朝日新聞 (社説)東京パラ大会 安全対策に万全期して
2021年8月24日 5時00分
東京パラリンピックはきょう開会式を迎える。
コロナの感染爆発で東京の医療提供体制は深刻な機能不全に陥り、専門家が「自分の身は自分で守って」と呼びかける状況にある。そこに世界各地から選手を招き、万単位の人を動員して巨大な祭典を開くことに、疑問と不安を禁じ得ない。
一方で、五輪を強行しながらパラを見送れば、大会が掲げる共生社会の理念を否定するようで正義にもとる。そんな思いも交錯して、五輪が終わった後、議論を十分深める機会のないまま今日に至ったというのが、率直なところではないか。
挙行する以上は、来訪者と市民の健康を守り抜くのが政治・行政の務めだ。五輪開催で世の中の空気を緩めた轍(てつ)を踏むことのないよう、メッセージの発信や付随するイベントにも細心の注意を払わねばならない。
パラ選手には、肺や心臓などに基礎疾患や重い障害を抱える人がいて、コロナに感染すれば健常者よりも重篤な症状を招く危険性が高い。体温調整が難しい障害もあり、熱中症への警戒も怠ることはできない。
感染防止と酷暑対策が成否を左右する。そのためにも五輪時の対応の検証と不備の是正が不可欠なのに、大会組織委員会は想定の範囲内だったというだけで、十分な情報を開示しない。内向き姿勢は相変わらずだ。
関係者らに行動規範に反する行為があっても、一部を除いてうやむやな処理で済ませたことも不信を呼んだ。パラも同様では国民の理解は得られまい。
気がかりなのは、一般客を入れない決定をする一方で、学校単位で小中高生に観戦させようと、政府や都が前のめりになっていることだ。選手の躍動に直接触れる意義は否定しない。だが子どもの感染も増えている。専門家の意見を聞き、自治体・学校が責任をもって慎重に検討するのはもちろん、本人や保護者の意向を十分尊重し、くれぐれも強制にわたることのないよう留意する必要がある。
先日、スポーツクラブとの癒着疑惑で政府の五輪・パラ推進本部の幹部が辞任した。だが政府から詳しい説明は一切ない。
大会の意義をおとしめる、こうした混迷やごまかしと対極にあるのが、選手たちの輝きだ。大会では障害の程度に応じて多様な競技が展開される。一人ひとりが向き合っているハンデやその前に立ちはだかる壁を、自らに重ね合わせてプレーを見れば、人間のもつ可能性に驚き、励まされることだろう。
純粋なスポーツとしてパラに関心を寄せ、楽しむ人も広がっている。選手たちの安全と健闘を心から祈る。
読売新聞社説 東京パラ無観客 選手の安全対策には万全を
2021/08/19 05:00
東京パラリンピックが24日から始まる。新型コロナウイルスの感染対策のため、すべての会場を無観客にするという。安全な大会運営に全力を尽くさねばならない。
大会には約160の国・地域から最大約4400人の選手が参加し、東京、千葉、埼玉、静岡の4都県で22競技が実施される。
都内では感染力の強いデルタ株の広がりで、新規感染者数が爆発的に増え、五輪開幕時より厳しい状況になっている。緊急事態宣言の対象地域も拡大される。
菅首相は当初、パラリンピックでは観客を入れたいという意向を示していた。だが、この状況では国民の理解を得るのは難しい。無観客の判断は仕方あるまい。
選手たちの鍛錬の成果を直接、目にする機会が失われたのは残念だが、テレビなどの画面を通して、障害者スポーツの祭典にも大きな声援を送りたい。
五輪では、観客の声援がない分、選手の息づかいや体と体のぶつかりあう音が逆に際立っていた。画面越しでも、感動は十分に伝わってくるはずだ。
無観客となり、会場周辺の人の流れは抑えられるが、選手や関係者向けには、五輪以上にきめ細かい感染防止策が不可欠だ。
大会には、呼吸器系の疾患などを抱え、感染すると重症化するリスクが高い選手も出場する。移動の際に触れる場所や車いす、義足の消毒を徹底するなど、障害や競技に応じた対策が必要になる。
