まず当ブログの「漫画10傑」の賞の特徴、注意点について。
【重要な注意点】
・「10傑」は1?10位の順位付けをしているわけではありません。
・うちの賞の基準として、『過去に一度選んだものは、その後は自分が実際に面白いな、すごいな、と思ってもあまり優先しない』ようにしています(それでも例外はある)。「なんであれ入ってないの?」と思う作品は、これが理由なことも多いと思います。※この記事の末尾に、過去の賞へのリンクを張る予定です。
まず最初にダーッと作品名を並べる。可能なら第一話試し読みも。
後からコメントを(可能なら)追加します
無敗のふたり
格闘技をこよなく愛する青年・三島ユタカ。目はいいが、体が弱いユタカは、ジムに出没する天才セコンド・外山晃一郎に、自分のセコンドになって欲しいと頼む。外山は、組んだ人間を誰でも勝たせてしまう天才トレーナーであり、金に五月蠅く、そしてアル中であった。「無敗」の戦績で国内最強になる事こそ、MMA(総合格闘技)の頂点への最速ルート……異色の超王道格闘漫画、ここに開幕!
【感想】
連載開始時から紹介していたね。
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「異色の超王道格闘漫画」というキャッチフレーズが示す通り、話としては主人公が良い師匠を得て成長し、バトルで勝利していく話なのに、いろいろ異色さがある。
主人公は家庭的にはDV被害者だったことが格闘技を始めるきっかけだったり、師匠役は接骨医の不正請求で逮捕されたりで…ある意味で「遠藤浩輝的には王道」だけれども(笑)
そして、その遠藤浩輝先生が「ガチ勢」のため、バトルの中での技術論や戦略論は、本当に真からリアルかどうかとは別に「リアリティ」と「物語性」がすばらしい(たとえていえば「アオアシ」や「フットボールネーション」的な)。
それも、冬の時代を挟んでも止まらなかった、MMAテクニックのアップデートの潮流を抑えていて、いかにも今風、学ぶところが大。
まるさんかくしかく
東村アキコ待望の新作・半自伝コメディー!Welcome to MIYAZAKI in 1985!!
昭和60年、東国原知事もマンゴーもまだ登場しない頃の宮崎県。「でも、あの頃の私には宮崎が世界の中心だった」――
『ひまわりっ ~健一レジェンド~』(講談社)
『かくかくしかじか』(集英社)以来8年ぶり!東村アキコ待望の半自伝作品……テーマは“小学校時代”!!
笑って泣いて、転んで膝すりむいて、毎日が大事件!
宮崎に暮らす昭和の小学4年生、
“林アキコ”の日々が、砂煙を立てながら始まるっ!!……さ、アッコ選手、今日はなんしよっと!?
【感想】
このひと、引き出しが多数あって、いかにも女性的なファッションやら運(占い的な)やら、あるいは恋愛がらみの引き出しは個人的にnot for me。
これはいい悪いでなく、まあ単純な相性の話だが、この引き出しはダイレクトにFOR ME だ。
作者の回想する小学生時代は、たとえば体罰や男女役割分担などをとってみても、まるでポリコレ違反に満ちてる…のだが、それをギャグにしている。
そんな中で「芋と餅を練ったものは何と呼称するのか」とか「チキン南蛮の重み」などのローカル問題が論じられるのも面白い。
また作者・東村アキコは、少女時代から「こういうふうに振る舞って、こういう言動をするのが、期待される子供らしさ、なんだろうなあ」と内心で思いつつ、そう振る舞うといった、演技者、観察者としての資質が大きかったそうだ。
そのへんが十二分に生かされている。
その後、美大&就職時代を自伝漫画にした「かくかくしかじか」は映画化が決まったそうだが、この作品も映像化の可能性はあろう。
ホストと社畜
【午前5時の牛丼屋。隣の席で朝ごはん。】午前5時、新宿歌舞伎町の牛丼屋で出会った「社畜」の直人と「ホスト」の蓮。並んで朝ごはんを食べるだけの、ちょっと不思議な関係がはじまる――。
これから一日が始まる社畜と、ようやく一日が終わるホスト。真逆な時間軸を生きる二人が唯一交わる15分を描いた、モーニングルーティンストーリー。
【感想】
この作品はある意味で系譜的には「釣りバカ日記」だし「メタモルフォーゼの縁側」でもあるだろう。
あと作品名を忘れちゃったけど、「クラスの地味な子と陽キャのギャル」ものも色々近い。
それら…釣りバカやメタモルとの異同を観察して分かったんだが、「何かのきっかけで、環境や性質、特性の全く違う二人が友人になる」という、ここがエッセンスの一番中核であり、ほかは削ぎ落してもいいんだ、ということだ。
