アメリカという国は、特にアメリカ政治というのは日本との違いが大きすぎ、またその違いが非常に興味深いと言うか対照的な感じなので、アメリカ政治を論ずる新書の類は結構好きで読んでいる。
その中で最近面白かったのが渡辺将人「分裂するアメリカ」でした。
- 作者: 渡辺将人
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2012/02/29
- メディア: 新書
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話題の知米派学者が圧倒的な現地取材で描く。
2012 米大統領選に向けて、必読の書。彗星のように登場したオバマが危機に瀕している。“小さな政府”を訴える保守派のティーパーティ運動が広がり、ウォール街占拠デモに象徴されるリベラルの動きも活発化。経済が停滞するなかで、右に、左に先鋭化する草の根運動の根源にあるのは、政治に対する不信感だ。無党派や中流層さえ、“大きな政府”を拒み、生活を助けるはずの医療保険制度に反対する。人種や格差よりも “理念の対立“で分裂が深刻化する大国の今を、気鋭の学者が論考。
この本は特にティーパーティー運動、オバマ政権、リバタリアニズム、移民問題、銃を持つ権利、宗教右派…などなど非常に面白いトピックが 並んでいたのだけど、一番印象に残ったのが「アメリカの政治討論会(大統領候補者討論会)」の裏側やその意味戦略などを記述した部分でした。
ここを読んでいくと、トランプが勝利したひとつの理由が分かった気がするので皆さんにも読書体験をシェアしたいと思う。
「問題発言」をすると政治討論会で有利になるワケ
アメリカの政治討論は、なんとなくものすごく自由で、ルールも何もないかと思ってたのだが、少なくとも大統領候補の予備選ディベートなどは、日本のそれと同様に、 厳密なルールもあるし、司会者の権限も強い。
司会者が質問してそれに回答するというスタイルが存在しその許可なしには候補者は勝手に発言できない。相互に批判したい時でも「A候補の今の発言を受けてあなたはどう思いますか?」とB候補に司会者が聞いて初めて討論できる。
ただし、完全に機械的に時間が割り振られるのではなく(ここは日本と違う)、その司会者の権限で、質問が集中する候補というのが出てくる。
さてここからが重要だ。
ある候補が、過激発言・問題発言をするとします。
それは普通なら当然、 候補者にマイナスとなるでしょう。しかし、例えばこういうディベートの期間中に、ある候補が過激発言をすると…司会者はニュース価値があるから、当然この発言について、その候補者に質問を集中させます。
そうすると、善悪、プラスマイナスはその回答次第であるけれども、 少なくとも限られた放送時間の中では、露出が集中するのが問題発言の主なのである。
ここから引用しよう。
質問の仕方には定形がある。それは「あなたは…について…という発言をしていますが、これについてどうか」という、過去の刺激的な失言に近い、いわゆる突っ込みどころのあるクォート(引用)を探してきて、それを提示して自己弁護させると言うスタイルである。ほぼ例外なくこのスタイルを踏襲する。
この質問方法は、候補者にとって利点と欠点が両方ある。利点は準備がしやすいことだ。候補者は…(略)…分厚いファイルを作成する…全てが暗記できるわけもなく、結局のところはスピーチライターが噛み砕いたシンプルな「メッセージ」を候補者のボキャブラリーを用いて変換する作業が必要となる。(略)
しかし過去の発言でメディアが突っ込みそうな場所を逆算して洗い出せば、ほぼ間違いなくディベートで聞かれることが予測できるのである。それに沿って勉強しておけばいい 。
(略)
新規のアピールよりも、過去の失言や揚げ足を取られそうなポイントの弁護がどこまで上手にできるかが加点基準であり、その自己弁護の延長として、さりげなく新規のアピールも加えられれば混ぜる。「訂正する機会を与えてくれてありがとう」とにっこり笑って、 ついでに自己宣伝も知ってしまえばいい。突っ込まれることは美学であり、それだけ過去のネタが豊富な「話題の候補者」という意味である。これを地で行ったのが、1992年大統領選挙のビルクリントンだった。
スキャンダルに告ぐスキャンダルの炎に取り囲まれた選挙戦だったが「弁明」「釈明」ステファノボロスの存命側近がテレビ枠に出演するワクワクと交渉して確保し「釈明」ついでに候補者の魅力の宣伝もやってしまう。結果としてスキャンダルもないような平凡な対立候補陣営の番組出演枠はどんどん少なくなり、クリントン陣営がメディアを独占し、 議題設定そのものを誘導した。
これ、トランプが大統領になった経緯を、固有名詞こそ違えどあまねく説明しているのではないか。
FOXニュースについて
保守系テレビとして有名な FOX NEWSに 関しての記述もあって、これは面白かった。 実はフォックスニュース立ち上げの時、元 CBS NEWSの ナンバー2だったジョー・ペイロニンという人物が参加していたそうだ。
もう一人、立ち上げの中心人物だったエイルズという人が 聞く。「君はなぜリベラルなのか」「なぜ私がリベラルだと思ったのですか」「何故って君はCBSで働いていたんだろ」
ペイロニンは「私はジャーナリストです」 とだけ述べ、リベラルかどうかに返答しなかった…という。
ちなみにエイルズはかつて父ブッシュの部下であり、ペイロニンはダン・ラザーの部下であった。このボス二人は生中継の放送で「決闘」したことがあり、この時ブッシュが勝利したことが、父ブッシュの大統領選当選に繋がったのだという。
当初、父ブッシュは副大統領であったがあまり人気はなく、予備戦を勝ち抜けるかどうかも怪しかった。そこでブッシュ陣営は、逆に全米一のニュースキャスターであるダン・ラザーを論破する計画を立て、インタビューのオファーがラザーの番組から会った時「生中継のライブインタビューなら応じる」と頑として譲らず 「決闘」を実現させたのだ、という。
「CBSとブッシュ陣営はそれぞれタスクフォースを組んで準備に当たった。その様はまるで決闘か戦に臨む緊張感に満ちていた」
「ブッシュはアメリカで最もリベラル偏向が激しいとされていた有名アンカーに恥をかかせたことで保守派の有権者の評価が一気に上昇した」