(ひと)池明観さん 韓国の軍政弾圧を告発した「T・K生」、日本で最後の講演:朝日新聞デジタル http://www.asahi.com/articles/DA3S11909498.html
……1973〜88年、月刊誌「世界」に連載され、軍政の弾圧を告発した「韓国からの通信」。12年前、筆者「T・K生」は自分だと明かした。東京女子大教授で民主化運動に携わっていた。連載のもとになった手記や資料は、日本のキリスト教関係者らの協力で、韓国から極秘に届けられた。
そんな記憶が日韓双方で忘れられていると危機感を持ち、講演を引き受けた。「次世代のために」と自己批判もした。「あれは闘いの書。事実を誇張し、民主化勢力を美化し過ぎた。後輩が研究し批判するなら、喜んで受け入れる」
韓国からの通信――1972.11?1974.6 (岩波新書)
- 作者: T・K生,「世界」編集部
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1974/08/20
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韓国からの通信〈続(1974.7-1975.6)〉 (1975年) (岩波新書)
- 作者: 「世界」編集部
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1975
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勝つか負けるか、戦術の一環としてのプロパガンダ。勝つためには誇張も美化もある、と…。
ただ、その場合、岩波「世界」がそれに協力したことの是非は、また別にあろう。その中心になった安江良介氏も、いまやその身はうつし世にない。
「悪魔祓い」の戦後史―進歩的文化人の言論と責任 (文春文庫)
- 作者: 稲垣武
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1997/08
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史上有名な「ナイラ証言」というのがある。
高木徹「戦争広告代理店」でもちょっと触れられているが…
イラクのクウェート侵攻から2カ月後。米議会下院の公聴会で一人のクウェート人少女が証言台に立った。ドキュメント 戦争広告代理店〜情報操作とボスニア紛争 (講談社文庫)
- 作者: 高木徹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/06/15
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15歳というその少女の名は「ナイラ」。奇跡的にクウェートを脱出し、アメリカに逃れてきたというナイラは、その目で目撃した世にもおぞましい出来事を語った。「病院に入ってきたイラク兵は,保育器から赤ちゃんを1人づつ取り出し、床に投げつけました。冷たい床の上で赤ちゃんは息をひきとっていったのです。怖かった…」
この議会証言は全米のメディアを通じて報道された。当時大統領だったジョージ・ブッシュ(父)も、この証言についてのコメントを発表した。「心の底から嫌悪感を感じる。こうした行為を行うものは相応の報いを受けることをはっきり知らせてやらなければならない」
だが、ナイラの証言は,仕組まれた情報操作だった。ナイラはずっとアメリカにおり、クウェートには行っていなかった。それどころか、彼女はクウェート在米大使の娘だった。
このことは、湾岸戦争終結後、ニューヨークタイムズ紙によって発覚し、ABCの看板番組「20/20」「60ミニッツ」で特集を組み、ことの次第が暴かれて…クウェート政府とヒル&ノートン社には、ダーティーなイメージが残った。
(文庫48-49P)
「ナイラ証言」にはウィキペディアの項目がある。
wikipedia:ナイラ証言
これだけ有名なら英語のウィキペディア記事はもっと詳しいだろうし、「60ミニッツ」のyoutubeなどもあるんじゃないかな?
あ、あったよ。
ナイラさんは1990年に15歳だったとしたら、あー、今は40歳。お元気だろうか。どこで何をしておられるだろうか。
あるいは最近話題になった
「北朝鮮・死の強制収容所からの脱出、嘘ではない」脱北者シン・ドンヒョク氏インタビュー http://huff.to/1GhI5bg
この本では「タイムの鉄条網写真」の話も紹介されている。
国連人権委員会でも提示されたこの写真
…だが
…この話には、おちもある。ドイツのジャーナリスト、トーマス・ダイヒマンが戦後現地を訪れ調査したところ、この映像は、やせたモスレム人の男が鉄条網で囲まれた収容所に閉じ込められているように見えるが、実はこの鉄条網はカメラマンの背中の側にあった(つまり写真には写っていない)倉庫や変電設備を囲うためのもので、やせた男を収容するためのものでなかったというのである。(文庫139P)
さすがに
それはやりすぎだろ…。
このカメラマン氏は、いまどこで何をしているだろうか。
そんなことで、「大義のためにあえてプロパガンダを行う」ということは、その大義の内容の是非はともかく、こういう問題をはらんでいる。
はらんでいるからこそ、池明観氏は90歳を迎えて……、自ら、ああ語ったのだろう。
重い。
韓国史に、朴正煕政権と並んで大きな意味をもつ朝鮮戦争を、「最後のニュージャーナリズム」の旗手だったハルバースタムが遺作として描いた本はこういう帯がつけられた。
「すべては歴史の前にひれふす」。
独裁者も大統領も将軍も そして凍土に消えた名もなき兵士たちも
The Glory and The Unkowns
追記ツイート
https://twitter.com/hajimaru2/status/631695598991773696
@gryphonjapan この言葉は池明観さんの「人生最後の講演」(8月1日、同志社大)で述べられました。後日、発言の真意を聞くため宿舎を訪ねると「今あの時代に戻っても同じ選択をするかもしれないが、死ぬ前に正直になりたかった。ずっと読者の皆様にお伝えしたかった」と話されました。
— 武田 肇 / Hajimu Takeda (@hajimaru2) August 13, 2015
gryphonjapan @gryphonjapan
その場を提供した「世界」や岩波書店の立場は本来客観的なジャーナリズムの筈で、そこから見ればこの証言は「不都合な真実」の筈ですが、それでも池氏がこう歴史の前に証言したことは大きな意味があると思います。 @hajimaru2