きのう、おとといの話だったかな…
テレビ朝日、TBS、フジテレビあたりをざっくりと回しながら聞き流した、というレベルであまりきちんとしたエビデンスではないけど、朝のワイドショー、そして昼前から午後にかけてのワイドショーで、けっこう時間をかけてなぜか日韓問題に尺が割かれていた。で、どこも韓国政府、文在寅政権への批判一色に近かったのね。とくに司会者が扇動、いや先導する感じで…とくにTBS。
というかNHKの世論調査が。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180109/k10011282971000.html
韓国のムン・ジェイン大統領は、慰安婦問題をめぐる日韓合意について、「元慰安婦の意見を聞かず、前の政権が一方的に進めたもので誤りだった」などと述べました。これに納得できるか聞いたところ、「大いに納得できる」が1%、「ある程度納得できる」が8%、「あまり納得できない」が31%、「まったく納得できない」が51%でした。
ありゃー?
韓国の慰安婦問題って、そこまで世論が一色に染まるような問題じゃなかったはずで、有り体に言えばかなり与論が分裂する話題だったはずだ。それが一度の合意を経て、それが再び提起される、というプロセスを経たら、ここまで輿論が一致して動くようになってしまった。
まあ、世論の影響をさておくとしても、文政権の主張そのものが大統領選挙の時の公約とは大幅にトーンダウンさせたものにとどまった、微温的なものになったこと自体が、外交的には日本が圧倒的な勝利を収めたことの証左だろう。
今こうやって後から見たら、あの時の外交の一手一手が布石となり 、そして最終の盤面ではこの局面を迎えたということだ。
つまり「安倍外交」…と言うと余計な反発が増えるだろうから、黒幕とも言われる「谷内正太郎」の名を取り「谷内外交」といってもいい、その外交がここに限定すれば、大成功に近かったことは認めざるを得ない。
ただここからが本題だが……その大勝利自体がなんとなく不安なのだ。
ここはさらにエビデンスのない印象論どころか雰囲気論、「よう知らんけど」の世界であることは自分も認めるけど、 NHK の世論調査や、ワイドショーの方向性などを見ると、ここまで勝ち過ぎたことはのちに禍根を招くのではないか、と思うのだ。
まあおそらく、予感としてはワイドショー的世論は、慰安婦問題での意見は意見として「オリンピックはいいことなんだから、安倍さんも訪韓ぐらいしたらいいんじゃないの?」みたいな素朴な意見によって中和されてくんじゃないかと思っている。具体的には明日の 「サンデーモーニング」あたりからさ(笑)。
逆に言うと、「訪韓ぐらいしたら?」と言う声すら高まらず、見送りを支持する声が輿論調査で多かったら、これはちょっと今までとトーンが違うぞ…と思わせることになるだろう。
その後
世論調査は一貫して訪韓賛成が多く、安倍首相は1月24日訪韓し五輪開会式に出席することを決定した
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26085950U8A120C1EA2000/
…安倍晋三首相が韓国で2月9日に開く平昌冬季五輪の開会式に出席する意向を示した…報道各社の世論調査で「出席すべきだ」との声が多かったことも決断を後押しした…
これは実は、文政権の方にも別の部分では言えて、慰安婦問題での要求が煮え切らないものだったことはのぞけば、南北対話と朴政権追及の姿勢をバックにした政権時代の人気は非常に高いものがある。 だからこそ高転びしやすいところはなんとなく感じる。
とりあえず問題はあっても対北朝鮮での結束を強めると言う「2トラック外交」どれだけきちんと進むのか、そこも気にしています。
先方が納得していない条件で合意をとりつけたことは、一見外交上の勝利であるかのように見えているが、長期的に見れば、合意そのものが外交上の障害になったりもするわけで……でもまあ、そもそも存在しない着地点で合意してしまった先方のミスではあるわけでもごもご
— 小田嶋隆 (@tako_ashi) 2018年1月13日
つまり”あの”小田嶋隆さんですら「もごもご」なのが、今回の外交一件なわけですよ。ザッツ・オール。https://t.co/3wtmMpeuzQ
— gryphon(まとめ用RT多) (@gryphonjapan) 2018年1月13日
【追記2】1月24日に反応に気づく(記事は22日付)。それへのご返答
反応をいただきました
ありがとうございます。
従軍慰安婦問題における内政的勝利と外交的勝利をgryphon氏は混同してないか? - 法華狼の日記 (id:hokke-ookami) http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20180122/1516666370
はてブの通知欄はTBを最近は教えてくれない(よね?)みたいだけど、そこは人気の書き手、ホットエントリに上がっていたので読み逃さずに済んだ(笑)※でもそうじゃないときは実際困るぞ。TB通知がこないの俺だけ?
