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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「電王戦」から1年、米長邦雄既に亡し…。その歴史、ドラマを本で振り返ろう

本日は「第一回 電王戦」が行われてから、ちょうど一年となる。
その主役だった、米長邦雄永世棋聖も、肉体はいまや、このうつし世にはいない。時は流れ、時代はうつる。
されど、文字はそれに抗い、人々の生き方は、業績は…錯誤や失敗も含め「物語」として語り継がれていく。

勝者の側から、敗者の側から、物語はつむがれている。

「人間対コンピュータ」どちらが能力が上なのか? 創造性の点においてコンピュータは人間より劣るもの,と思われるが将棋ではどうなのか。清水女流王将とあから2010との対局はさまざまな反響を呼び起こした。本書は,単に人間に勝つ,というよりも「人間に勝てるコンピュータ」を人間がどのように開発していったのか,その過程を開発者自らが書き下ろした。「激指」「GPS将棋」「Bonanza」「YSS」などの強豪プログラムの設計思想から導かれる戦いの歴史。


われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

われ敗れたり―コンピュータ棋戦のすべてを語る

ニコニコ生放送で100万人が見守った第1回将棋電王戦「米長永世棋聖vs.ボンクラーズ」。その激闘の裏側には何があったのか。羽生善治2冠ほかプロ棋士たちの観戦記付き。


この2冊を読んで、自分がまず思ったこと。関係者に伝わることを祈って…
集英社、特にヤングジャンプは、この作品の漫画化権利をすぐ獲れ!そして森田信吾に「栄光なき天才たち2013」として執筆させろ!!!』

でしたよ(笑)。
いやほんと、最初の本なんか読書中、俺の脳内には最初から最後まで、森田信吾の絵で情景が描かれていました。


立川談春「赤めだか」の紹介以来だが、ひさびに普通の書評ではなく、勝手に「ドラマ化(漫画化)」の企画を立てたことにして、擬似ドラマ仕立てにしてこの2冊を紹介しようか・・・

※以前書いた「擬似ドラマ化書評」はこれ

■この本を連続ドラマ化してはいかがか。立川談春「赤めだか」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100129/p3


【ドラマ 「盤上の決闘 コンピュータvs人間」】

第一話 〜「夜明け前の胎動」

1980年代、のちにコンピュータ将棋を牽引する松原仁の若き日…
大学教授 「きみ、コンピュータ将棋の研究をしたいと聞いたが…本当かね?」
松原「はい、その通りですが」
教授 「バカモン!!!きさまは、人間のクズだっ!!」

※……読者諸氏よ、若手が「コンピュータ将棋を研究したい」と希望を述べただけで、大御所の大学教授から「貴様は人間のくずだ!」とまで言われた…という話は…完全なる実話である!!
 
松原「クッ!チェスは海外ではコンピューターの研究題材として既に活発に研究されているというのに…このままでは、日本は世界から…遅れをとるぞ!」
仲間「こうなれば、こっそりとでも研究会を作りましょうか」

そして、極秘裏に、人間に勝つコンピューターの第一歩が踏み出された!
仲間「ウーン…研究を始めたはいいが…チェスは既に研究で、分岐数が35の80乗(10の120乗)だという結果が既に出ている…だが将棋に、そんなデータはないぞ…」
仲間2「自分たちでやるしかあるまい。こんな初歩的なことから始めなきゃいけないなんて…」
松原「それだけ、誰もやったことがない未知の世界だってことさ!やりがいがあるじゃないか・・・よし、プロ棋士棋譜を集めて分かった、将棋の分岐数は80の115乗(10の220乗)だっ!!!」
「じゅ、10の220乗!!!」
「張り駒があるから当然として…チェスより100乗も多いじゃないか!!」

松原がはじき出したこの数字・・・10の220乗が、のちに人間棋士の一角を崩したコンピュータソフト「あから」の語源となるのである!!

