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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

フリードリッヒ大王を描く、歴史漫画短編(零氏)が面白い。この王の、本格評伝漫画があればな…


この前、けっこう読まれた、令和の学習漫画を紹介する記事で、真っ先に挙げたのがフリードリッヒ大王だった。

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どの部分が興味深いか、再引用しよう。

自分がいちばんこの手の歴史学習漫画で注目してるのは、18世紀のプロシアvsオーストリア抗争、つまり言い換えればフリードリヒ大王とマリア・テレジアの関係
「欧州の川中島」と以前あだ名をつけたが

・実力的には互角といっていい将器をもつ2大英雄
・されど個性や性格は対照的
・何年も、複数回にわたって戦争
・その結果は一進一退
・脇を固める人々や外交関係も多彩
・ドラマチックな場面が多し

……なのでね。

まんが世界の歴史 マリアテレジアvsフリードリヒ
マリアテレジアvsフリードリヒ
フリードリヒvsマリアテレジア
フリードリヒvsマリアテレジア

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この話を、もともとは2010年から書いていたから、まるまる14年もそういう意識はあったわけだ。
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他の部分も含めて、フリードリッヒ大王が漫画のネタとして面白い部分を抜き出してみよう。

・まず父親が同じ名前のフリードリッヒ、異名を「軍人王(兵隊王)」という、質実剛健でよきにつけ悪しきにつけ軍事第一で祖国を鍛え上げ、精強な軍隊を作り上げて息子に遺し、大王の基盤を形作った中々の英傑。
 
・だが、軍人王だけあって超スパルタのDV頑固ジジイ。そして若き日のフリードリッヒ大王は軍や戦争が嫌いで芸術を愛し、父親には反発、親も我が子を「この軟弱もの!」扱い、唯一の理解者は優しい姉だけだった。
 
・その反発が高じて、最後は英国への亡命まで企てたが、失敗。父親は死刑まで考えたがさすがにそれは止める。そして、代わりにこの計画を助けた大王の友人を、本人の目の前で処刑する……
 
・この事件以降、「心を入れ替えたように」優秀な軍人となり、将校としても才能を見せる。もちろん、上の話のようなトラウマがどこかに無い訳はないが…
 
・そして父王は逝去し、プロイセンを受け継ぐ。優秀だが、理想主義的な思想も持ち、一時は父親に反発もしたという大王の話は知られていたし、そこでマニフェストのような「反マキャベリ論」という本も出していた。(出版時は匿名)
 
・表題でわかるようにこの著書は、権謀術数の象徴としてマキャベリを挙げ「そんな悪い政治をしてはいけません、誠実第一」みたいな話を書いてたものでした。ヴォルテールがこの主張を評価して出版の労を取ったとか
 
・実際に次々と、今の近代思想に通じる改革を新王は進めて評価を高める。確か拷問や検閲の廃止とか、いろいろ。
 
・とほぼ並行して、教科書にも載っているオーストリア継承戦争を行い「欧州の川中島」の幕を開ける。大王と互角の傑物マリア・テレジアとハプルブルグのオーストリアの覚醒だ。
 
・そしてずっと戦争に明け暮れ、さまざまな戦史・外交史上のエピソードを残す。直接的な危険にさらされたことも、この時代の国王では突出してるんじゃないだろうか。兵士や将校などとも戦地で直接触れ合い、士気を上げた。
 
・その戦略はのちに石原莞爾が戦争を決戦戦争、持久戦争の二種に分けて評価した時、決戦戦争の師足り得るのはアレクサンダーやナポレオン、そして持久戦争の師はフリードリヒだとしたほど。
 
・大王はマリア・テレジアと対峙し続けてるのに、いやそれゆえか女性蔑視を隠さず、対立した墺・露・仏の三国を「ペチコート同盟」と揶揄したりしてる。その結果足をすくわれたりしてる(笑)。
 
・この女性蔑視は上の亡命が婚約騒動に絡むものだったり、そもそも大王は個人の性指向がどうだったのか?という話や、唯一の理解者が姉だったことが逆に関係してる?のかとかややこしく、謎(創作の余地も逆にあろう)
 
・理由はともかく、王妃との間に子はできなかった…というか父親が決めた政略結婚だったせいで、王妃はほぼお飾り扱い(少女漫画のように「政略結婚だったが溺愛される」とはいかんものだね(笑))。だが王妃は、けなげで…
 
・学問とか芸術好きも、父親の制約がなくなり王として自由に振る舞えるようになったから大いにやるようになって、プロイセンは北のアテネ、とか言われるぐらいになったが、フルートや詩作(フランス語)など、けっこうな隙もある出来だったともされる
 
・知識人ヴォルテールとの交流や、その後の決裂なども見どころがある。
 
・じゃがいも普及もがんばった。これにはファンタジーじゃがいも警察もにっこりして一日署長を委嘱。
 
・敵から尊敬される場面も多い。これによって「そんなの、なろう小説でもボツじゃ!」的なご都合主義的なラッキーが来たり。マリア・テレジアの息子も、これまた歴史教科書に載るレベルのヨーゼフ二世だが、彼も大王を尊敬し…とある。
 
山本有三が「フリードリッヒ大王の水車小屋」という話を、連作教訓話「心に太陽を持て」の中で書いている。この逸話も面白い。


……と、こんなに逸話やらみどころがある。
この人の評伝漫画…あるいは視点はマリア・テレジアのほうからでもいいので、この時代の欧州の戦争と謀略と政治を描く歴史漫画があればいいなぁ、とは思うのですね。
たぶん、どこかにはあるだろうし、「女帝エカチェリーナ」は少し歴史がかすってもいるんだけど。


そんな中での零 @zero_hisui 氏の短編漫画は、非常にすばらしいもので、欠点は続きがないこと、ぐらいであります(笑)

「零」氏の歴史漫画(アメリカ独立戦争

新書とかも、そんなに多い訳では……
この本は読んだけど、逆に言えばこれくらいとちゃうか

ナポレオン覇道進撃だったか、獅子の時代だったかは、プロイセン軍に完勝したナポレオンが「俺たちが闘っているのは、あのフリードリッヒ大王の軍隊だったはずだ」と、相手の弱さに逆に失望する場面と、歴史上の偉人たる大王への尊敬が描かれていた。
まあ、最後はそのプロイセンに…


アドルフに告ぐ」では、ヒトラーが上記の「ご都合主義的なピンチからの逆転」部分を大王の伝記から朗読させ、自分を鼓舞する場面があったかな。