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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

戦後70年は「引揚・脱出70年」…SF短編「逃げる」を紹介【再読かんべむさし】

こんなツイートを、この前、目にした。

dada @yuuraku
https://twitter.com/yuuraku/status/633035962495295488
だいたいさあ「戦争が起きたらどうする?」って新聞アンケートの答えで「逃げる」が一位なの定番ですけどね、どう具体的に「逃げる」のかイメージできてる人おるん?つう。

日本が戦争に敗北した年は、植民地や戦地からの引き揚げ開始の年でもあった。(その年に帰国できなかった人も山ほどいるが)

シリーズ 戦後70年 極秘裏に中絶すべし
〜不法妊娠させられて〜 30分枠
http://www.ntv.co.jp/document/
日本が“植民地”を拡大した歴史の裏返しとも言える、戦後の“引き揚げ”。祖国の敗戦という現実の中で、外国人から性被害にあって妊娠し、当時法律で禁じられていた中絶手術を受けた日本人女性がいました。被害者本人からは決して語られることのない悲劇―中絶手術を行う“二日市保養所”は、引き揚げ港の1つだった博多港から車で約40分の温泉地に、1年半だけ存在した。また、長崎・佐世保港を経由して、佐賀県内の国立療養所でも、同様の中絶手術が行われた。性被害の女性を救う目的に加え、外国人との間に生まれる“混血児”が、社会の混乱を招くおそれがあると考えた国の指示のもと、中絶手術が行われた実態―国家が始めた戦争が、最も弱い立場の国民を苦しめた現実を見つめ、あやまちを繰り返さないためのメッセージを発信する。


村上もとか「フイチン再見!!」は5巻ぐらいからもう敗戦〜満州からの必死の帰還、が描かれているのかな?

私の青春の地、満州が失われてゆく。

1945年(昭和二〇)、上田としこは28歳。
日本が戦争に負けた時、としこは満州の地で働いていた。
もしも、叶わないものを「夢」と呼ぶとするならば、
「漫画家になる」というのは、としこにとって
夢でしかなかった。
大きな戦争は終わった。
けれど、満州の日本人、とりわけ一人の女・上田としこの戦争は、
終わりが見えないのであった─────

漫画家ではちばてつや氏や赤塚不二雄氏も、そうやって帰国したことは有名だ。山田洋次映画監督も。



あるいは、結果的に居留民の脱出時間を稼いだ「占守島の戦い」や「根本博の乱」からも70年となる。(この件については稿を改めたい)




そして…その戦後70年にアニメ化され、良くも悪くも話題と議論を呼んでいる「GATE(ゲート)」は、調べると最初の部分は「突然、平和な銀座に異世界からの軍隊が侵入し、虐殺が起きる」ところから始まっていた。

えーと…さがすと解説ってあまり無いものだな

http://blog.livedoor.jp/kaigai_no/archives/45416875.html

伊丹:皇居に民間人を収容して、立て籠もるんだ!
    (Barricade all the civilians in the Imperial Palace!)

警官:誰だ、君は?(Who are you?)
警官:私達の指示に従いなさい!(Just do as we say!)
伊丹:このままここに奴らが来てみろ!皇居前が血で染まるんだぞ!
    (If you let those guys come here,
    there'll be a bloodbath in front of the Imperial Palace!)

不明
実際のところ陸軍将校が警察部隊の指揮を取っても大丈夫なの?


不明
正体不明の部隊によって目の前で民間人を虐殺されてる状況で?
そりゃ、まあ大丈夫だろう。

銀座と皇居の位置関係が、あまり肌感覚でわからなかったりする……。
まぁ、それはいいや。

詳しくは直接見てください。
D


そんなマクラをふった上で…あまり今では語られているとはいえないだろう作家と作品、かんべむさしの短編「逃げる」を紹介したいと思います。

今はどうなっているかはあとで調べるけど、当方のテキストは25年前に刊行されたここに収録。


あー…あったよ、電子書籍。1編ごとにバラ売りか、こんなこともできるんだな。
そして内容紹介や、抜粋も充実してる。

http://www.papy.co.jp/act/books/1-1225/
解説
 「臨時ニュースをお伝えします。高槻・茨城の両市が空爆されました」
 幸せな新婚生活1日目を、突如襲った信じられない出来事。敵機の正体は? なぜ高槻と茨城が襲われるのか!? 混乱する若夫婦をよそに、ついに避難命令が出され街はパニックとなる。
 逃げなければ…。愛する妻を守り、どこまでも逃げて生きのびてやる。二人はこれから来るであろう、過酷な生存闘争の準備を始めた。


