まず山田芳裕「望郷太郎」に関しては説明は省く。なぜならこの前、こういう記事を書いたし
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1-3話が無料で読めるコーナーもまだあるからだ。
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ようはそういった、いつの時代かわからなけど今から遥か未来……。
それも文明がいったん滅び、前近代的な異世界っぽい世界になったと地球を、冷凍睡眠で「現在」から来た日本人が旅をするってSF話。
で、旅するなかで出会った村で、別の村とのまつりがあるのですが、これが「ポトラッチ」なんです。
ポトラッチ。
はいこれ、基礎教養だよね?みんな説明抜きでしってるよね……? ってことがあるわけねー。サブカルというかSF的、民俗学的伝奇的なことを知りたがる界隈でしか通じない。
togetterで結構話題になる「あなたの『四神』はどこから?」「あなたの『臨兵闘者皆陣烈在前』はどこから?」と同じよーなもんだ。少なくとも義務教育で教えてくれるような知識ではないはず。
ところが山田芳裕はやっぱりガチで、これをナレーションで説明とかしてくれない。白土三平や梶原一騎は、実はお母さんのようにやさしかったのだ。
しかし、まったく説明抜きにポトラッチが出てくるから、その異様な迫力や、「全く理解できないが、何かの論理と共有されている常識が、あの世界にはあるんだろうな」…と感じさせるものがあるのも事実。
では、実際に見てみよう。以上、週刊モーニング7、8号より
例によって、サイト「コミックDAYS」有料会員なら、まだまとめて読める。
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チヌーク・ジャーゴンで「贈る」または「贈り物」を表す言葉に由来する。ポトラッチは太平洋岸北西部先住民族の重要な固有文化で、裕福な家族や部族の指導者が家に客を迎えて舞踊や歌唱が付随した祝宴でもてなし、富を再分配するのが目的とされる。ポトラッチは子供の誕生や命名式、成人の儀式、結婚式、葬式、死者の追悼などの機会に催された。太平洋岸北西部先住民族の社会では、一族の地位は所有する財産の規模ではなく、ポトラッチで贈与される財産の規模によって高まった。ヨーロッパ人と接触する以前は、保存性のいいキャンドルフィッシュ(Thaleichthys pacificus)の油や干物、カヌーが贈与され、特に裕福な者のポトラッチでは奴隷が譲与されることもあった。
白人との交易が活発になると、先住民族社会の富の偏在が先鋭化し、また疫病の流行により部族内の重要な地位に空きができたことから18世紀後半から19世紀初めにかけてポトラッチのインフレーションが起こった。食料では、干物の他に砂糖や穀粉が分配されるようになり、毛布や金属製品、等価交換の媒体として用いられる装飾された金属、現金までが贈与された。等価交換の度が行き過ぎて、片方が貴重な品を破壊するともう片方もそれと同じ価値の品を破壊する、というふうに、分配された品物が受け取られた直後に破壊されることもあった。クヮクヮカワク族などでは社会的地位をめぐりポトラッチ開催の競争が起こった。
頼みのウィキペディアもいまいちわかりにくい。俺なりにもっとざっくりいうと
・アメリカ大陸先住民の風習で、部族同士で「贈り物」をする。
・それは単なる好意ではなく「こんな贈り物をできる俺らはSUGEEEんだぞ。お前らはその下な」を意味し、上下関係や主従関係を左右する。
・それはどこかで過剰になり「貴重なものを相手にあげる」ではなく「貴重なものを目の前でぶっ壊す」にまでなる。
・・・・・・という、実在した風習なんです。初めて聞いた時はおいらも「いやー、なんて奇妙キテレツな風習なんだろう」と思いつつ「いや、そこに至る思考過程は、なんとなーくわかるな」とも思ったものでした。
で、これを題材に、80年代の現代思想、ゲンダイシソーは「過剰と蕩尽」だとかバタイユだとか栗本慎一郎だとか、そのへんがこのへんをあれこれ言ってたらしいし、自分も確かにそれで断片的に知識を得てはいるのだが、そんなものを紹介するほど俺は暇人ではないし、悪人でもない。
金銀財宝盗んでも、畜生外道と現代思想語りは許せねえ。
だから紹介するのはかんべむさし「ポトラッチ戦史」のほうなのである。長編化ものちにされたらしいが、そっちは未読だ。
中核は、けっこう単純なワンアイデア・ストーリーなのである
世の中、いいんだかわるいんだか、最近はこういうフィクションのあらすじ書いていかがでしたかなサイトもあり
ara-suji.com
実際にこれを読めばあらすじはつかめるんだけど、ちょっと業腹なので自分なりに語る。
・コロンブスが、探検の旅の中でポトラッチに出会う(事実)
・コロンブスはこの風習を、タバコや梅毒のように(笑)、欧州に持ち帰る。そしてポトラッチはたばこや梅毒のように、欧州から世界中に広まる(笑)
・ポトラッチはある意味戦争の代わりであるから(事実)、以降の世界の歴史は「戦争」に「ポトラッチ」が代入される。
・つまり、第一次世界ポトラッチの惨禍のあと、ヒトラーやスターリンやルーズベルトや東條が、さらにすさまじい「第二次世界ポトラッチ」を……
ここの「パピルス」という電子書籍サイトでは、一篇から読めるっぽいが。
サンプルより。
… 「ええ、それでは唯今より、ソ連邦の名において、米中両国に対し、礼をつくさせていただきます」
アナウンサーは言い、採掘されたダイヤモンド鉱を無造作につかんで、かたわらに設置された超高熱炉の中へ放り込んだ。
「さあ、皆もやってくれたまえ」
声に応じて、採鉱夫達がワッとむらがり、我がちにダイヤを投棄しはじめた。
「この、この」
「ダイヤ鉱、燃やしてみればただの炭」
画面がかわり、シベリアの大森林地帯が写った。飛行機からの空撮だった。
「紹介しましょう」
別のレポーターが快活に言った。
「ピオネール少年団の諸君達です」
眼下にひろがる無限ともいえる巨木の陰から、これまた無限とも思える子供達が現われ、空を見あげて手をふっていた。それぞれの手の先でキラキラと光っているのはノコギリらしい。
「この母なる大地の大森林と、それを倒す彼らの貴い労働力。この二つの価値を同時に提供いたしましょう」
合図があったらしく、少年達はいっせいに巨木の根本でノコギリを使いだした。何十万何百万本の銀の刃が、キラッキラッと規則正しく光っている。光って地の果てまでつづいている。
「ふうむ」
大統領は腕を組み、ため息をついた。
「手強い奴らだな」
「こちらも、よほど覚悟を決めませんと」
「中国はどうなんだ」
「すぐ写ります。これもなかなかです」
地肌に蟻の大群が写った。ウジャウジャと集まり離れ、動いている。これも空撮だ。
「奴ら、何をしているんだ」
「いまに分ります」
グッとカメラがアップした。
「あっ」
ブラウンは思わず声をあげた。
「万里の長城を崩している」
www.papy.co.jp
書いててなんだけど バカバカしいな、この話!!
しかし、そのバカバカしさこそが、異能のSF作家かんべむさしの真骨頂であり、われわれはそれに熱狂したのでした。
うちでは「かんべむさし」について以下のような記事を書いていたけど
かんべむさし の検索結果 - INVISIBLE D. ーQUIET & COLORFUL PLACE-
気合を入れて本格的に書いたのはこれぐらいか。
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かんべむさし作品を再度紹介して、再ブームを作りたい、という夢想はしているんだけど、力不足で果たせていません。
少しツイートしたものを、ほかの人がまとめてくれてた。
togetter.com