新海誠の「天気の子」見てきました。
作品ディティールとがモチーフとか演出方法とかそういうことを論じる能力は多分ないと思うし、他にもたくさん詳しいレビューがあるので、映画館で見て「えーっと驚いた」、その感覚をストレートに書いておきたいと思います。
<以下重要ネタバレ有り。読むのは自己責任で>
もともと自分の SF レベルというのは藤子 F 不二雄先生の定義する「すこし・ふしぎ」から一歩も離れてない。少し不思議生まれのすこしふしぎ育ち。科学考証甘い奴らは大抵友達。
だもんだから、前半部分のストーリー「ほんの一部の地域・時間だけど、祈れば雨を晴れにする超能力を持つ女の子がいる。その人と知り合った主人公は、一緒に『お天気屋さん』という商売を始め、色々な所から声がかかる」というパートは「あ!ドラえもんにこういう話ありそう!!」という感じで楽しく見てました。実際藤子先生のモチーフでは、「子供たちがドラえもんやオバ Q やパーマンの特殊能力を活かして、ちょっとした商売をやってお金を稼ぐ」という話がよく出てました。子供にとっては「商売でお金を稼ぐ」のも、あこがれのひとつなんだろうね。
だが…「その能力には負の側面、支払うべき代償があった。主人公たちは後でそのことに気づき激しく後悔し恐怖する」
これもまあ、ありそうな展開なんです。繰り返すけどありそうな展開というのは悪口ではなく、非常に楽しく物語を鑑賞できてたのです。
だが… 物語のクライマックスで、とにかくびっくりした。
・晴れを生み出す行為の代償として、女の子は 異次元の世界に飛ばされ この世からは消えてしまう。
・主人公はその女性を取り戻すために、自分も異次元に向かう。
・ただしその女の子を助けると、ただでさえ雨の異常気象に見舞われている日本の東京は、さらにずっと雨が降り続くかもしれない…
そんな状況で、 主人公は「それでも構わない!僕はこの子を助けたいんだ!」と決断し、実行に移す。
・その結果、マジで東京は8割が水没した。
いやね、映画館では自粛したけど、内心では叫んだよ。
「ええええええええええええっ」と。最大フォントで叫んだ。
俺は甘かったのだ。
俺は古かったのだ。
カ、カテエ…まるで溶岩石のように凝り固まった俺のアタマ!!
だったのだ。
俺の中の少し不思議魂は、あの展開になって
・主人公は「世界のためにこの子一人が犠牲になるなんて間違ってる(正論)。何か方法があるはずだ!!」とか言って色々もがく。するとなんやかんやでうまくいって、両方助かる。
・あるいは百歩譲って「世界は滅んでもいい!俺にとってはこの子こそが大事なんだ」と女性を助けることを選んでもいい。しかしそこはそれ。「金の斧か銀の斧か」とか、大岡越前の「手を離したものこそ、子を思う真の親」とか 、実はその選択が大逆転の正解で、 結果的には両方助かる。
・どうしようもない場合は、「世界」のほうを選ぶ(心理的負担をかけないため、選ばれる子のほうが「あなたは世界を優先すべきです」と自発的に去っていく)
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‥‥みたいな話だと思ってたんだよう。
世界より女の子を選ぶキャラクターが出るとしたら、主人公の一番の敵役で、実は主人公のお兄さん。悪の組織なのに騎士道精神にあふれた高潔な人格で、「兄さん、なぜあなたが悪の道に?」とか言われたら、妻だか娘だかを助けるためには悪と手を組まなきゃいけないと誘われたからで、ラストバトルではそれが嘘だったことが分かって、大ピンチの主人公を助けて自分は死んでいく…みたいな何か、とかね(笑)
ところが「世界か女の子かの二者択一で、女の子を選んだ。そしたらその通り世界は大被害を受けた」で、さらっと終わるとは思わなかったんだよ!!
東京の8割が水没したら、何人の命が失われたのだろう。生命だけではなく財産、人生、つながり、思い出、仕事…… こういったものが破壊され、不幸に見舞われた東京人は何人にのぼるだろう。
(補足。id:Tailchaserさんから「 2年をかけてゆっくりと水没したって劇中でも説明があるのに、なんで死亡者がどうとかって話になるんだろう」という質問をいただいたが、こういう状況で住民が一斉避難完了した、とは逆に思えないのです。強い雨の時の浸水事故が「徐々に増え」、避難しやすい人は逃げるが、ままならない人、現在の住所に愛着のある人は逃げ遅れて…を繰り返していくと思います )
なに、首都は大阪になるの?公式ディナーたこやきになんの?それとも首都は名古屋になるんだがや?
