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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

あるシンクタンクの「影響力」の源泉は「政治家がすぐ読んでパクれる、紙1枚のレポート」「コメンテーターのコンビニ化=”24時間営業”」(船橋洋一の本から)

朝日新聞で論説主幹などを務めた船橋洋一氏が、2019年に出した新書が「シンクタンクとは何か」。

界大戦や恐慌など歴史上の危機から生まれたシンクタンク。具体的な政策につながる革新的なアイデアを提言し、社会を動かしてきた。世界はいま、ポピュリズムの台頭や中国とロシアによる「情報戦争」の挑戦に直面している。シンクタンクの「政策起業家」たちはどう応えようとしているのか。そして「シンクタンク小国」日本の課題は何か。
米国のシンクタンクの現場で働き、現在は自らシンクタンクを率いるジャーナリストが、実体験をもとに知られざる最前線を描く。

正直読む前は「めっちゃ地味な本だなあ。あんまり面白くないとは思うけど、ちょっと調べたいこともあるし資料として読むか、…」ぐらいのテンションだったが…よく考えたら船橋洋一というのはいろんな肩書きの前に「ザ ペニンシュラ クエスチョン」「カウントダウン メルトダウン」などを書いた、優れたノンフィクションの書き手だったのだ。
様々な細かいエピソードなどを交えて単純に面白い読み物ともなっている。

たいそうな理念とかだけでなく、
この前「パソナ」で話題になった「いちど落選した議員の再就職先」のはなしと、ちょっと繋がったりする(ぶっちゃけ諸外国では、シンクタンクに落選した議員が職を得て、そこで捲土重来を伺うというんが非常に一般的なのだ。これはこれでいろいろ問題があるのだが、ある種の悪さ比べで、他の方法より「まし」な部分というのもある。さらに言えば「落選した議員はそのまま路頭に迷って、日雇いのバイトでもやってろ!それが民意だ」という解もあるにはあるが、そうなると、二大政党の政権交代システムに、機能不全が陥りかねないところもまた事実。
(さらにまたこの話が一周してパソナの話にも実は繋がるのだが…それはこの本を読むと分かるかも)
kabumatome.doorblog.jp




ただ時間的・物理的制約にて、全体的にこそ面白いのに全体を紹介することができない。
だから一箇所だけちょっと「ふーむ…」と感銘を受けたところを紹介しよう。


ヘリテージ財団というシンクタンクがある。1973年に設立された…保守系でありながらも、これまでのシンクタンクに飽き足らなかったエドウィンフェルナーと言う人物が作った団体で、レーガン時代から影響力を増し、今では世界有数のシンクタンクとして知られている 。


このシンクタンクが世界有数の影響力を 得るに至るまでになった二つの武器が、あまりにも単純で、しかし聞いてみると「あーなるほど、それじゃこのシンクタンクにみんな頼るわけだ」と思わせる説得力があるのだ。


それが
「ワシントンの議員や連邦政府のスタッフに、さっと読んでもらえるような1枚か2枚のレポートを継続して送る」
「世界のどんな出来事にも直ちにコメントが出せる24時間体制を構築する」

のふたつ。

関係部分を詳しく引用しよう

ワシントンという政治の首都で働く者は誰も彼も忙しい。とりわけ連邦議会の議員たちは5分刻みの毎日である。その銀やスタッフにシンクタンクの報告書を読めといっても所詮無理というものだ。だからワシントン DC 内のナショナル空港から キャピトル・ヒル(議事堂)までの車に乗っている15分の間にサッと目を通すこともできるブリーフィングペーパーを彼らに届けようではないか…
その結果誕生したのが「バックグラウンダー」「イシューブレティン」「エグゼクティブ メモランダム」だった。いずれも2ページから20ページ程度のレポートである。
財団のニュースレターである「バックグラウンダー」は5000から2万字程度の政策ペーパーであり、「エグゼクティブ メモランダム」に至っては一枚紙の両面に政策論議の概要をまとめただけのものである。これらのメモを読んでもらう目的は、議会における法案審議に直接影響を及ぼすことである。

ヘリテージ財団はまた、世界のどんな出来事にも直ちにコメントが出せる体制を敷いたことでも知られる。 CNN のような24時間のぶっ通しのニュースに合わせたメディア露出を測り、それによってシンクタンクの存在感を誇示しようというわけである。この斬新なマーケティング手法は大当たりし、他のシンクタンクも真似るようになった …… ブルッキングス研究所は、それまで必ずしも奨励していなかった研究員がメディアに登場することも正当な職務として評価するようになった。

