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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

人質・捕虜が、わがまま、(悪)知恵、品位、優しさで監禁側を感化し、そのボス、盟友に…というパターンは何が元祖?【創作系譜論】

【創作系譜論】

前の記事から続きますが、BSスカパー!というチャンネル
http://www.bs-sptv.com/

では、映画の予告編ばっかり放送する「ニュー・シネマ・トレイラーズ」
http://www.bs-sptv.com/program/160/
というのをやってた。そこで今、たまたま見たのは

という、作品。上映中。主演はアンソニー・ホプキンス

公式サイトを見てみよう。

http://kidnapping.asmik-ace.co.jp/

1983年、オランダ・アムステルダム。大ビール企業「ハイネケン」の経営者、フレディ・ハイネケンが何者かに誘拐された。世界屈指の大富豪の誘拐は世間を驚かせ、警察も巨大組織による犯行を疑う。しかし誘拐したのは、犯罪経験のない幼なじみの5人の若者だった・・・。

大胆不敵な計画を実行し、史上最高額(当時)の身代金を要求する犯人グループ。すべては上手くいくはずだった。ところが、人質であるハイネケンの傲慢な言動に、5人は翻弄され、歯車が狂いだしてゆく。駆け引き、誤算、落とし穴。誘拐された大富豪と、誘拐した若者たち。追い詰め、追い詰められる男たちが支払う“誘拐の代償”とは――?!

人生には二通りある
  大金を持つか 大勢の友人を持つかだ
              両方はありえない

と、人質が誘拐犯に向かって言うってのはどういう状況なんだ(笑)


これは一応、実話が元になっているけれども、たしかに人質とか捕虜として拘禁する対象は、無力な子供のほか、金持ちや権力者、名士や君主などの指導者も対象になりますよね。彼らに知性や人間的な迫力や魅力があって、粗暴な犯罪集団、テロリストがついに感化される…というのは、あながち根も葉もない妄想、というわけでもないかもしれない。

コメント欄で出てきたが、東大安田講堂陥落へつながる林健太郎氏の監禁事件/・

歴史家bot @historian_bot
https://twitter.com/historian_bot/status/463917391101956096
東大全体の封鎖解除には賛成だが、私個人の救出のための出動は無用。只今、学生を教育中(林健太郎、学園紛争に際して)

 

ま、その半面の描かれ方としては、「誘拐集団が実は気のいい、話の分かる人間味のある連中」という前提が必要になるんですけどね。


リアルの事件で、人質と犯人の関係が深まるのは「ストックホルム症候群」などの故などもあってきれいごとではないけど、おとぎ話としての人質ものはまた別だ。



そこからバリエーションはいろいろあって、
・誘拐集団がついには部下になって正道に帰る(人質が王子で、その部下になるとかね…)
・なんか人質のほうが、逆に犯罪計画に乗り気になって陣頭指揮を執り、人質が「ボス」になる(一番有名なのは、「大誘拐」でしょうか。「銀魂」で真撰組の土方が宝くじが当たる回もこのネタでしたな)

大誘拐 RAINBOW KIDS [DVD]

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  • 発売日: 2006/02/24
  • メディア: DVD


・掃除や食事などの生活面を取りしきり「お母さん」的存在になる(お馴染み「ラピュタ」…もうあの時点では空賊とは和解済みか。)

http://youpouch.com/2012/10/01/83969/
皆さん、あのシチューを覚えていますか? 汚れまくった台所を任されたシータが、台所を掃除して、最初に作っていたメニューです。もう、勝手に命名しちゃおう。「ラピュタシチュー」と呼びましょう! ラピュタシチューがあまりにもおいしそうなので、いろいろ調べて作ってみましたよ!