概要がだいたい分かるので、ここから折々に引用しながら、もう少し詳しく解説しよう。

<注意:ネタバレを基本的に気にしません!! ご了承の上お読みください>

主人公は、新婚旅行から新居の「千里ニュータウン」2DKにおととい戻ってきたばかりの新婚夫婦だ。幸せいっぱいの夫婦の朝は、大音量の広報車スピーカーで起こされることから始まった。

「こちらは…団地の皆さん…緊急の…テレビかラジオを…落ち着いて…」
その声よりはるか遠くで、ゴロゴロと雷のような音が鳴っている。
(略)
「ガス爆発でもあったのかな」
「それにしてはおかしいわ」
(略)
テレビのスイッチを入れた。アナウンサーの、緊張した顔が飛び出した。音声ボリュームを上げると、声もひきつっていた。
「…詳しいことは、まだまったく分かりません。警察では、テレビまたはラジオをつけたまま、冷静に詳細の発表を待つよう要請しています……」

そして、ニュースを待ちながら朝食をとっていると、やはり新婚、幸せと愛があふれそうになる(笑)。しかし、第二報を、テレビは無遠慮に注げた。
大阪府警の対策本部による、緊急記者会見だ。

「既にご承知のように、高槻・茨木の両市街地が二度にわたって急降下爆撃を受けました。被害状況はもっか調査中ですが、相当甚大なものになりそうです」
「いったい何なのですか」
代表記者が、声を荒げて質問した。
「内乱ですか。それとも本当の戦争なのですか。その点を明確に答えてください」
本部長は、苦しそうな表情で、額の汗をふいてこたえた。
「その、どちらでもありません…(略)…やはりそうか…(略)いま、ポラロイド写真が届けられて確実になりました…ナチス・ドイツの飛行機です」

しかし、当然ながら記者団は納得しない。なぜ、この時代にプロペラ機などの旧型兵器で、しかもナチスの軍装で、なぜ高槻や茨木を空爆するのか?どこが、なぜ?

本部長の部下がひきとっていう。

「実は、その疑問点を解決する解釈も、出ることは出たのです」
「それを聞かせてください」
「それは」
彼は本部長を見た。ゆっくりと本部長はうなずき、発表を許可した。
「時空の混乱説です。時間と空間が何らかの理由で乱れて、第二次大戦中のドイツ空軍が、今日の高槻、茨木に現われてしまったのです」
(後略)

なぜ、現われた敵はナチスなのか?

さて、ここでちょっとお時間をいただいて雑談を。
この作品のインパクトは、やはりここで攻めてくるのがナチスドイツだ、ということにあるのだろう。宇宙人だとH・G・ウエルズ以来、何番煎じだということになって、自分も記憶の隅にも残さなかったろう。
(実際、ウエルズの「宇宙戦争」も、ロンドンが圧倒的なパワーによって破壊され、そこから逃げる、隠れるというのがかなりリアリティをもって描写されていたですよね)

この記事でも、ナチスが占領地で行った史実の紹介が、この事件のただごとでなさを増幅している。

いままでのニュースから判断して、あれは東欧からロシアに進んだドイツ国防軍の東部軍団にまず間違いはない。とすれば、そのあと東欧やロシアで起こったことが、そのまま今後の俺たちにも起こると考えなければならないだろう。ナチスの侵略方式は決まっている。
つまり……

皇軍ならぬ「蝗軍」と呼ばれた軍隊や、それらと対峙した「労働者の軍隊」が時空震でやってきても、その被害はそりゃ甚大だろうが、やはりそこは「ナチの特殊性」というものも厳然としてある。


