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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「かっこいい」「ハードボイルド」を考えに考え抜き、工藤ちゃんは誕生した〜『松田優作物語』


…というツイートを読んで、自分はこうツイートしたのでした。




というわけで、これもかなり昔の作品となりましたが「松田優作物語」で、ハードボイルド探偵「工藤俊介」が生まれるまでを描いたシリーズを再読してみよう。

この音楽でも聴きながら

探偵物語 オープニング&エンディング


話は早稲田ミステリクラブ時代からの友人であるTVプロデューサー山口剛と、日本にハードボイルドを広めた第一人者・小鷹信光が、これまでにないハードボイルド探偵のドラマを作りたい!と企画し、主演候補に「あのノッポ」こと松田優作を指名したことから始まる…

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松田優作物語」より 異色ハードボイルド「探偵物語」誕生秘話

会議では古今東西の名探偵、これぞハードボイルドだ!!の名作を挙げ、そこからエッセンスを抽出する贅沢な議論が。
今でも、企画会議はインスタントなものでなく、こういうふうに分厚い、根本からの議論がされているのだろうか。されていると願いたい。

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松田優作物語より 「探偵物語」創作秘話


しかし、非常にまずいことに……自分たちが指名した主演候補が、制作者より、もっと「おこだわり」のひとだった。
これまでの名探偵の名前を列挙して、このイメージでどうだ?とやっても、首を縦に振らない。
そもそも……

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松田優作物語」より 異色ハードボイルド「探偵物語」誕生秘話

「ボギーなんてかっこいいか?ねじり鉢巻きさせたらタコ焼き屋のとっあぁんだぞ!」
「トレンチコートの襟立ててしかめッ面してみろ!今の日本じゃ「タコ」だぞ!」
「じゃあ今の日本で、かっこいいって誰なんだ!!ええっ、言ってみろよ!!」
「それがわかりゃあ苦労しねーんだよ!!」

と、大のオトナが、「カッコイイ」をめぐって怒鳴り合う。
そんな中、松田優作は、渋谷の雑踏の中で、「かっこいい」から一番離れたような、キャバレーの客引きの服装に目を留める。
(ここはいかにも歌舞伎の「中村仲蔵」の話のようで、ちょっと出来過ぎというか、ひとつにエピソードをまとめてるんじゃないか?と外野は思ったりもするが…。)

古今亭志ん生(五代目)中村仲蔵
www.tokyoheadline.com


そして撮影初日、松田優作は「誰にも相談せず」”あの恰好”で撮影現場に現れた、という………

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松田優作物語より 「探偵物語」創作秘話
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松田優作物語より 「探偵物語」創作秘話

こっから先、「中間管理職が、青くなったり赤くなったり」の話が延々と続く。
だって最初は、ボギーやマーロウみたいな、タフで武骨、だけど洒落っ気もあるような、そんな正統派なハードボイルドを日本で誕生させよう!!という話だったのだ。
それが、キャバレーの客引きまがい(というかそれをモデルにして)の、どうかすると3枚目にしか見えないルックスの探偵に、主演俳優が「勝手に」変更しちゃうのだ。
ぶっちゃけ画像も何枚もあるんだが、1枚だけ。

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松田優作物語より 「探偵物語」創作秘話

これをどう、上層部に通せっていうのか。
もう一回軌道修正し、本来の路線に戻すか・・・・・・
だが、ここから「いかに主演と現場スタッフが、このチャレンジに乗っているか」の挿話が延々と続く。
これも一枚だけ。

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松田優作物語より 「探偵物語」創作秘話


こうなってしまうと、もうプロデューサーも「共犯」になり、上をだまくらかし…いや説明し、納得してもらうしかない。

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松田優作物語」より 異色ハードボイルド「探偵物語」誕生秘話 企画会議

そこは早稲田ミステリ研、いろんな理論武装もできるが……
「ハードボイルドからハートボイルドへ」なんて、広告代理店みたいなキャッチフレーズも作れるが…
最後の最後は