このシンクタンクとコメンテーターの話、はてなの話題でいえばこれにも繋がる。
agora-web.jp
[B! 軍事] ウクライナ解説で防衛研究所の突出したテレビ出演を懸念



当ブログでは少し前に、一つ目のほう…「えらいさんだって全部の報告を熟読できるわけではない。だから膨大なレポートより、すごく簡単な資料をまとめたほうがプレゼンで勝つ」という話について記事を書いている。
m-dojo.hatenadiary.com

独裁者(ではなくとも組織のトップ)には、膨大な玉石の情報が集まり、読む方だってそりゃうんざりだ(ナポレオン覇道進撃)
パトレイバー 名刺の裏に書けるかね?(それほど簡潔にアイデアをプレゼンできる切れ者だということ)


二つ目の方もようは同じことで「すぐに連絡が取れて『コメントいただけますか』『はい了解、何のテーマでしょう?どのジャンルも専門家も取り揃えてますよー』となる団体に、メディアもコメントを求めがち」
ということなんですわな。
そこに究極的な質の良し悪しや、そのコメントが示す国家の道筋、方向性の是非は実のところあまり問われない(笑)


案外どの国の政治も、裏面を見ればこんなことで進んでるのかもしれない。

「なぜあの時政策Aに賛成したかって?その時に車の中で読めた資料が、〇〇シンクタンクからもらった『A推進論』1枚だけだったからだよ!」

「この前の記事でなぜXXXXさんにコメントを求めたかって?締め切りギリギリで、〇〇シンクタンクしか電話が繋がらなかったから…」


シンクタンクといっても、日本のあすを賢者と志士が憂えるような、そんな高尚な話じゃなく案外そういうところの地道な活動が影響力の源泉になっている、という暴露話でした。

かんべむさしの短編「貴様と俺は」をちょっと思い出したりもする。
…だから「裏で国家と世界を操る秘密組織の陰謀!!」を暴くような、そういう裏社会ルポ的なものと敢えて夢想して読んでみても面白いかもしれない(笑)


ただその一方、そもそも船橋洋一氏は、今まさに自分が「シンクタンク」の当事者になっている。だから当然、シンクタンクというものに対して、基本的にはポジティブな捉え方をしている。

apinitiative.org
理事長あいさつ
理事長 船橋洋一
Photo Credit: Seiichi Otsuka
一般財団法人日本再建イニシアティブ(RJIF)を発展的に改組して、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)を2017年7月に発足させました。

私たちは東日本大震災原発事故から半年後の2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、「日本を再建する」という思いのもとに活動してまいりました。

福島原発事故について独立・民間の立場から検証した報告書(いわゆる民間事故調の報告書)を大震災1年後の2012年2月に発表したのを皮切りに、各種の研究プロジェクトを展開し、その成果を書籍として世に送り出してきました。書籍の大半は英語にも翻訳して、日本国内だけでなく広く世界へ発信しております。

こうした日本再建イニシアティブの5年以上にわたる調査・研究・提言活動の実績を基盤として、視野をさらにアジア太平洋へ広げ、自由で開かれた国際秩序を構築する第2ステージへ歩を進めるための知的インキュベーターが、 アジア・パシフィック・イニシアティブです。

日本再建イニシアティブは、アジア・パシフィック・イニシアティブ発足後も、内部の中核的シンクタンクとして、「福島原発事故10年検証委員会」を設立し、活動を続けてまいりましたが、同委員会が、福島原発事故10年目の総括と未来への提言をまとめた「民間事故調最終報告書」を刊行したことをもって、2021年3月末を以て解散致しました。同報告書の刊行によって日本再建イニシアティブが当初、自らに課した責任を一応果たしたと考えるからです。

日本の社会と国家のリスク・ガバナンス・リーダーシップの課題は、2017年に日本再建イニシアティブの上部機構として設立したシンクタンク、アジア・パシフィック・イニシアティブが引き続き取り組んでまいります。

理事長 船橋洋一

そこの戦隊的な紹介を書ききれないのは、前述したようにこの記事執筆の時間的、物理的な制限に理由がある。


改めて機会があればこの新書全体を紹介するような完全版の記事を作りたい(了)。