スピリッツ連載中の「アオアシ」。
主人公が属する「エスペリオン」などのクラブチームと、高校のサッカー部が一緒に参加して競う「プレミアリーグ」が現在舞台となっているが、その最終戦の敵役として「青森青蘭」という高校が登場している。
最新号まで数回、この相手校に焦点を当てたエピソードが描かれているが、これが「ライバルの演出」のお手本になっているかのようなので、ちょっと紹介したい。
まず、基本的に主人公の所属するクラブチームより高校の部活動のほうが「条件が悪い」事が描写されます。ことに青森にあるこの高校は、まずグラウンドの雪をかくところから練習を始めなければいけない。ランニングも雪が積もっているだけでてきめんに大変になり、けがのリスクまで高まる。
ある部員に、記者がインタビューした所、「うちとクラブチームどっちがうまいか?まちながいなくクラブチームですよ」と返答され、記者ズコー
しかし・・・・・・・・「どっちがうまいか?と聞かれたからクラブチームだ、と答えましたが、どっちが強いか?なら…」
このへんで、「最強の敵」役としての演出がダン!!と加速します
それを率いるのが、定年も間近の老将・成宮監督。息子もコーチを務めている。
この人は設定上も「インタビュー嫌い」とされているが、作劇上も「何を考えているのかわからない」描写で、そこにミステリアスな魅力を感じさせ、引き付けさせるのは「ジャイアントキリング」にも似ている。
そして、断片的な伏線、ヒント、キーワードがちりばめられ……
そして、彼は、どんな思いで、「条件の悪い」高校のサッカー部を率いているのか?クラブユースへの思いは?…という所で、普通の敵愾心ではない、ちょっと違う顔を見せる。
ここがポイント。
期待する、愛する相手を成長させるために、敢えて敵に回る…というのはそれこそ星一徹の時代からあった敵役の定番のひとつではあるが、それでも、それに説得力を感じさせる「重み」というものは重要。描かれた風貌や、挙措言動から、それに説得力を持たせることに、この作品は成功している。
そしてまた、最初にもたらした謎を、ちょっとだけ進めるんだよな(笑)。自分で謎を出して、自分で謎のヒントを出して進めるんだから、当たり前ながら自作自演だ(笑)。その自作自演で、演出していく。梶原一騎的、ですねーー。謎のミスターX、タイガーマスクの正体はいよいよ核心に迫る!…みたいな
そして「将」だけを描写しても強い敵は描けない…いや、描けるんだけど、鬼に金棒を持たせるように、その優れた将が、十全の信頼を置く「剣」も描かれれば、それはすごいことになる。劉備に関羽張飛あり、アルスラーンにダリューンあり、でな…「まず強い敵を描写。その強い敵が『こいつはすごい』と宣伝する」という、「ホイスがヒクソンは僕の10倍強いと宣伝する」公式だね。
このあと、こう続く。
「北野 蓮という宝物を。」
この北野蓮という相手のエースは、主人公と近接する、サッカーの試合での空間・位置関係の把握力がすごい、という設定らしい。これもどう絡むのか気になる。
このへん、実際の創作者、プロを目指す人などは「最強の敵役が登場する”直前”」の演出として、大いに学ぶところあるのではないかな。
もちろん、こうやって盛り上げるだけ盛り上げたあと、実際の対決編になると描写が「あれーー……」みたいなことになるパターンも多いんだけど(笑)、それはそれで風情があるのです。「実際に戦う前の盛り上がりはすごかった!」なことは、マンガでも、リアルなプロレス格闘技の試合でもよくあることです(笑)