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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

矢口高雄「9で割れ!」

少し前に企画された「釣りキチ三平マガジン」はめでたく成功のうちに終了し、同誌連載の新作も好評を博したようだ。矢口氏は、「三平」や、教科書にも載るエッセイなども含めて、よかれあしかれ常識、良識的な作品を描く人ということで世間にウケがいい。


実はご存知の向きもあるでしょうが、矢口氏は10年以上地方銀行に勤めた人で、漫画家の中ではそりゃもう常識があって当然ですな。格闘技界ではたとえばパンクラス志田幹も長いことキャノンで働き

「僕は自分でも、社会の中でやってけると思いますけど、格闘技がなかったらどうなっちゃうんだろ、っていう人もいますね」

佐藤光留とか佐藤光留とかの話(推定)をしていたことがあった。


で、矢口氏はこの銀行員時代の話を、「9で割れ!」という漫画で描いている。
ずーっと前、たしか「小説中公」に連載されていたものだったと思う。最近、まとめて読む機会を得た。

三丁目の夕日」的昭和ノスタルジーの作品でもあり、ソロバンの扱いや小銭をまとめてくるむ技術など、今では歴史になった話も出てくるが、銀行がどのように金を扱っているのか、現金の勘定が合わないときどうするか、不祥事はどのようにどう起こるか、など、おそらくは今に通じるであろう話もふんだんに出ている。銀行もの漫画といえば「わしを担保に100億貸さんかーい!」みたいなスケールの大きすぎる話が多いので、こういう漫画も貴重ではないでしょうか。


と同時に、東北の山林地主の家にあった名画(戦後は木材ブームだし、戦時中は画家の疎開もあったしね)を見せてもらい、若き矢口氏が感動と衝撃を得るところは、みずみずしい青年・矢口氏の感受性がこちらにも伝わってくる。
と同時に、矢口氏の絵の批評を、持ち主がうれしそうに聞くだけではなく、今度は自分がそのままの受け売りを、出入り業者や客人にとくとくと話すシーンなぞもほほえましい。


鮎川魚神さんのモデルなども登場するし、また最近愛蔵版が出た白土三平カムイ伝」がいかに矢口高雄にとって、人生を変えるほどの衝撃だったかというのも同時代の証言として非常に価値が高い。
そこから、銀行員という安定した、地方では羨望の目で見られる職業をついに最後になげうって、漫画界に身を投じるまでの軌跡も、さわやかな青春の躍動感がある。

こういう、矢口氏みたいな良識派もまた漫画界の貴重な存在だ。
ただ、この作品が今読めるか、普通の本屋で売っているかどうかは不明。



ところで表題の「9で割れ!」というのは、

銀行のミスで一番多い、15万円と1万5千円の取り違えなどの際、

150000-15000=135000で、
これを9で割ると135000÷9=15000
とすぐ分かる。

また、2999700円が不足の場合、9で割ると333300。
「9で割って循環数が出た場合、その個数だけの桁違いが出ている」
つまり4桁、300円と300万円の桁を間違っている

んだそうだ。
わかんね(笑)。一応分からないなりに、ここにメモ代わりに記録しとこうと。