では
上記リンク記事に対して。
まず、当記事は見出しで「”国内的に”勝ちすぎ」と書いてたように、懸念も含めそっち…国内反応がメーンではあるけど、ただ「外交的勝利」であるとも考えております。
それは、一には引用してくださっているように当の文政権自身が大統領選での主張から、自ら大幅にトーンダウンさせた内容になっていること、前政権との日韓合意がそういう状況をあらしめたということですね。
もし国際世論が、「日韓合意はとんでもない不正義。合意破棄、再交渉するのが正義」と本気で後押ししているなら、文在寅政権はそれを受けて、大統領選挙の公約に基づいたさらなる強硬姿勢をとることもできた(実際、昨年6月ぐらいには、「合意破棄」は公言されていたし)でしょうが、そんな一大チャンスを自ら捨ててしまったことになります。
ただ、もしひとつ補足するなら
おっしゃるように「国内的な勝利・外交的勝利(うちの二国間関係)」を分けて考えるとするなら
文政権は対日本、対安倍政権外交では迷走し敗北してるけど、国内的に限定すれば「煮え切らない」とか「大統領選の公約と違うじゃないか!」みたいなマイナスもありながら「でもまあ、”わが代表は堂々と”パククネ政権の不正義を糺してくれたんだし」というプラスで差し引きするとまぁまぁ黒字か、大赤字は出さないで済んだのではないかと。つまり、ある意味ではウィンウィンだ(笑)。そこは前回かききれませんでしたね
日本の対韓国、韓国の対日本の話は上記の通りだが、もっと広くこの問題の世界全体への広がり方はどうか。
※前回合意の”仲介役”を務めたアメリカのそれは特殊かもしれないが、そこはおいとく。
ここから先は予想だが
慰安婦問題はこの後、世界で報じられる際に「日韓合意→韓国での政権交代→再度の問題化」という経緯を経たことはやはり、第三国や国際報道から見たときにニュース価値自体を減じていくのではないかと思いますよ。ぶっちゃけ「なんか揉めてる」「距離をおいておこう」みたいなのが、国際社会の本音になっていくのではないでしょうか。ま、これは想像。
「従軍慰安婦そのものの問題」と「いったん決まった二国間合意がややこしいことになった問題」が、今後は両方セットになっていくから。それは「TPPの是非」で内容的にTPPを批判してた方々が、結果的にはTPPの枠組みをぶっこわした”立役者”のトランプ政権をどうみているか、称賛しているか、という話に近いかもしれんね。
>植村隆氏や記念碑が攻撃されるという言論や表現の自由がおびやかされている現状
>本心では言論や表現の自由を軽視しているのだろう
これについては、関連してこれを紹介しておきたい。
加藤紘一宅放火事件に「小林よしのりや小泉の責任だ」との声があった。では、靖国神社への放火は… - 見えない道場本舗 (id:gryphon / @gryphonjapan) http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130926/p3
靖国神社への放火未遂者が出てきたとて、犯罪に問われるほどの具体的な脅迫や扇動をした人間でなければ、靖国神社やその参拝への批判者…たとえば佐高信氏にその放火への責任を問おうとは思わない(佐高氏は、その逆の形で責任を問おうとしたわけだが)。
別の例でいえば、イスラム教の教祖(教義的には預言者)であり世俗的な意味では7世紀巨大な帝国を支配もした歴史的人物・ムハンマド(彼の魂に平安あれ!) への風刺画をきっかけにデンマーク「ユランズ・ポステン」、フランスの「シャルリー・エプド」がもっと痛ましい攻撃を受け、数多くの死傷者が出た。
でも、直接的に攻撃やテロを命じた、扇動したという以外の「風刺画の批判者」が、そのテロの責任を問われたらまた理不尽であろう。
合法的な範囲での批判や風刺は小林よしのり氏でも佐高信氏でも植村隆氏でも靖国神社でもムハンマドでも(えーいおまけだ、百田尚樹氏追加。実際に会場爆破云々とかあったしねhttps://www.bengo4.com/internet/n_4469/)なされることを防げないだろうし、非合法なテロや犯罪にはどれを対象にしても国家の強制力を駆使しての強い防止がなされることと、法の裁きがくだることを願ってやみません。
【追記3】1月25日記事へのお返事(1/29)
法華狼さんから再び反応をいただきました。ありがとうございます。今回もまたホットエントリ経由で知りました(笑)
言論や表現の自由を守るべき基準と、テロ視の基準にまつわる、gryphon氏の主張の記録 - 法華狼の日記 (id:hokke-ookami) http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20180125/1516970520
以下、これに関して。
まず、ちょっと順番を変えて最初に
gryphon氏は「非合法なテロや犯罪」と記述しているが、合法的なテロがあると考えているのだろうか
これなー。「冷たい氷」とふつーに書いたら「冷たくない氷なんてあるんかい」で聞かれるようなもんでね……てか、これってそのまま落語の与太郎とか熊さん八っあんのやり取りと変わらねえ(笑) 。
「かわいいパンダ」って書いたら「かわいくないパンダがいるとでも思ってるのだろうか」と聞かれるんか?
