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【社説集】「旗幟鮮明に」「亀裂深めぬ知恵必要」「大国の争いと決別」…北京冬季五輪の「外交ボイコット」で各紙社説

朝日新聞 (社説)五輪と政治 大国の争いと決別を

2021年12月8日 5時00分

 五輪・パラリンピックの主役はアスリートである。国家は、脇役にすぎない。政府関係者の参加の是非は、各国がそれぞれの判断で決めれば良い。

 来年2月の北京冬季五輪について、米国は政府代表を送らないことを決めた。新疆ウイグル自治区での人権侵害などに抗議するため、「五輪のファンファーレに加わらない」という。

 香港の問題も含め、中国国内の弾圧は深刻だ。主要国は率先して迫害に反対し、是正を求める必要がある。米政府はスポーツの祭典でも、意思表示をするべきだと考えたのだろう。

 五輪の歩みを顧みれば、時の国際情勢とは無縁ではなかった。世界が二分されていた冷戦期は、片方の陣営が選手団を参加させない悲劇も起きた。

 今回、米国が選手団を派遣する姿勢を守ったのは、五輪の趣旨からみて妥当だ。バイデン政権は、付随的な意味しかない政府代表の参加をやめることで、中国への強腰と人権重視の看板をアピールしたいようだ。

 ただ、この措置が実際に問題解決につながる見通しはない。米国は他国に同調は求めないというが、とくに対米関係を重んじる同盟・友好国に「踏み絵」を迫るのは確かだ。

 中国国民の胸中には人権意識よりも、米国への反発心を強く残しかねない。中国政府は「五輪の政治利用」と非難するが、自らも共産党支配の優位を示す場として五輪を利用したい思惑が透けて見える。

 中国外務省は「断固とした対抗措置をとる」と報復する考えを示したが、自制すべきだ。五輪を米中の覇権争いの場にしてはならない。

 ここは改めて五輪本来の精神に立ち返るときだ。文化や国籍など違いを超え、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって平和な世界の実現に貢献する――近代五輪を提唱したクーベルタンの言葉を思い起こしたい。

 中国テニス選手の「失踪」事件は、選手の尊厳より政治の都合が優先される危うさを映している。北京五輪は、大国間の駆け引きや国威発揚を含め、あまりに政治色が強い五輪の現実を見直す契機とするべきだ。

 先の東京五輪では、難民選手団に熱い声援が送られ、国籍を超えて健闘をたたえ合う選手らの姿も多かった。五輪の基盤は心身を磨く個々の人間であり、国家の威信ではない。

 国際オリンピック委員会(IOC)は「政治的中立」の立場から、今回の米国の決定を「尊重する」という。米中双方の顔を立てたいようだが、五輪の持続可能性を真剣に願うならば、大国の思惑に翻弄(ほんろう)される現状をどう正すかを考えるべきだ。

www.asahi.com

毎日新聞 2021/12/8 社説 米国の北京五輪対応 亀裂深めない知恵が必要


 バイデン米政権が、来年2月から始まる北京冬季五輪パラリンピックに政府代表を派遣しないと発表した。「外交的ボイコット」といわれる措置だ。

 中国の新疆ウイグル自治区などでの人権問題を理由に挙げている。対象は政府関係者のみで、選手団は予定通り派遣される。英国や豪州なども同様の措置を検討中という。


 一方、中国は「デマで五輪を妨害しようとしている」と反発し、対抗措置を取る意向を示している。しかし、国際社会の懸念を顧みなかった姿勢が招いた事態である。批判に耳を傾ける度量が求められる。

 対立がエスカレートすれば、影響を受けるのは選手たちだ。亀裂を深めないよう、各国が知恵を絞らなければならない。


 開幕まで2カ月を切る中、日本も対応を迫られる。岸田文雄首相は「総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断する」と述べた。

 2014年にロシアで開かれたソチ冬季五輪で、日本は独自の対応を取った。プーチン政権が同性愛者に差別的であることを理由に、米欧首脳の多くは開会式参加を見送ったが、当時の安倍晋三首相は出席した。


 五輪は本来、平和の祭典である。にもかかわらず、政治が持ち込まれ、意義が損なわれた苦い経験がある。

 1980年のモスクワ五輪で、米国はソ連アフガニスタン侵攻を理由に選手団を派遣せず、日本や西ドイツなどが追随した。続く84年ロサンゼルス五輪は、多くの東側諸国が対抗措置として参加を見合わせた。

