようが無い。たまたま書店に平積みされており、たまたま珍しく(前半が)シュリンク無しでためし読みできる形式だった。
そこで手に取ったのは、自分は・・・このブログでは何度も書いているけど、「漫画で分かりやすく読む○○」の超肯定派であり、とくに学研漫画ひみつシリーズや「日本の歴史」シリーズには多大の恩がある。
で、「ほう、そういう流れの末裔か。どれどれ現在はどんなふうに、「いま風」になっているかのう」といった古老的興味で読んだ・・・のだが、そこで「や、これは・・・たいしたものですよ!!」と膝を打って購入・・・という次第だ。

大胆な想像と飛躍に脱帽、てかほとんど創作ちゃう?

ぶっちゃけ、「平安時代の文学って、うちらとほとんど感性同じだよね。つーか今のエッセイとかラブロマンスと同じじじゃん? 和歌はラブソングだし」という切り口は以前からたくさんあったし、巨匠から、予備校の「名物講師」的スタンスの人までいろんな本が出ていたと思う。代表は

桃尻語訳 枕草子〈上〉 (河出文庫)

桃尻語訳 枕草子〈上〉 (河出文庫)

桃尻語訳 枕草子〈中〉 (河出文庫)

桃尻語訳 枕草子〈中〉 (河出文庫)

桃尻語訳 枕草子〈下〉 (河出文庫)

桃尻語訳 枕草子〈下〉 (河出文庫)

http://www.hico.jp/sakuhinn/7ma/momojirigoyaku.htm

「春って曙よ!」ではじまる第一段は「昼になってさ、あったかくダレてけばさ、火鉢の火だって白い灰ばかりになって、ダサイのッ!」で終わる。原文から逸脱することなく、それでいて心憎いほどヴィヴィッドで、そのうえ[註]がすごい。とくに、皇后定子と兄伊周(これちか)、叔父道長などの人物関係や、当時の習慣、服装など、そんじょそこらの古文の参考書より、はるかに詳しくわかりやすく面白い。解説で、清少納言の価値観を”ミーハー””センチメンタル””小姑根性”といいきるところもスルドイ。 

だから「うた恋い。」も正直、表紙をみたときは「ああ、今風の絵で、歌の場面や心情を1、2ページで描いて・・・・そういう解説本だろうね」と思った。
ところが。

まずオープニングにしてから(あくまで説のひとつではあるが)、選者の藤原定家が身内(宇都宮頼綱)に頼まれて「内輪のアンソロジー」を作った。それは政治的な制約・遠慮で不本意な公式選歌集をつくってしまった定家の「リベンジ」であった・・・という小芝居が描かれている。

それなりに納得いく筋書きではあるし、資料もあるのだろうが、やっぱり「現代風」であることは間違いない。

その後も・・・歴史もの一般にそうなんだけど「昔の人も、今も変わらないよね」という共通点を楽しむものと、「その時代の思想、宗教性、習慣」によって支配される、まったく違った行動様式に目を引かれるものとがある。
平安鎌倉の京都公家文化といえば怨霊(という概念)に政治が支配された、ある意味現代からは思考様式が一番遠いといっていい時代だと思うけど、そこはダイタンに斬り捨て、意味を組み替えている。いわば「借景漫画」(C:呉智英)ですな。

ただ、その普遍性の抽出には巧みなものがあると思う。

紫式部小野小町を登場人物にした物語では「男社会の中で、才知を武器に頭角を現す女性たちと、その限界や代償」という、現代社会に通じる(通じさせてはいけないのだが…)物語を描いているし、謹厳実直のカタブツが、ある危機を潜り抜けたあと、自分に正直になって情熱的に思いをぶつける・・・という話や、憧れの高貴な女性から「恋愛ごっこ」を持ちかけられた歌人が、そのせいで自分の思いを封印される話などもよく出来ている・・・

うーむ、あらためて考えると・・・たしかに読み手の経歴も、歌の意味も取り込んでいるが・・・史実の割合ってこれ、1割かも?2割かも?平安に弱い自分は精密に検証できないが・・・。
まあ創作部分が多いとしたら、それは批判材料ではなく作者を賞賛する材料とすべきだろう。
むしろこれは、歌そのものを漫画化したのではなく、百人一首の各歌と、歌い手の経歴、歴史的事件というお題を出されて、「それを元にショート・ストーリーをつくってください」という・・・いわば『三題噺』的な、そういう作品なんだと考えるのがいいのではないかと思われ。

ぶっちゃけ「百人一首を覚える」のに、効果的。だから中高生は読め。

自分がもともと、この本を手にとった理由を追加すると、やっぱり高校教育がある。高校で百人一首は自分、暗記を強制されたわけだ。
それは合理的な理由があるし、自分もそれに感謝している。ただ、「どれどれ、自分はどれだけ覚えているかな」と平成教育委員会のノリで巻末の100首を見てみると・・・ほぼ全滅。国にあだをなす十万余の蒙古勢が、底のもくずと消えて三艘が残っただけ、みたいなゼンメツ。
いやあ、高校生の付け焼刃ってほんとーーに脆いもんですねえ(笑)。
 
