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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています 

「漫画による手塚治虫証言集」にあらたな一冊…「手塚治虫アシスタントの食卓」(堀田あきお&かよ)

ブラックジャック創作秘話」このマンガがすごいの第1位になるなど高い評価を受け、セールス的にも成功したことを受けて、「有名作品の創作秘話」や「有名漫画家のアシスタントの体験談」、「漫画家の自伝漫画」、などが次々に出版されることになりました 。


そんなってくると、当然クオリティー的なものでは玉石混交になるんだけども、仮に「石」であっても、それが記録として一度描かれるというのは確実に漫画史の成果として残るものだと思っています。 だからとりあえず、そういったものは読んでみたいし、描かれたことに拍手したい。

そんな中で、 また一冊似たような本が生まれた…

このひとね…名前は知っているし、アジア旅行漫画も読んだことあるけど、それほど印象に残るものはなかった。

今回の本は「手塚治虫アシスタントの体験談」で「その時、食べていたものをテーマに、グルメサイトのコンテンツとして連載する」という…正直まっかっかな、みんなが書き尽くしたレッドオーシャン的なテーマによくぞ挑むなあ…という思いもあるんだけれども、 その一方で自分は「手塚治虫はその生涯の全て…『某月某日、手塚はXXと会い、〇〇をXXページ描き、▼▼を食べて▽時に寝た(あるいは寝なかった)』というのがすべて記録されるべきだ」、とも思っているので(こういう研究はナポレオンやヒトラー森鴎外夏目漱石についてはやられているらしい。松本清張の「ある『小倉日記』伝」はこれがモチーフだよね)、どんな資料でも歓迎したいところである。


実際に読んでみると…… うーん、食卓については、かなりとってつけたようなところがあって、あまり美味しそうでも物珍しいものでもない。ちょっと高級な店屋物や出前、弁当を食べたという話だし、それがメインになることもあんまりない。


手塚治虫伝としても…やっぱり主だったところ、おいしいところは既にどこかで読んだり聞いたりした、と感じることが多い。同じ意見を別の人が自分の視点から描写して行くことは大変良いことであって、 咎め立てする筋合いはないんだけどね。ただ同じ事件でも、この人の描きかたが一番面白い!と感じる事は正直なかった…


それであっても、逆にこれが初出かな?と思うような新鮮な目撃談や証言もある。

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手塚治虫アシスタントの食卓 堀田あきお&かよ

なんといっても絵柄も含めて強烈なのは、仕事場でも基本手塚さんは自分の部屋にこもって原稿を渡すだけで、どのアシスタントも常に接しているということはないんだけど、そんな中たまたま連絡役を珍しく引き受けた作者は、絵にあるように「パンツ一丁で仕事する手塚治虫」を目撃する。裸の手塚治虫は、漫画で回想される時のようなやせぎすではなく、かなり太っているのもご愛嬌だ。ベレー帽はかつらがわり、ハゲ隠しであることも有名だけれども、そんな描写もある。


また、手塚治虫の父親…医者の家だけあって非常に戦前から裕福で、趣味人としてディズニーや宝塚にも造詣が深く、息子が「手塚治虫」になるための文化資産をたっぷりと与えたことで知られる人だが、実は晩年は 手塚プロ内にお父さんの部屋というのがあり、ファンクラブの世話役、見学客の案内などをしていたのだそうだ。

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手塚治虫アシスタントの食卓 堀田あきお&かよ

息子が医者にならなかったことへの思いなども落としたらあったのかもしれないが、その一方で漫画というジャンルで日本のみならず世界に評価される息子の姿を間近で見て手伝うことができたのは大変幸せな余生だったのであろう。
その一方で手塚治虫が小さい頃はかなり厳格で怖かった、と言うから、なかなか分からないものだ。まあ戦前の「家長」というものは、「そういうことに向かないな、やりたくないな」と内心で思っているお父さんも厳格でなければいけないというそんな抑圧があったんだよな。


あと、今なお使われている西武ライオンズのマークを作った時の伝説も、当事者の談話として確認できた 。

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手塚治虫アシスタントの食卓 堀田あきお&かよ
あのマークに、そんな秘話があったとはな…。
これはライオンズファンにとってはつらい。だが、所沢球場を「竪穴式住宅」「でっかい野ツボ」と言い放ったいしいひさいち氏よりはマシか(笑)

上から目線みたいな言い方で恐縮だが、「まあ読んでみたら、面白くはあったよ」といった感じの読後感でした。だが、それなりに手塚治虫についてなんでも知りたいと思っている人はどうぞ、かな。


あとひとつ、「なんでもお食事漫画だな、食べ物漫画ばっかりだな」と思うことも2019年の今そりゃあ、ありますけど「食べ物漫画という体裁さえ整えれば、そこにニッチでマイナーなジャンルや興味を潜り込ませることができる」というのも、また一面の事実だと思う(ブームというのはそういうものです)。

それを生かした試みというのも既にあるしこれからも出てくるだろう。読み手としても、そういう「埋め込まれたチャレンジ」に敏感でありたいと思いました。