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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「すべては歴史の前にひれふす」。・・・外務省密約公開は現政権の”適時打”だ。

書こうと思ってて何日か過ぎてしまったが、日米の「密約」について、調査委員会の結論が出た。その総指揮者が”常にバッターボックスに立つ男”北岡伸一氏( http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20100301#p4 )であることも感慨深い。


で、今回の密約解明は珍しく…と言っていいのか、きちんと結果が出た。ヒットというだけでなく、走者がちゃんと本塁を踏んだタイムリーヒットになったのではないか。ここは原理主義と呼ばれる岡田克也氏の個性もあったかもしれない。

国と国の密約というものは完全に排除できるかというと難しい部分はたしかにある。ただし、外交も含めて、政府のものは国民がカマドの灰まで俺たちのもの、という建前を持つ民主主義国家においては、当事者が死ぬなどその実効性が無くなった時(それがまれに超長期にわたることもたしかにあるだろうが、例外を論じてもしょうがない。)に原則、公開されるのは当然なのである。
そのときに「あ、あの男、いさましいこと言っといてホントはこんなこと言ってたかよ」「なんだあのウソツキめ」「カネをここからもらっていたとは意外!」みたいに評価されるのは仕方ない。
そうやって歴史の法廷から”断罪”されることを嫌がるなら、そういう場所でゲームのプレイヤーにならなければいいだけ。
だから今回、一部の文書が消失しているとするなら、密約の有無の前に書類紛失の、その責任もある。


だから、この前紹介した、ハルバースタムの遺作「ザ・コールデスト・ウインター」に対し版元が付けた宣伝文句
「すべては歴史の前にひれふす」
をこのエントリのタイトルに持ってきたのです。

これも定番で、毎回読んでいただいている読者には「もう飽きた」といわれるかもしれないが、そこはご勘弁いただいて再引用する。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/622_14497.html

書洩(かきも)らしは? と歴史家が聞く。

 書洩らし? 冗談ではない、書かれなかった事は、無かった事じゃ。芽の出ぬ種子は、結局初めから無かったのじゃわい。歴史とはな、この粘土板のことじゃ。

 若い歴史家は情なさそうな顔をして、指し示された瓦を見た。

文字の精霊共の恐しい力を、イシュディ・ナブよ、君はまだ知らぬとみえるな。文字の精共が、一度ある事柄を捉えて、これを己の姿で現すとなると、その事柄はもはや、不滅の生命を得るのじゃ。反対に、文字の精の力ある手に触れなかったものは、いかなるものも、その存在を失わねばならぬ。

中島敦文字禍」より)

「天地正気有り 雑然として 流形を賦く
(略) ・・・時窮すれば節乃ち見れ  (略)
斉に在りては太史の簡 晋に在りては董狐の筆・・・」

http://www.c-able.ne.jp/~s-town/seiki.htm

斉の宰相崔杼が、主君霊公を殺したとき、事実を隠蔽しようとした。
しかし、職務に忠実な史官は「崔杼、其の君を弑す」と記録した。
怒った崔杼はこの史官を殺したが、そのふたりの弟も同じように書き、殺され、4人目の弟がついにそれを記録に残した・・・

クーデターをした宰相が、この4人目の処刑をあきらめた時は、既に5人目が竹簡を持ってこの都に上る途中だったそうな(笑)。

「だから西山太吉氏の名誉が回復される」かというとちょと違う。

ダイヤモンド・オンラインの上杉隆氏の論考
http://diamond.jp/series/uesugi/10117/?page=3

■密約を暴き新聞界から抹殺された西山氏の名誉回復は当然
・・・そして何より、政治と役所の両者の欺瞞と不正を、事実上黙認してきたのが外務省記者クラブである。

 長年にわたって政府・外務省の隠蔽工作を見過ごしてきたことは、共犯関係にあったといわざるを得ない。具体的には39年前、その事実を暴いた一人の記者を守るどころか、逆にジャーナリズム界から追放した過ちをまずは認めるべきだ。その記者、西山太吉氏は毎日新聞の臺宏士記者のインタビューに対してこう語っている。

〈西山氏 自民党政権が一貫して「一切密約はない」としてきた説明を否定したわけで、画期的な結論だ。(略)政府のウソが不問に付され、西山だけが罪に問われるのは不公正だと、「天」が真相究明の機会を与えてくれたのだと思う〉
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20100310k0000m040112000c.html

