INVISIBLE Dojo. ーQUIET & COLORFUL PLACE-

John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

世論調査で「投票に行った?」と聞くと実際の投票率より絶対に高くなる…この現象は何か?投票者バイアス?ただのウソ?

ちょっと前に話題になった記事。

若者が自民党を支持しているって本当?第3回――自民党の得票率を過大に報告するメディアの世論調査 http://blog.sugawarataku.net/article/182032977.html

自分はこのときブクマじゃなく、リプライで思わず感想をのべちゃったんだな。


このあと引用するけど、
なぜここに食いついたかというと、約18年ごし…の謎だったからですよ。
だから、全体的な部分を論じない。表題に書いた「投票率」の問題、実際の投票率と「投票に行った」という回答の数字の乖離だけを語る。

統計問題の金字塔、永遠のベストセラー「社会調査のウソ」が論ず。「なぜ投票率より「投票した」が多いのか。人間はウソつきだからだ」

数字は、それだけでもっともらしいイメージをかもし出す。「働く女性の6割、職場で性的被害」「自衛隊『必要』84%」「ヤクルトが優勝すると経済成長率低迷?過去4回の平均2%」…。へー、そうなの?しかし、なんだかなあ。
「社会調査の過半数はゴミだ」と、社会調査論を専門とする著者は言いきる。誰が、何のために、ゴミを作るのか。その手口を見抜き、ゴミを減らすにはどうしたらいいのか。この本は、豊富な例をさまざまな角度から検証することによって、社会調査を解読する能力(リサーチ・リテラシー)を基礎から鍛えてくれる。解説されるリサーチ上の過ちは20種以上。読み終えたあなたは、もはや素直ないい人ではなくなっているだろう。新聞を開くたびにツッコミを山ほど入れずにはいられない体質になるのだ。
でたらめな社会調査をまき散らす学者、政府・官公庁、社会運動グループ、マスコミをグサグサとやっつける少々過激な記述も笑えて痛快だ。その実これは志の高い、社会科学の入門書、正しい啓蒙書だ。批判にとどまらず具体的な提案もある。社会調査という穴をコツコツ掘っていたら、この国の抱えるシステムの問題があらわになってしまったのである。
それにしても、なぜこんなことを見過ごしていたのだろう。私を含めて「方法」というものに無自覚で無知な大人たちが構成している社会って何?と、目まいを覚える。(

この書から
引用しよう。122-123Pである。まさに「投票に行った」という回答と、実際の投票率の違いを語っている。

…まず言っておきたいのは、基本的に人間というのは忘れ,そして嘘をつく動物であるということである。
例えば選挙前に行われる調査では、毎度のように7割前後の人が「必ず投票に行く」と答えている。「なるべく行く」を含めれば9割程度が投票に入っている計算になるが、実際に投票に行った人の割合は「 必ず行く」と答えた人の割合より2割ばかり下回っているのが実情である。
(略)
人間というのは、、投票に行ったか行かなかったか、誰に投票したか、と言った、人に知られてもどうということのないような質問にさえ「俺は勝ち馬に投票したんだ」と嘘をつく…
(略)1年前のことであれば、中には本当に忘れたり勘違いする人もいるかもしれない。しかし1998年に行われた参院選挙の数日後に読売新聞が行った 調査を見ると、記憶の問題ではなく明らかに嘘をついていることがわかる。
このアンケートの質問は次のようなものであった。
「この前の日曜日に行われた参議院選挙で あなたは投票に行きましたか。行きませんでしたか。」
実際に投票に行った人は58.84%であることがはっきりしているにもかかわらず、この質問に対し「行った」と答えた人が84.3%もいたのである。こうなるともう、ただの嘘と考えた方が良い。ちなみに読売新聞は朝日新聞同様、きちんとしたサンプリングを行っており、回答者に関する偏向はそれほどないと考えられる。

まず最初にこれを読んでほー、さもあろうと思いましたね。大いに納得した。
しかし平成12年に出たこの新書、世はまさにネット黎明期…からちょっと経った頃で、日記サイトが花盛り。「ブログ」が隆盛になるのは、ちょっとあと…だと思う。
そのころは検索だってそんなに優れた物じゃないから、面白い記事データはせっせとローカルに保存していましたねー。
今回探したところ…あったー!!!!!
そのデータを開いたら、ウィンドウズ・エクスプローラーのほうが開かれたのが、すっげー時代性を感じる(笑)。まだIEこそがスタンダードだった時代だ……。

それへの反論 「調査の回収率が50-60%。それを考えればわかるはずだ」(律儀に世論調査に協力する層は、律儀に投票に行く層でもあるのでは?)

