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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

ポスト新聞・雑誌のITメディアのあり方は?ネット新聞・雑誌の可能性(完全版)

(※7月4日の朝に前半、5日未明に記事が完成したのでこちらに移動します)
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20090702
■2009-07-02 新聞社の維持費を払うのは誰?

まことにまことに残念なことに、というのは大げさでしかも身の程知らずなのだけど、ほぼ同じような結論に達しつつも、それを書くことをサボっていたら先を越されてしまった感じがする。

当方はいちど、こういうエントリを書いて、
■新聞・雑誌はこうネットに地位を奪われ、こうネット上で再生する?(佐々木俊尚の論考より)
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20090520#p3

その続編として展開したかったのだ。
だが、上のChikirin氏の論考で最終結論はほぼ見えているから、別の方角からどういうふうにそこへたどり着いたか、それをもう少し個別の具体例を挙げて検証したいと思う。

高野孟の「 THE JOURNAL 」

http://www.the-journal.jp/

田原総一朗とつるみつつ、80年代後半からいろんなところに出入りしていたジャーナリスト・高野孟氏、昔主宰していた「インサイダー」はどうなったんかしらないが、最近満を持して始めたのがこの「THE JOURNAL」だ。
民主党寄りはあからさまではあるが(笑)、それはそれとして、けっこう名前を知られた著名人が執筆陣として名前を連ねていることはまぁ間違いない。特に、TBS幹部の金平茂茂紀、週刊朝日編集長の山口一臣両氏は、両方ともなかなかTV上、紙面ではあからさまには出せない肉声を公にしており、それに触れられるこちらも個人的には大変楽しんでいる。(もちろん批判を含めて)
(最近、金平氏のネット文章は書籍化された由 http://www.the-journal.jp/contents/info/2009/06/post_29.html )
形態としては、やっぱりこれはひとつの、ネット上の「雑誌」「新聞」の変種だと思っていいだろう。

魚住昭「魚の目」

おもしろいのは、その執筆者の一人だった魚住昭氏が、このWEB上の”雑誌”に触発され、自分がオーナー、編集長となるウェブマガを最近創刊したことだ。魚住昭、このブログの読者なら知ってますね、「野中広務 差別と権力」「渡邉恒雄 メディアと権力」などの執筆者。

たしか、今年5月だか4月だかの創刊だったよ。


こっちもそうそうたる有名人がそろっていますね。
ここからは一度このブログは、山口二郎の「記号式投票制度論」を紹介したことがある。知らなかった人はこの機会にお見知りおきのほどを。

http://uonome.jp/
しかしまぁ、シャレはきいているけど、検索の不便はあるサイト名やね(笑)。

外国の例。ハフィントン・ポスト

朝日新聞の中で綴じ込み式で形式上別紙面になっている「GLOBE」というものに、2009年2月16日号(第10号)で「ハフィントン・ポスト」が紹介されている。
オバマ就任直後の熱狂を思い出してほしいが、あの時、大統領選後初の会見に「インターネットメディアの記者が初めて参加した!」という話が話題になったことがあるでしょう。あのメディアですわ。

ハフィントンポストというメディアは今後も発展が見込まれるので、いま「ハフィントン」でキーワードつくっておきました。


つい最近、町山智浩氏が「クーリエ・ジャポン」に、このハフィントンと、それに先行し、クリントン時代に先行して保守派ネットメディアとして支持を集め、あまつさえ全米と世界を揺るがす「クリントン不倫スキャンダル」をすっぱ抜いた「ドラッジ・リポート」( http://www.drudgereport.com/ )を紹介した。というかハフィントンポストは転向リベラルの彼女が「ネットメディアは保守派が主役じゃない!『リベラル版ドラッジリポート』が必要だわ」となって始まったんだそうな。


ハフィントンポストが新興勢力ながら、なぜ人気No.1になったかというと、著名人の文章が読めるから。アル・ゴアとか(笑)。
なぜかというと、この人はいわばリベラルに”顔”が利くひとで、お金もあって(保守派の旦那から離婚を機にそうとうぶん取ったとか(笑))そういう勢力のサポーターだった。
それをいかして・・・その資金力をぶっこむのではなく、タダで有名人・有力政治家・文化人に文章を書かせたのだそうだ。


