え、飼えるの? 食べる人がいるって本当? そもそも鳥としてどうなのよ。
鷹の速さやフクロウの平たい顔の秘密、恐竜との関係や天候不順にどう対応しているか、など身近な鳥の秘密に迫りつつ、案外とヘタレで弱気なのに悪賢いと思われがちなカラスのことを、あますところなく「カラス先生」が伝えます。カラスって、やっぱりおもしろい! カラス好き、鳥好きに贈る、愉快な一冊。< 巻末にカラス情報付き>
この本、まずは前書きからしてただものではない。
本書のタイトルは「カラスは飼えるか」であるが、別にカラスの飼い方を述べた本ではない。これは最初に前書きでお断りしておく。もしカラスの飼い方を知りたかったのであれば、ここで本を閉じて本棚に戻して頂いて構わない。と言うかそうすべきである。
この辺のメカニズムをぶっちゃけよう。「カラスの悪だくみ」というタイトルで Web 上で連載していたものを単行本化するにあたり、 ページビューなどがリサーチされたところ「カラスは飼えるか」という回がダントツで人気だったのだ。
そんなに飼いたい人がいるのか?とも思うが、営業的には読者を惹きつけるタイトルをつけたいのは理解できる。
本書も商業出版物である以上資本主義社会の流儀に則った商品にならざるを得ない。どれほど高潔なことを言おうが、人間は人という動物種であり生物としての原理に則って生命活動を行っているのと同じである。
ちなみに、余談というか自慢だが、「どうも京大の関係者っぽい文章だなー」と直感で思ったら、はたして今現在の職業こそ東大総合研究博物館特任准教授に落ちぶれているが、京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了の、れっきとした治外法権育ちのアレだった。読んでわかるんだよ、ある種のいやな予感というか(笑)
で、表題の「カラスは飼えるか」は、あんなに知能が高いといわれるのに、なぜペット化されないのか?の謎に挑む。
またそもそも、その「知能が高い」は本当か?という話や、さらに高度な謎である「カラスは食えるのか、食ったとしてうまいのか」にも挑んでいる(第2章)のだが…そこでカラスの対比として語られるニワトリの話がまた面白い。
カラスについては、またあとで書くとして、脇道のニワトリについての文章をメモしよう。
・採卵用の鶏である白色レグホンは年間300個もの卵を産む。だがそもそも卵とはある程度産んだら抱いて孵化させるべきもののはずだ。
つまり卵を産むという行動にはどこかで歯止めがかかる。でないと体力が持たないし抱卵を開始することもできない。ところが採卵用の鶏はこの習性を失っている。だからこそいくらでも卵を生み続けている。これは突然変によって生じたが野生では広まりようがない。なぜならその習慣を受け継ぐ子孫は構造的に生まれないからである。 これが品種改良というものだ。
・鶏というのは東南アジアの野鶏が先祖で、そのうちセキショクヤケイと言う種が直接の子孫。鶏はどんな品種も含めて全て1種類。 小さくて筏などに乗せられるからどんどん広まったのだろうと。
鶏はすでに古墳時代にいたことは埴輪が出土するから明らかなのだが、骨の出土例がほとんどない。普段から食べているものの骨は必ず残っているので。
日本では「食べる習慣はなかった」かもしれない。食べないなら何に使うかと言うと祭祀のため。朝に大きくないて夜明けを知らせるというのは神聖視されたのだろう。
・しかしこの鶏が古代に太平洋を越えることはなぜかなく、アメリカ大陸には鶏が伝わらなかった。その代わりに夜明けを告げる鳥としてワタリガラスが神聖化されたのではないだろうか。
カナダからアラスカの西海岸の伝説は世界を作ったのはカラスであり人間に火の使い方を教えたのもカラスである。
・闘鶏について。 ボクシングのバンタム級の「バンタム」とは、シャモのこと。闘鶏の軍鶏は「シャム」 つまり現在のタイあたりを示す地名から来た。日本で闘鶏が盛んになった時に品種改良のために外国のニワトリと掛け合わせた名残だろう。軍鶏鍋が有名な料理なのはうまいからかもしれないが、もう一つは 「負けたら食われる」故に、古くなっためんどりの廃鶏よりもおいしいからである。