第二回 「コンピュータ将棋選手権」

舞台は1990年12月!中東ではクウェートへ侵攻したイラクに米国主導の多国籍軍が撤退要求を突きつけ、まさに「湾岸危機」が「湾岸戦争」となるかに世界が注目していた時期だった。
そんな中で滝澤武信らがひっそりと開いたイベント…
滝澤「申し込みは何組だ?」
「それが…まだ4組で…」
滝澤「ムゥ!あまりにも少ないな…やむをえん、2組は招待参加させることにしよう」
「えっ、そんなチームがあるのですか?」
滝澤「あるだろう、ファミコンの、あの…」
「えーっ、要は市販ソフトに参加してもらうんですか?我々大学人の専用プログラミングに混じって・・・」
しかし…
「第一回優勝者は『永世名人』です!!」
「ハハハ…優勝しちゃったよ…コナミのソフトが…」
滝澤「悲観することはないっ、これは重要な第一歩だ!互いに異なるソフトで、切磋琢磨していけば…かならずコンピュータ将棋は進歩する!…それにしても、こんな海のものとも山のものともつかない試みに将棋会館を貸してくれた日本将棋連盟には感謝せねば。」


奨励会に通う若者やプロ棋士が、ちょっと会場を覗き込んでは、拙いコンピュータの一手ごとにプッと吹き出す。
「こ、こりゃ…ちょっと見てらんねえや!」
「あれならまだ、チンパンジーに将棋を教えたほうが上達しそうだぜ!」
しかし、その喧騒を聞きながら、ひとりの風格ある棋士の目の奥に、鋭い光が浮かんでいた…

第三回 アルゴリズムの迷宮…そして「激指」登場へ。

コンピュータによる将棋とは、畢竟アルゴリズムによる将棋である!この伝統は古く…実はチェスの「アルゴリズムvs人間」は、コンピューターそのものより早い! 1951年、アラン・チューリングは手書きでチェスの駒を動かすアルゴリズムを製作、その手順書に従っての動きで、チェスを数回やっただけの女性を対戦…そして敗北したとの記録がある。

「チェスも将棋も、二人完全情報確定的ゼロ和ゲーム!隠れたデータはなく、盤上にすべての情報がある。ならば最大最小戦略の探索と局面評価によってシステムが作れないわけがないのだ!」

「しかし、膨大な分岐をどう対応するのか・・・」
あらゆる方法が提案され、組み合わされた!
「ネガマックス法」!「αβ木探索」!「反復深化」!「トランスポジションテーブル」!「拡張・枝刈り!」「静止探索・捕獲探索」! ちなみに写しながら、何のことだかわっぱりわからない(笑)!!

こんな試みを続ける研究者が増える中、世界コンピュータ将棋選手権の参加者も順調に増加していき、混戦模様となっていった。
そして1999年3月、東大近山研究室の4人が、この選手権会場をふらりと訪れたことが、コンピュータ将棋の歴史を書き換えていく!
 
「そうだ、詰めろ、詰めろ!!」
「アアーーッツ、なんでその手を指すんだァ!」

鶴岡慶雅「な…なんでこんなに盛り上がってるんだ?」
「この選手権は一回始まったら、研究者は修正も操作もできねえ。で、いまのソフトはどんなに優勢でも、どこから大ポカを絶対するから、最後まで結果がどうなるかが全然わかんねえのさ。だから盛り上がるんだ」
鶴岡「たしかに…まるで競馬場の雰囲気だ」
この熱狂をあとにした4人にもう、言葉は不要だった。
「俺たちも」「おう…」「来年」
「自分たちのソフトを作り、優勝を狙うぞ!!」

「激指」プロジェクトのスタートである!!

第四回 「激指」見参!!!

鶴岡「昨年は一見学者、今年は参加者としてこの大会に出るとか…」
「近山研究室で、こっそり研究テーマとは別にやってきた成果を見せないとな。日本最高学府の名折れだぜ」

―――しかし…。
「二次予選までで4敗、決勝にも進出できないだって!」
「とんだ大恥をかいたよ!」
「もうやめだ、やめ!!!」

しかし、この手痛い敗北が発想の転換をコンピュータ将棋にもたらすのである。
「今のコンピュータスペックでは、結局手数を読みきれないということだ。考えたんだが…手数ではなく確率を使ったらどうだろう?」
「な、なんだって?」

局面が実現するであろう確率を「実現確率」とし、それを利用して
「実現確率=親の局面の実現確率×遷移確率」という再帰的な式で計算する。
さらに2004年「ロジスティック回帰モデル」をこの確率モデルに利用すると、その能力は飛躍的に進んだ。世界で研究されるコンピュータチェスが同様のLMRを採用するよりも早い新思考だった!!

