ネット上の人たちというのは大したもので、既に新聞自身はサーバーから撤去している社説をちゃんと保存している人がいたようだ。
まず今回の社説から紹介しましょうか。
2010年7月12日(月)付
参院選 民主敗北―2大政党にさらなる責任参院選で民主党は改選議席の54を大幅に下回り、自民党の獲得議席にも及ばなかった。民主、国民新の連立与党としても過半数を維持できなかった。
政権交代に大きな期待を寄せた民意が、わずか10カ月でこれほど離れてしまった。菅首相と民主党は深刻に受け止めなければならない。
鳩山前政権の度重なる失政が影を落とし、消費増税での菅首相の説明不足や発言の揺れが大きく響いた。
■短命続きもう卒業を
民意は、菅首相率いる民主党政権に退場を促すレッドカードを突きつけたのだろうか。
政権交代そのものが間違いだったという判断を下したのだろうか。
そうではないと私たちは考える。
2大政党の主な公約が似通う中で、何を選ぶのかが難しい選挙だった。
とはいえ比例区の得票では民主党が自民党を上回り、非改選議席を加えれば、なお第1党だ。有権者は民主党に猛省を迫ったが、政権を手放すよう求めたとまではいえまい。
民意は一方で自民党を復調させた。ようやく実現した「2大政党による政権交代のある政治」をさらに前に進め、鍛え上げるよう背中を押したととらえるべきだろう。
菅首相は選挙結果を受け、続投を表明した。一層の緊張感を持って重責を果たしてもらいたい。
日本では、「第二院」である参院選の敗北により首相が交代させられる事態がしばしば起こってきた。
よほどの惨敗ならやむを得ないとしても、短命政権が相次いだ大きな要因だ。それは腰を据えた政策の遂行を妨げ、国際社会での存在感を著しく損なってきた。もう卒業すべきだろう。
自民党一党支配の時代、有権者は総選挙で自民党を支えつつ参院選では時の政権の失政を厳しく裁いた。両院の選挙を使い分け「永久与党」を巧妙に牽制(けんせい)してきたともいえる。
政権交代時代を迎えた今、参院選のそのような機能は見直していいはずである。政権の枠組みの変更や首相交代はあくまで総選挙を通じて、という原則に立ち返るべきだろう。
■「ねじれ」乗り越えて
参院選の結果、衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」が再現する。
自公政権とは異なり、与党は衆院で3分の2以上の議席を持たないから、参院で否決された法案を衆院で再可決できない。「真性ねじれ」である。国会運営は困難を極めるに違いない。
菅首相は政策課題ごとに野党に協力を求め、合意形成を探るパーシャル(部分)連合を目指す考えを示した。
自民党の谷垣禎一総裁は早期の解散総選挙を求めており、実現は難しいかもしれないが、方向性は正しい。
新たな連立相手を探す動きがでてくる可能性もある。安易な連立組み替えに右往左往すべきではない。
野党を話し合いの場に引き出すためには、鳩山前政権での強引な国会運営を反省することが欠かせない。
民主党内には多数決偏重を戒め、議論を練り上げるプロセスを重くみる「熟議の民主主義」を唱える向きがある。それを実践する好機である。
ねじれ国会を頭から否定する必要はない。賢く妥協し、納得度の高い結論を導く。そんな可能性も秘めていることを銘記したい。
自民党にも注文がある。
昨夏までのねじれ国会で民主党など野党は「『直近の民意』は参院にある」と主張し、自公政権を徹底的に追いつめようとした。当時、民主党の対応を政局優先と厳しく批判した自民党が今度は逆の立場に立つ。
反対ありきではなく、適切なチェック機能を果たす「責任野党」の見本を示してほしい。
■消費税から逃げるな
民主党の大勢が「消費税が敗因」と受けとめれば、今後、税制改革論議への消極論が強まるかも知れない。
しかし、「消費税10%」を掲げた自民党を有権者は勝たせた。菅首相も「議論そのものが否定されたとは思っていない」と述べた。
膨大な財政赤字を放置できないことは明らかだ。議論は早急に始めなければならない。それが、2大政党があえてそろって負担増を訴えた今回の意義を生かす道でもある。
もちろん行政の無駄に切り込む。政治家が率先して身を切る姿を示す。何より、持続可能な社会保障の全体像を描く作業が欠かせない。
菅首相は日本の将来のために増税が必要だと信じるのなら、逃げずに正面から自民党に協議を呼びかけ、有権者の説得にもあたるべきだ。