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松田優作物語より 「探偵物語」創作秘話

「とにかくかっこいいモノはカッコイイんだ!俺達はこれがカッコイイんだ!!文句あるか!!」
こう、開き直るしかない。

その結果………最終的に「工藤ちゃん的探偵」は、日本ハードボイルドのスタンダード的なキャラクターとなり、今にその系譜は続いている、と言っていいのではなかろうか。




自分は何度か書いているように、エンタメは最初から最後まで理に落ちているような緻密な伏線や完成度の高さを好み、「キャラクター」のほうにはあまり重きを置かない。

というかハードボイルド分野は不慣れで、
結局「探偵物語」も一本も見てないんです(笑)


漫画だけは「事件屋稼業」と「ハード&ルーズ」で学習している…この2作も、「探偵物語」と時代的には連動しているのかな?

ハード&ルーズ 1巻

ハード&ルーズ 1巻



だが、それを離れて…いやだからこそ、この「松田優作物語」での「探偵物語」創作秘話編(※そんなシリーズ名はないけど)は

・新しいジャンルを作ろうと野心的な企画を立ち上げる
・古今の先行ジャンルを分析する
・その過程で賛否両論、甲論乙駁で激しく議論する
・何気ないところで新しいアイデアが生まれる
・その横紙破りに、現場は試行錯誤しつつ、白熱した熱気が生まれる
・古い常識の上層部との軋轢を突破する・・・・・・・・・・・


みたいな話がクリアに描かれて、むしろ自分は「創作秘話もの」として楽しく読んで、強く印象に残っている。いつか書こうと思って、10年以上過ぎたまま手つかずだったのだが(画像の保存履歴でわかった(笑))、今回のツイートのやり取りで、ふと思い出したのだった。

ああ、あとひとつ書くと、芝居のバックステージものとしては、本当に「リアル版男優ガラスの仮面」のような趣があり(なにしろアドリブで「仕掛ける」のが大好きなのだ)、特に原田芳雄との「龍馬暗殺」の共演話は「ガラスの仮面を超えたガラスの仮面」である。周囲が「次の場面、原田と松田、どっちがどっちを食って目立つか?」で賭けをしてるぐらいなのだ(笑)

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松田優作物語より 「龍馬暗殺」で原田芳雄と演技合戦
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松田優作物語より 「龍馬暗殺」で原田芳雄と演技合戦

竜馬暗殺 [DVD]

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実はあと少し、今回書いた理由があって

togetter.com
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ひとつの「ジャンル」を、日本に根付かせるにはどうしたらいいか?の分析、議論がにぎやかで興味深いのだけど、ひとつの解としては『「探偵物語」の企画を立ち上げた人たちのような情熱と戦略を!!』だと思う。はい精神論で、何も言ってないにひとしいんですけどね(笑)。でもそーいうもんじゃないかな。そして、「欧米のハードボイルドそのまんま」を松田優作が拒否し、ベスパに乗って「工藤ちゃん」として登場したような一ひねりが…今後の武侠エンタメを、日本で爆発させるかも、と思うのです。



あとひとつは、

そう、これは自分の持論なんだけど「銀魂」は、その種の三枚目的要素を加えた日本ハードボイルド…松田優作探偵物語」の正統後継者であり、また「ドラえもん」が子供向けに、最良のSF的発想・SF設定を学習させている漫画であるのと同様、「子供向けにハードボイルドとは何かを学ばせている」作品だと思っているのです。

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銀魂」は子供向けのハードボイルド入門編
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銀魂は初心者向け「ハードボイルド」を学ぶ漫画

その新作映画(ファイナル?)と、傑作選のテレビ放送……ということで、描きたいと思いつつ保留してきたハードボイルドの話を、ほぼ10年ごしに書き終えることができました。(了)



おまけ
はてな自動リンク機能で、鈴木清順監督が亡くなった時にこの本を紹介してたことを教えてくれました
m-dojo.hatenadiary.com



9月21日が誕生日らしい