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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

本の雑誌創世記を漫画化した「黒と誠」最終巻が発売

書評誌として、現在も根強い人気を誇っている『本の雑誌』。その後、作家や映画監督として活躍する椎名誠、書評家・北上次郎名義でも知られる目黒考二の二人を中心に創刊された雑誌で、その創刊秘話は椎名誠本の雑誌血風録』、目黒考二本の雑誌風雲録』に詳しく描かれている。今回は、その二冊を底本に、関係者への取材をもとに『本の雑誌』創刊時を、こちらも読書界を震撼させた『どくヤン!』の作画担当であるカミムラ晋作が完全漫画化。完結巻となる3巻では、椎名誠が作家デビューしてベストセラー作家になり会社を辞めることに。「破綻した男」目黒考二も助っ人学生を教え導く立場に。感動のフィナーレを目撃せよ!

全3巻となる。

完結記念に、2022年の漫画10傑を決定した時の文章を再放送しよう。

二つの相反するエンタメ要素が、巧く混ぜ合わさっていると思う。
それは、古典的・王道的なビジネス成功物語………なんつったって、ほとんど同人誌的な制作過程を経て、東京の本屋に手売りで置いていた雑誌が、瞬く間に数千部の発行を突破し、そして40年だか50年以上続いているのだから、どうしたってビジネスとしての立志伝だ。

黒と誠ビジネス

靴をすり減らして、東京中を回るそんな苦労もしている。
だが一方で……そもそも本の雑誌が、目黒考二が「天気がいい日には、会社に行かずに本が読みたいから」で会社を退社し、そこから趣味の延長のようにして始まったものでもある。
つまりビジネスの成功といっても「好きなことをストレスなく、仲間とサークルのような仕事でやってたら、何とか食えてます」というベクトルなのだ。ぶっちゃけ自分にとっても、そっちのほうが「年商20億円!世界を飛び回り一分を争ってビッグディールを…」とかより、よっぽど刺さる。
サラ・イネスの「誰も寝てはならぬ」みたいな感じだね。

勿論様々な気苦労も人間関係の軋轢も描かれるのは読んでわかるのだが、それでも梶原一騎的な「相手の足の裏をなめてもマネーを掴め!」ではない、そこを重視しないで仕事を回していく…ここへの憧れがあるからこそ「本の雑誌」創刊秘話は特別な地位を占めるのだ。

黒と誠

と同時に、この話は「失われた過去」を追想する物語でもある。なぜなら…

黒と誠 レポート

自分が本を読んで考えたことを多くの人に知らせたい、知ってほしい…というなら、令和の今はパソコンの前に座るか、ポケットのスマホを引っ張り出して、SNSやブログでポチポチと感想を書けばいい。あとは実力次第で勝手に読まれていく……目黒氏が今いたら、間違いなくそれですべては解決、ある意味ハッピーエンドだ。

当時は、それをしたかったら紙に印刷するしかない、製本して配本し、書店に並ぶしかない……時代だった。だから、そうやった。

今は、そんなことをする必要がなくなった。
だからそういうビジネスも立ち上がりはしない。もちろんニュースサイトやまとめサイト…でなくても、本を語ったyoutubeやtikitokで、最低限に「食えている」令和の目黒考二もいるだろう。
だが、それは「本の雑誌」にはならないし、そうなる必要もない。だからこの時代の回想は、本や読書、活字の意味が今とは違う「戻ってこないあの時代」を鮮烈に描くことになるのだ。
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