民主党内では今後、菅首相の求心力が低下することは避けられまい。菅首相を支える勢力と小沢一郎前幹事長グループとの確執が深まれば、9月に予定される党代表選に向け大荒れの展開となる可能性もある。
しかし党内抗争にかまけることを許すような余裕は今の日本にはない。
全党挙げて参院選敗北を総括し、政権運営の基本方針を定め直す。それが政権をあずかる与党の責任だ。
政権交代を実現させた日本政治の前進を後戻りさせてはならない。
2007年7月30日
参院選・自民惨敗―安倍政治への不信任だ衝撃的な選挙結果である。
安倍首相は昨秋の就任以来、この参院選での勝利に狙いを定めて、さまざまな手立てを講じてきた。有権者はその実績に対して、はっきりと「不合格」の審判を下した。
しかし、首相は結果を厳粛に受け止めるとしながらも「私の国づくりはスタートしたばかり。これからも首相として責任を果たしたい」と述べ、政権にとどまる意向を表明した。まったく理解に苦しむ判断だ。
●民意に背く続投表明
さすがに自民党内にも首相の責任を問う声が出ている。すんなりと続投が受け入れられるとは思えない。首相はもっと真剣に今回の結果を受け止め、潔く首相の座を退くべきである。
それにしても、すさまじい惨敗ぶりだ。自民党は30議席台へ激減し、ライバル民主党に大きく水をあけられた。非改選議席を加えても、民主党に第1党を奪われた。1955年の自民党結党以来、第1党の座を滑り落ちたのは初めてだ。「政権を選ぶ衆院選とは違う」というには、あまりに度を超えた敗北だ。
公明党も後退し、与党全体で過半数を大きく割り込んだ。与党は衆院で7割の議席を押さえているものの、参院での与野党逆転はこれまでの国会の進め方を根本的に変えることになるだろう。
全国で、安倍自民党に対する「ノー」の声が渦巻いた。
「自民王国」のはずだった地方の1人区でばたばたと議席を失い、参院自民党の実力者、片山虎之助幹事長まで落選した。2年前の郵政総選挙で小泉自民党が席巻した大都市部でも、東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知で民主党が次々に2人当選を果たした。
2年前、自民党を大勝させた無党派層が、今度は一気に民主党に動いたのだ。自民支持層のかなりの部分が野党に流れたのは、政権批判の強さを物語る。
衝撃は自民党内に広がっている。中川秀直幹事長や青木幹雄参院議員会長は辞任する。それでも首相が続投するとなれば、世論の厳しい反応が予想される。
まして、与野党が逆転した参院を抱え、これからの政局運営や国会審議は格段に難しくなるはずだ。参院で安倍首相らへの問責決議案が出されれば通るのは確実な勢力図だし、混乱と停滞は避けられないのではないか。
●1人区の怒り、深刻
敗北の直接の引き金になったのは、年金記録のずさんな管理に対する国民の怒りだった。さらに、自殺した松岡前農水相や後任の赤城農水相らの「政治とカネ」の問題、久間前防衛相らの暴言、失言の連発が追い打ちをかけた。
首相にとっては、不運の積み重なりだったと言うこともできる。だが、ひとつひとつの問題の処理を誤り、傷口を広げたのはまさに首相自身だった。
年金では「浮いたり、消えたり」した支払い記録の不備が次々と明らかになり、後手後手の対応に追われた。政治資金の問題も、松岡氏をかばい続けて自殺という結果を招き、後任に起用した赤城氏にも同じような疑惑が発覚。総裁選での論功や自分の仲間を重視する人事の甘さが次々に浮かび上がってしまった。
その一方で、国会では数を頼みに採決強行の連続。うんざりだ、いい加減にしろ……。広がったのは安倍氏への同情や共感より、安倍政治への基本的な不信ではなかったか。
選挙結果で注目すべきは、とくに1人区で自民党が不振を極めたことだ。地方の経済が疲弊する一方で、高齢者ばかりの町や村が増える。人々の不安と不満が膨らんでいるのに、自公政権は本気で取り組んでくれない。そうした思いが底流にあると見るべきだ。
都市で集めた税金を、公共事業などを通じて地方に再配分する。良くも悪くも自民党政治を支えてきたメカニズムだ。それが終わりを告げたのに、代わりの方策が見つからないのだ。
●優先課題を見誤った
地方の疲弊に象徴される格差への国民の不満、将来への不安は、都市住民や若い世代にも共通するものだ。とりわけ弱者の暮らしや安心をどう支えるのか。これこそが、小泉改革を引き継いだ首相が第一に取り組むべき課題だった。
