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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

夢枕獏「仰天・プロレス和歌集」の傑作選

医者に行き 運動不足と言われて 我はプロレス20年目



チェーン振り回しても逃げぬガキが笑っている  次は本当に喰らわしてやろうと思う



ロメロスペシャルという技の恥ずかしさ  忘れようと痛さに顔を歪めるふりをする



あれはサンボの技だよとしたり顔で言う評論家あり  ヒンズー スクワットの1000回でもやってみろ



マットに寝て君を待っている フライングボディプレス という技のもどかしさ



あってなきがごとし ルール と 契約書



痩せているアイドル歌手よりも足遅い我  今年もスター運動会に出場せねばならず



レスラーになんかなるなよという息子 嬉しくもあり哀しくもあり



健康法はプロレスです と答える君は 55歳のメイン エベンダー



いやあ ちゃんこ屋の親父です というひとの笑顔にほっとする



泣かされて帰ってきた子供が無言で耐えている 悪役の父の身の悲しき



土産のぬいぐるみ そっと娘の枕元に置く そろそろ 父の職業を知る年ごろである



凶器をば 見つけられないわけではないが 知らぬふりの父をあはれに思ふなみちこ



”とうちゃんはプロレスラーです” という作文 息子は 引き出しにそっと しまいおり



一番よく効くのはヘタな技ですと言ってから頭を掻いているインタビューである



大衆小説家が不意に 純文学をやるような お前の関節技に戸惑う



プロレスがただの殴り合いであればいいのにと友は焼酎を眺めておりぬ


この本がすでに入手困難で歌も読めなくなっているだろう、という話を聞いて保存を兼ねたつもりだが、なんだちゃんとkindle版が出ている。なら本当に厳選しての傑作選とした。
スター運動会にプロレスラーが出る、とかはなんとも昭和っぽいね。いやこの本は平成初期だったかな。

試合に使う凶器のセンヌキをしみじみと地方のホテルの部屋でテーピング、あるいは、好きな女性に失恋しても耐えてリングで闘わなければならない心の痛み…。怒りを剥きだし、凶獣のようにふるまってもプロレスラーだって生身の体、リングを離れると喜び・哀しみに涙することだってある。作家・夢枕獏がそんな彼らの本音と人生模様を和歌に託して、笑いと涙でキミたちの血を沸かすプロレス本! プロレス好きの必読書。


プロレスラーに身を仮託して歌ったこの歌集(土佐日記以来の伝統っちゃ伝統)が評判よく、気が大きくなったぶく先生は、その後、文壇の闇に切り込んだ歌集を編み、誰かの逆鱗に触れたかその後の歌集はない…