会社の雲の上の人と平社員で、このホットラインが仕事で生きて…とか、おばあちゃんが若い子の趣味のBLに自分もハマって…というのは重要なトッピングだっただろうけど、それがなくてもいい、ということだ。
その純粋な「環境も性格も違う二人がそれでも仲良しもの」として、この作品がどこまで射程を伸ばせるか。そこも興味深い。
なお、たとえばこの作品が今後、いわゆる「BL」になるかならないかは全くわからんし予想とかもし得ない。
放課後帰宅びより
少年は出会ってしまった。灰色の毎日を変えてくれる“先輩”に!サッカーの道で将来を嘱望された佐藤瞬は、ケガが原因で夢を断念。なんの希望も見いだせないまま高校1年生になった。そこで出会ったのは「帰りたい」が口癖の佐藤直希。通称「直帰ちゃん」。入部したいなんて一度も言ってないのに、半ば強引な形でなんとも怪しい“ハイパー帰宅部”の活動に参加するハメになった瞬は、直帰ちゃんに振り回されながら、少しずつ毎日が色づいていくことを実感していく。寄り道大好きJKと夢を失った新入生の帰宅部青春ラブコメ。
これはいわゆる、光画部とかSOS団のように「変わった面白いことをやっていく部活もの」になるかと思ったのだけど、ふたりの部活なのでその二人の関係性が深まるだけで、なんというかジャンルの「範囲」はあまり広がらなかった。
だがよく考えたらそれは想定通りで、初めから広げる気がなく、深めるつもりだったよな(笑)
その典型例の話が今年あって
「第28話 新入生と交流しよう」では毛色の変わった新入生(ギャル)が(仮)加入し、ほほー、この新キャラの趣味とか好きなジャンルに活動範囲が広がるのかな、…と思いきや「本当にこの部活に新入部員が来てほしいのか?/それともこの『二人』での活動が心地よいのか?」ということでいろいろ葛藤があり、結局この第三の部員は幻になるという(笑) あーそうか、そういう路線なのかと深く納得した。
松田舞『放課後帰宅びより』は連載が始まった当初「こーんなゆるい設定なうえに、こーんなゆるい話で大丈夫か?」などと思ったものであるが、まんまとハマってしまったなあ。
— 紙屋高雪 (@kamiyakousetsu) May 28, 2024
先輩がふつうにかわいい。
1巻は河原で瞬の表情に見入ってしまう先輩に見入ってしまたぞ。https://t.co/xYQRdy9mDi
https://x.com/kamiyakousetsu/status/1803792055032066334
尾守つみきと奇日常
人狼の少女と紡ぐ、ニューノーマルな青春。ウェアウルフの尾守つみきさんと紡ぐ、「普通」じゃない日常――
多様性の時代とされる現代。
ついこの間まで「人ならざる存在」だった「幻人」は
今は人間と関わり合って生活しています。舞台は、幻人が多く通う景希高校。
そこにいたのは、ウェアウルフの尾守つみき(おがみつみき)さん。
モフモフの耳と尻尾が揺れる、天真爛漫な美少女。真層友孝(しんそうゆたか)くんは、悩める人間の少年。
人間関係が原因で、自分のことが分からなくなりました。友孝くんはつみきさんと出会い、
自分の「気持ち」を見つけていきます。「…人間って大変だぁ~」
日常が変わっていく、つみきさんと一緒なら。まだ誰も知らない、ニューノーマルな青春がここに。
【感想】
実はあんまりきちんとは連載開始時は読んでいない。最近…文化祭ネタのときだ。
「ルリドラゴン」などにも集約される、「怪異とか超常を、学校日常ものに持ち込む。そしてその怪異とか超常はマイノリティとか多様性、個性(そこから生まれる孤独とか軋轢)的なものに翻訳する」というのが、ひとつのトレンドになっている。
(この話、下の「特別功労賞」にそのまま繋がっている)
その一つの代表選手として、ここに選定した。それを受ける「日常代表・平凡代表」の人間の造形などもいい。
ストランド
“非”電撃的青春群像劇
特に仲が良いわけではない
高校の同級生4人。
楽しく過ごすかけがえのない時間。
と、
かすかな胸の痛みがある時間。
高校生達の日常、そして異常――一握りの勇気の意味を問う
“非”電撃的青春群像劇、開幕。
【感想】
実際の所、まだそれほど面白いというわけでもない。正義漢や少しマイペースな子とかの個性わけはともかく、「サバイバル技術を持つ少年」の造形は、ちょっと無理が設定上ある気もするしさ。
ただ、10本に選んだのは、ちょっと科学的、技術的にはあり得る「広範囲な電磁波の影響で、日本一国??の『電子機器』が一瞬で全て壊滅した社会」がどんなパニック社会になるか、という描写に期待が高まるからだ。
今日も吹部は!