で、この初出というか古いものをさぐると、ちょうど半世紀前に、「オバQ」でも扱っていたりします。

http://d.hatena.ne.jp/hardmelon/20090725/p1

オバケのQ太郎 1 (藤子・F・不二雄大全集)

オバケのQ太郎 1 (藤子・F・不二雄大全集)

ゆうかい魔に気をつけろ!:なぜか誘拐魔が藤子両氏。どう見ても善人。迷惑オバケのQちゃんの迷惑っぷりが功を奏する。

キテレツ大百科」でも「エスパー魔美」でもこの種のネタはやってるから、藤子・F・不二雄先生の好きな定番だったんだろう。
追記 パーマンにもあった


ただ、黎明期トキワ荘のレジェンドたちは、海外の面白い映画や小説の名翻案家でもあったしね…根拠をもって示せるわけではないが、これが元祖とはやっぱり言えない気もする。オー・ヘンリーの作品とかにありそうな。
(人質とはちょっと違うが、気のいい強盗団を描いた「荒野の王子様」という作品がある)

O・ヘンリ短編集 (3) (新潮文庫)

O・ヘンリ短編集 (3) (新潮文庫)

http://blog.goo.ne.jp/s-matsu2/e/98f68e12a2b0842da3ca2f49cda3c8fe
荒野の王子様」
まだ子供なのに石工宿泊所に働きに出されてつらい思いをしているレナが母親に向けて手紙を出す。郵便配達が途中で強盗の一団に襲われる。強盗は偶然レナの手紙を見つけ、それを読む。仕事がつらいので自殺するという内容の手紙だった。強盗団は……(略)

【追記】あとで教えてもらったのだが、やはりオー・ヘンリーにはずばりの作品があり、これが「元祖」の最有力候補の気配…?




かなりずれはあるが「本来ならしおらしくしてる筈の被監禁側が、才覚によって活躍し、大きな顔をし始める」という意味なら「居残り佐平次」もそうだしね。

人質が「動じない」「怖がらない」という部分では、既に「椿三十郎」の家老の奥方がいた。
彼女は、救出側の三十郎に対して「そなたは、人を斬り過ぎます」と叱り、自分を誘拐した側の心配をしているのだから、萌芽があるともいえる。

http://yanakanokakashi.cool.coocan.jp/homepage/space-X/fancy/cinema/cinema00/kurosawa/kurosawa00/tubaki.html

椿三十郎』で入江たか子扮する家老の奥方が荒々しい三十郎を諭すセリフがある。
「あなたは少しギラギラし過ぎてますね。鞘(さや)に入っていない抜き身みたいに。でも本当にいい刀はちゃんと鞘に入ってるものですよ」
三十郎の男臭さと血なまぐさい殺陣がこの映画のひとつのトーンになっているなかで、それとは違った、穏やかで柔らかな空気を送り込んでくるもう一方の重要なトーンをおもに入江たか子が荷なっていた。上のセリフを彼女は、嫌味の欠片も感じさせない、まるで柔らかな優しい光で包み込むように発している。


そんなこんなで、
『人質・捕虜が、我がまま、(悪)知恵、品位、優しさで監禁側を感化し、いつしか誘拐犯たちは、人質の手下や仲間に…というパターンは何が元祖?』

元祖はともかく、皆さんのご存知の作品を教えてください。年表的なものを作れれば幸いなので、発表年が分かれば、なおありがたい。
オバQのように、ギャグマンガやドラマの中の1エピソードとしても出てくると思います。


今回も、同趣旨の質問を「人力検索はてな」で並行して行いました。

人質・捕虜が、(悪)知恵や品位で監禁側を感化し、上に立つ…というパターンの例を教えてください。
http://q.hatena.ne.jp/1434929793


例として挙げられたのひとつ「ミセス・ハドソン人質事件」。これ、宮崎駿演出らしいですね

http://www.nicovideo.jp/watch/1316208105

(有料)

