女性がアダルトビデオに出演経験があるかどうかをSNSにアップした写真から「顔認識」で特定 - GIGAZINE http://gigazine.net/news/20160427-facial-recognition-misuse/
おっと、まず
【となりのビッグブラザー】
というのはうちの記事の中で、あるテーマを探しやすくするための準タグなんだけど、その定義について説明するね。
※「となりのビッグブラザー」とは?
当道場本舗の造語です。準タグ的にも使っており、この語で当ブログ内を検索すると関連記事が出ます。
(1)技術が進歩しまくり、
(2)そして普及しまくることで、
(3)「フツーの人」にかつては権力機関や専門家など少数の人しかできなかったことができるようになり、
(4)その一方で、そういう少数限定の時には可能であった歯止めやブレーキがなくなってしまう・・・
という、諸々の社会現象のことをそう呼んでいます。
よく考えれば、このテーマに関して、GIGAZINEさんの功績はすごいよな。
中の人にそういう問題意識があるのか、他では扱わないような海外の事例を丁寧に収集してもらっていて、何度もそこから考察をすることができた。
つい数日前も、関連するように
顔認識システムを搭載し周囲をスキャンするだけで犯人を見つけ出すハイテクパトカーが登場 - GIGAZINE http://gigazine.net/news/20160405-police-car-scan-criminal/
地下鉄で撮影された写真からSNSを特定してプロフィール写真と比較される「Your Face Is Big Data」 - GIGAZINE http://gigazine.net/news/20160415-match-random-people-photograph/
自分もずーっと、この関連については考えていたし、こういう事例も予想していた範疇のうちなので、そういう点ではあまり書くことはない。
たとえばの話、5年前の2011年に書いたこの記事…というか”SF小説”は、舞台がことなるだけで、多くの人が実名、実社会とは違うフィールドでやりたいと思っていた活動が、顔認証、顔検索で分かってしまう(かもしれない)という点で、今回の話と似ている気がする。
あと3、4年で、コミケでコスプレしてる人たちとかは、顔写真検索で特定できるようになるんじゃないの?…というSF。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20110818/p2
(略)
ミドリさんは寝てもさめても立っても座っても、その子のことが頭から離れない。
(略)
2、3日ほどパソコンの大画面で、その男の子と二人で撮った記念写真をじっと見つめるミドリさんでしたが、そんな悩みをしっている、会場にも一緒にいた友人がこんな情報を教えてくれました。
「『三千里」というサイトがあるのよ。ここに自分が持っている画像の顔部分を登録すると、ネット上で同じ顔の人をSNSからブログから検索してくれるんだって!横顔でも斜めからでも大丈夫で、精度は既に99.999%だってさ」
おぼれるものは藁をも掴む、でミドリさんは、記念写真の男の子の顔部分を拡大して登録、検索してみましたところ…ほんの2秒で検索完了!!
なんと!