揉めろ、吹奏楽部!吹かせろ、青春の風!怪我により野球ができなくなった野球部のエース・汐見草太郎(しおみそうたろう)。
夢も目標も失われ、屋上から飛び降りようとしたところ声をかけたのは――
吹奏楽部の小松原(こまつばら)ルーシーだった。「吹奏楽、やらん?」シンプルなその一言に心動かされた汐見は入部を決意するが、
ふたを開けてみるとそこは
吹奏楽部ならではの揉めごとやトラブルだらけで――!?「吹部あるある」を詰め込んだ、ぶっ飛び青春コメディー第1巻!
【感想】
この「音楽系の部活もの」もやたらめったら描かれてレッドオーシャンなんだろうな。
だから、だいぶ部員の「変人さ」の度合いを増しマシして、個性を出してきた(笑)このへんは「シネマこんぷれっくす」でやってくれた手際通りだ。
だけど、その中心に座る人物が一種「ピュア」で、周りの部員の裏の顔というか真の意図、欲望を全く見抜けず、正面から反応するのでかえって乱反射が起こる…という設定がちょっと秀逸。
面白おかしい方向に振り切るのか、ここに努力とか団結とか、ちょっといい話も盛り込むのか。
超巡!超条先輩
超能力捜査官 それは読心術や千里眼、テレパシーといったありとあらゆる超能力を駆使する犯罪捜査のスペシャリスト。しかし、そんな力を持ちながらも、場末の交番で働く街の厄介者がいた!! その名は超条巡。人は彼を超能力巡査長と呼ぶ!! 予測不能の超能力ポリスコメディ開幕!!
【感想】
超能力はほぼ「何でもあり」な設定だけど、それを生かして「犬が迷い込む」とか「お金持ちのわがままお嬢さま」とか「厳格で怖い祖父登場」とか「いい人格と悪い人格に二分される」
みたいな昭和、平成、令和でいろいろ練り込まれた=ほぼベタやん!!な設定を毎回、お題のように消化してる。なんか淡々と、仕事を無表情でこなすスナイパーみたいで、その淡々とした、お約束をきっちりこなすところが逆に個性というか。
わたしの証拠
私たちの心の「自分では手の届かない」部分をじんわりほぐすオムニバスショート! 悩めるあなたの心に寄り添う一篇が、きっと見つかります。
【感想】
これは長年の持論だが「カレー沢薫には、とりあえずシリアス寄り作品に対して『賞』を贈った方がいい。と。それで或る種の地位が固まる」と。別に「ニコニコはんしょくあくま」に賞をやれ、と言ってるわけじゃないのだ(笑)。
その賞を贈るのに、一番適切な作品は「ひとりでしにたい」か、この「わたしの証拠」だろう。
路傍のフジイ
まだ誰の眼中にもない真ヒーロー、フジイ!職場では空気みたいな存在感の独身男性。
なのに、その生き方は破格の格好良さ!コスパとかマウントとか承認欲求とか、そういうものの為に戦ってる人生が
なんだかどうでもよくなってくる…我々の価値観の外側で生きる男がここにいる!前作『リボーンの棋士』で才能を炸裂させた鍋倉夫氏が新たに生み出した
令和のニューヒーロー「フジイ」が、
みんなが囚われている「幸せ」の概念ごと、爽快にぶち壊してゆく!