だけれども、この作品はそもそも短編であり、ここではやはり「ものすごく強くて、残酷で、突然あらわれた敵」のうちのひとつとしてたまたまチョイスされた、という以上の思想的な必然性とかは、根本的な部分ではそんなに感じられない。
だからこそ「ゲート」の一話ともかぶるし、互換性もあるのだろう。
この作品の長編化、を期待する声もあったような気がするが、その場合はこの話もどうなったのかね。
そもそも短編の、攻撃直後だからあちらとはコミュニケーション不能だったが、あっちだって本当にドイツ人だったら、バルバロッサ作戦をやるつもりで、未来の…それも一応同盟国の地方都市に出てきたら面食らうだろうさ。
当時、ドイツは「メトロポリス」でSF先進国だったわけだし、タイムスリップの概念も理解しているだろう。
1、2日後にはコミュニケーションがとれて、「いやーごめんリッヒ、でもこれはあくまで不幸な事故ダンケシェーン。あ、同盟国として、援助よろしグーテンダーク」とかで収束しちゃうかもしれない(笑)。

そんな疑問は当時も今も抱きつつ、ここから本題に入ります。


「戦乱が迫る。着の身着のままで、すべてを捨てて逃げる」をリアルな肌触りで描写したからこの作品は記憶に残る

…何が大事で何が大事でないかの判断。こうすればどうなるか、こうしなければどうなるかの予測。そして、決定したことのすばやい実行。それら一切を、いますぐ、この俺がしなければならないのだ。
(略)
「いまは一時半だ。いまから一時間で逃げる用意をするのだ。二時半には必ずここを出る。行き先はとりあえず箕面だ。何を持って逃げるかを考えるから、ちょっと待て」
俺は、部屋の中をぐるりと見回した。

これは、その後登場した映画の、これの変形である。

40秒で支度しな - ニコ百 http://dic.nicovideo.jp/id/4698137

元は『天空の城ラピュタ』のとあるシーンで登場した台詞。
(略)
パズーがドーラに対して「自分もシータを助けに行くために、一緒に連れて行って欲しい」と懇願した時にドーラが一言、縄の拘束を解きながらパズーに返した台詞である。
(切羽詰った状況であるとはいえ)40秒という持ち時間では手近なものを掴んで持ってくるのが精一杯といったところであるため、手早く旅支度を済ませろ、という以外にも今日まで普通の生活を営んできた少年に「これまでの生活を捨てて新しい人生を始める覚悟はいいか?」という意志を試している台詞として印象的だろう。
(略)
何の変哲も無い至って普通の台詞だが、製作から20年以上が経過した現在でも様々な場所で用いられている。


さっき、ナチは登場してくるけど、その悪役のチョイスにそんなに必然性はなく「怖い強い敵」以上の意味はない、と書いたが、そういう面で言うと、ここから始まる「逃避行の準備」も平和や反戦の思いにも十分つなげることができる一方、少年少女の「非日常サバイバルのシミュレーション」として、エンターテインメントとして十分楽しめるだろう。
良くも悪くも少年たち、子ども達―そして「大きな子ども達」は無人島生活や宇宙旅行と同じように、「日常が終わりを告げ、最低限のものを持ってここから旅立つ」みたいなものを夢想として好むものだろう。
それがびしっとできるハードボイルドなぼく私、を夢想するからこそ「40秒で支度しな」が名言、流行語として定着しているのである。
だからこそ当方も覚えているのだ。

そして、それ自体は悪いことではない。実際に、そういうことに直面する可能性があることは、日本在住者なら2011年にあらためて、身にしみて分かったはずだ。


この作品が一種の思想小説であるとするならナチス云々より、そういう決断を強いられる可能性への覚悟や、そこれの理路を、やや過剰に言葉として表現している点だろう。
物語では、新婚生活を始めたばかりの夫が、妻に、自分に勢いをつけるために言い聞かせるように、この論点を声に出して提示している。

「真佐子」
俺は言った。
「まず、この家のなかの物の90パーセントをあきらめろ」
「あきらめるって?」
真佐子は俺の顔を見た。
「破壊されても、火事で燃え尽きても、仕方がないと思ってしまえ。ここにある物の90パーセントは、世の中が平穏無事で毎日の生活に何の心配もないときにだけ、価値のあるものだ(略)」

「縫いぐるみの熊、ガラス棚のこけし、壁の絵、レース編みのクッション。そんな物は、何もかもうまくいっているときに初めて意味の出てくる物だ。あきらめろ。ぎりぎり必要な物以外は全部あきらめろ」
 真佐子は、また泣きだした。彼女にとっての、昨日から始まるはずだった『幸福』の象徴物が、根底からいっきょに否定されてしまったのだ。泣く気持はよく分かる。
 「泣くな」
 しかし、俺はどなった。根底からの崩壊は俺も同じだった。大学を出て勤めだしてからまる五年。真佐子と知りあってから二年半。
 自分のために買った物、二人のために揃えた物。そして、夢と目標と計画と。ひっくるめていえば、この2DKに住んで、真佐子と二人で創っていこうとした俺の「家庭」が、その二日目に壊されてしまったのだ。