俺の知る限り、かわいくないパンダなんて、らんま1/2の早乙女乱馬の親父さんと、テレビ CM で楽天カードをうるさく宣伝するあのパンダぐらいしかいないよ!!
というかこれ、かわいくないを通り越してむかつくな・・・・・・・・・・
最初に戻って。
表現や言論の自由は、テロや犯罪だけでなく、国家によって「合法的」におびやかされる恐れがある
「合法的におびやかされる」というのと私の書いた「合法的な範囲での批判や風刺は…なされることを防げないだろう」という部分が一種の、一番重要な論点になるのだろうけど、ただその議論の際に追加しておきたいのが
【表現や言論の自由は、テロや犯罪だけでなく、国家によって「合法的」におびやかされる恐れがある】
という話、もし仮に前提に置くとするなら、その場合は「国家によって」だけではなくなるのでは、ということですね。例えば各種の中間団体…企業でも宗教団体でも、政党でも(与党野党問わず)、各種の市民運動でも、マジョリティの利益団体でも、マイノリティの利益団体でも……。
名著「自由か、さもなくば幸福か?」に、こうあります
…我々は国家以外の主体達もまた我々に対する支配力を持ち,影響力を行使つつあることに注意する必要があるだろう……(略)…全体的に言えばその暴走を警戒して国家には様々な制約が加えられているのに対し、中間団体にはそのような制約が乏しく、だからこそサービスの提供は効率的であるかもしれない。だがそうであるとして、我々の生活や人権が、我々を平等に扱わなくても良い主体に自由に制約されることを我々は望むのかどうか(後略)
自由か、さもなくば幸福か?: 二一世紀の〈あり得べき社会〉を問う (筑摩選書)
- 作者:大屋 雄裕
- 発売日: 2014/03/12
- メディア: 単行本
しかし「合法的におびやかされる」のか「棍棒ではない、要望だ」(後述)となるかは結局どこか。
ある講演会での登壇中止に関して、ツイートでこういうやり取りをしたことがある。
清義明 @masterlow 2017年6月4日
その他
百田講演会中止を「言論の自由」の弾圧という人間は、あらゆる消費者運動も企業や団体に対するクレームも、全部自由を阻害するものとして、やめさせるべきだな。
それどこの国?中国?北朝鮮?サウジアラビア?
maru @enjoy810 2017年6月4日
販売するのは自由。消費者がクレーム言うのも自由。そしてクレームに対して販売する側がどう対応するかも自由。何も阻害していませんよ。百田氏講演会も行われた上で反論していただけるのであれば何も問題ないんですよ。
清義明 @masterlow 2017年6月4日
うん、それで一橋のバカ学生は、中止にしたんだよね。
maru @enjoy810 2017年6月4日
彼らには処理できない圧力がかけられたみたいですね。残念ですよ。百田氏講演会がどんな内容なのかはわかりませんが、言論の場を無くさせるくらいの圧力をかけるのはどうかと思います。終わってからでもいくらでも反論はできる。ヘイトスピーチ的な講演会ではないことが前提ですけどね。
gryphon(まとめ用RT多) @gryphonjapan
ざっくりすぎるのは承知で「物理的危険性(を感じさせる行為)」の有無で割り切るほかないんじゃないか。あれば弾圧と圧力、無ければ抗議と批判
https://twitter.com/gryphonjapan/status/871720221933002752
これは、たとえば
「ポリコレ棍棒」というワードの意味がよくわからなかったが、どうやら棍棒とは要望のことだったらしい http://d.hatena.ne.jp/hokke-ookami/20161112/1478993377
における
・あるキャラクターの性的指向を変更してほしい、という”要望”は、
・「法規制のような強制力はない」
・「『ミザリー』のように作者がファンに拉致監禁されるわけでもない」
・であるがゆえに許容される。
…‥‥‥‥というのと同様のことを言っているわけなんですけどね。
「結局、物理的な区分などに主に頼るしかない」という話は、以前からしております。戦法のブクマに「デモとテロ」に関する話を書いてた御仁がいたが、それに対してふかーく考察した過去の傑作記事(自称)があるのでご紹介。
「靖国」上映中止問題、実務的に解決しよう・・・車載拡声器を全面禁止したら? http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20080404p3
デモと権利と規制と基準…「大音量」だろうと「ヘイト」だろうと。 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131202/p3
