続いて信濃毎日に「憲法記念日によせて」760字。憲法と現実は「乖離していて当然」という話を書きました。「憲法は空語である。空語で何が悪い」という話です。なんとか宣言というのはすべて空語です。人権宣言も独立宣言もシュールレアリスム宣言も未来派宣言も、すべて空語です。
— 内田樹 (@levinassien) May 2, 2023
※以下、内田氏の連ツイで続いています。クリックすれば読めます。一応、この記事も後ろにつけておこうかな…
「憲法は理想を宣言するものだから現実とは乖離していて当然で、憲法の条文を変える必要はない」というのは、一つの立場としてはありですが、それは「立憲主義」とは全く違う別な何かでしょう。
— Shin Hori (@ShinHori1) May 2, 2023
(今の条文を維持するという意味では「護憲主義」の一種かも知れませんが)https://t.co/LslR7C3dDo
むしろ、一番離れてしまうと言ってもいい。
— Gryphon(INVISIBLE暫定的再起動 m-dojo) (@gryphonjapan) 2023年5月2日
これを端的に皮肉で言ったのが田中美知太郎(だったはず)の「憲法には理想を書けというなら、台風禁止も憲法に盛り込め」( https://t.co/PRqbQVg3M7 )https://t.co/eB1yRMOGfw
ここで引用した「憲法で台風も禁止せよ」というネタ、出典検証を図書
館レファレンスの中の人がしている。
質問
(Question)田中美知太郎の「憲法に平和を唱え挙げて平和がもたらされるというなら、台風は日本に来てはならないと憲法に記すことだけで台風が防げるか」という趣旨の文章を正確に知りたい。
回答
(Answer)
名言辞典類からは出てこなかった。また『田中美知太郎全集 増補版 第26巻』(資料1)の付属資料の総著作索引で冒頭に「平和」の語が付いた著作を調査したが、出てこなかった。
手がかりを得るために、インターネットの検索エンジンGoogleで<田中美知太郎><平和><台風>の語でかけあわせ検索し、ヒットしたものを読んでいくと、「今日の政治的関心」が出典であることを紹介する個人ホームページがあった。(最終検索日:2004.3.11)
資料2に収録されている『今日の政治的関心(二)』を通覧するとp248に「・・平和というものは、われわれが平和の歌を歌っていれば、それで守られるというようなものではない。いわゆる平和憲法だけで平和が保証されるなら、ついでに台風の襲来も、憲法で禁止しておいた方がよかったかも知れない。・・」
とある。
初出は『中央公論』昭和33年9月号。ほかの論文とともに、『敢えて言う』(資料3 中央公論社 昭和33年刊)にまとめられて刊行された。資料4にもあり。
福田恆存は「当用憲法論」で、国内法で犯罪を前提にしているのに、憲法では平和を前提にするのか、という話を書いていた。
前半の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」といふのが途方も無い事実認識の過ちを犯してゐるからです。これは後に出て来る「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会」といふ一節についても言へる事です。例の座談会で、この虚偽、或は認識を揶揄し、刑法や民法の如き国内法の場合、吾々は同胞に対してすら人間は悪を為すものだといふ猜疑を前提にして、成るべき法網を潜れぬ様に各条項を周到に作る、それなのに異国人に対しては、すべて善意を以て日本国を守り育ててくれるといふ底抜けの信頼を前提にするのはをかしいではないかと言った。第一、それでは他国を大人と見做し、自国を幼稚園の園児並みに扱つてくれと言つてゐる様なもので、それを麗々しく憲法に織込むとは、これ程の屈辱は他にありますまい。
nakamoto.hateblo.jp
ここから敷衍して、「(素晴らしい理想を謳えばいいのなら)日本国憲法は軍隊だけでなく、よろしく警察、裁判所、税務署などの不保持を宣言すべきである」という戯文を考え付いたこともある。
【資料】内田樹氏の、冒頭に紹介したツイートのその後の連ツイ
「人間は自由で権利において平等なものとして生まれる」という人権宣言の言葉も「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」という独立宣言の言葉も空語です。でも、行くべき道をあかあかと照らしている。
— 内田樹 (@levinassien) May 2, 2023
空語だけれど現実変成力がある言葉は、現実を正確に叙しているけれど現実を変える力がない言葉よりも現実的である。よく改憲派は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」という一条を取り上げて、世界のどこに「平和を愛する諸国民」が存在するかと冷笑します。誰も平和なんか愛していない。
— 内田樹 (@levinassien) 2023年5月2日
みんな自己利益を求めて殺し合っているじゃないか。そういう現実を受け入れた「現実的な」憲法にすればいい、と。でも、もう一度言いますけれど「現実的」という形容詞は「現実をそのまま記述しているだけで何も変えることができない」言葉にはふさわしくありません。
— 内田樹 (@levinassien) 2023年5月2日