ネット民にはすっかり有名になった「三毛別熊害事件」を矢口高雄先生が漫画化した「羆風」がAmazonのPrime Readingに入っていたので思わず読み耽った。 https://t.co/upBJcwP2VN
— 大西巷一🏠『乙女戦争外伝Ⅱ 火を継ぐ者たち』連載中 (@kouichi_ohnishi) August 10, 2020
内容はすでに知っているけど、矢口先生の作画が素晴らしくて惚れ惚れする☺️ pic.twitter.com/i1upyq346l
togetter.com
この前、上のツイートとまとめがネットでバズって「矢口高雄の各種作品がいま、キンドル読み放題になっている」と広く知られる事となりました。
先立つ6月にこんな紹介記事を書いた自分も嬉しく、合わせて読んでもらえれば幸い。
m-dojo.hatenadiary.com
だが・・・・・・・今回このAmazonキンドル読み放題・矢口高雄目録を見ていて「これが読み放題に入ってるのか!!ウッヒョ〜〜〜〜てえへんだあ、てえへんだあ!!」と三平っぽく驚いた作品があったのです。
その筆頭、1丁目1番地に挙げられるのはこれだっ!!
ちなみに自分は文庫も持ってるぞ

- 作者:矢口 高雄
- メディア: 文庫
前にも書いたことがあるけど、何が面白いかというとここ。
…そもそも1939年生まれの矢口高雄は、自伝漫画の先駆者とは言わないが、自分の履歴がそのまま漫画コンテンツになると自覚し、本当に作品にするという点では、かなり本格的な人だし、少年期、思春期、青年期などそれぞれの生涯を描き、非常に優れた「昭和の地方で生まれ育った人の記録」となっている。
m-dojo.hatenadiary.com
そう、複数のシリーズに分かれて、矢口高雄は自分の自伝サーガを紡いだ(漫画のほかに文章も多数)。この続編、銀行員時代を描く「9で割れ!」もめちゃくちゃ面白いんだが(実はこれも現在キンドル読み放題!)
m-dojo.hatenadiary.com
その原点として、やはり「ボクの手塚治虫」を読んでもらわなければならない。
それでは内容を紹介しよう・・・・・・・・
と書いたところで、ここからは失敗報告をせねばならない。手塚治虫がまだ登場しない、ほんの冒頭のプロローグ部分ですらあまりに語ることが多く、全体の紹介は今回は行えないのだ!!正直スマン。
だが、ホントにしかたないのだよ!!
何を、そんなに冒頭部分で紹介せねばならぬか。
それは戦前生まれの矢口高雄が、そしてその親が「マンガ」というか「本」「物語」に触れ、読み、楽しむためにどれほど苦労をしなければならなかったか、という、本当に読むだけで涙溢れる物語なのである。
その直接的な原因は戦争の惨禍であり、まだ打破されていなかった旧体制の非能率や搾取や不平等であり、またまだまだエネルギー革命も技術革命もいまだしだった、絶対的な遅れや貧しさゆえでもある。
その苦しみという点で、あえて「順位」をつけるなら、戦争の死や負傷、労働そのものの苦しみ、飢えや病気…のほうが、本や物語のための苦労よりは大きかったのかもしれない。
だが、それでもなお、矢口高雄本人も、それらの不足以上に、物語、本を求める欲求を鮮明に覚え、描いた。
だからこそ、飽食の世でも、別のところで共感のセンサーを大きく振るわせることができるのだと思う。
以下、仕切り直しで、当時の日本の田舎での「物語不足」の状況を見てもらおう。

新聞、雑誌なしの村。「学校が炭の焼き方教えてくれるのか?理屈こねる怠け者が生まれるだけだ」
これ、結晶化していけば、言葉の正しい意味での「反知性主義」になり得たかもしれないのだが、結局反知性主義を、少なくともイデオロギーとして構築するためには教養がいるのだ(笑)

- 作者:森本 あんり
- 発売日: 2015/02/20
- メディア: 単行本
しかし、そんな環境であっても
何割かの人は、知を欲す。物語を求める。
ここからが本当に、涙なしではいられない。
冒頭に出てくる「西遊記」のなぞがあかされるのだ・・・・・・・・・

