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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「ヴィンランド・サガ」クヌートは『父君を殺したの、貴方の従士でしたよね?』と言われなかったのか問題


ということでアニメ版は最終回、アシュラッドがクヌートの父王とある意味で差し違え、クヌートがイングランド方面軍を掌握する。そしてトルフィンは自分の目標だった「父の仇であるアシュラッドを決闘の形で倒す」が突然消滅し、人生を見失う…というところで終わり。アニメで全編通してみるのは個人的にもひさびさ。この続きは作られるのかな。


さて。
これは今回のアニメではなく、原作でもそう思ったんだけど…タイトル通りですわ。

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ヴィンランド・サガ アシュラッドが本名とブリタニア王を名乗る
父親のスヴェン王が死ねば、クヌートは確かに、あとを継げるだろう。
しかし、乱入した敵の刺客が、とかならともかく、殺したのは「自分が従士として採用し、その身分で王の本陣に来た男」である。
それも突然、剣をふるって王の首を刎ねる。
いちおう、言動的には「突然乱心した」ようにも見えるものが、さりとて直前の発言は理路整然とし過ぎているしねえ。王と王子の不仲は以前からささやかれていた。
「王子がアシュラッドに命じて王を暗殺させた」ように見えてしまうねん。もちろんその疑問を払しょくさせる効果が「クヌートが手ずからアシュラッドを成敗した」ことにはあると思うが、口封じにも見る訳でな。いや、そもそも、本当に「乱心し王を殺した部下を、クヌートが成敗した」であっても基本的には王子の責任論問われねえか?
だからあの政権交代劇は、なんか穴、瑕疵がありすぎるのだ。


・・・・・・・・・・・まあ、もちろん、それは劇中でもすべて手当てがしてあるんだよね。
もともとアシュラッドも、犯行のたぶん10秒前までは、まったくもってこんな展開を予想も予定もしていなかったのだ。
アシュラッドの秘密の故郷、ウェールズ侵攻計画の発表→、それをアシュラッドが「忠言、諫言」のふりをして反対→、賢王と見られたい欲望が強いスヴェン王が、その諫言を称賛しつつも「アシュラッドはウェールズに特別の思いがある」ことを見抜き、それをネタに裏切りを誘う→だが不用意に、アシュラッドの一番敏感な、逆鱗に触れる言葉を発した王への殺意を、一瞬でアシュラッドは固める…
……これすべて、政治的即興劇。
こんなアドリブの応酬に、設定の緻密さを構成しようもありゃしない。
だからこそ、この政治劇の舞台にあとから登場し、主役兼幕引きを行うように、これも突然誘われたクヌートに必要なのは、この時は自分の無罪や正当性を訴える整合性とかではなく、「威厳」と「雰囲気」”だけ”が必要だったのだ。

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ヴィンランド・サガ クヌート王子の「威厳」こそが、混乱収拾に必要だった
あの場で「父王は死んだ、だからイングランド方面の統治権と軍事指揮権は私が継承する、それで良いな?」を、【その場の雰囲気として】納得させる、それが全てだったのだ。もちろんそこに、本気の「次の王は兄王子を支持する派、父王への心からの忠誠者」がいて反対討論を行えば、あるいは兄王子本人がそこにいれば雰囲気そのものも違っただろうけど、父王の側近にも見えたフローキも含め、だれも利害関係を抜きにして心から父王スヴェンを尊敬し、忠義をささげたものはいやしなかった。そういう人間がいないような、欠徳の王である、という描写をちゃんとしていたのだ。
そして、それ以外で豪族たちを動かす「利害関係」にしても、この結果、誰もが内心うんざりしてた「ウェールズ討伐」は取りやめなのだから、クヌートの継承に異を唱える動機などない。

数日たって、飲み会を開いた時には酒の肴として
「いやー、でも考えてみればよ、アシュラッドはもともとクヌート様の従士だよな」「案外、父親にやられる前にやれ…だったりしてな」「じゃあアシュラッドは殺され損かよ」みたいに盛り上がるのだろうし、それはその後の正統性に影を落とすかもしれないが、それはクヌート自身が統治者の才能を示せばそれで収まる類。
豊臣秀吉徳川家康の、先の王の跡取りを差し置いての天下取りに似た構図なのだろう。


…というわけでまとめると

・ヴィンランドサガ、アニメ版最終回の『アシュラッドが父王を突然殺したのでクヌートが継承する』は、理屈からすると大きな穴がある
・だが、状況の即興性やそれぞれの個性、群臣の利害関係、などによって、そのリクツの穴が埋められることも十分納得できる展開
・むしろ、その部分を自らの威厳や雰囲気で封じ込めたことが、クヌートの才能を示すことになっている…

わけで、なんというか…流れの論理性に穴があることは決して、話の整合性そのものをぶち壊すわけではない。「その論理性の穴を何で埋めたのか」を提示することによって、逆に大きなプラスにもなる、ということでしょうか。

END OF THE PROLOGUE

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ヴィンランド・サガ(22) (アフタヌーンKC)

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  • 作者:幸村 誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/06/21
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