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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

軍事記者・田岡俊次氏は中国の軍事力増大をどのように見誤ったのか?

以下の記事が評判です。

時代遅れな中国軍認識が蔓延る日本(dragoner) - Y!ニュース
http://bylines.news.yahoo.co.jp/dragoner/20140411-00034316/

筆者がtwitterで語る。

dragoner ‏@dragoner_JP 18時間
あ、昨日上梓した記事ですが、お陰様でYahoo!個人アクセスランキング(国際)で2位となりました。天木大使閣下の黒い三連星は撃破できたので満足です(完)  http://bylines.news.yahoo.co.jp/dragoner/20140411-00034316/ …  pic.twitter.com/v75AC4wRiF


内容は「中国軍は張子のトラ」的な認識をする人が多いが、誤った認識である、という話で、誤った認識の例としてまずニューズウィークを挙げます。

……ニューズウィーク日本版3月25日号で「中国軍の虚像」という、中国軍の実情をテーマにした特集が組まれていました。テーマがホットなだけに目を通したのですが、稚拙なレベルの事実誤認と都合の良い解釈が全編に渡って貫かれており、あまりの出来にしばし唖然としました。著者が言うには、中国軍は「20世紀の技術さえ習得していない」…


そして、
もう一人を挙げます…このブログではおなじみの方だ、っていうのは私はこの人ほか数名の有名どころしか軍事評論家を知らないから。
田岡俊次氏です。

ニューズウィーク日本版の記事は、日本版オリジナルとは言え、書いたのは外国人ですのでまだ言い訳が聞きます。しかし、日本の大手マスコミ出身者にも、中国軍を侮る記事を書く人が見られます。朝日新聞論説委員を努め、現在はジャーナリストとして活動している田岡俊次氏もその1人です。
(略)
冷戦期の中国イメージを未だに引きずっているかのような言説が日本ではまかり通っています。10年、20年前の認識ですら現在とは大きく異りますが、更に言えば2012年から2013年の2年間で中国海軍が建造した戦闘艦は、この20年間で自衛隊が建造した護衛艦の数に匹敵するという事実を見れば、2、3年前の認識ですら時代遅れとなっているのが中国軍の進歩の速さと言えます


このブログを「田岡俊次」あるいは「田岡元帥」(笑)、「パックイン」で検索していただくと分かるが、自分は2003年にCSを見られるようになって以来、2012年3月に番組が終了した「愛川欽也パックインジャーナル」の継続的視聴者だった。そこのレギュラーコメンテーターが田岡元帥
多分に自分は論調に疑問を持っていたけど、ただここでしか聞けない視点や議論がこの場で聞けたのも事実で、第一、司会も含めて、「その番組のコメンテーターの中では」田岡元帥の知識も経験も論理構成もぬきんでいたのだ。
そういうわけで2004年に始まった(10周年ありがとう!)当ブログは、折にふれて田岡氏の見解やトリビアを紹介していたのであります。


そうしてれば、いまだに軍事知識の身につかなさでは相当なものがあるあっしでも、全体的な「田岡思想」といったものはつかめるのである。

「中国は完全に資本主義的な思考様式を持ち、世界秩序を変えよう、破ろうとはまったく思っていない。中国の統治は、ひとにぎりの官僚が取り仕切り、庶民は参加させないものの、経済行動は自由に放置するやり方が合理的だ。中国官僚は留学経験も豊富で科挙の伝統もあり、新陳代謝もあって非常に優秀。台湾とも良好、米国とも良好であり、だから中国脅威論なんてまったく無意味なナンセンス。防衛(笑)や、タカ派ならぬバカ派の政治家が妄想を語ってるか、予算獲得の二枚舌かですよ」
と。
上は中国の「意図」のほうかな。一例を自分がまとめたtogetterから。

田岡俊次田岡元帥)が日中関係を語る(10.24「愛川欽也パックインジャーナル」) - Togetterまとめ
http://togetter.com/li/62723


そしてずーっと、上のブログで紹介されたように「能力」の部分でも、台湾の軍人の国会報告などを引用し「台湾に勝利するのは根本的に不可能」といったり「中国海空軍は自衛隊の能力に遠く及ばない」と語り続けておりました。
中国空母に関しては、そもそも建造に踏みだしたという報道があったとき(くしくも朝日新聞のスクープ)「私はマユツバですね」と疑うコメントをしてた。
現実に作られたときは「性能が低い」とけないていたのは上記の通りだし、そもそも空母なんていう存在は時代遅れで、フランスとか国の威信にこだわる国が無駄に持っているのが現状、持ちたきゃあもたせりゃいい、という話をしていたのであります。



というものですから、昨年末の新聞記事(2013年12月18日、朝日新聞)に
こう書いてあったとき、

田岡俊次氏「東シナ海では中国空軍が圧倒的優勢だ」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131219/p3

