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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

好奇心の阿修羅、小松左京

日本沈没」、興行としてはヒットしたそうで。先行連載のビッグコミックスピリッツ版がちーとも面白くなかったんで、信用してなかったし今後も見に行くつもりはないのだが、日本SFの古典に光が当たり、その作者の名がもう一度思い起こされるのはうれしい。


わたしはSFファンを名乗りつつ、19世紀から1960-70年代の作品だけしか読まず、またそれで何の不自由も感じていないというよくある困った存在です。で、そういう人にとっては日本SFは星新一筒井康隆小松左京という非常に「中学生日記」な対象に代表されるのですが、その中でも個人的に、小松左京の作品だけ読んでいなかった。
これは単に、地元の図書館に星新一全集・筒井康隆全集はあったが、小松左京全集がなかったという理由による。子どもの読書傾向なんて、そういう理由で方向付けられてしまうのだよ。
それでも、代表作は順々に読んでいたけどね。


そんな小生が、小松左京の凄さを再認識したのは意外な場所で。
80年代末から90年代前半まで、少年サンデーで看板のひとつになっていたのが、今ではすっかり雑誌の中では「重みの在る脇役」的存在になった感もあるゆうきまさみの「機動警察パトレイバー」。これが人気絶頂ゆえに、小学館で(漫画に関する)ムックが出版され、そこで小松左京ゆうきまさみの対談が行われた。

こういう対談では大御所が「うむ、君も頑張ってるね。ご存知かな、古典SFでは30年代の先行作品に・・・」という感じで高みからお言葉を授ける、というパターンが非常に多いのだが・・・・小松左京はなんと「レイバーに柔道やらせろ、『YAWARA』みたいに」とか「シャフトの本拠地はアメリカとかじゃなくてもいいんじゃないか?移動する本社とか」(→これが実際、作品の中で極東マネジャーが豪華客船を本拠地とする設定として採用された)など、とにかくノリノリ、アゲアゲEVERY騎士だったんですよ。当時でも60代か70代だったはずなのに。

プロフィールには「鬼を通り越し、阿修羅のようなコミック愛読者」とあった。
(続く)

一時、体調を崩されたとも聞くが、また元気になられたそうで。



彼が2000年に、高千穂遥鹿野司との鼎談で出した「教養」という本があるのだが、この本の前書きで高千穂氏が、すごくご機嫌なエピソードを紹介している。

もっとも驚いたのは、小松さんの旺盛な好奇心でした。もちろん、その膨大な知識量にも圧倒されました。
(中略)
この人は桁が違う。そう思いました。
何かの用ができて、スタジオから外に出ました、わたしもお供をしました。舗道を歩いていて、とつぜん小松さんが大きな声をあげられました。
「なんなんだ、中身は」
そう言われながら、道路を横切っていきます。行手には、小さな洋食屋があります。いわゆる町の食堂です。
小松さんはその店のショーケースをの覗き込んでいました。ケースの脇に紙が貼ってあります。
「ランチはじめました」−−−紙にはそう書かれていました。小松さんはその紙を見て、ランチのメニューを確かめに行かれたのです。
「つまらんランチだな」
笑いながら、小松さんは戻ってこられました。わたしは唖然としています。こんな人、見たことがありません。どこに、自分が食べもしない、魚のフライやハンバーグを盛り合わせただけのランチメニューの中身を確認しに飛んでいく人がいるというのでしょう。


ややあって、わたしは気がつきました。
小松さんの知識と情報量を支えているのは、この尋常でない好奇心のせいだということに。
(4〜5P)

教養

教養

こういう爺さんになりたい。
小生が「8/15の靖国神社に関するメモ」
http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20060816#p2
で謎の団体に声をかけて「あんたら何者ですか?」と聞いた際には、このエピソードを脳裏に思い浮かべていたのだ。



ところで最後に「日本沈没」に話を戻すけど、
結局わたしが小松左京氏の作品で好むのは「首都消失」「日本沈没」「こちらニッポン・・・」「見知らぬ明日」のように、SF設定を借りて、ある種の状況シミュレーション(「危機管理」的なシミュレーションに近い)を提示する作品でした。

「明日泥棒」もゴエモントリックスター的騒動とは別に「ある日、地球から『爆薬』が存在しなくなったときの世界情勢は?」という面白いIfシミュレーションが物語をつくっているし。


日本沈没も地質学的なハッタリ、科学的うそも面白いんだが、「日本民族が土地を失い、世界中に『難民』として活動するようになったら?」という政治的シミュレーションが「どうなるんだろう?」と興味深く、幻の二部をあれこれ想像させた。
谷甲州との共著で日本沈没第二部は出版されたが、さてこちらの勝手な興味にこたえているか。

日本沈没 第二部

日本沈没 第二部

それに、すでにそのモチーフを受け継いでかわぐちかいじが「太陽の黙示録」の初期段階で「台湾に移住した日本難民」の姿を描いているからなぁ。


太陽の黙示録 (1) (ビッグコミックス)

太陽の黙示録 (1) (ビッグコミックス)