『昔のこったから、尋常小学校6年しか出てないけど… おら 子どものころから小説読むのが好きでなァ… ところがこの家さ嫁いできたとたん、何も読む物がなくて…仕方ねぇから里帰りするたびに…』
もう、涙、涙。
これは、上に書いたような知や教養の物語、啓蒙主義かもしれないけど、むしろ近いのは、「オタク」の物語でもある。
教室のスクールカーストで、マンガや小説などの「物語」に熱中している層が「オタク」として阻害されたり、序列の下とみなされる・・・・・というのがどれぐらいひどいものか、今も続いているのかはわかんないけど、少なくとも秋田の、新聞を取っているものが一戸もない農村、「学問は怠け者を作るだけだ」の価値観が蔓延している村に嫁に来た女性が「本を、小説を読みたい!」と思いつつ、周囲から白い目で見られそうで、あるいは面と向かって叱責されそうで言い出せない肩身の狭さは、やや同種にして、激しさは何十倍であろう。
、農作業と家事の傍ら、それでも本が、小説が読みたい…と実家から冊子を持ってきて、疲れ切って少しでも休みたいであろう寝床で、こっそりとページを繰り続ける。
「布団に入っちまえばこっちのもの」。その小さなスペースは、ブラック企業より息苦しい、農家の舅姑の監視を離れた、自由な精神の王国だったのだ。
(実際、矢口高雄のじいさま、つまりお母さんの義父は、描かれる姿は釣りキチ三平の一平じいさんと全く同じ姿なのに、とんでもないブラック企業(ブラック農家)精神に満ち満ちていてすばらしい。熱射病は病気のうちに入らん、というのは初歩の初歩。詳しくはこの作品の中盤参照)
というか、この環境を、われと我が身に置き換えて、
その思いはどうだろうか、と感じてほしい。
彼女は「尋常小学校6年しか出ていない」と謙遜するが、その精神は、どこに出しても恥ずかしくない、第0世代オタクだ(褒めてるのか、それ?)
そして、彼女はその本の物語を、息子に読み聞かせてあげはじめる。
それが、自然と人間を描く名作で、少年マガジンほかの読者を熱狂させた「矢口高雄」への、確かな一歩だった・・・・・・・
というか、物語の魔力に捕まった人間の症状なんて、だいたいどこも変わりない。

自分の好きな作品を、周りに大いに語る。それもたぶん早口でだ(笑)

ほうら、描き始めた。二次創作しはじめた。だが・・・・・・・・

この「横顔は描けても正面顔は描けない」を、世の同人漫画家はどう乗り越えているのだろう。自分は白ハゲだから正面もヨコも自由自在だ。鼻なんか描くな(笑)
・・・・・・・・・・・・・・そして、そんなマンガ熱に浮かされた矢口高雄に、お母さんは…

泣くしかない。
今の雑誌1冊とは、重みが違うのだ。何しろ、冒頭に書いたとおりの村で、「毎月雑誌を買ってもらったのは、クラス内で僕だけでした」というありさまなのだ。まず入手だけで、街に出かけなければならない。
それを…小学館の学習雑誌購入を、母親は本当に6年間続けてくれたという。
そして小学館のその雑誌を読んで育った矢口は、後年ライバル会社の講談社を大儲けさせることになるわけだが(笑)
そして、この次の次のページでは昭和22年。いよいよ、一冊の本が、大阪の街から日本を震撼させる。
酒井七馬原作、そして奇妙なペンネームの新人・手塚治虫が絵を描いた「新宝島」。
サカナクション / 新宝島 -New Album「834.194」(6/19 release)-次と その次と
その次と線を引き続けた
次の 目的地を 目的地を描くんだ 宝島
このまま君を連れて行くと……
しかし、その激震が、雪深き秋田の農村に伝わるまでには、なおしばらくの時間を要する・・・・

・・・・・・・・というところで、ほんの十数ページの冒頭部分はおしまい!!
ここから少年・矢口高雄の、鮮烈な「わが手塚治虫体験」があり、
秋田の農村でその漫画家の作品を買うための大変な苦労があり、
さらには熱狂が高じて・・・・・・・と続く(というか本題に入る)のだが、それは後日にて。今回は本題前の「かつての日本の、田舎で本を読む苦労」に集中させてもらった。
(プロローグ・完)
「まんが道」から「ブラックジャック創作秘話」までのミッシングリンク…すでに「手塚治虫もの」は1ジャンル!!みなでリンクを合体させていけ!!
ほっておくと、togetterでは1カ月1本以上のペースで手塚治虫ネタ(プラストキワ荘ネタ)がバズる。
togetter.com
売れるから企画が続く、それは当然ではある。ではこれらを材料に、うまくつないで「歴史」を描きなさい。

- 作者:古谷 三敏
- 発売日: 2010/06/30
- メディア: 単行本

ブラック・ジャック創作秘話 手塚治虫の仕事場から コミック 1-5巻セット (少年チャンピオン・コミックス・エクストラ)
- 作者:宮崎克
- 発売日: 2014/08/08
- メディア: コミック
![まんが道 1~最新巻 (文庫版)(中公文庫-コミック版) [マーケットプレイスセット] まんが道 1~最新巻 (文庫版)(中公文庫-コミック版) [マーケットプレイスセット]](https://m.media-amazon.com/images/I/511jpLHeLIL._SL160_.jpg)
まんが道 1~最新巻 (文庫版)(中公文庫-コミック版) [マーケットプレイスセット]
- 作者:藤子 不二雄
- メディア: コミック

- 作者:手塚 治虫
- メディア: 単行本

- 作者:上野顕太郎
- 発売日: 2020/06/16
- メディア: コミック