「ゲームでは、たとえばファンタジー世界が舞台でもお金をいくらでも貯められるけど、銀行もないのに不自然だよね」
— Rootport 𝄇 (@rootport) January 16, 2022
「だから現実には、すべて身に着けていた」
「へ?」
「たとえば18世紀の海賊がキラキラに着飾っていたのは、それ以外に財産を持ち運ぶ手段がなかったから。全財産を〝着て〟いた」
面白い話なので、まとめになっている。
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そんで、同趣旨の話としてこれを思い出したの。
池田理代子「エロイカ 栄光のナポレオン」の一節。
ぶっちゃけ、騎士がひと財産をその服や装飾品に身に着けていることで、相手の兵士たちの士気が凄く高まったらしいんですけど(笑)※マムルークを「騎士」と表現するのはめちゃくちゃ雑にざっくりと、そうさせていただきました。
もちろん、マムルークだって一筋縄ではいかず「砂漠の送り狼作戦」とでもいうべき戦法でフランス軍を悩ませている
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…だがこれは余談。
銀行なんてシステムもない(信用できない)し、家に財宝を蓄えておくのも不安(というかその家に定住してるわけでもない)な生き方をしてる人が「着ている物」に財産を蓄えた、というのはけっこう世界中にあるはなし。
遊牧などの非定住民、そして……暴政、戦争、迫害とそこからの脱出を常に意識していなければならなかった人たち。
この話、何度か書いたかと思ったが、やっぱり書いてた。
ひとつは、東日本大震災直後の2012年に、「日本がダメになってもどこでも暮らせるよう、子供に英語を学ばせよう」という話題があがったときに。
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(略)
自分の住んでいるところが、経済的にダメになったら、よその国で働いて、生きていかざるを得ない。そうできるように準備しないと」
というのは、逞しい、すばらしい理想なのか、悲しく残念な現実なのか。まあトータルとしては後者なんだろうね。田中角栄が「北国の人間も出稼ぎしなくても暮らせるようにする!」と言ったとき、その結果としての列島改造論の正否はともかく、北国、雪国にとってはそれはゆるぎなき救世主の福音だった。一方で
この本ではない。だが作者が同じだったので、同様の記述があるかもしれない
「今頃かよ。俺たちは2000年そうやって来ましたけど」というユダヤ人の苦笑もちょっと目に浮かぶ。
いまだに覚えている一節があって・・・ユダヤ難民を助けたとされるオトポール事件で有名な、樋口季一郎の子供向け評伝本だったけど・・・。
大意
「着の身着のままでナチスの迫害から逃げてきたと思われたユダヤ人。しかし彼らは上海に落ち着くや、靴の鋲を抜き取った!なんと、それは純金だったのだ!ユダヤ人たちはこれで最低限の資本を準備し、即座に現地で商売を始めた・・・」
あまりに出来すぎていて、反ユダヤの言説を裏返しにしたユダヤ=天才商人のステロタイプな伝説にも今では思えるが、子供のころは素直に感心したな。
こういう話は
戦火激しかったインドシナや東南アジア、特にユダヤ人と同様にその富裕が敵視も産んだ華僑の話でも聞いたことがある。
「あっちの国は大金持ちから小金もちまで、金の指輪や腕輪をびっちり身に着けている。それは下品な成金趣味というよりは、いざ何かの時に、身一つで逃げたとしても、その体に最低限の資産が持てるという意味がある」と。これも感心した。
震災1年後、その直後にこんなテーマで書くと生々しすぎてどうかとも思うが、流れの中ですから(高田延彦調)。
でも、時々、日本が”最悪の状態”にさらに陥って、治安なり失業率なり、貿易赤字なりインフレなり食糧不足なり・・・・・・そんなふうな「世界の失敗国家」に陥るような事態をSF的想像力を駆使して想像したりしなくもない。
そんなときに、たしかに「子供に英語を習わせておけば、この子が成長した将来に日本がダメになってもよその国で何とか食えるかも」みたいなことを考えることにも納得がいく。
ただ、今から英語をわれわれ本人が習うかはともかくとして(笑)、本当に「日本の没落」をリアルに予想するなら、まずは自分の資産(貯金)の外貨比重を高めたり、金の現物を手元に持つことから始めるはずなんだよね(笑)。
実はこれも何度も書いたけど、バブルが崩壊し始めた90年代ごろに高坂正堯氏が言ってたんだよなあ。
「日本人は口での国家・政府批判とは裏腹に、相当に国を信じておりますな。だれも資産を外貨・外債に分散していない。僕も含めてしていない」(大意)
と。
全財産ではないですが、現在でもヤのつく職業の人たちが揃ってロレックスの腕時計をつけているのは、いざ指名手配になった時すかさず売り払って逃亡資金にするためと言われていますね。
— 司城肥後介誠治 (@opinel432) 2022年1月16日
ベトナム戦争やカンボジア内戦時にボート・ピープルが国外に脱出した時「やつらは旧政権の支配層だろう、その証拠にたくさん金の装飾品を身に着けている」と、(共産勢力を嫌う一般国民がいると認めたくない)反米左派のほうがそんな主張をしていたり。https://t.co/akiWFCv5lJ
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2022年1月16日
この話は「時空を超えて、凶悪な侵略者の軍隊が街に迫ってくる!数十分で脱出行の準備を整えろ」という、ワンテーマの短編「逃げる」(かんべむさし)を読むと、もっともっとリアリティがあるんだけど、その話では貴重品の事は出てきたっけかな…。
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「真佐子」
俺は言った。
「まず、この家のなかの物の90パーセントをあきらめろ」
「あきらめるって?」
真佐子は俺の顔を見た。
「破壊されても、火事で燃え尽きても、仕方がないと思ってしまえ。ここにある物の90パーセントは、世の中が平穏無事で毎日の生活に何の心配もないときにだけ、価値のあるものだ(略)」「縫いぐるみの熊、ガラス棚のこけし、壁の絵、レース編みのクッション。そんな物は、何もかもうまくいっているときに初めて意味の出てくる物だ。あきらめろ。ぎりぎり必要な物以外は全部あきらめろ」
「俺はノートを持っていく」
俺は言った。
「何でもいい。お前も何か持っていけ…どんな物でもいい。ひとつだけの贅沢品、実用価値がゼロの物でもいいのだ」
真佐子は、きょろきょろと部屋を見回した。
戦中に上海まで逃げたユダヤ人の実践した「靴の鋲を純金にしていた」というのが可能なのかどうか、やりたい人はいま、どこにそんな注文をすればいいのか、というのも今に至る謎だ。ヤフー知恵袋でやってくれる業者を聞くか、「ココナラ」で、そんな注文を受けてくれる職人を募るか……
そういう話でいえば、わが父が亡くなった時、一応ロレックスの金時計、プラチナのネックレス(どれもその種の中では安物らしいが)などが形見として残ったんだけど、まあその超絶な悪趣味さに、わびさびとへうげたおかしみを重んじるわが兄弟はだれも欲しがらなかったんだけどさ(笑)、ただこの種の「海外亡命時には、腕につけて持っていると当座の食い扶持ぐらいにはなる」という、なんでもサバイバルとか護身の文脈に変換したい中二的な妄想にすると、一転してカッコよさも出て来るのである(笑)。
で、けっきょくどうなったのかな…まだ実家にあるんだろうか。
ロレックスといえば、ヘンゾ・グレイシーに判定勝利した田村潔司に、前田日明はその場で自分のつけていた金のそれを勝利者賞として渡した、とも聞く(いや、ふつうに箱入りの新品を渡した…かもしれないが、噂で聞いたそっちのほうがカッコいいよね?)