五輪では、選手村などに出入りしていた国内の委託業者から陽性者が多く確認された。選手村から抜け出し、外部に買い物に出かけた選手らもいた。こうした反省を生かしつつ、感染対策を今一度、チェックすることが大切だ。
会場に一般の観客は入れないが、児童や生徒が競技を観戦する「学校連携観戦プログラム」は実施されることになった。
子供たちが五輪やパラリンピックを実際に見て、スポーツの価値や多様性への理解を深めることは東京大会を招致した目的の一つである。特に、パラリンピックは、共生社会への意識を育む、またとない機会で、意義は大きい。
東京都は、感染を防ぐため、児童生徒を専用のバスに乗せて、学校と競技会場を往復させることを計画している。ただ、最近の感染状況を懸念し、参加の見送りを検討している自治体もある。
大会組織委員会は、自治体や保護者の意向も尊重しながら、混乱のないように進めてほしい。
毎日新聞社説 パラリンピックあす開幕 共生社会の姿映す大会に
毎日新聞 2021/8/23 東京朝刊 English version 1693文字
東京パラリンピックがあす幕を開ける。障害のある人たちのスポーツの祭典は、オリンピックと同様、新型コロナウイルスの感染拡大による1年延期を経て、原則無観客で開催される。
デルタ株の影響で五輪期間中よりも感染状況は悪化し、医療体制は逼迫(ひっぱく)している。教育的意義から計画された学校単位での観戦もキャンセルが相次ぐ。
選手たちは、大会組織委員会などが策定した「プレーブック」に基づき、外部との接触を遮断する「バブル方式」の環境に置かれ、ウイルス検査を連日受ける。
選手村に入る選手や関係者のうち約9割がワクチンを接種済みというが、感染すれば、障害や疾患の影響で重症化のリスクがある。
感染対策に不安が残る
五輪開催時を見ても、バブル方式だけでは感染対策に不安が残る。主催者は地域医療に過度の負担をかけずに、選手たちの命と安全を守らなければならない。コロナ下の不自由な環境で選手たちは1年を過ごしてきた。国際大会の多くも中止となった。
パラ競技は障害の種類や程度に応じたグループごとに行われる。そのための「クラス分け」が国際大会の中止で実施できず、今大会直前まで判定を受けられなかった選手も少なくない。
厳しい状況下での開催となるが、こんな時に行うからこそ、改めて大会の意義が問われる。
大会の原点は第二次世界大戦直後の1948年、英ロンドン郊外のストーク・マンデビル病院で開かれたアーチェリー競技会にある。戦争で脊髄(せきずい)を損傷した兵士たちの社会復帰を支えることが目的だった。
発案したルートビヒ・グトマン医師は、この競技会を国際的な総合大会へと発展させた。60年、五輪開催地のローマで行われた大会が、のちにパラリンピックの第1回大会と位置付けられた。
東京では64年大会に続き、今回が2度目の開催となる。57年前はグトマン医師の影響を受けた大分県の整形外科医、中村裕氏の尽力で開催が実現した。これが日本のパラリンピックの源流だ。
しかし、当時は五輪ほど注目されなかった。国民の関心が高まったのは、98年長野冬季大会の頃からだろう。
2000年のシドニー大会時には「五輪開催国は、終了後にパラリンピックを開催しなければならない」との合意が結ばれた。その後は組織委も一体化されている。
国内でも、障害者スポーツを推進する機運が高まった。11年施行のスポーツ基本法では「障害者が自主的かつ積極的にスポーツを行う」ことが明記され、社会の配慮が求められた。
厚生労働省の管轄だった障害者スポーツは、14年度から文部科学省に移管された。翌年にはスポーツ庁が発足し、健常者のスポーツとともに競技環境の整備や選手強化が進められている。
個性を尊重し合いたい
負傷兵のリハビリとして始まった競技会は今や世界のトップを競い合う大会へと成長した。それに伴い、パラリンピックが社会に果たす役割も大きくなっている。国際パラリンピック委員会は、大会の価値として、「勇気」「強い意志」「インスピレーション(人の心を揺さぶり、駆り立てること)」「公平」――の四つを掲げている。中でも「公平」は現代社会の重要なキーワードだ。