 国連総会では、夏冬の大会ごとに「五輪休戦」が決議されている。期間中はすべての紛争を休止するという古代オリンピックの故事にちなんだものだ。


 北京五輪でも、中国をはじめとする173カ国の共同提案で決議が採択された。だが、中国を念頭に連携を強める日米豪印の4カ国は提案に加わらなかった。

 冷戦時代、五輪は東西対立の影響を受け、選手たちが国際政治に翻弄(ほんろう)された。米中の関係が悪化し、「新冷戦」といわれる今こそ、平和と協調という五輪精神を追求しなければならない。

mainichi.jp

読売新聞 社説 五輪ボイコット 不信の払拭は中国の責任だ

2021/12/08 05:00

 中国の深刻な人権侵害が一向に止まらないことに対する強い批判の表れだと言える。中国は 真摯しんし に受け止め、不信の 払拭ふっしょく に努めるべきだ。


 米政府が、来年2月から開催される北京冬季五輪パラリンピックに政府代表団を派遣しないと発表した。いわゆる「外交的ボイコット」である。中国による新疆ウイグル自治区などでの人権弾圧を理由に挙げている。

 米大統領報道官は、こうした状況では、通常通りに物事を進められないと強調した。米国の選手は大会に参加するとしている。

 政府代表団は五輪の開会式や閉会式などに出席し、自国の選手を応援したり、開催国との友好親善を深めたりする役割を持つ。米国は今夏の東京五輪にはバイデン大統領夫人らを派遣していた。

 中国の人権侵害を巡っては、香港の民主活動家への弾圧や、前副首相を告発した女子プロテニス選手の安否が懸念される問題でも批判が集まっている。米国では対中強硬論が高まり、選手の五輪不参加を要求する声も出ていた。

 人権重視を掲げるバイデン米政権は、五輪に向けて準備してきた選手の立場を尊重しつつ、中国に断固としたメッセージを送る必要があると判断したのだろう。

 中国は強く反発し、対抗措置をとる構えを示している。北京五輪に各国の首脳や閣僚らを集め、中国の存在感を内外に示す思惑は狂いつつあるのではないか。

 こうした事態を招いたのは、人権抑圧の非難に「でっち上げ」と反論するだけで情報を公開しようとしない中国の体質である。

 米政府は、新疆ウイグル自治区イスラム教徒の少数民族ウイグル族100万人以上が施設に収容され、拷問や強制労働、虐待が行われていると指摘している。

 米欧の政府や議会は、弾圧は「ジェノサイド(集団殺害)」にあたるとの認識を示し、実態解明のため、国連調査団を現地に派遣すべきだと訴えてきた。

 人権の尊重は世界人権宣言などでうたわれた普遍的価値観で、中国も賛成している。「内政干渉」を理由に国連による調査や監視を拒否しているのは筋が通らない。日本も中国政府に直接、調査団の受け入れを促すべきだ。

 岸田首相は北京五輪への対応について、日本が独自に判断するとの考えを示した。五輪の成功には協力すべきだが、平和の祭典が中国の宣伝の場と化し、人権侵害がうやむやにされるようなことがあってはならない。

www.yomiuri.co.jp

産経新聞「主張」(社説) 外交ボイコット 首相は旗幟を鮮明にせよ

2021/12/9 05:00


米政府が、北京冬季五輪パラリンピックに首脳や政府使節団を送らない外交的ボイコットに踏み切ると発表した。

中国政府による新疆ウイグル自治区でのジェノサイド(民族大量虐殺)と人道的犯罪、香港での民主派弾圧などの人権侵害に抗議するためだ。

中国女子テニスのトップ選手、彭帥(ほう・すい)さんが元副首相に性的関係を強要されたと訴えた後、動静が不明になったことも問題視されている。

オーストラリアも閣僚や政府関係者を派遣しないと表明した。欧州諸国も対応を検討中だ。

五輪・パラリンピックは平和の祭典だ。弾圧の責任者である習近平国家主席とその政権を称揚する場にしてはならない。外交的ボイコットは当然である。

中国外務省報道官は、米政府の対応に「強烈な不満」を表明し、「断固とした対抗措置」をとると反発した。

岸田文雄首相は7日、「五輪の意義、わが国の外交にとっての意義などを総合的に勘案し、国益の観点から自ら判断していきたい」と述べた。

いかにも悠長な発言で深刻な人権状況への憤りが感じられない。中国政府が全く反省していないのだから、日本のとるべき道は明らかではないか。

外交的ボイコットの輪に加わることだ。首相や閣僚、スポーツ庁長官を含む政府使節団見送りは欠かせない。人権侵害制裁法(日本版マグニツキー法)制定も急務である。

日本の対応を公表する際に、岸田首相はその理由をはっきり示す必要がある。中国の人権状況への認識や中国政府に求める行動について明確に語るべきだ。

自民党総裁選などで岸田首相は人権問題重視の姿勢を示してきた。「(中国に)言うべきことは言う」とも述べてきた。それを果たすときである。


岸田首相は、判断の基準として「国益」に言及し、人権という言葉は用いなかった。通商、外交関係を念頭に、中国政府を怒らせない、刺激しない点ばかりを国益と思い込んでいないことを祈るばかりである。


真の国益には、人権が守られた国際社会の実現が含まれると肝に銘じてほしい。それを追求できないなら、民主国家のリーダーにふさわしくないと知るべきだ。
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