70年前の引揚者もそうなら、それに先立ってユダヤ人が、中国人が、フィリピン人が、同じように家や家具、蔵書を捨てて、同じように地を離れたのだろう。
そして今もシリアで、イラクで、コンゴで、福島で……とにかく、家を捨て、家具を捨て、家畜や農地を捨てていく。
ただし、それを捨ててでもこの命と、家族は守る、という覚悟の裏返しだ。


そんな例に偶然にも遭わなかった自分の境遇に参加しつつ、ここでの感情移入は現実の難民への感情移入にもなっていってほしいものだ。コレクター気質のひとなら、もっと感情移入できるのではないかな(笑)
 
そういえば、自分が「国境なき医師団」に自動引き落とし方の定期寄付をしているのは、ほんのちょっとこの作品を読んだ記憶が背景にあったのかもしれない。今書いていて、そこに思い至った。
https://www.msf.or.jp/donate_bin/monthly.php


そして、準備はより具体化していく。

「必要最小限の物を決めていこう。まず衣服だ」
 すばやく、俺は判断した。
 「それは全部脱いでしまえ。同じ物を一ヵ月以上着なければならないかもしれない。丈夫な、実用本位の物にしろ。ジーパンとTシャツとジャンパー。下着も新しいのにしろ。替えは二枚ずつもあれば十分だ。予備に、冬物のダッフルコートがあっただろう。あれも持っていけ。靴はあるか」
 「スニーカーがあるわ」
 「それでいい」
 真佐子は、タンスや押入れをひっかきまわし、着替えを始めた。下着も替えるので、丸裸になった。ベランダのガラス戸は開けっぱなしだったが、そんなことは、いまは気にすることではなかった。俺も、続いて着替えを始めた。ジーパン、Tシャツ、それに神戸の米軍放出衣料品店で買った、丈夫一点張りのGIジャンパーを着た。靴はバックスキンのごついのを履くことにした。
 「毛布を二枚出せ。部厚くて大きいのがいい。俺が持っていってやる」
 着る物と、眠るための物はこれで終わり。次は食料の決定だ。何ヵ月逃げつづけるのか分からないから、その全期間の食料持参は不可能だ。とりあえず当座分だけだ。
 「冷蔵庫から罐詰を出せ。何がある」
 「コーンビーフが三罐あるわ。アスパラが二罐、みかんが二罐」
 「そのまま全部入れろ。それと、ウイスキーがあっただろう。あれも持っていこう。水を、とりあえず俺のキャンプ用の水筒に一杯入れておけ。旅行で買ってきた、北海道のバター飴も出せ」

このへんは
「非日常サバイバルのシミュレーション」としての真骨頂であり、常に防災袋を用意しているような、用意周到な家庭だったらかえって意味がない。
あくまでも、新婚旅行から帰ったばかりの「日常」に油断しきった若夫婦が、その発想を根本的にきり替え、非日常のヒャッハーな空間に赴く準備をするから面白いのである。

「礼儀作法エチケット。そんなものは壁に掛かった絵と同じで、いまはかえって邪魔になるのだ」
「そうだ、火だ。それが無ければ何もできない。マッチの大箱はあるか…ライターを持っていく」
「ナイフを出せ…木や草を切ったり、犬や猫や蛇をころさなければならないかもしれない…それに、俺とお前の生命があぶないときは、人を殺さなければならない」



しかし、最終盤に、ページ数も限られたこの物語で、作者のかんべむさしただ「生きる。生きるために逃げる」だけではない、それだけでは収容しきれない存在としての人間を描くことに、ある挿話を入れることで成功している。