ある方が、反論文を書いていた。
申し訳ないが著者名は記録してないのでさっぱりわからない。非常勤講師らしいのだが…名前がわからないかれは、こう書く。

選挙の1週間前に実施する選挙予測調査で,投票意向率が9割にもなる事実を,回答者のウソによる誤差であると指摘している(p.122〜123).実際の投票率が50〜60%だからというのが根拠であるが,谷岡先生のこの解釈はたぶん間違いである.実際に調査をやってデータ解析してみると分かる.標本の投票意向率が9割近いことに驚くのは理解できるが,実際に自分で解析してみれば,ウソによる誤差ではないことが推察できる.
回答者はむろん善意・悪意でウソをつく.実際に追跡調査をしてみると,回答者単位では回答不一致が顕著だが,集団としての集計値はよく一致することが分かる.谷岡先生のような誤解はよく犯す間違いである.有権者という母集団から無作為抽出した標本ではあるが,調査の回収率は50〜60%であることがヒントである.30秒くらい考えれば分かるだろう.

わかりる?

つまり、まず事実として「投票に行きますか」…これはまあいいか、予測だから。「投票に行きましたか?」という質問への回答数字と、実際の投票率が違うと。それも、いつも違うと。
これはゆゆしき問題ですよ。
何度も書いた話だが、世論調査って通常行っても「その数字が、実際に正しいんですか」は証明できない。
そこで「答え合わせ」ができる貴重な環境が、選挙である。統計で掴んでいた予測と、出口調査と、そして実際の得票。これを比べることができるのである。
投票率もしかり。というよりこれはシンプルなぶん、より世論調査というものの信用性を測ることができるだろう。
この数字が違うということは、その原因を究明できない限り「他の世論調査の数字も、結局あやしいものだ」という話になる。

そこで 仮説が提示される。

A:やはりこの世の中、「投票に行った」の方が市民の義務を果たした善良なインテリっぽくてかっこいい。行かなかったはカッコ悪い。だから言ったと嘘をついた

B:そもそも世論調査に対して回答する、という行為自体がずぼらな人はやらず、律儀で責任感が強い人が 積極的に行う、という性質のもの。つまり世論調査は常に‥‥アンケート結果の回収時点で「ずぼらな人の意見より、律儀な人の意見がより大きく反映される」ものなのだ。そして律儀な人は投票にちゃんと行くので、投票したという数字が実際より大きくなる

ふむ。
どちらも実際の数字と世論調査の数字の乖離を一応は説明している二つの仮説である。
もちろんこの二つがある程度ミックスされているということもあるかもしれない。


それにしても、ひとつの謎に対して二つの容疑者が浮上している。さて真犯人はどちらか。それとも二人の共犯なのか。さらに言えば第3の真犯人がどこかに潜んでいるのか…

そんなミステリー風興味も合わさって、約20年間気にしていた「事件」でした。

その事件の再現がこの記事でなされていたのだから、まず全体ではなくそっちが気になっても仕方ないでしょう(笑)

http://blog.sugawarataku.net/article/182032977.html
 …選挙での投票と世論調査での回答に大きな乖離があるとき、考えられるのは回答者の偏りです。もちろん各社とも努力して、世論調査の回答者が正確な「有権者全体の縮図」となるよう(費用対効果や速報性も考慮しつつ)調査法を設計しています。「層化二段無作為抽出法」や「RDD法」といった言葉を聞いたことのある方は多いと思いますが、これらは一定数の回答者(標本)を選び出す際に、有権者全体(母集団)に似た集団を作るべく利用されている方法です。

 しかし、実際の回答者は母集団に対して多少偏っています。たとえば、政治に関心がある人ほど世論調査に答え、関心がない人ほど回答しない傾向があります世論調査回答者の投票率が現実の投票率に比較してかなり高い値になるのは主にこのためです。ここではこの偏りを「投票者バイアス」と呼ぶこととします。

 また、世論調査での自民党に投票した割合は現実よりもかなり高くなります。これが近年強まっている可能性は、下記の拙稿で指摘したとおりです。ここではこれを「自民党バイアス」と呼ぶこととします。

菅原琢「安倍政権は支持されているのか――内閣支持率を分析する」中野晃一編『検証 安倍政治』岩波書店、2016年(amazon

 これら2つのバイアスは、世論調査での投票行動の回答と現実の選挙結果を比較することで明らかにすることができます。

ちなみに既に引用した箇所にある話を最後に言っておくと、谷岡一郎氏は、自民党の話ではなくかつての大阪府知事選を例に挙げて世論調査の回答者は、実際には投票してくなくても勝利した候補者に『投票した』と嘘をつく」という仮説を立てている。
常識的に考えればおかしい話で、勝とうが負けようが自分のポリシーに近い人を支持すればいいだし、勝とうが負けようが自分の投票した人を素直に言えばいいだけの話なのだが、やっぱりそれでも「俺は実際に勝ったあいつに投票したよ」というのが気持ちよく「俺が応援した、投票したあいつは負けちゃった」というのは気分が悪いらしい。
ペナントレースや格闘技の勝敗予想なら、かすかにわからんでもないけどね…

これも「嘘」なのか、回答を回収する時に何かのバイアスが出てくるのか。
その辺はなぞです。

さらにいうと後者の場合「すべての世論調査は、『世論調査に回答するタイプ』の人の意見だというバイアスがあり『わしゃあんな調査には答えない』(面倒くさがりや、頑固、偏屈、反メディアの陰謀論、なんでもいい)という層は把握できてない」という、普遍的な問題に達するのであります・・・・・・・・・・・・

(了)