【第二部】頂いた情報を一覧にまとめます

年代 書、逸話の内容 参考資料
紀元前78年 (実話)ユリウス・カエサル、海賊の捕虜となる。「俺の価値はそんなもんじゃない」と自ら身代金額を吊り上げる。 こちら
1221年 (実話)「承久の乱」の敗残兵をかくまったとして明恵上人が鎌倉に連行されるが、時の執権・北条泰時がその徳に感化され弟子になる こちら
1787年 (実話)オホーツクに漂着していた大黒屋光太夫が、保護してくれたロシア人を迎える筈の船が逆に難破したために指導的立場となり、船を再建する おろしや国酔夢譚
1812-1813年 (実話)「ゴローニン事件」の関連でロシアに船が拿捕された高田屋嘉兵衛が日露外交を調整、問題を解決に導く。※1979年、司馬遼太郎が小説「菜の花の沖」で嘉兵衛を描く wikipedia:高田屋嘉兵衛
江戸末期〜明治? 落語「居残り佐平次  
     
1862年 ビクトル・ユゴーレ・ミゼラブル ※本題から離れた、ジャンバルジャンを善に導く司教の、以前の逸話として『山賊に誘拐されたが、逆に寄付を受けて帰還した』という話が登場する
1909年 モーリス・ルブラン「奇巌城」 ※ただし同作では、人質が「主導権」というほどでなく「恋の対象」になる。に留まる。その種の作品も多いので、それを系譜とするかは解釈次第か。
1910年 オー・ヘンリー 「赤い酋長の身代金」(※この作品が、基本的に後の作品の「原型」であると思われる) wikipedia:赤い酋長の身代金
   以下は、同コンセプトの作品集  
1929年 小津安二郎・映画「突貫小僧」 wikipedia:突貫小僧
1952年 映画「人生模様」(原題「O. Henry's Full House」〜オーヘンリーを原作にしたオムニバス映画。「赤い酋長の身代金」がうち一本として映像化) こちら 
1954年 ジェイムズ・マッコネル「お祖母ちゃんと宇宙海賊」 こちら
1957年 幕末太陽傳」(「居残り佐平次」の映画化) wikipedia:幕末太陽傳
1960年代? 関谷ひさし『スーパーおじょうさん』 推理作家・芦辺拓氏のツイート
1960年代以降 藤子・F・不二雄作品(オバQキテレツ大百科エスパー魔美パーマンなどで確認できる) こちら
1968年 (実話)東大闘争・林健太郎監禁事件 こちら
1969年 絵本「すてきな三にんぐみ こちら
1972年(訳) 野田昌宏訳「お祖母ちゃんと宇宙海賊」 こちら
1972年 星新一「発火点」(「さまざまな迷路」収録。72年はこの単行本の年) AA劇場で
1974年 ジョン・クリアリー「法王の身代金」 こちら
1974年 小林信彦怪人オヨヨ大統領」 こちら
1974年 (実話)「ハースト家長女誘拐事件」 こちら
1976年 喜劇 大誘拐前田陽一監督 こちら
1970−80年代 手塚治虫ブラック・ジャック」(「身の代金」ほかいくつか?) こちら
1978年(映画1991年) 天藤真大誘拐」のちに岡本喜八監督が映画化 wikipedia:大誘拐
1981年 一条ゆかり有閑倶楽部」(特に第四話) wikipedia:有閑倶楽部
1984 TV『名探偵ホームズ』第4話「ミセス・ハドソン人質事件」宮崎駿演出 こちら
1987年 工藤かずや浦沢直樹パイナップルARMY」(「キッドナップ・ラプソディー」前後編、6巻収録) 民間軍事援助組織〔CMA〕
1996,97年 (実話)在ペルー日本大使公邸占拠事件(一部の現象として「ゲリラは徐々に人質に感化されていた」との証言があとから出てきた) wikipedia:在ペルー日本大使公邸占拠事件
1999年 映画「007 ワールド・イズ・ノット・イナフ  
2000年 映画「グリーン・ディスティニー」  
2001年(映画2010年) 荻原浩誘拐ラプソディー wikipedia:誘拐ラプソディー
2007年 Q.E.Dベネチアン迷宮」 Q.E.D感想ブログ
2008年 幸村誠ヴィンランド・サガ 6巻におけるクヌート王子の覚醒。正式にはアシュラッドは王子を「保護」していたのだが、その緊張関係は人質同然であり、また最後は追跡側まで配下につけるのだから、この一種であろう。のちにアニメ化も
2013年 空知英秋銀魂」(第451訓「人間五十年下天のうちをくらぶれば夢モヒカンの如くなり」、2015年TVアニメ化) こちらこちら
2017年 はくり「幸色のワンルーム」(2018年ドラマ化) こちら

