twitterを見ていたら『「国際BL(※BLとは「ボーイズ・ラブ」の略称、昔でいうところの「やおい」)学会」というものが開かれた』というツイートをだれかが書いていて、えーっと驚く半面、なるほどさもありなん、という納得もあった。
■藤本由香里先生のBL国際学会とヘタリア
http://togetter.com/li/92933
非常に目立つ文化である一方、体系的な研究とか常識とかがあるわけではないから、そういうところでの研究というのが、広く還元されたらそれはそれで面白い。
んで、ホットエントリで今、「同性愛を描く作品への嫌悪表明と差別」について集中的に話題に上がっている。最近アニメ化された、ある作品の描写と、それへの視聴者の反応がきっかけらしい。
■「放浪息子」をめぐるホモフォビア(同性愛嫌悪)
http://togetter.com/li/92256
■嫌悪表明問題
http://togetter.com/li/93008
■みやきち日記
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20110124/p2
http://d.hatena.ne.jp/miyakichi/20110126/p1
下のエントリには自分もはてなブックマークでコメントしているけど、自分の興味はキリスト教やイスラム教などから見た「真善美を断定する宗教的価値観と世俗的寛容の衝突」という視点での興味に偏っているので、あまり普遍性は無いかもしれない。
さて、その論争とは別に、
ここ1、2年ほど個人的に思ってきたことがある。正確にはよしながふみが「きのう何食べた?」という傑作で一般誌に乗り込み、しかも市民社会で普通に、淡々と日常生活を送る(…中での葛藤ももちろんあるようだが)ゲイのカップルを描きはじめた2007年ごろからだろうか。
- 作者: よしながふみ
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んでね。
自分はそういうものを通じて「BL」「やおい」というものの存在および「HOW」(どのようにして)という部分でのディテールは、おそらく通常の人以上に知ってると思うのよ。その前の段階としても、ファンロード長く読んでいればいやおうなしに断片的な知識も分かってくるし(笑)。
しかし、よくよく考えると「WHY」(なぜ?)の部分で……「なぜに(傾向として)女性読者は男性と男性の恋愛物語を好むのか」という問いを突き詰めたことはなかった。時々はそういうものに接したとき考えたかもしれないが、結論に至らなかったさ。たぶんそこには「どうせ考えても、自分じゃ理由は分からないだろう」という、それこそ内なる偏見?があったかもしれない。
しかし「学会」が出来たというその話題を見て、もう一回考えて、とりあえず暫定的な仮説だけでも出しておきたいとあらためて思ったので、ここで雑文として書きとめておきたい。
これぐらい本が出ている中では、たぶん「女性がBLを好む理由」を論じている書籍もあるとは思うけど、それはここで仮説を立ててから、その後「答え合わせ」的に読んでみたい。
一応装備を確認。
自分が「やおい」「BL」を把握するための資料
・「げんしけん」
・「となりの801ちゃん」
・よしながふみ作品「大奥」「きのう何食べた?」「西洋骨董洋菓子店」「フラワー・オブ・ライフ」
・「残酷な神が支配する」数巻程度
・山岸涼子「日出処の天子」
・「ファンロード」投稿者の自虐ネタ(80年代〜90年代初頭)
・田中芳樹がなんかそういうファンに怒っている発言
・久米田康二「さよなら絶望先生」のネタ
・別冊宝島「おたくの本」のルポ
・浅羽通明の一部論考
・中島梓「わが心のフラッシュマン」
仮説1…『特に少年漫画の「友情」を「恋愛」に変換したほうが一部女性には分かり易いから』
少年漫画は某編集部のスローガンどおり「努力・友情・勝利」が基本で、ジャンルとして熱い友情や友情のための自己犠牲、葛藤などが描かれる。しかし、女性は…おそらく社会構造、ジェンダーのゆえに…恋愛を重要ごととして捉えるように刷り込まれていく(?)、そのため作中で「AとBの友情」と描写される行動も、「AとBが恋愛関係」とみなすほうが把握しやすく、また楽しめる。少年漫画でそれを読み換えると、自然と男同士の恋愛になる。
参考 「文系男子より趣味が男らしいかも知れない腐女子 」
http://d.hatena.ne.jp/gaikichi/20090614
仮説2…『少年同士の恋愛は自分が第三者、傍観できる立場になるから』
恋愛の生々しい葛藤や感情の動きは、フィクションの中でも体験するときにヘビーで重い感情を持たされてしんどい。だから対象は自分と縁遠いほうがよく、そういう縁遠いところの恋愛模様を眺める、というほうがエンターテイメントとして楽しめる。自分と根本的に性別が違う男同士の恋愛は、安心することができ、自分も傷つかない(※この論考の特に後半部分、もともとは田中芳樹氏の発言。だが、そのとき彼は自分の「銀英伝」キャラのやおい本に相当怒っており、割り引くことも必要か(笑))