フィリピンの闘鶏では、囲いの中で鶏が血みどろの蹴り合いをやっている間、その横では火を起こして鍋を準備している。そして負けた鶏はその場でシメてさばいて、鍋に放り込んでアドボ(シチュー)にして、賭け金をすった連中と負けた飼い主が溜飲を下げると共にお祭り騒ぎを盛り上げるご馳走になるのである。
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この話題の時に「古い雌鶏はいかに美味しくないか」を、体験談を交えて書いているのだが、そこが面白い。
大学院の頃、雌鳥の廃鶏を食べたことがある。猛禽の研究をしていたコワモテな後輩が山奥の養鶏場のおっちゃんと仲良くなって、猛禽を捕まえるための囮として鶏を譲ってもらったのがきっかけである。
そいつが「兄ちゃん、ウチの鶏はうまいから!」と言われて生肉したパックを貰ってきたのであった。
研究室で「鶏肉いっぱいあるから食べましょうよ」と言われ、とりあえず普通に料理してみた。廃鶏であることを考慮し、酒をたっぷり入れてコトコト煮た。だがその肉はまるで硬いゴムのようであった。
かんでもかんでも肉はなくならず、噛み切るのも難しかった。それではと、さっと火を通してみたがこれまた見事に臭くて硬くてまずかった。
もらってきた当人は責任を感じてか、もくもくと肉を噛み続けた。もう一人、研究室で一番いかがわしい後輩も「食えない」と降参するのが悔しかったのか黙々と噛み続けた。研究室で名うての強面、怪しい、いかがわしい三人組が5分ばかりに口を噛んだ後「申し訳ないがこれは食えない」ということで意見が一致した。ふと気づいて冷蔵庫を開けると、廃鶏の肉はあと3パック入っていた。
どうすんだよこれ。
その後「廃鶏をなんとか食べる会」 が開催された。思いついた方法は…(後略)
ほら、いかにもたこにも、京大だコレ。
いちおう「カラスは食えるか」の結論だけ書いておこう。
カラスは食えるかと言うと、もちろん、食うことができる。
カラスの食べ方については「本当に美味しいカラス料理の本」というそのものずばりの本があるので参考にしていただきたい。塚原さんは宇都宮大学でカラスの音声を研究したが、同時に大変な料理上手でもあるので駆除されるカラスを有効活用できないかと考えて作ったのである。
カラスの肉は高タンパク低カロリー。タウリンや鉄分を大量に含む。
鉄分を大量に含むというのは要はレバーのようだということ。 加熱するほどこの味が強くなり、一言で言えば初のように硬いレバーを噛んでいる感じになる。そもそも高タンパク低カロリーというのは「油っけが全くなくてパサパサのカチカチ」。
下処理に手間をかけないとまずいけれども手間をかけたからといって飛び上がるほどうまいものではない。どうせ同じ手間をかけるなら鶏に、そういう手間をかけた方が美味しいのじゃなかろうか。
無駄に捨ててしまうぐらいならカラスを活用してもいいんじゃないですか、という提案としてはアリだが、わざわざ取って食べる価値は趣味でもない限りあまり感じられない。地元の名産品としてもおそらく成立しない。
目次紹介
◎目次
脳内がカラスなもので(まえがき)< br
> 1章 フィールド武者修行
夢見るサルレーダー
サルは友達なのか2章 カラスは食えるか
品種改良の歴史
宗教的禁忌
闘う鶏
なんでも食ってやろう
毒を食らわばカラスまで3章 人気の鳥の取扱説明書
鷹は戦闘機に勝てるか
殿様と鷹
人気者たちの悩み
鳥を導くもの
フクロウ、平たい顔の秘密4章 そこにいる鳥、いない鳥
街の人気者、カササギ
恐竜に出会う方法
不思議の国のドードー
台風と鳥5章 やっぱりカラスでしょ!
カラスに蹴られたい
カラスじゃダメなんですか
ホーム・スイートホーム
悪だくみ、してません
カラスは鏡を認めない
ミステリーの中のカラス
深淵にして親愛なる黒
カラスは飼えるか
そして、カラスの悪だくみBack in Time
付録――カラス情報