ところが、首相が持ち出したのは「美しい国」であり、「戦後レジームからの脱却」だった。憲法改正のための国民投票法をつくり、教育基本法を改正し、防衛庁を省に昇格させた。こうした実績を見てほしい、と胸を張ってみせた。
有権者にはそれぞれ賛否のある課題だろう。だが、それらはいまの政治が取り組むべき最優先課題なのか。そんな違和感が積もり積もっていたことは、世論調査などにも表れていた。
自民党は成長重視の政策などを打ち出し、実際、景気は拡大基調にある。なのになぜ負けたのか、真剣に分析すべきなのに、首相が「基本路線には(国民の)ご理解をいただいている」と政策継続の構えを見せているのは解せない。
政治はこれから激動の時代に入る。与野党に求められるのは、衆参で多数派がねじれるという状況の中で、対立だけでなく、お互いの合意をどうつくり、政治を前に進めていくかの努力だ。
自民党は、これまでのような強引な国会運営はやりたくてもできない。だが、民主党もいたずらに与党の足を引っ張るだけなら、次は国民の失望が自分たちに向かうことを知るべきだ。
そんな新しい緊張感にあふれる国会を実現するためにも、首相は一日も早く自らの進退にけじめをつける必要がある。
ちなみに次の日、安倍が続投表明をしたことを受けた同31日の社説もこちらにあるのでどうぞ。
http://blog.goo.ne.jp/freddie19/e/3eaa6415cef7be088eb5bf6385b0ca57/
で、素直にこれらを読むと矛盾、ダブル・スタンダードがあるとネット界でのツッコミがいまさかんなわけだが……とりあえず首相選任に対しては、衆議院が優越すると憲法が定めているのに、なぜ朝日新聞は2007年に参議院の選挙結果に基づいて退陣を要求したのか。
その経緯について、当時の論説主幹・若宮啓文氏が著書「闘う社説」の中で書いているので、それを参考として引用しておきましょう。
この本は2008年10月に出版されました。
(228Pより)
- 作者: 若宮啓文
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意外なのは、同じ日の全国紙がみな退陣論を打ち出さず、安倍氏の続投に理解を見せたことだった。(略)日経新聞は「安倍首相はこの審判を厳粛に受け止めよ」と迫ったが「参院選で負けたからといって首相が辞めなければならないわけではない。参院選は政権選択の選挙ではない」・・・(略)と二院制の原則論を書いた。
(略)全国紙では朝日だけが突出したのである。「さすが安倍政権憎しの朝日だ」との陰口も聞かれたが、決してそういう次元の話ではなかった。
確かに参院選は本来、政権の選択を問うものではない。日経の主張は私にもわからないではなかったし、今後そうした論理が定着するなら結構なことかもしれない。だがこの場合に果たしてそれが通用する論理だったかどうか。まず、負け方の激しさだ(略)。選挙戦の中で首相自身が「私と小沢さん、どちらが首相にふさわしいか国民に聞きたい」と語っていた。この選挙を自分の信任争い、政権選択の選挙と位置付けたのは自分自身だったのだ(略)
以上が一応、当時の論説主幹の論理です。まずは紹介のみ。
個人的には、やはりこれで矛盾が解消されたとは言いがたいと思う。「安倍は参院選を自ら政権選択と位置付けた」とするが、菅総理も・・・
http://www.47news.jp/CN/201006/CN2010061401000865.html
【衆院解散】野党は自信がないから「解散しろ」と言っているのではないか。7月には参院選がある。まず参院選で国民の信を問うべきだ。私たちも参院選で問うていきたい。(渡辺喜美氏への答弁)
はじめから「第一党保持ならセーフ、割ったら退陣」とか「比例代表1位ならセーフ」と書いてあればまた違うけどね。
この種の、「○○の場合はXXXするのが筋だ」関連を−−とくに国会運営などに関して−−自分は慣習と明文法との兼ね合いの意味でずっと追ってきたけど、政権交代は攻守が逆転するから(攻める現野党(旧与党)も含め)、過去の本人、またはシンパの発言の整合性を見るのはおもしろいなぁ。
ちなみに同書によると、当時の毎日新聞は退陣を直接は求めなかったものの「続投を決意したからには、早期に衆院を解散し、改めて信を問うべきである」と、続投と衆院解散はワンセットであると主張していたとか。