「おいおい、そうかもしれないけど貴方がそれをいうとしたら『いつ認識が変わったか』を説明してよ!!以前といってることが違うよ!!」

と思って、うえのように書いたのですね。

で、その時は自分の「蔵書樹海」にまぎれて上の本(新書のほう)が見つからなかったのですが、この前偶然見つかった(笑)。
2007年に発売された本である。

北朝鮮・中国はどれだけ恐いか (朝日新書 36)

北朝鮮・中国はどれだけ恐いか (朝日新書 36)


しかし、今いざ実物がみつかっても、いちいち引用するのが面倒になった(笑)。
目次と小見出しが端的に内容を示しているので、それを紹介しよう。
http://www.amazon.co.jp/gp/reader/4022731362/ref=sib_dp_pt#reader-link


さらに、
「中国・北朝鮮はどれだけ恐いか」についての書評はここが詳しいので、そこから引用する。

29.中国の戦闘機、爆撃機の大半は旧ソ連製の旧式なタイプであり、制空能力を過大に評価するのは中国が発表する機数だけにとらわれてのこと。

 (制空権はむしろ台湾の方が機種の優秀さ、機数、パイロットのレベルなどかららみて、上位にあるだろう)。

30.日本ではファントム戦闘機はピークが24機、F15J戦闘機の18機を含め、トータル370機だったのに対し、台湾は95−99年の5年間に国産の戦闘機が90機、F16が150機、フランスのミラージュが60機、計300機を所有し、トータルでは420機に達した。アメリカからの一時的な冷たい扱いを経験した台湾はアメリカだけに依存する愚を考え、フランスとも親しくつきあつようになっている。
(略)
軍事による防衛としては1000機の戦闘機が必要と言われるが、1000機を所有するだけならまだしも、訓練や修繕費などを考えると、現実には不可能。また、中国空軍の最大の欠点はレーダーサイト空中警戒機、防空指令所、対空ミサイル群を結び個々の戦闘機などにデータリンクで情報や指示を送る自動化したシステムが欠落していること。
(略)
34.中国は冷戦終了後、ロシア製の通常推進潜水艦「キロ」型の輸入を始めた。2004年に、石垣島宮古島のあいだの石垣水道を突破し、日本の領海を侵犯したことがニュースになったが、これを日本側は日本海自衛隊の探査能力を調べるためとの情報を流したが、実は、技術的な問題であって、中国の潜水艦がコースを間違えただけであることが判明。後に、日本大使に遺憾の意を表し、「技術的要因」とだけ述べている…

…うんぬん。


ところで、ここで抑えておかねばいけないのは田岡氏の中国軍事水準への低い見積もりは別に中国蔑視ではなく
「だから日本の日米同盟重視とか、軍事力増強が必要って議論は幻想なんですよ。いやー、日本にいるのはタカ派ならぬバカ派でこまっちゃうね」

という議論だったということ。
もちろん田岡氏自身は、「朝日記者としては」それほど全面的にハト派でも平和主義者でも左派的でもない。原発にも肯定的だし、日本の韓国植民地支配に対してもそれなりの必然がある的なことを言っていたし、さらにはこんな暴言までかましたりする人だ。

パックイン・ジャーナル田岡俊次氏がすごいボーゲンを。「子ども手当に所得制限があると、優秀な人の血が残らない」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20091101/p4

 
だが、田岡氏の中国軍の実力への過小評価は、間違いなくそういう「ハト派」的な文脈からきていたのであります。
それはある意味で効果的なものだったろう。



もちろん、中国の軍拡ペースを見ると、田岡氏はある意味常識的な見方をしただけかもしれない。中国にも秋山兄弟や東郷平八郎西郷従道のようなものがおり、彼らが常識ではありえない進化を実現したのかもしれない。だが、本来的には予想や分析はそれを込みで分析しなきゃならないはずでね。


ただ、もう有料ネット番組を拠点にしている田岡氏の最新分析を、定期的に聞くことは難しくなっている。

デモクラTVトップ - dmcr.tv” http://dmcr.tv/
 
https://dmcr.tv/mypage/dmcr_spc.php?prog=taoka_gunryaku
田岡俊次の軍略探照灯
第12回
 ウクライナ、クリミアとロシアの関係は…!?
 国際的に大問題となっているロシアの軍事行動。
初回放送・2014年3月24日
▼出演:田岡俊次(ジャーナリスト)
▼聞き手:内田 誠(ジャーナリスト)
 
第11回
 月に一度のお楽しみ、最新作いよいよ公開!
 世界情勢の中で日本の位置を読み解く貴重な番組です。
 内田さんの絶妙な誘い水に、田岡翁も面目躍如!
 「アメリカは日本より中国の方が大事なんだから!」
初回放送・2014年2月6日
 
第10回
 田岡翁の軍事講話も回を重ねて第10弾!
 今回は問題の「防空識別圏」がテーマ。
  「防空識別圏(ADIZ)とは何か」
  「国際法の常識と中国の非常識」
  「米中、日中関係への影響」
 この3つの観点から、今回の中国の動きの背景を探ります。
初回放送・2013年12月12日


いまは月1回の語りをしているのか。それなりに面白そうだし、これを聞いている人が記録し続けてくれれば、議論の変遷というのもわかるんだろうけどね。