2005年、ひとつの重大な転機が訪れる。
読売新聞の社内会議で・・・・
「しかしなあ、巨人、ことしはダメだなこりゃ、あの堀内のヤロー、とんだ見込み違いだったわ!」
「あ、あの社長。巨人も重要でございますが、アマ竜王の件で」
「ああ?何かあるのか」
「は、はい、今回ひとつの余興といいますか、新しい試みとしまして将棋のコンピュータソフトを特別枠で招待したいと…」
「ふん、お前らにまかせるわ」
「はっ」
しかし、このとき招待された「激指」が、旋風を巻き起こすことになるのである―。

第五回 反攻の狼煙、巨大なる壁

2005年6月、アマの最高峰とされる、読売新聞主催の「アマ竜王」…ここに、ひとつの”余興”が組み込まれた。同年のコンピュータ将棋選手権、決勝7戦全勝で勝利した「激指」が”招待参加”されていたのである。
「コンピュータ将棋のジャッキー・ロビンソンか…」
関係者が、黒人リーグから大リーグ選手に初の移籍を果たし、その活躍それ自体で人種差別を吹き飛ばした米国の名野球選手になぞらえる。
「いやあ…ぼくは正直、負け方がぶざまでないことを祈っているんだよ」滝澤武信は力なく笑った。
実は昨年、「角落ち」のエキシビションで、勝又五段を激指が破る快挙!アマの猛者たちもそれを聞けば油断することはありえなかった!
しかし…激指は予選を2連勝!!決勝トーナメントでも緒戦を突破し、アマベスト16となった!
「なんと、機械がついに人間に追いつこうとしている、か…うちも主催者の立場はあるが、こんなおいしいネタをほっとくわけにゃあいかねえ、夕刊1面差し替えだ!!」
この記事は、読売新聞の1面を飾った!!
「ついに、ここまで来た・・・先行走者たるアマ名人、プロ棋士の背中がかすかに見え、足音が聞こえてきたぞ!まだ、道のりは遠いが、いずれは・・・」

しかし!!
「アワワッ、先生大変ですう、日本将棋連盟が、突然プロ棋士とコンピュータの対戦を禁止しました!!」
「な、なにっ!!!」

第六回 ライオンたちの掟

視点をここで、連盟側に移そう。
日本将棋連盟は、まだ参加チームが片手にも満たない時代から、会館をコンピュータ選手権の会場に貸し出すほど、コンピュータ将棋を応援していた。
参加チームの増大に伴って電源容量がまかないきれず、会場は第5回から移転したが…「コンピュータ将棋はプロ棋士と将棋連盟の技術的…そして経済的支援なしには発展しなかった」
関係者は口をそろえる。いわばプロ棋士、将棋連盟はコンピュータ将棋の親であった!!
それが、なぜ全面禁止となったのか?

「納得いかねえなあ!」
将棋会館奨励会員、若手プロなどの雑談中、こんな不満や疑問が主に若手から飛び交う。
「たしかにソフトはどんどん強くなってるけど…」
棋士が背中を見せたらおしまいだよ!!」
「連盟であれこれ決めてる爺さんたち、ソフトのことなんてわかってねえんじゃないの?」
 
「ほほう、このジジイの決定に何かご不満かな?」
その声に、若手たちは顔面蒼白となる。「か、会長…」
「ひとつおしえてあげよう。プロ棋士たるもの、確かに背中を見せちゃいかん。しかし、プロたるもの、その戦いはゼニにしなきゃいかん。だから、私は、コンピュータとプロ棋士は対局料1億円と決めた。それだけだよ…」

怒りも叱りもせず、そう言い残すと、御付の人たちと共にひょうひょうと去っていく米長。あっけにとられた若手たちは、ひとまずほっと安堵のため息を漏らしつつも、米長の言葉に完全に納得いったとは言えなかった。
「1億円って…」
「そんなこと、いつか実現するのかな…」

米長は送迎の車の、後部座席で愉快そうに笑う。
「くくく、なかなか若い連中も威勢がいいじゃないか。ま、実際にプロで上に行って、それで本当に対局にYESというやつが、どれぐらいいるかな…、この米長のような、狂ったやつがな…」

第七回 革命児、その名はBonanza

これに先立つ1997年!IBMのコンピュータ・チェス「DEEP BLUE」が、人間の世界チャンピオン、カスパロフから勝利を収めていた!!
世界を駆けたこのニュースはもちろん、日本のC将棋研究者も奮い立たせたが…
「快挙は快挙だが、まあ『35の80乗(10の120乗)』と『80の115乗(10の220乗)』の違いだな」
「ああ、チェスのようなやり方は到底将棋では使えない。コンピュータ将棋はまったく新しいアプローチで、プロ棋士に追いつくしかない。」
しかし…
「あのー、コンピューターチェスのやり方って、本当にダメなんですかね」
こう疑問を呈したのが、保木邦仁だった!!
「だいたい、どちらも王様を取ると勝つゲームでしょ、そんなに違いがあるかなあ…」
「ははは、これだから素人は」
「チェスソフトの『全幅探索』は、あまりに膨大な将棋ではムリなんだよ」

「ハー、そうですかねえ…じゃあ、自分で作ってみるか」
このカナダ在住の若者が作り上げたBonanzaは「激指」「YSS」「IS」などがしのぎを削っていたコンピュータ将棋選手権で…2006年に、初出場・初優勝の快挙を成し遂げたのだ!!!