<※今さらだし、この挿話が根本的なオチということもないですが、一応ネタバレ注意>

一番下の引き出しをあけた。大学ノートが十冊ほど入っている。
「これは捨てられない」
それは、大学に入った年から、日記代わりにいろんなことをメモしてきたノートだった。どの一冊をとって開いても、それを書いたころの自分や友人の姿が浮かんでくる……十冊全部を持ってはいけない。二冊だけ持って出よう…大学三年の頃のを一冊と、半分ほど空白ページが残っている現在の一冊だ。そしてその空白ページには、今から俺たちに起こることを逐一メモしていってやろう。飢えた。争った。あるいは、盗まれた、盗んだ…(略)よくは分からないが、そうでもしなければ、あまりに俺たちが哀れで馬鹿馬鹿しすぎる気がした…(略)もしノートに殺したと明記してあるからといって、平穏な日々に戻ってからそれを罪に問えるものなら問うてみろ。
「俺はノートを持っていく」
俺は言った。
「何でもいい。お前も何か持っていけ…どんな物でもいい。ひとつだけの贅沢品、実用価値がゼロの物でもいいのだ」
真佐子は、きょろきょろと部屋を見回した。

そして妻は、ひとつだけ、あるものを選び(何を?かは直接呼んでください)、避難準備は完了。
二人は、既に難民でごったがえす道路に一歩を踏み出した……。


これにて、かんべむさし氏の短編「逃げる」はおわる。
このあとの二人がどうなるかは、物語の神だけが知っている。


第二部「再読かんべむさし」〜togetterから

この「逃げる」を紹介したい、合わせて、かんべむさしはあまりにも往年の作品の面白さに比例して、今話題になっていない…という義憤(私憤)はかなり前からありましたが、うっかりそれをブログで形にする前にtwitterでくっちゃべってしまい
それがきっかけでこんなふうになった。
まとめるのは慣れているが、まとめられるのは慣れていない(笑)

かんべむさしの再評価を - Togetterまとめ http://togetter.com/li/861668 @togetter_jpさんから

このtogetter、けっこうなはてブがつく、はてブ案件でありました。
そこでの当方の大言壮語は…

gryphonjapan @gryphonjapan 2015-08-17 07:57:34
君こそ「再読かんべむさし」記事をやってほしいですな(笑)
いまかんべむさしの本、どれぐらい旧作がキンドル含めて読める環境にあるんだろうかなあ?

【今の視点で再読したい作品】
・桃太郎を時局に合わせてころころ政治的に変える童話作家
・いくら殺しても人権上OKな「鬼」をレジャー的に大虐殺するツアー
・満員電車が「ただ揺られるより、楽しくおしゃべりしよう」と社交クラブになる話
(続く)
・特許ひとつ当てて生涯普通に食ってけるので「何にもしない」を選んだ男
・24時間、全く眠らないで大丈夫な男の話
・梅毒の世界拡大を戯曲仕立てで語る
・政財界のすべてが「秘書ネットワーク」に牛耳られてる話


みな、現代的だよなあ。

かんべむさしの「水素製造法」は、「インターネット検索」が巻き起こす悲喜劇の先取りであった(断言)@fullkichi @yuuraku


「水素製造法」は非常に評価が高いお笑い作品で、なんとウィキペディアで単独項目ができている(笑)

wikipedia:水素製造法
『水素製造法』(すいそせいぞうほう)は、1981年のかんべむさしによる掌編小説。あまり勉強していない文系学生の主人公が就職試験に臨み、試験文中の「水素ガスの製造法を述べよ」という設問に対し、参照用の国語辞典のみを頼りに回答を得ようとする。語句を引いていくうちに、どんどん奇天烈な回答が生み出される様子を描いている。ドタバタであり、一種のSFともいえるだろう。
通常のSF作品は作者の科学知識によって読者を納得させる展開を作るものだが、この作品においては、読者の科学知識によって、主人公の回答の珍妙さを笑わせるという逆転的手法をとっている。

