「漫言翁 福沢諭吉」という、正続の二冊がある。

- 作者: 遠藤利國
- 出版社/メーカー: 未知谷
- 発売日: 2012/07
- メディア: 単行本
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- 作者: 遠藤利國
- 出版社/メーカー: 未知谷
- 発売日: 2014/09
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新聞はまだ明治日本では黎明期もいいところとはいえ、その毒のあるユーモアはかなりアナーキーでもあり風刺性もあり、ぶっちゃけ今読んでもかなり面白いものがが多い 。
そういう面白いのに知られていない、福沢の風刺コラムを紹介するという目の付け所のいい本でありました。
軽気球、賄賂の横行、メートル法、西郷生存説、衛生と伝染病、政党の離合集散、条約改正、憲法発布……多くの文章を紹介したいが、力及ばないのでひとつだけ紹介したい。
当時は日本から出ていくことが多かった「移民」について、米国の見聞もある福沢諭吉は、アメリカが広く門戸を開いていることを紹介する。
「親譲りの門閥もなく 財産もなく ただ一ツの己れの腕前をたのみ 安くこの世をわたらんとするには、もつとも都合のよき国柄なり。
ことにその国の政治の仕組みは合衆共和政治とて、人民の投票にて…」と、移民も議員や知事になることができるということを語り、もし移民が地歩を築けば、日系アメリカ議員が生まれることも不可能ではない、と語る。
そしてこういう
かくして もし他年 日本生れの新アメリカ人等が大に同国政治上の権力を左右し(略)国会にありて議政を可否する時節ともならば、ずいぶん面白きことならん。
福沢は夢想する。そういう日系のアメリカ議員が、ときに故郷日本を思い出して手紙を出すこともあろうと。
その議員、ジョン謙信上杉(仮名)氏の、日本に出した手紙の文章はこうだ。
…明治日本で、急造されたナショナリズムの大きなよりどころであった「聖徳太子の国書」伝説を、こんな毒のあるパロディにしたてて、移民国家の特質や制度、歴史や地理の相対性、移民におけるアイデンティティやナショナリズムもまた相対的なものであることなどをあざやかに論じる福沢、ただものではなさすぎる。
(まあ、ただどころか1万円だけど(笑))
こういう漫文は当時も大人気の一方物議もかもし「ホラを福沢、嘘をゆう吉」などと称されたのもご存じの通りとおり。