(続き)
まとめると
「時事問題解説や時事ニュースを、有名人をそろえて、雑誌風に提供するネットメディアは可能」
「その場合、有名人でも原稿料は『払わない』『安い』ほうがいい」と。

安いとかただで文章を書かせるとか反則だろ、とか、それがいいなら何でもありじゃん、とか既存の雑誌メディアは言うところだが、でも実際の話として、一行5万円とかいう大家が、普通に自分でブログを持ち、それを公開しているのがご時世だ。Chikirinさんのいう

・・・大新聞社がなくなったら、失業して自分で取材して記事を送ってくるようになった“元記者”から超格安で記事を買うだけだ。

つまり新聞社の社員記者のかわりに大量の“貧乏ネットライター”が現れるだけ、と思う。そして市場原理のなかでそういった「元新聞記者が寄り合ってつくった通信社」みたいなのができてくる。

彼らの収入は「一回リンクをクリックされたら○円」という今の新聞社がポータル企業からもらっている価格と同じであり、それは自社サイトの広告料をいれても、既存の新聞社の売り上げとは桁がひとつ違うレベルになるだろう。

こういう形での”値崩れ”が、一足先に起きているんじゃないかと思っている。


だから、ネット雑誌・ネット新聞的なものは案外、やりようがあるという気がする。
少なくとも、紙の雑誌よりコスト的に継続はしやすい。たとえば「ネット版『諸君!』」というのも想像してみると面白い。

ただし、根本の疑問。「ネット雑誌」って「リンク集」よりおもろいか?

たとえば、これを格闘技系のネット週刊誌・・・いや毎日更新だから日刊新聞か(笑)、そう思ってみてもらう。
http://nhbnews.mond.jp/nhbnews/bloglink.html

手前味噌もいいところだが、同じ毎日更新メディアとして「kam●pro MOVE」や「週プロ●モバイル」と比較してもそうそう負けないよ、という自負はあるある。本体のNHBニュース( http://blog.livedoor.jp/nhbnews/ )もね。


ディープリンクはネットのマナーとしてけしからん・いやけしかるという話は長く続いたが、実情お咎めなしの状況なら、たとえば「THE JOURNAL」と「魚の目」をバラして「ジャーナルからは山口一臣の記事を、魚の目からは山口二郎の記事を選ぼう。ほぼ日刊イトイ新聞からはあいつとあいつ、それから芸能人ブログで・・・」と、おいしいところだけつまみ食いして、勝手に「編集長」を名乗り、勝手にネット雑誌・ネット新聞を標榜すれば、たぶん単体のそれらのメディアより面白くすることも可能でっしゃろ。
つまらない記事を、執筆する人物とのしがらみでなかなか切れない、ということもないし(例:kamiproで連載されていた小説「無比人」)さ。


実際、ハフィントンポストも先行する「ドラッジリポート」も、独自のニュースはあるにしろ、リンク集的な性格が強いことは町山智浩氏も指摘しているし、実際に飛んでみるとその通りだ。

すぐれた記事や情報を探しリンクに張れば、それは価値のある「編集」に化ける!ということ。
私のページの左アンテナでいえば、独自記事・文章やリポート量にもそれぞれ濃淡はあるから一まとめにしちゃいかんが「カクトウログ」「ブラックアイ」「MMA IRONMAN」などが格闘技プロレス関係であげられる(1エントリ1リンクの形式が多いところは”雑誌的編集”というくくりとはまた別の話。)漫画関連だと「ゴルゴ31」など。私があげるまでもなく、「もはや雑誌だ」「紹介者は編集長だ」と思わせるようなリンクサイト運営者は多いですよね。

そうすると、必死こいて元の「ネット雑誌」を運営している人たちはどーなるの?最終的には稼げるの?少なくとも持続可能性があるぐらいの運営費とかを得られるの?という話にもなってくる。
(ちなみにハフィントンポストもドラッジリポートも、経営的には順調。ドラッジのほうは運営者の年収が億単位。ハフィントンは08年末、ベンチャーキャピタルから2500万ドル!の運営資金を得たという)

