昔、同業者知人が話したネタ。
— 葛西伸哉(HJ文庫『封印魔竜が〜』全3巻発売中!) (@kasai_sinya) 2020年9月17日
「ジャズとか、渋い大人の記号として乱用されちゃってるけど、現代日本でハードボイルドな探偵キャラが独りになって聴くのが〈そいつが若い頃にヒットした他愛もないアイドルソング〉とかの方がよっぽど利くんじゃないだろうか」
なお「渋い大人キャラの若い頃の他愛もないアイドルソング」で何を想定するかで話者の年齢が反映されてしまうぞ!
— 葛西伸哉(HJ文庫『封印魔竜が〜』全3巻発売中!) (@kasai_sinya) 2020年9月17日
中学生でモー娘。聴いてた奴はもうアラフォーだからな!
— 葛西伸哉(HJ文庫『封印魔竜が〜』全3巻発売中!) (@kasai_sinya) 2020年9月17日
…というツイートを読んで、自分はこうツイートしたのでした。
現代日本で「ハードボイルド」って何だ?かっこいいって何だ?を考えに考え抜いて、スポーツカーじゃなくてベスパに乘る松田優作の「工藤ちゃん」が生まれた…みたいな話だ。https://t.co/0H6fpWl7Ao pic.twitter.com/JWKyM6YRCv
— INVISIBLE DOJO (@mdojo1) 2020年9月17日
というわけで、これもかなり昔の作品となりましたが「松田優作物語」で、ハードボイルド探偵「工藤俊介」が生まれるまでを描いたシリーズを再読してみよう。
この音楽でも聴きながら
探偵物語 オープニング&エンディング
探偵物語 Blu‐ray BOX(初回生産限定) [Blu-ray]
- 発売日: 2015/03/13
- メディア: Blu-ray
話は早稲田ミステリクラブ時代からの友人であるTVプロデューサー山口剛と、日本にハードボイルドを広めた第一人者・小鷹信光が、これまでにないハードボイルド探偵のドラマを作りたい!と企画し、主演候補に「あのノッポ」こと松田優作を指名したことから始まる…
会議では古今東西の名探偵、これぞハードボイルドだ!!の名作を挙げ、そこからエッセンスを抽出する贅沢な議論が。
今でも、企画会議はインスタントなものでなく、こういうふうに分厚い、根本からの議論がされているのだろうか。されていると願いたい。
しかし、非常にまずいことに……自分たちが指名した主演候補が、制作者より、もっと「おこだわり」のひとだった。
これまでの名探偵の名前を列挙して、このイメージでどうだ?とやっても、首を縦に振らない。
そもそも……
「ボギーなんてかっこいいか?ねじり鉢巻きさせたらタコ焼き屋のとっあぁんだぞ!」
「トレンチコートの襟立ててしかめッ面してみろ!今の日本じゃ「タコ」だぞ!」
「じゃあ今の日本で、かっこいいって誰なんだ!!ええっ、言ってみろよ!!」
「それがわかりゃあ苦労しねーんだよ!!」
と、大のオトナが、「カッコイイ」をめぐって怒鳴り合う。
そんな中、松田優作は、渋谷の雑踏の中で、「かっこいい」から一番離れたような、キャバレーの客引きの服装に目を留める。
(ここはいかにも歌舞伎の「中村仲蔵」の話のようで、ちょっと出来過ぎというか、ひとつにエピソードをまとめてるんじゃないか?と外野は思ったりもするが…。)
古今亭志ん生(五代目)中村仲蔵
www.tokyoheadline.com
そして撮影初日、松田優作は「誰にも相談せず」”あの恰好”で撮影現場に現れた、という………
こっから先、「中間管理職が、青くなったり赤くなったり」の話が延々と続く。
だって最初は、ボギーやマーロウみたいな、タフで武骨、だけど洒落っ気もあるような、そんな正統派なハードボイルドを日本で誕生させよう!!という話だったのだ。
それが、キャバレーの客引きまがい(というかそれをモデルにして)の、どうかすると3枚目にしか見えないルックスの探偵に、主演俳優が「勝手に」変更しちゃうのだ。
ぶっちゃけ画像も何枚もあるんだが、1枚だけ。
これをどう、上層部に通せっていうのか。
もう一回軌道修正し、本来の路線に戻すか・・・・・・
だが、ここから「いかに主演と現場スタッフが、このチャレンジに乗っているか」の挿話が延々と続く。
これも一枚だけ。
こうなってしまうと、もうプロデューサーも「共犯」になり、上をだまくらかし…いや説明し、納得してもらうしかない。
そこは早稲田ミステリ研、いろんな理論武装もできるが……
「ハードボイルドからハートボイルドへ」なんて、広告代理店みたいなキャッチフレーズも作れるが…
最後の最後は
「とにかくかっこいいモノはカッコイイんだ!俺達はこれがカッコイイんだ!!文句あるか!!」
こう、開き直るしかない。
その結果………最終的に「工藤ちゃん的探偵」は、日本ハードボイルドのスタンダード的なキャラクターとなり、今にその系譜は続いている、と言っていいのではなかろうか。
自分は何度か書いているように、エンタメは最初から最後まで理に落ちているような緻密な伏線や完成度の高さを好み、「キャラクター」のほうにはあまり重きを置かない。
というかハードボイルド分野は不慣れで、
結局「探偵物語」も一本も見てないんです(笑)
漫画だけは「事件屋稼業」と「ハード&ルーズ」で学習している…この2作も、「探偵物語」と時代的には連動しているのかな?
