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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

何かが噂で品不足になると、山本夏彦のこの言葉を思い出す。

……もうお忘れだろうから、当時(※1970年代に起きた、有名な「石油ショック」の話です)の言葉を新聞から拾ってみると、彼女たちは問屋で、「私たちがつらい思いをしているのに、こんなにたくさん隠すなんて許せない」「あした使う洗剤もない私たちにこの場で売渡せ」と口々に叫んだ。
 勢いに乗じて、埼玉県の某社の倉庫に乗り込んで、めでたく、「全温度チアー」とやらを三万ケース発見して、「まあこんなに」と驚くより怒りの表情を示し、「この洗剤はビニロン系の繊維に使うと色が出る欠陥商品だから、売らないで去年からここにある」というメーカーに、「ビニロン系には出ても、ほかには出ないだろう。その旨ことわって売るべきだ」と迫ってきかなかったという。
 あまりのことに、トイレットペーパや洗剤がどこにあるか、男だから知っていると私は論じた。それは各人の押し入れのなかにある。主婦が一箱ずつ買うと、わが国には三千二百万所帯あるから、三千二百万箱なくなる。洗剤の月産は二千万箱だそうだから、差し引き千二百万箱不足する。どこへ行っても売切れるのはこのせいである。
 テレビで一箱もないと訴えた人がいたが、それは持たない人を集めたのである。あるいは二箱や三箱持っているが、この席では持たない人として発言しているのである。この番組に出て、家には四箱あります、おかげ様でとは言えない。言えば失礼に当たる。
 二箱も三箱も持ちながら、持たないふりをすると、言葉は実際以上に威丈高になる。怒ってもいないのに怒ったふりをすると、しまいには本当に怒っている顔つきになる。美容上の問題だからよせと、私は書いたのである。
(略)
洗剤騒ぎは四十九年の一月を頂点として二月にはいると急速におさまった。「今度は洗剤の山、目もくれない主婦たち」と題して、二月上旬の新聞は店頭にあふれる洗剤の山を示した。
 品物というのはひとたび店頭にあふれると、客は目もくれなくなるものである。目もくれないでいられるのは、押し入れに一箱以上持っている証拠だと、私は思うが女たちは思わない。(略)愚かな、無限に愚かな女のむれ、愚かな、無限に愚かな男のむれ!

以上、「二流の愉しみ」を 
toujikyaku.cocolog-nifty.com

より孫引き。

二流の愉しみ (講談社文庫)

二流の愉しみ (講談社文庫)

真似からはじめよと説く「私の文章作法」、この世が「当人」と「他人」から成っていることを喝破した「当人論」など、現代のモラリスト、辛口のエッセイストとして定評ある著者が、世相万般にわたって偽りの正義と勝手気ままの横行する、当今の風潮を見事に斬る。鮮やかなレトリック、芳醇にして気骨ある文章が冴えわたる名エッセイ。簡明にして勁直、軽妙にして気骨稜々、さすが当代屈指の文章家!

ちなみに
「怒ったふりをすると、しまいには本当に怒っている顔つきになる。美容上の問題だからよせ」云々というのは性差別的でポリコレではないと言えばもっともなのだが、似たテーマで書いた別の文章では

折角の器量が台なしになる。
まして折角でない器量は、さらに台なしになる。
そしてこの世は折角でないものの方が折角より多いとすれば、日本中台なしになる。

などと申しております。いやまったくけしからぬことで。