多様な価値観や個性に応じた公平な機会が人々に与えられてこそ、自由に幸福を追求できる社会になる。その大切さに気づいてもらうことが、パラリンピックの役割の一つだという。
「ミックスジュースではなく、フルーツポンチのような社会にならなければならない」。日本選手団の団長を務める河合純一さんはそう説く。競泳の視覚障害クラスで過去6大会に出場し、金メダル5個を獲得した経験を持つ。
環境の違いや個性を混ぜ合わせて均一にするのではなく、フルーツポンチの果物のように、それぞれの「味」を尊重し合うことが共生社会には欠かせない。
今大会には世界各国から約4400人の選手が参加する見通しだ。ボッチャやゴールボールなど、パラリンピック独自のスポーツも含め22競技が行われる。
大会ビジョンは五輪と同じ「多様性と調和」だ。鍛え上げられたパラアスリートの熱戦を通し、共生社会のあるべき姿を考えたい。
中日(東京)新聞社説 東京パラ開幕へ 命と健康を最優先に
2021年8月23日 05時00分 (8月23日 05時01分更新)
東京パラリンピックが二十四日に開幕する。首都圏は新型コロナウイルスの感染爆発に入り、五輪以上に慎重な運営が必要となる。命と健康を最優先に、選手らの感染対策を徹底し、学校と連携した児童生徒の観戦も中止すべきだ。
大会には約百六十の国・地域から、肢体不自由や視覚障害、知的障害などの選手約四千四百人が参加する。力の限界に挑み、メッセージを発する十三日間は、「多様性と調和」という理念を実感する場となるだろう。
ただ、感染状況は七月の五輪開幕時より深刻化している。一都三県の全会場で無観客となったが、必要最低限の措置にすぎない。
パラ選手の中には、身体の障害とは別に基礎疾患を抱えている人もいる。年齢が高い選手もおり、重症化のリスクは増すはずだ。
にもかかわらず、組織委から危機感は伝わってこない。
五輪では五百人超の感染が判明。業務委託先の事業者が半数以上を占め、選手も約三十人いた。まず五輪の感染対策を検証し、「穴」を塞(ふさ)ぐことが先決だが、組織委には全ての感染経路を分析、公表する姿勢が見られない。
パラ選手の特性に応じた対策も重要だ。介助する人員や補助器具など、感染源の可能性は広がる。医療逼迫(ひっぱく)で病床の確保が不透明な中、五輪で重症者が出なかったことに安住していては危うい。
パラ大会は無観客にする一方、自治体や学校が希望すれば児童生徒の観戦は実施するという。五輪でも都内では行わなかった試みであり、ましてや実施の可否を教育現場や保護者に「丸投げ」している。無責任極まりない。
感染力の強いデルタ株の広がりで、学校のクラブ活動や学習塾でクラスター(感染者集団)が確認されている。政府のコロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も学校観戦に否定的な考えを示しており、専門家の意見に従うべきだ。
選手の活躍はテレビで観戦し、共生社会に向けた教育は大会後にじっくり取り組めばいい。観戦がきっかけで感染が広がれば、取り返しがつかないことになる。
日経新聞[社説] パラ大会を共生社会への大きな一歩に
2021年8月23日 19:05
障害のあるアスリートらが参加する国際的な競技大会、東京パラリンピックが24日、開幕する。約160の国と地域から約4400人が集い、22の競技で鍛え抜いた力と技を披露する。東京五輪と同様、新型コロナウイルスの影響で1年延期されていた。
東京パラリンピックの開幕を控え、夕闇に浮かび上がる大会シンボルマークのモニュメント(22日夕、東京・お台場)=共同
さまざまなハンディキャップを日ごろのトレーニングや創意で乗り越え、自らの限界に挑む選手らの姿は、共生社会の実現へ向けた数多くのヒントや気付きを私たちに与えてくれるはずだ。大会を機に、誰もが個性や持てる能力を存分に発揮し、分断や差別のない世界を築くための歩みを着実に進めていきたい。