 報告書では、西山氏の記事には触れているものの、氏の指摘した「密約」を具体的に追認する証拠はなかったとしている。だが、沖縄返還時の原状回復補償費の肩代わりに関する「密約」そのものの存在については認めている。

 これで、39年前の西山記者の記事の正しさがほぼ証明されたといっていいだろう。西山氏の名誉回復は当然にあってしかるべきだ。

記事の内容が事実か、事実でないかという観点から西山氏を評価したり批判したりする人が、政府の当事者以外何人いたのか。というか「フルシチョフは大ばか者!と叫んだ男が逮捕された。容疑は国家機密漏洩」のデンである。
というより類型的には
「僕はパパを殺すことに決めた」事件ってあったでしょ?
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/090415/crm0904151333011-n1.htm
このとき、著者の草薙厚子氏が入手し、それを元に執筆した内容が、結果的に供述調書の内容と一致したらそれで彼女は非難を免れるのか、ってのと同様の話なので。


これはぐだぐだ書くより、大きなスペースをさいて西山批判を行っている

秘密とウソと報道 (幻冬舎新書)

秘密とウソと報道 (幻冬舎新書)

を参照されたい。

念のためツイッターtwitter)で著者に聞いてみた

http://twitter.com/gryphonjapan/status/10344372756
@hga02104 上杉隆さんがhttp://diamond.jp/series/uesugi/10117/?page=3 で「西山記者の名誉回復は当然」と論じていますが、これを読んで「秘密とウソと報道」でそちらがお書きになった西山批判のお考えが修正された、などはありますか


まったく。RT @gryphonjapan
http://twitter.com/hga02104/status/10344629348

そうそう、密約に関してはぜひ「三木睦子」氏にもコメントを

密約は代々申し告がれる中、首相には途中(海部俊樹?)で申し送りが切れたとも言われるが、そうすると三木武夫の歴史上の位置づけが面白い。というのは、他の保守政治家がとは違い、沖縄返還に関しては「オモテ」というか、いわゆる正論を大いに言うことで政治的な地位を高めて、それがその後首相の座を射止めることにも大いに寄与したからだ。
この人が「知っていた」ということになると、他の歴代首相とはまた違った意味合いが出て来るのだ。そして三木夫人で、今ははっきり言って「夫の神格化」に務めている三木睦子氏にこそ、感想を聞いてみたい。

若泉敬「他策無カリシヲ信ゼムト欲ス」

ある意味、一連の調査は「この本は正しかったです」という追認を国家を挙げて行った、と要約されるようだ・・・といっても、この本膨大なんで、ほんのちょっと読んでやめちゃった。
ただ、書店で立ち読みした冒頭ははっきり覚えている。本の活字に過ぎないのに、日本刀を突きつけられるような、異様な迫力と切迫感に満ちていたのだった。
・・・その記憶を元に、あらためて検索した。

他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス 〈新装版〉

他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス 〈新装版〉

http://d.hatena.ne.jp/tsugumi711/20091121/

本の終わりの方に「私がこの物語においてめざしたところは、単なる回顧録ではない。」「事実をありのまま述べようとした・・・・”宣誓供述書”である。」と書かれているが、まさにその通りの内容である。本の扉を開くと先ず沖縄攻防戦で犠牲となった「沖縄県民多数を含む彼我20数万の御霊に捧げる」とした鎮魂献詞があり、次に「何事も隠さず、付け加えず、偽りを述べない」として、サインと捺印がある。そして、本書刊行についての関係者への謝辞があるが、巻末の出版社の「お願い」を読むと、著者から、

本書に書かれたのはすべて事実であって、これ以上でも以下でもない。従って、内容についての問い合わせ、面会、℡等はすべて固辞する との意思表示があったことが述べられている。そして本書の印税等の収入はすべて社会に還元するとの意思表示があり、・・・(略)・・・そして96年7月 朝日新聞が若泉氏が福井の自宅で腹膜炎で死去されたと伝える訃報を載せた。

 ところが、若泉氏は病気ではなく、国家機密を公にした責任をとって自宅で服毒自決された のだそうだ。若泉氏と親しかった手嶋龍一氏など、知る人ぞ知る事実である。

最近、最後の事実も広く伝えられた。
廃刊で中断のような形となったが、諸君!にも最近まで、若泉敬氏の評伝が連載されていた。