暗記というのは、ある時期その暗記自体が楽しみだったりするけど、できればそのときには有用なことを覚えていたいもんです。百人一首の記憶がほぼ全滅と思った時、自分はその対極の「無用な暗記」のほうはさび付いてるかどうかチェックするため「ウルトラマン」のサブタイトルを思い出してみたら、39話中約20タイトルを記憶してた(笑)。
http://www.geocities.jp/hiro_world2/man_review.htm

そういう悲劇というか無駄をなくすために、古文を本格的に学ぶ高校の入学前に、この「うた恋い。」で基礎的なことを知っておくと、その時代こそ無駄な記憶力も高まる時代です。古文のスタートも非常にスムーズにいくんじゃないでしょうか。

そういう即物的なお勧めもできると思っています。恋愛=性愛描写も、ちょっと踏み込んだところもあるけど、それなりに健全ではあるし。

絵に個性は感じられず。でも「こういう絵」が「標準装備」なのだなあ・・・

うた恋い。の絵柄は、上に引用したコマの通りなわけだが、これらと比較しよう。

もう50回を超えて、紙の単行本は総計160万部という「ゆうメンタルクリニック」漫画
http://yucl.net/manga
関東軍の伝統を受け継ぎ(?)自衛隊が”暴走”をかました「ジエイのお仕事」
http://www.mod.go.jp/pco/okayama/comic/jieinop01.html


実のところ、同じ作者かと一瞬思ったりしちゃったり。
なんといえばいいのかね・・・つまり、上の漫画に出てくる絵柄(「アニメ絵」という昔の呼び名でいいのか?ちょっと違うような・・)はいま、一種の「標準」であり「最大公約数」であり「デファクトスタンダード」になっているよね。自分は漫画を中断せずに読み続けていたはずなのだが、気づいたらこうなっていた・・・。という不思議な感じがある。
これは総合格闘技だって、1993年のシュート革命以来ずっと見続けていたのに、気づけば「標準的なMMA戦士の技術」が出来ちゃっているような、そんな感じかな。

でまぁ、平均的なMMA戦士が逆に「無個性だなあ」と人気が出ないように「うた恋い。」をはじめとするこういう平均した感じの絵柄は、あんまり個人的には上手いとは思わない。
しかし、一方で「もはや、この水準まで描けて、やっと標準なんだろう」という、平均の底上げっぷりに感嘆せざるを得ない。
MMAの選手がタックルもできて、タックルもきれて、打撃もできて、柔術もできて・・・それで「無個性だなあ」と言われるのもやるせかなろう(笑)。まあ、その上で個性も必要なのは間違いないけど、それでも底上げされた標準についていった上での話。

それと同じように、そもそもネット上に公開された病院の宣伝漫画、自衛隊の勧誘漫画が無駄な感動を誘うほどに出来がいいのも、この「底上げ」の力だろう。昔、黒埼健時氏も「ムエタイ人口は3000人。世界中で武器無しの戦争をしたら、タイ国が最強じゃ!」と言った。(関係ねえ)

てか!作者の杉田圭氏をいまウィキペディアで調べたら、ニコニコ動画への投稿がきっかけとなってプロ漫画家になった人だそうだよ!
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%89%E7%94%B0%E5%9C%AD
漫画界のキンボ・スライス!! 在野に、いるもんだねえ才能って。その才能を漫画・イラストスタイルの「標準」というワクは閉じ込めるのではなく、育てる役割を果たした気がするのだがいかがだろうか。

ここで紹介するまでもなく人気作だったと(笑)

ウィキペディアの「うた恋い。」、および作者ウィキペによると

今年の夏、アニメ化されると。
昨年夏の段階で、累計21万部だと。(3巻が今年出たから、もっと増えてるでしょうな)
作者の公式サイト。
http://cdm.toypark.in/
今手元にないけど、1巻もたしか7刷とかいってたような・・・
掲載誌もいまだに知らない自分だが、こうやってみるとやっぱり「自由市場」ってすごいね。すぐれた人は、自然と市場が評価するのだ。まったく後から遅れて来た側としては、いくら「ニコニコ動画」での有名人だったとはいえ、そこから出てきてぽんと人気を得るのは・・・作者もすごいが、支持した先行ファンもすごい、と。
それがないと、本屋も平積みにしないし、こっちも知ることが無かったろう。そういう人に感謝する。

そして、この作者も、読者もまた「受け継ぐ者」なのだ。



先人から、われわれへ。われわれから、後世の人へ。
途中で美形化やらファンタジー化やらがあっても、まあ気にするな(笑)
【記録する者たち】