毎日新聞「記者の目」
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20111116ddm004070188000c.html
記者の目:米大統領候補者選びのケイン氏人気=吉富裕倫(静岡支局)
◇吉富裕倫(ひろみち) 静岡支局(前ロサンゼルス支局)
◇白人保守層の主張に迎合か米国の野党共和党の大統領候補者選びは、黒人実業家のハーマン・ケイン氏(65)が草の根保守「ティーパーティー(茶会運動)」から支持され勢いがある。私は6月に米国の人種問題について「きしむ多人種国家アメリカ」を連載し、非白人人口増大や経済低迷と軌を一にし、白人保守層の一部に移民排斥などの人種差別的な感情が高まっていることを指摘した。マイノリティー(少数派)の支持が高い民主党でなく、保守勢力の共和党でなぜ黒人候補者が人気を集めるのか。米メディアでは、同氏の「白人への迎合」を指摘する見方も出ている。
◇貧しい家庭から経済的に大成功ケイン氏は人種隔離が厳しかった南部ジョージア州アトランタの貧しい家庭から身を起こし、ピザチェーン「ゴッドファーザーズ・ピザ」の最高経営責任者(CEO)に上り詰めるという経済的成功を収めた立志伝中の人物だ。
モアハウス大学という全員黒人の男子大学を卒業。ただ、学生時代盛んだった黒人への差別撤廃を求める公民権運動には参加せず、「トラブルに巻き込まれないようにするため」勉強と学費稼ぎのアルバイトに専心した。
政治に深く関わったきっかけは93年、当時のクリントン民主党政権が打ち出した医療保険制度改革。雇用主に従業員の保険料の8割を負担させる内容を含んでいたため、全米レストラン協会の会長の立場から、反対の急先鋒(せんぽう)として廃案に追い込んだ。
(略)
ケイン氏は、そうしたマイノリティーに反感を抱く白人の敵意さえも取り込むことで、政治的影響力を確保しようとしているように見える。さらに、ティーパーティーの集会で「ここには人種差別主義者はいない」と持ち上げ、「黒人は民主党を支持するよう洗脳されている」と述べる。「白人に話を聞いてもらうために黒人のマイナスイメージを引き合いに出している」(ブラウン大のウリ・ライダー客員研究員=米紙ニューヨーク・タイムズ)のだろうか。
(略)ビジネスでの成功と、所得税、法人税、消費税のいずれも9%にする分かりやすい経済政策、妊娠中絶反対などで保守派の評価を得ている。米国政治は近年、中間派、穏健派の存在感が薄れ、両極への分断が目立つ。製造業の海外移転が続き、中産階級が衰退し貧富の差が拡大したことが背景にある。
そうした状況の下での今回の大統領選。もし「オバマ対ケイン」になれば、「史上初の黒人大統領誕生」の前回に続き、「史上初の黒人同士の対決」という画期的な選挙になるはずだ。だが、ケイン氏は「今の米国で人種差別が大きく人を妨げることはない」と述べ、目の前の人種・民族問題を直視しているようには見えないし、人権派弁護士だったオバマ大統領すら「白人の歴代民主党大統領より人種問題に消極的」と指摘されることがある。私には現状が「新しい米国」を感じさせるものとは思えない。
いやー…。「ティーパーティの原動力は人種差別!(キリッ)」だった人のとまどいは分かるけどね。
「反戦自衛官」でも「靖国神社を容認する神父」でも何でもいいが、そりゃ、反対派の陣営に所属することが多い陣営から、こっちの陣営に馳せ参じた人が、アピール効果を期待されて注目や支持を浴びることはそりゃ、珍しくない。
でも、今は大統領予備選だよ?自分で一票を、その人に入れるんだよ。もちろん予備選は長丁場で、今優勢の候補も失速することは多いが、各州では一期一会の機会だ。そこで「人種差別がないことのPRのために、ほんとは黒人が大嫌いだけど票を入れておこう」なんて選択肢をするかね?
やっぱり考えにくいなあ。
「彼は黒人だけど、政策は俺たち白人保守層に有利だから投票する」ってスタンス?でも人種差別って、もっと感情的、骨がらみなものなんじゃないかね。「手が震えてどうしても、黒人の名前を投票用紙に書けない」みたいな(実際はパンチ式とかだけど)。政策の近似で、あっさり黒人に大統領候補として1票を投じられるなら、それは何かもっと別のもののような。
正直、現時点での自分の判断を述べるなら「ケイン現象」という事実によって、ティーパーティと人種差別主義の直接的な関係・一体性を論じていた言説は、ほぼ無効化…とまでは言わないが、大幅な修正を迫られざるを得ないと思われます。
たぶん、代わって(…というか、それを指摘する人もかなりいた)「リバタリアニズム」などを中心とする別の思想をもっと軸に据えて、ティーパーティを考えるべきなのでしょう。もう少し他の思想も分析には必要でしょうが。
今回紹介した「記者の目」記事は、それをあまり認めたがらないように感じた。