その男の子はなんとミドリさんの高校の隣のクラスの子!…(後略)
…というげんしけんのこのシーンは”盗撮”だからまだ非難されるが(ただ法律的にはこれだって規制難しいのでは)、今回の話は相当違う。
そしてこれを止める方法があるかだが、これまた相当に難しいのではないか。
今回、世論の批判という形でこのサイトを止めることができたのは実際、奇跡的なことであって、「最後の抵抗」のような気がする。
初代ゴジラが「最後の一匹」ではなかったように、第二、第三のものが出てくるだろう。
それを自分は「ホームズは裁けない」という言葉で以前表現した。
「ホームズを禁止する法はない」…ビッグデータへの畏怖と不安は、結局そこに根源があるのでは - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140610/p2
http://www.221b.jp/h/sign-01.html
「君はたしか、人間が日常的に使っている物にはすべて持ち主の個性が刻まれ、熟達した観察者ならそれを読み取れると言っていた。私が最近入手した時計がここにある。もし良ければ、最後の所有者の個性や習慣について、見解を述べてもらえないか」
私は彼に時計を手渡す時、心の中で快哉を叫びたい気分だった。なぜなら私の考えでは、このテストは無理難題だったからだ。
(略)「彼はだらしない生活習慣の人物だ、 ―― 非常にだらしなく不注意だ。彼は将来有望と見られていた。しかし彼はチャンスを棒に振り、かなりの期間貧しい生活をした。時折、羽振りの良い時期があったが、これは長続きせず、最後に酒に溺れて死んだ。僕が推測できるのはここまでだ」
私は椅子から跳び上がり、物凄く苦い気持ちで、足を引きながらせかせかと部屋を歩いた。
「これは卑劣だ、ホームズ」私は言った。「君がここまで恥ずかしいことをするとは信じられない。君は僕の不幸な兄について調査をしていて、今、ちょっと奇抜な方法でその知識を推理したような振りをした。(略)」
(略)
「ワトソン」彼はやさしく言った。「許してくれ。僕はこの件を抽象的な問題とみなし、君にとって個人的にどれほど辛いことかについて、考えが及ばなかった。しかし保証する。僕は君がその時計を手渡すまで、君に兄弟がいたことさえ知らなかった…(略)…例えば、僕は最初に君のお兄さんが不注意だと言った。その時計の外側の下部を見ると、へこみが二箇所あるだけでなく、全体が擦り傷だらけ…」http://www.221b.jp/h/scan-4.html
「この覆面はお許し願いたい」奇妙な訪問者は続けた。「私を雇ったさる高貴な方が、使いの者の身元が君に知られぬようにと、望んでおられるのだ。このあたりで打ち明けておいた方がよいかもしれんが、実は先ほど自称した爵位も必ずしも事実とは言えないのだ」「気付いておりました」ホームズはそっけなく言った。
(略)
「もし、恐れ多くも国王陛下がご自身でこの件について説明いただければ」彼は言った。「さらに良いアドバイスが出来るはずですが」男は椅子から跳び上がると、動揺を抑えきれず、せかせかと部屋を行き来した。突然、やけになった様子で覆面を顔から引き剥がすと、床に叩きつけた。「その通り」彼は大声で言った。「私がボヘミア王だ。なぜそれを隠さねばならん?」
(略)
ホームズが「鍵穴のまわりについた引っかき傷から、この時計の持ち主が酒飲みであると推定しましたが、それが何か?」と言われたらぐぬぬぬ、である。それは公開情報。そこから分析して、何かを推論することが悪いことであろうはずは無い。
アダルトビデオに出た人の一部は「膨大な数が出回るけど、流通は特殊だし…どこの誰が出演しているかなんて、1、2年で分からなくなっちゃうはず」という、ごく当たり前の常識があったから、だからこそ出演を決めた…という人もいるだろう。
だがそれは「魔法」「超能力」で変わってしまった。
「都市の人ごみ、雑踏や店の来客の中から、一人を簡単に発見できる社会」とは
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090611/p5
何があっても、「顔認証」技術は進歩し、普及するだろう…それがどうなるかだ。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140314/p3
(略)
だって、一種の「超能力」なんだよ。都会の雑踏から、駅の構内から、一人の人物を発見するなんて。
あれだよ「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」のまさに実践なんだ。(だから自分は興味あるんだけどね)
そしてそれは…「この人ごみの中だ、誰にも俺のことはわかるまい」という…「都市の空気は自由にする」と言われた時代から、1000年だか続いた「社会の前提」をぶち壊すことにつながるのだ。いい面でも悪い面でも。