追記 推理作家・芦辺拓氏のツイートとやり取りより

https://twitter.com/ashibetaku


芦辺拓 @ashibetaku

零細探偵小説家です。仕事はhttp://bit.ly/jfXjYy またの名を森江春策Pと申しまして、ニコマス動画、ラブライブ!、AGC38など、どこでも平均年齢を押し上げてます。

少し前に「誘拐・拉致された側が逆に主導権を握って云々」というパターンのルーツを求む、というのがあったと思うけど、日本に知られた作例の最も古い一つがO・ヘンリの「赤い酋長の身代金」なのはまちがいないとして、ジェイムズ・マッコネルの「お祖母ちゃんと宇宙海賊」は外してほしくないところ。
 
ジェイムズ・マッコネルの「お祖母ちゃんと宇宙海賊」、野田昌宏氏のスペースオペラ傑作選で読んだんだけど、1954年の作品なんだね。ということは、むしろ洗練された40-50年代SFにしゃれたストーリーをのっけたものだと思う。天藤真氏『大誘拐』で最初に思い出したのがこの作品だった。
 
だけど『大誘拐』を読んでもパクリだとかは感じなかった。「人質になったおばあちゃんが、ダメな犯人を叱咤して事件をスケールアップさせる」はどう料理するかのパターンで、そんなこと言ったら異世界で現代知識駆使してチート物語は、全部『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』の盗作ってことに
 
野村弘明 @officeshambleau 7 時間7 時間前
https://twitter.com/officeshambleau/status/615410588634603520
@ashibetaku 早川で出ていたモノが、創元から再刊されて今の読者も読めるようになったのはいいのですが、キャプテン・フューチャーも創元から再刊だった事を考えると、早川はこれでいいのかと思ったり。私は早川の初刊時に読みました
  
 
芦辺拓 @ashibetaku
『太陽系無宿』と合本で創元で出てたんですね。アチャー RT @officeshambleau: @ashibetaku 創元から再刊されて今の読者も読めるようになったのはいいのですが、キャプテン・フューチャーも創元から再刊だった事を考えると//私は早川の初刊時に読みました。
 
オー・ヘンリーのでは「人質を返したければ金よこせ」でしたね。RT @sutohKADAA_SYA: @ashibetaku 冗句だと、「身代金を払わなければ、人質を送り返すぞ!」ですね(^^;
 
 結局あの映画見られなかったので、わからないんですが、天藤作品も喜劇大誘拐も『お祖母ちゃんと宇宙海賊』がネタ元ってことないですかね。RT @ishikawasei1: @ashibetaku ミヤコ蝶々映画の『喜劇大誘拐』も、その黄金パターンの一画であった、ということなんですね!
 

 https://twitter.com/ashibetaku/status/633133093553999873
芦辺 拓
@ashibetaku
遅ればせに一件追加。関谷ひさし『スーパーおじょうさん』(1960年代?)→人質・捕虜が、わがまま〔略〕というパターンは何が元祖?【創作系譜論】 見えない道場本舗


追加情報 大西巷一氏語る


追加情報 漫画家・森田崇氏のツイートとやり取りより





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