「なっ、なんだ、このソフトは!!」
「この強さ…今までのソフトとは違う、何かがある!!」
Bonanzaの謎を解明することで、われわれの将棋ソフトも格段に進化するぞ!!」
そう、多くの技術者が勇んだが…しかしそのなぞは、あっさり作者の保木が明らかにした。
「ああ、ソースコードは公開します…で、要はBonanzaは『機械学習』をさせてるんですよ。プロに学んで」
「????」
そう!駒の動きの有利、不利を・・・「評価関数」を、過去5万枚のプロ棋士棋譜から、プログラムが自動的に導き出す…それがBonanzaの強さの秘密だった!!!!
「そして、近似的な形成判断を、『王を含む3駒』の組み合わせで網羅するんです」
「な、なんだってー!!」

このBonanzaの思想は・・・まさしく革命をもたらした!!
そして公開されたソースコードを元に、われもわれもと新ソフトが生まれる…

第八回 極秘指令「棋士を、狩れ」〜そして「アベンジャーズ」が結成された

2010年!
情報処理学会は創立半世紀の記念事業として、ついに禁断の目標を公にした。
「トッププロ棋士に勝つコンピュータ将棋プロジェクト」を正式な組織目標、組織事業として発足させたのである!!
はこだて未来大学学長は、こうその野望を語った。
SETI@HOME…その将棋版だよ、君。」
つまり、パソコン主体の将棋ソフトに、大規模な並列計算、東大、京大レベルのコンピューターを使うという途方もない構想だった!!!
しかし!
これまで盤上で戦い続けてきたソフトたち。どの技術者も、「我こそ天下一」の誇りをもった職人たちだ。
そのソフトを統合し、最強のソフトを作る…
まさに無謀とも思われる試みだった。
合宿でもまさにかんかんがくがく、喧々囂々。
「こうなりゃ最後は、戦って決着すりゃいいんだ!」
「おうよ!!」
「はなっからそうすりゃ良かったんだ!」
いまにも血の雨がふらんとするその時、ひとりの参加者が提案する・・・
「いっそ…複数プログラムの多数決で、次の一手を決めたら?」

これにて読み切り

このあと、この多数決システムを搭載したボンクラーズの誕生、女性棋士との対決、「電王戦」の実現、米長邦雄の特訓と計略、そして戦いへ・・・と続くのですが、ここで読みきりとさせていただきます。
ボンクラーズの多数決システムの話が、下の紹介リンク「俺の邪悪なメモ」のテーマにもなっています)
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当たり前というか、この前の「赤めだか」と同じだが、この形式で書くと膨大になって、疲れるのである(笑)。
午前中に4回を書いて、午後にその後を書き、まあこのへんで格好がついたということで擬似ドラマは終了です。
ちなみに上の話は8割がたが「人間に勝つコンピュータ将棋の作り方」のほうの話であって、米長「われ敗れたり」のほうは1割か2割ほど。
このドラマの続編ができれば、故米長会長が主役の「死闘編」となるのでしょうね。


だが、
これでは電王戦1周年特集にはならんので、会見全文を再度紹介しよう。これは「われ敗れたり」の巻末にも記録として収録されている。

■米長永世棋聖「築いた万里の長城、穴が開いた」 電王戦敗北後の会見 全文
http://news.nicovideo.jp/watch/nw178307

【ブログ「俺の邪悪なメモ」より】
■人間VSコンピューター この世紀の決戦を楽しむために
http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20100405/p1
■これが人間を超えるかもしれないコンピューターの姿か……
http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20101004/p1
■プロ棋士vsコンピューター - 「あから2010」の威力を目撃してきた
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/10/12/akara/index.html
■ハートキャッチあから?!
http://d.hatena.ne.jp/tsumiyama/20101013/p1

そしてことし、第二回電王戦は5vs5の団体戦