じゃあどこから資金を得るか。

これが結論部分の、「ちきりんさんと最終的に一緒になった」というところなのだが、わたしはこういう例を引こう。
上記・金平茂紀「テレビニュースは終わらない」p95.例の同氏がダン・ラザーに殉死(笑)した件についてだが、

次々とCBS攻撃(※「批判」ではなく「攻撃」という表現なのは執筆者の趣味)のブログが立ち上がったが、最も規模の大きなブログ("Rathergate.com")の運営スポンサーは、なんと例の「真実を求める高速艇退役軍人の会」(※2004年米国大統領選で民主党・ケリー候補へのネガティブキャンペーンCMを流した団体)の資金提供者だった。

これが2004年の話だが、正直最初に読んだときも「米国は進んでいるなぁ、いいことだな」と思いましたな。筆者の言いたいこととは違って。
ある政治的主張があると。単純に右とか左とかにしちゃおう。
右の団体でも一個人でも、それこそ政党でもいいわ。資金があるが表現力や取材力を持たない人々が、ブログやサイトに「私はあなたのスポンサーになりたい。書くのに必要な取材費や時間的余裕を生む費用を負担したい」と持ちかける。ブロガーがそれで食いつなぎ、取材してさらなる記事を書く。左の側が同様に、自分の主張にあったブロガーを探す。負担する・・・・


け ん ぜ ん です。すごく。


もっとも、この関係性は公になるほうがいい。政治に関連して寄付を受けとれるのは、ナントカ団体として登録された政治ブロガーに限る、とかでもいいだろうし、出すほうに公開を義務付けるという手もあるだろう。そこらへんは工夫次第。

というか、頭をひねっても、ネットで言論なり文字なり、またはぐっと広げて表現(エンターテインメント)で稼ぐとしたら、少なくともこのネット時代では

1・広く薄い、有料で見てくれるネットの大衆の投げ銭を待つ
2・連動した書籍やDVD、商品を売ったり、ライブを開いて入場料で稼ぐなど、もっと金をやり取りしやすい別の場所を持つ
3・広告を入れる形のスポンサー。
4・運営資金をそのまま出してくれる形のスポンサー。


この四つしか、わたしゃ思いつかなんだ。で、どれもまあ、いい悪いはない。それぞれ形式が違うだけで、ある。
そして「4」に関しては、今のところ言論・文字にカネを出してくれるのは「政治」がらみが相対的に一番あり得るんじゃないかと思うしだいです。
民主党になんとか政権をとらせたい!民主党に好意的なネットメディア(下心があるのか、客観的なジャーナリズムを貫いた結果民主党に好意的なのかはこの際問わない)を資金面でお手伝いしよう」

自公政権をなんとか維持したい!以下略」

も、そりゃ好意的ネットメディアにカネを出す動機としては十分だろう。
エンターテインメントの分野で、たとえば「今の平成ライダー石ノ森章太郎先生の精神から逸脱している!平成ライダー批判ブログを、資金面でお手伝いしよう」という、そういうスポンサーは多分めったに出てこないと思うんだよ(笑)


Chikirinさんは新聞の経営的な未来が暗いこと、紙の新聞の読者が急速に高齢化していること、農村の高齢者票が選挙結果を大きく左右することを合わせ技的に料理して「政党は、経営不振の新聞を買収して、キャンペーンの道具にしたら?」という皮肉な提言をしたわけだが、私はちょっとずれて、プロ的ネットメディアの最初の段階として、そういうネットメディアに「政治」が、政治という自分の目的のためにカネを出し始めるんじゃないか、そうしたらどうか・・・と予測というか提言した。


どっちも「言葉・論にカネを比較的出しそうなのが『政治』だ」という部分で問題意識を共有している(と勝手に思っている)。
だから、上のちきりんエントリに触発されて、ほったらかしておいた次世代ネットメディア(ネット雑誌)について書いてみました。


だが、「THE JOURNAL」の見出しと記事を見るたびに「これ、運営資金として民主党が直接カネを出したほうが、いろいろスッキリするんじゃないか?」と思ったことも理由のひとつであることは内緒だ(笑)

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2009年 07月号 [雑誌]

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テレビニュースは終わらない (集英社新書)

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