【感想】
これはリアル寄りのようでいて、3周ぐらい回った「大人のおとぎばなし」で…
要は「なんの作為も、打算計算もない、それを気にしない彼がいる。
ただ彼は、打算や作為が無くても『素でいい人』であり、その結果、周囲の人たちはその『素の善良さ』に気付いて、それを愛してくれる」
(※これ最近、はっきりテーマとして出てきたっけ。ある女性が高校時代を回想し、フジイに似ている女の子を思い出し「あっちは天然物のいい人、自分は養殖物のいい人(意識して振る舞っている、ということ)…」と
・・・とね。これ、主人公の顔が本当に地味だから気づかれないけど、一種少女漫画にむしろ近い作品があるんじゃないか(笑)
でも、そういう「大人のおとぎばなし」は一段低いわけでも何でもなく、やはり技量やクオリティが必要。そこをクリアしているから話題作になったんじゃないだろうか。
あと、ビッグコミックスピリッツって最近、雑誌の中で「こんな”ライフスタイル”が素敵じゃないかい?」という、ライフスタイルものがかなりの存在感を示してるんじゃないかね。
不思議と言えば不思議だが、得てしてそういうジャンル隣接作品がそろい踏みした時の方が雑誌って勢いが出てくるんだよな。
以上が10傑。
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以下が特別賞
内山安二賞「ヤンキー君と科学ごはん」
化学教師の蘭は担任を務めるクラスの問題児・千秋の留年回避のためマンツーマンで補習をすることになる。科学に興味ゼロの千秋に補習を受けさせるため、蘭が提案したのは“料理”で…?
※大前提である「内山安二賞」とは何か?こういうことなのでご了解ください(笑)↓
啓蒙、情報の面において優れた漫画を選定し、(もちろん「勝手に」)その第一人者の名を冠した賞を贈るものです。
「知の巨人」内山安二氏賛歌。そして第1回「内山安二賞」受賞作が決定!(※俺の心の中で) -
d.hatena.ne.jp
連載山場賞「新九郎、奔る!」
※「連載山場賞」とは、或る程度連載が続いているものを対象に、全体ではなく「その年に盛り上がりを見せた」作品を表彰するものです。過去に10傑に選んだ作品を、主に対象とします(そうでないなら普通に10傑入りするので)
特別功労賞 「鳥山明」「ナポレオン 覇道進撃」「オカルト&学園もの隆盛」
※特別功労賞は、連載をその年に終了した作品が主な対象とし、ほか「人」「現象」に対しても贈ります。過去の一覧です 以前一度受賞した作品は、今すごく面白くても外すのが原則(例外はある)なので、今回のランキングに大きく関係しています
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■「2023年マンガ10傑プラス」ほか各賞を選定、第1話も紹介(一応完成)
m-dojo.hatenadiary.com
■「2022年マンガ10傑」ほか各賞を選定します(10作品発表! 特別賞は後日に…)
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■「2021年マンガ10傑」ほか各賞を選定します。【10傑の紹介文完成】
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■「2020年マンガ10傑」ほか各賞を選定します■
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■「2019年マンガ10傑」ほか各賞を選定します。
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■【完成】「2018年マンガ10傑」(第3回「内山安二賞」も)を選定します。
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■「2017年マンガ10傑」を選定します。第2回「内山安二賞」なども併せて授与。 -
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■「2016年マンガ10傑」を選定します。「特別功労賞」もあの作品に - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan)
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■ひとあし早く、当ブログの「2015年/2014年マンガ10傑」を選定 -(つまり2014年は休みだった)
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■(番外)「知の巨人」内山安二氏賛歌。そして第1回「内山安二賞」受賞作が決定!(※俺の心の中で) -
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■「見えない道場本舗」選定・2013年度漫画10傑
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■「見えない道場本舗」選定・2012年度漫画10傑
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■「見えない道場本舗・2011年度漫画10傑」(※ここから順位なしの10選に)
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■2010年度漫画ベスト
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■2009年漫画ベスト
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■2008年漫画ベスト
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