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【メモ】伝説の演出家・鴨下信一が語る「寅さん映画、この演技がスゴい!」

この本、読んだ。

昭和芸能史 傑物列伝

昭和芸能史 傑物列伝

国民栄誉賞」で見る昭和芸能史。
美空ひばり長谷川一夫藤山一郎渥美清森繁久彌、森光子。昭和・平成の大スターにして国民栄誉賞を受賞した6人。彼らの足跡を辿り、大衆とスターが織りなしてきた芸能史を紡ぎだした意欲作。演出家としてスターたちと直に接してきた著者が、スターがふともらした言葉、仕事に向かう姿勢、演技を離れたときの素顔などを回想し、その芸の本質に迫ります。美空ひばりはなぜ「下品」といわれたのか? 長谷川一夫の「科学的」な演技。知られざる渥美清の素顔。「戦争をしくじった」――森繁久彌が生涯抱えた陰影。等々、同時代の雰囲気を克明に回顧することで、6人の「傑物」が芸能史において、いかなる存在であったかも浮かび上がらせます。


1935年生まれ、ということは84歳か?長生きして、語ってくれよ、まだまだ。


なにしろ国民栄誉賞縛りで6人紹介する本(芸能人限定です)
いろいろ紹介したいことはあるのだけど、こちらの体力的限界があるので、「渥美清」の回、それも映画の寅さんで、超一流の演出家たる鴨下氏が「ここが凄い!」とピックアップした演技のところをメモしたらしい。


…あなたと寅さんは似ているか、演技のコツは、と聞かれて渥美清がこんな意味のことを答えている。『二人は魚同士で、モグラが魚を演じるわけじゃなし、魚が魚を演るのだからそんなに難しいわけじゃありませんー』

…寅さん48編の笑いのベストは何かと言われたら、第15作「寅次郎相合い傘」のメロン騒動、だというのが大方の意見だ。旅先で面倒を見た男(船越英二)が持ってきたまだ当時貴重品のメロンを一同が人数分に切り分け、ありがたく食べ始めたところへ外出先から寅が帰ってくる。
寅のぶん!さあ大変忘れた!
いくら取り繕ってもダメ。これから始まる寅の愚痴、イヤミ、当てこすり、脅しのオンパレードがおかしい。「こんなことをするのは、おめえたちの心が冷てえからだ」と言い募る。これで「あいつはナスのヘタでもしゃぶってりゃあいいやんだと思ってやがるんだろ」のアドリブが入っていたら(テストでは言ったという)もっと笑えただろうが。

…初代おいちゃん、森川信
一同が集まって寅の悪口を言っている。「馬鹿だねえ…寅…」はおいちゃんの決め台詞だが、定番としてはいつのまにかご当人が帰っていて皆が慌てる。 この時の芝居を注意して見てほしい。普通の演技プランでは、 振り向いて→気づき→慌てる順序だが、森川の芝居は振り向く時にもう半分慌てる表情が浮かんでいるのがコメディアン的味付けで、これがやさしいようで難しい。それでいて振り向き終わって寅の存在を確認すると、…これがわざとらしくなくできる役者は、もういない 。


映画『男はつらいよ』(第2作)予告編映像/4Kデジタル修復版ブルーレイ2019年12月5日リリース

…渥美もこの時期は台詞回しのおかしさだけでなく身体のギャグもやっていて、これも定番の梯子段で2階へ駆け上がる時ガツンと天井にぶつかるのも思い切ってやるから見事な動き…
最良のものは第2作「続男はつらいよ」 のこのシーンで見られる。
京都の料亭で照れまくった寅が、座っていた座椅子を外れた拍子にその背中をバタンと前に倒してよろける。
半分開けてある雪見障子にもたれて体勢を立て直そうとするが、障子がスイと滑って寅は庭に転がり落ちるこの一連の動きの鮮やかなことったらない。
あまりの速さに、一瞬これが芸であることを忘れ本当に起こったことのように思ってしまうほどだ。


映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』予告映像


TBSの演出家として、鴨下氏は寅さんではなく俳優・渥美清をいろいろ、と知っている。
ご存知の人も多いけど、渥美清は、かなり厭世的で人見知りで、狷介なところがあったという。それがまた、寅さん流の愛嬌や皮肉さとも相まって出てくるから、「コワがられた」という。

それは「寅さん」も同じで、鴨下氏は日本人が寅さん=渥美清のことを「8割いとおしく、2割コワかった」のではないか、という。
だから神として「祀り上げ」人形ーヒトガタとして、もろもろの災いをつけて流す。

そして、鴨下は、こう観察する。
日本人がどんなものを(日本人が自分たちのどんな部分を、と言い換えてもいい) 邪魔者として寅さんに付けて祀り上げてしまったかは「寅さん映画」を順に検証していくとよくわかる。