まあそれはともかく、いくらお話の中で「東京は元はかなりの部分が海で、埋め立てをした結果だし」「それ以前はもっと海が多かったし」と「家康江戸を建てる」の時代や古代の地理までも持ち出したって、視聴者も主人公も心の慰めになんないよ。
それは仕方ない、自分の責任ではないという理屈は立つが、それでも時折、主人公は夢の中で「自分は何百万人を不幸にした…」と、苦悩することになるんじゃないかな…
という思いを抱いたまま映画はラストを迎えました。
そして、「ああ、 自分のSF観(※この作品を躊躇なく 『SF(すこしふしぎ)』 だと決めつけるところが、まあそういう派閥に俺が属しているということ)は本当に古いんだな。消えゆく旧世代なんだな」と、悲しみも怒りもなく、自然にそれを受け入れる気分になりました。
もちろん、それは俺の感想だが客観的に正しいわけではない
このツイートを見て思い出した。
新海誠作品のストーリーが
— あいうち@少戦05☆西4こ-21☆9月22日(日) (@Aiuti01) August 22, 2019
新鮮で斬新だと熱狂する一般層に対して
マウントを取るオタクの烈海王 pic.twitter.com/gbrN1OyXup
画像に出ている2作品、もちろん未読。

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「セカイ系」 という言葉、この前、物語を表す物語を定義する新語・新概念のランキングという記事を作った時、
m-dojo.hatenadiary.com
それを入れなかったのはあまりにも迂闊でした。
もちろんこれは殿堂入りか少なくとも A 級、客観的にはその間ぐらいかな??という感じですかね。 誰がこの言葉を造語したんだろう。
ja.wikipedia.org
によると
セカイ系という言葉の初出は2002年10月下旬のことで、インターネットウェブサイト『ぷるにえブックマーク』で現れたとされている
とある。その後の主流の意味あいは
盛んに参照されたのは、サブカルチャーを論じる評論家として注目を集めていた東浩紀を中心に発刊された『波状言論 美少女ゲームの臨界点』編集部注によるもので、それによればセカイ系とは「主人公(ぼく)とヒロイン(きみ)を中心とした小さな関係性(「きみとぼく」)の問題が、具体的な中間項を挟むことなく、「世界の危機」「この世の終わり」などといった抽象的な大問題に直結する作品群のこと」
ところが、ちょっとそこは自分の落とし穴でして…「セカイ系」という言葉や新概念があることは、これは知ってたんだよ。「ゼロ年代の想像力」も話題だったしね。

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ところが、自分はセカイ系というものにほとんど接していない、と今更気付いたんだんだ。
いや知ってるよ、エヴァンゲリオン映画の失敗作の方(ってどれだよ!!)は、 「セカイ系」に分類される作品であることは。 それは見た。
でもあとで、答え合わせする予定だけど、 他の作品はたぶん一つも見てない読んでないんじゃないかな。そしてそのエヴァ映画版のアレも相当困惑したわけだから、今回の「天気の子」のその部分にも困惑しても、俺的にはおかしかないよね、と納得いった。
要は今回の主人公は、高校生の碇ゲンドウなんだ…という言葉を聞いた。そうだよな、である。
おまけ 主人公、あんな犯罪を連続で犯したのに、保護観察で済んだのなぜ?問題
これも見に行った人から、疑問が提示されました。実際に取調室から脱走なんかしたら、拾った銃を隠匿して、一発二発と発砲したら… 逮捕しようとする警官を実力で振り切ったら…良くも悪くも日本警察はメンツにかけて通常以上の罰を与えようとするやろ?
でも、
あれ、公安が動いたんでしょ?
「我々の情報網にも、あの女の子が確かに特殊な能力によって一時的な好天をもたらすという話は入ってきている。調査したところそれは間違いない事実のようです。…一時的にでも一人の力で天気を変えられる…。この能力、政治的軍事的に行かせれば、アジアのパワーバランスを変えられるほどのポテンシャルがあります」
「というわけで、これからはこの件は公安が預かります。池袋署の刑事さんたち、よくやってくれました。あなた方にもメンツがあるでしょうから、少年には保護観察処分を与えるということでいいですね。なおこのことは一切他言しないように。」
…不可解なことを全て公安が動いたで済ませてしまうパターンはおなじみの陰謀論かもしれないが、なんなら在日米軍も噛んでいるとしてもいい(廃棄物13号かよ)。
ああ、自分のミステリー感も相当古いねこれ(笑)