だが、それを離れて…いやだからこそ、この「松田優作物語」での「探偵物語」創作秘話編(※そんなシリーズ名はないけど)は
・新しいジャンルを作ろうと野心的な企画を立ち上げる
・古今の先行ジャンルを分析する
・その過程で賛否両論、甲論乙駁で激しく議論する
・何気ないところで新しいアイデアが生まれる
・その横紙破りに、現場は試行錯誤しつつ、白熱した熱気が生まれる
・古い常識の上層部との軋轢を突破する・・・・・・・・・・・
みたいな話がクリアに描かれて、むしろ自分は「創作秘話もの」として楽しく読んで、強く印象に残っている。いつか書こうと思って、10年以上過ぎたまま手つかずだったのだが(画像の保存履歴でわかった(笑))、今回のツイートのやり取りで、ふと思い出したのだった。
ああ、あとひとつ書くと、芝居のバックステージものとしては、本当に「リアル版男優ガラスの仮面」のような趣があり(なにしろアドリブで「仕掛ける」のが大好きなのだ)、特に原田芳雄との「龍馬暗殺」の共演話は「ガラスの仮面を超えたガラスの仮面」である。周囲が「次の場面、原田と松田、どっちがどっちを食って目立つか?」で賭けをしてるぐらいなのだ(笑)
実はあと少し、今回書いた理由があって
togetter.com
togetter.com
togetter.com
ひとつの「ジャンル」を、日本に根付かせるにはどうしたらいいか?の分析、議論がにぎやかで興味深いのだけど、ひとつの解としては『「探偵物語」の企画を立ち上げた人たちのような情熱と戦略を!!』だと思う。はい精神論で、何も言ってないにひとしいんですけどね(笑)。でもそーいうもんじゃないかな。そして、「欧米のハードボイルドそのまんま」を松田優作が拒否し、ベスパに乗って「工藤ちゃん」として登場したような一ひねりが…今後の武侠エンタメを、日本で爆発させるかも、と思うのです。
あとひとつは、
【9月15日に公開したニュースランキング第4位】『銀魂』アニメ版エピソード総選挙開始!新作映画のキャラ設定画公開 https://t.co/JYKEHp8f89 #銀魂ザファイナル #gintama
— アニメイトタイムズ公式 (@animatetimes) 2020年9月15日
アニメ「銀魂」が夕方放送へ復帰!「よりぬき銀魂さん ポロリ篇」10月より放送(コメントあり)https://t.co/3yug8gpEhV pic.twitter.com/gtb1siOmWb
— コミックナタリー (@comic_natalie) 2020年8月20日
そう、これは自分の持論なんだけど「銀魂」は、その種の三枚目的要素を加えた日本ハードボイルド…松田優作「探偵物語」の正統後継者であり、また「ドラえもん」が子供向けに、最良のSF的発想・SF設定を学習させている漫画であるのと同様、「子供向けにハードボイルドとは何かを学ばせている」作品だと思っているのです。
その新作映画(ファイナル?)と、傑作選のテレビ放送……ということで、描きたいと思いつつ保留してきたハードボイルドの話を、ほぼ10年ごしに書き終えることができました。(了)
おまけ
はてなの自動リンク機能で、鈴木清順監督が亡くなった時にこの本を紹介してたことを教えてくれました
m-dojo.hatenadiary.com
9月21日が誕生日らしい
今日は松田優作氏誕生日。ジーパンに始まりブラックレインで終わった我等世代のヒーロー。後年の求道的な演技者ぶりも良いですが私はやはり若さが弾けていた遊戯シリーズや俺たちの勲章の頃が好き。大都会PART2のアドリブ全開なコメディ演技も最高でした。全身から滲み出る型破りの自由さは永遠です。 pic.twitter.com/rrbG8OK3DO
— 阿乱隅氏 (@yoiinago417) 2020年9月20日