競技は東京をはじめ1都3県で行われるが、新型コロナの感染拡大をうけ、無観客となった。変異したインド型(デルタ型)が猛威をふるい、東京五輪の開催時より、緊急事態宣言の対象となった地域は増えている。
加えて、パラリンピックの選手の中には基礎疾患があり、新型コロナに感染すると重症化するリスクを抱える選手もいる。車いすや補助器具などの消毒も必要になるうえ、介助者がいる選手もいて、五輪の際よりもいっそう緻密な対応が欠かせない。
大会組織委員会の発表では、これまでパラ関連の陽性者の多くは警備や清掃などに携わる国内在住の委託業者だった。すでに、検査の体制を強化する方針が示されており、万全を期してほしい。
今回のパラリンピックでは、一般の観客は入れないものの、児童生徒らが競技を見る「学校連携観戦プログラム」が実施される。「パラアスリートの活躍を実際に目にするのは教育的価値が高い」との判断からで、十数万人の参加が見込まれているという。
感染力の強いデルタ型への懸念から専門家のあいだには慎重な意見も根強いが、多くの学校が、貸し切りバスでの移動や会場内で座席の間隔を空けるといった対策を講じるという。
選手らも、子どもたちが直接、競技を目にすることの意義をさまざまな場面で訴えている。保護者らの意向も考慮に入れつつ、徹底した感染予防策の下で、安全な運営を心がけてほしい。
パラリンピックの成功は、多様な価値観や個性を持つ人々を包み込む社会を目指すために、大きな意義を持つ。来月5日までの13日間、選手らの活躍に期待したい。
産経新聞【主張】 パラ大会無観客 「学校連携」に手を挙げて
24日に開幕する東京パラリンピックは、原則無観客で行われる。
極めて残念だが、一方で自治体や学校単位でチケットを購入して児童生徒が観戦する「学校連携観戦プログラム」は、希望する自治体や学校を対象に実施する。
日本パラリンピック委員会(JPC)の鳥原光憲会長は、「残された機能を最大限に生かす国内外のパラアスリートの活躍を目の当たりにすることで成長期の子供たちに『気づき』を与える教育の効果には極めて大きなものがある」と述べた。
新型コロナウイルスは感染拡大を続けている。だが、厳格な感染対策に守られた大会会場は、日常の生活空間である市中よりもずっと安全な場所だといえる。
すでに千葉市などが実施の意向を明らかにした。この機を逃すことなく、より多くの自治体、学校に手を挙げてもらいたい。
「学校連携」は東京五輪でも茨城県のカシマスタジアムなどで実施され、混乱なく成果を挙げた。この実績をもとに実施範囲を広げようとしているのは、当のパラ選手たちの強固な意志によるところが大きい。例えば今月5日、東京パラリンピック日本代表選手団の河合純一団長は鳥原会長とともに千葉県の熊谷俊人知事と面会し、「学校連携プログラムによる観戦機会の確保」を要請した。
こうした地道で能動的な努力が理解を広げていったのである。それは、日本オリンピック委員会(JOC)に欠ける姿勢であったともいえるだろう。
パラリンピアンが抱えるハンディはさまざまで、呼吸器や免疫にリスクを抱える選手も多く、新型コロナの問題はより深刻だ。それでも彼らは走り、跳び、泳ぎ、競い、戦うことを選び、大会の開催を信じて準備を重ねてきた。
そして観客に見られることを、特に子供たちに観戦してもらうことを強く望んできた。日本選手団の主将を務める車いすテニスの国枝慎吾は結団式で「勇気と覚悟を持って全力で戦い抜く。たくさんの子供たちに見てもらい、人間の無限の可能性を感じてもらうことを願っている」と語った。
都内のある学校で参加を募ったところ、約9割の生徒が観戦を希望した。中には不登校の生徒の名もあったという。スタンドで直接見る超人たちの躍動は、必ず大きな何かを残すはずである。
結論言うと、パラリンピック中止を主張する、全国主要紙の新聞社説は無し!! 以上!!!