原文から…

「元素だな、やはり」
なぜなら、元素とは何であるかを彼は知らず、それを知れば突破口がひらけそうに思えたからである。そこで、さっそくひいてみた。
 
元素=宇宙間にある物質を構成し、もはや物理・化学的に分解できないもの。
 
「これは困った」
彼は首をひねった。もはや分解できないものを、どうやってつくればいいのだろう。つくつというからには、いろんな材料を組み合わせるのが普通なのだ。

この「水素製造法」には、自分が例に挙げた二編が収録されている

・桃太郎を時局に合わせてころころ政治的に変える童話作家
「金太郎変化」

「…いま書いている金太郎伝だって、発表時の政府にちゃんと気にいってもらえるよう、ちゃんと工夫してあるんだ。その辺にぬかりはないのさ」
(略)
「でもね、今度の政府は紅色人民党なのよ」
「げっ、こ、紅色人民党……いやあ、てっきり赤色人民党の天下になると思ってたんだ」
(略)
「その金太郎、人民をダナツ刷る道具としてのまさかりを投げ捨て、替わりに槌と鎌を持つんじゃない?…こないだは桃太郎を海兵隊に入れて、鬼のような共産ゲリラを成敗させてたくせに」
(略)
「あのねえ、紅色人民党が内部分裂を起こしたのよ」
「ひゃあ、よくぞ知らせてくれた…」

(略)
タイトルは反動分子金太郎である。

ここからの小説内小説「反動分子金太郎」はもう、抱腹絶倒なのだが、ちょっと膨大なので力尽きた。


もう一編…

・いくら殺しても人権上OKな「鬼」をレジャー的に大虐殺するツアー(正しくは「餓鬼」でした)

「征伐パック」


「どこで、その話をお聞きになりました」
坐るなり、彼は真剣な表情で聞いてきた
「どこでって、悪事千里を走る―さ」
「悪事ですって」
意外そうに声をあげ、反論を始めた。
「悪事なんかじゃありません、どこが悪ですか。あれを取り締まる法律なんかないし、第一、人間でない相手に傷害罪や殺人罪が適用されるはずがない…(略)」

(中略)
 
「しかし、餓鬼といえば」
「ええ、六道世界のひとつ、餓鬼道に落とされた亡者のことです。無論、空想上の話として受け止めればですがね」
「それが飛騨のスポーツ・ランドに」
「はい、どういうわけか、出てきたんです」
(略)
ところが、射っても殴ってもしななにため、最近ではむしろ、限られた客に対するサービスとして、征伐パックを売り物にしはじめているというのである。
「信仰心には触れませんか」
「………」
「輪廻転生はありえないとお思いですね」
「………」


もうひとつ、「貴様と俺とは」も紹介したいが、これはある意味

「擬似イベント」というか「情報の独り歩き」を描く作品集。このジャンルをなんと命名すべきか… -http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20150817/p3

で論じるべき作品だった。だからこれは、稿をあらためよう。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



上で「逃げる」を出版している「電子書籍パピルス」は内容紹介が充実しているので、そこからも、適宜引用してパピルス的なおすすめ一覧をつくる。

「パピルス」
 ロドリゲス将軍は、50年以上も国を牛耳ってきた独裁者。93歳を迎えた独裁者にとって怖いのは、死ぬことを除けば権力を奪われることである。自分に反対する者はすべて抹殺すればよいとしても、経済ばかりはそうもいかない。いつのまにか、極貧国になりはてた国を立て直すため、ロドリゲス将軍が考え出したのは、“パンツ立国論”なるものだった。パンツは、世界中の人々の大半が必ず身につける万国共通の製品だから、作れば必ず売れる!


コロンブスが“ポトラッチ”をアメリカ西・海・岸・から持ち帰り、あっという間に全世界に広まった。そのおかげで、アメリカは自国に原爆を落としソ連・中国は国民を虐殺し日本・ドイツ・イタリアは地球上から消滅し……
 え、“ポトラッチ”とは何かって? 


 夫とその家族全員を殺した新妻に、極刑の判決が下された。しかし彼女はなんとろくろ首であった! 日本の法律で死刑は“縛り首”と定められているのだが、これではろくろ首を死に至らしめることは不可能である。
 あくまでも絞首刑にこだわる対策委員会と、ろくろ首との奇妙な攻防合戦(?)が始まった!


どこにでもありそうな新興宗教団体“阿弥陀友の会”。しかしお笑い精神で仏法を説く方法が大当たりとなり、みるみる信者が集まった。マスコミが書き立て、有名人もことごとく入会し、ついには金色の阿弥陀仏人工衛星に乗せて打ち上げることに。宇宙から永遠に見守って下さることを願って…。

こんなふうな「再読かんべむさし」…だが、俺は書くより読む側に回りたい。
そんなに沢山読んでいる、とびきりのSFマニア、かんべファンではないし、SF警察もこわいではないか(笑)
だれか、本格的に再紹介してくれないかなあ??