上の『一種の「超能力」なんだよ。都会の雑踏から、駅の構内から、一人の人物を発見するなんて。』の例示のひとつに、『膨大なアダルトビデオのパッケージ画像から…』を付け加えれば、足りてしまうだろう。
そしてこのビッグブラザーは「国家」ではなく「となりの人」。だから止められない…大屋雄裕「自由か、さもなくば幸福か?」より。
「万引きを疑う客の情報を共有」、顔認証技術はやはりこのように”進化した”…大屋雄裕の本が示唆した「新しい中世」時代。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140407/p3
にて書いた話を再紹介。
(略)
大屋氏の新刊「自由か、さもなくば幸福か」の第二章「見張られる私」では、まさにこういう、情報・データ管理技術を握った「民」=営利企業に関する問題が詳しく語られているのであります。監視の多くを実施しているのは国家そのものではない。警察が管理する街頭防犯カメラは2011年度末で全国791台に過ぎないのに対し、民間事業者や商店街・マンションなどが設置する監視カメラはすでに300万台を超えているという。(略)当然ながら、これらの民間団体は自分たちにとって利益があるからカメラを導入したのであり…警察は事件が起きたあとで…いわばおこぼれに預かっただけ
(略)
さらに言えば我々一人ひとりも、監視を行わないわけではない。youtubeなどには、ドライブレコーダーで記録された交通事故の映像がしばしば公開されている。アーキテクチャに直面した我々が問わなくてはならないのには、古典的に「法」を通じて動作する国家権力がこれと比較してはるかに危険な存在なのかということだ。…おそらくそうではない…第一に、国家は確かに全体からすれば非常に大きな実力を独占しているが、チェック・アンド・バランスが確保されている…企業が責任を負っているのは主にその株主に対してであり…「お客様」を優遇するのはごく一般的な慣習だろう
つまり全体的に言えば、その暴走を警戒して国家にはさまざまな制約が加えられているのに対し、中間団体にはそのような制約が乏しく、だからこそサービスの提供は効率的であるのかもしれない。だが、そうであるとして、我々の生活や人権が、我々を平等に扱わなくてもいい主体に自由に制約されることを、我々は望むのかどうか。それが規制主体としての国家と中間団体を比較する際に問われる問題なのだ。
さらに大屋氏は、この例として「グーグル八分」やフェイスブックの同意なき仕様変更などを紹介している。それらの例は、今回の「顔認識を基にした万引き犯情報の共有」にもそのまま、一直線につながるのではないか。
こういう状況を指して「新しい中世」と大屋氏は呼ぶ。どういう意味だろうか。生まれるのは、対象に規制を及ぼそうとするさまざまな主体が並存し、相互に対立し相克する社会なのだ。その中で生きる人々の視線に立てば、自己の影響力を及ぼそうとするさまざまな規制主体たちが発する、あるいは矛盾しあるいは対立する掟のうち、何に従い何に従わないのかをそれぞれの帰結を予想することを通じて決めていかなくてはならない社会だということになる。
(略)だがそれは、我々にとっても決してまだ見ぬもの、完全に新しく不知のものではない。近代がそれを乗り越えるために形成されたもの=中世こそ、そのような社会の古典的モデルだからである。どういうことだろうかこのあと、その説明がされている。
自分はこのブログの中で、この種の問題を【となりのビッグブラザー】と名づけていた。(略)…実のところ「国がこういう高度IT技術による監視をすることを何とか阻止することができても、技術がどんどん普及し一般化したら、『民』の側がそれを利用し始め、『誰もが誰もを監視する』時代になっていくのではないか?」という問題意識があったからこういう造語をしたんだったな。
実はいまだに覚えているけど、まさに1984年に新聞のインタビュー記事で、とある学者が「オーウェルの予言は外れましたね。外れた理由は『技術を国家が独占できる』と枯れは想定していたが、そうじゃなかったからです」と語っていたのだ。
(略)
いや、一応大屋氏はこの本でも、トークセッションでもひとつの解決策を示唆している。それは「監視する人を監視する機能」だ。
既に警察のカメラ運用を確認するオブザーバー制度や、だれが端末検索を動かして閲覧したかが記録に残る機能(橋下徹大阪市長の戸籍などを好奇心で覗き見した職員はこれで処分された)などなどが既に実現している。
ただ、そうすると、つまりは「権力」の「監視」する機能、権限はもっともっと拡大するのである。そんなジレンマをどう解消していくのかだ。
似たテーマの過去記事リスト(不完全)
2014年の制作だから、その後の記事の追加ははなはだ不完全だけど…
「情報技術データ管理の技術進歩が社会に及ぼす影響」を考えた過去記事リスト。http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140407/p4