仮説3…『普通に少年と少女が漫画内で恋愛をすると、女性読者は作中の少女に嫉妬するから』(山岸涼子説)
2の変形といえば言えるかもしれないけど…個人的には「えーっ?そんなことあるかなぁ」と思わないでもないけど、仰ってる人が人だからなるほどとせざるを得ないでしょ。
文庫版「日出処の天子」で、山岸氏と梅原猛氏の対談があり、そこで本人が言明してるんすよ。
(クリックするとオリジナルサイズも見られます)
私は何度も男性の編集者さんを説き伏せるのに苦心した覚えがあるんですけれども、男性の目から見ると少女マンガに男しか出てこないというのは納得がいかないようなんですね。ところが私は逆だと思っておりまして、というのも読者は作品に自己投影して見るわけなんですね。ですから素敵な男性と結ばれたいのは本当の自分自身なんです。ところがそこに自分より理想的な女性が出てきて、自分の好きなその作中の男性と結ばれるというと、ある種の嫉妬みたいなものが出ちゃうんです。で、それよりも男同士のほうがいっそ楽なんですね。
仮説4…宝塚人気の派生(女性・男性らしくない、中間的なものへの魅力)
宝塚が人気があるくらいだから、BLも人気があって当然だろう…ってなんか?議論がねじれているような気がしないでもないが、仮説だから一応メモしておこう。
仮説5…もともとは、性的描写への規制の抜け道として男性同性愛を描くという「手段」だったのが、独自発展を遂げた。(竹宮恵子説)
もちろん「これを描いているの、西原理恵子だろ?どうせ誇張してるわ」と言われたら、まあその可能性は大いにあります、というしかないが(笑)
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仮説6…日本の漫画はそもそも「ハンサムな男性」は女性と見わけが付かないような描き方をされる。だから容易に取り替えることが出来た。
日本漫画に、いわゆる「アニメ絵」が生まれるまでの過程について、以前2度ほど調べたり考察してみた。
■「かわいい」の科学−−あるいは日本漫画の不思議な進化について
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080821/p5
■日本漫画・アニメの可能性と限界。いわゆる「アニメ絵」が受け入れられる文化圏の拡大について
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20091002/p5
おお、上の文章の中に既にこうある。
最後に思いつきだけ書いておくと、「日本漫画の『美形』は、そのまま男にも女にもなる、つーか見分けがつかん」
このへんとBL文化の関係・・・にまで話を広げられればいいのだが、力尽きた。
2年も放置していたんですね(笑)。というか放置したことを忘れていたのか。
まあそういうわけで、アメコミみたいに男性がごっつく描写されてるああいう絵と比べると、間違いなく日本の主流漫画は、男性の特に2枚目…は、美人の女性とそのまま入れ替えることができるような描き方でしょう。ならばそこから、そういうキャラクターの一方が男性のままでも…いや、それはならないな。この仮説6は、BLの原動力ではなく、BLを広がりやすくする補助的な要因なのかも、しれない。
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ふう、仮説を展開し終わった。
ご覧の通り仮説といいながら、ずばり他人(それも大家)が述べている説をそのまま紹介するだけだったり、ひょっとしたら既に常識化しているものかもしれないが、同じ結論でも自分で到達すればまたそれも楽しい。
また、上の仮説はまったく間違いで、別の理由などがあると分かればそれもまたたのし。
ではこのあと、参考文献を探しつつ「答えあわせ」に取り組んでみますよ。
実際に「なぜ『BL』は女性に人気があるのか?」をずばり論じたような本がありますか?
今回のBL学会の主催者とかならそういう本を書いているかもしれないので、その辺から探してみましょうかね。あと、上記の本など1、2冊しか読んでいない中島梓の本なんかを見てみるか。
あらためて思うと、モーニングによしながふみが来たのはすごいことだった。編集者も偉かった。
それをきっかけに、いくつかのシリーズを読むことができたのは幸いだった。注意深く選ばないと、ライトファンには向かないガチンコの路線もある(笑)のだが、いつか読んだシリーズ(上参照)は論じたい。
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感想
このエントリは上に書いたように、その世界での常識にどれほど近づけたか、またはずしたかは分からないけど、ある種ブログで文章を書いて一番必要な「自己満足感」は大いに得られたかな。今まで混沌としていたことを自分なりに整理するのは気持ちがいいや。