「デモ」問題(石破茂発言問題)続報。結局うるさいか?右翼街宣車と同列か、別物か? -http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20131204/p4
最近の話では、テレビのワイドショーで、「演説の組織的妨害」はけしかるけしからないの話になった際に、こう書いて「物理的基準」ということの重要性(というより、物理的基準以外でより明確で公正、中立的なものがない、ということ)を改めて主張している。テレビは「組織的なら論外」という方向で話が進んでいたが、当方はそれも許容している。
街頭演説の野次やプラカードは「物理的」な区分でいいんじゃないの?/羽鳥慎一モーニングショーで「組織的」なものが否定されてたけど - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20171016/p3
さらにこちらの話。
少し前におこなわれた「合法的な範囲」でのアクションと、それに対する政治的な反発……赤ん坊を議会に同席させるという、他の先進国でも広範に見られる行動に正当性を見いだすことが、gryphon氏にはテロの正当化と「同じ」なのだ
「同じ」にカギカッコついてるから、多少おわかりなのかもしれぬが…そもそも、そのブクマ先を見てみよう
穏当な抗議をしている間は『たいした問題じゃない』『それほど大きな批判はない』と無視をし続け、より大きなアクションで抗議をしたら『こんなやり方では聞き入れられない』という論法。
— へぼやま (@heboya) 2017年11月25日
結局「おまえ等の言い分は全て無視」の卑劣漢の常套句ですね。@takeshi_tsuruno https://t.co/mkxsqokYYu
と、そもそもその方のほうから、個別の「赤ちゃん議会同席」を離れた、大きなロジックとして再構成しているのでありました。
ほぼ同じような発言がNHK「未解決事件・赤報隊」のドラマ篇で右翼役の人からも出てきたね(※偶然)
…と言うか、仮にそうでなくても、そういうそれぞれ別の現象の中から共通点を見い出すのは普通のことであります。
とはいえ、「実は近い仲間だ」とその共通性を言われても、じゃがいもとトマトは味わいも見た目も違うから戸惑う人もいるようなもので、まあ感情的に受け入れられないのはわかる、というだけの話です。
人によってはテロ云々でなく、「あ、あ、あの手抜き一発病ワイン野郎の江川の入団と、可愛い赤ちゃんの議場入りを一緒にするとは何事か!」となるかもしれん(笑)※「かわいい赤ちゃん」、は可愛くない赤ちゃんもいる、の意味ではありません
ただここ、ここに注目すればね、やっぱり共通点もね。
こういう例も挙げよう。
インパール作戦は近年、牟田口廉也没50年やNHKでの番組放送もあって改めて話題になり、例えばTOGETTERでも数多くのまとめが作られました。
https://togetter.com/search?q=%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%AB%E4%BD%9C%E6%88%A6&t=q
このインパール作戦への最近の興味の持たれ方には、この戦いの企画や、計画の承認、いざ実行されるまでや、その後の展開、責任者の身の処し方……などなどを日本社会の他の様々な問題と共通するものがあるのではないかという問題意識が非常に多いように見受けられます。
不肖、私が作ったまとめ表題にも「我らの内なる、牟田口廉也」などと記したのですが、もっと直接的に「あなたの周りのインパール作戦」というタイトルのシリーズがありここでは、残業と退社時間、商品開発、クレーム処理、売上目標…などなど、現在の日本社会(特に企業)でのさまざまな問題を「インパール作戦と同じメンタリティではないか」という問題意識のもとに語っているものです。「牟田口はブラック企業の社長」というのもあったな。
自分は非常に興味深くかつ有益だと思ってるのだが、
しかし(仮定の話ながら)実際に本当のインパール作戦に従軍し、九死に一生を得た人がもしこれらを見たら「私の体験したあの地獄のような有様と、これらの例が『同じ』だというのか!」と怒るかもしれない。
その感情はわからんでもないが、しかしその感情とは別に、それらの共通点を考察していく行為が間違っているとも思わんのであります。
まったく、白光も虹を貫くわな。
2021年1月9日 朝日新聞社説
(社説)慰安婦判決 合意を礎に解決模索を
2021年1月9日 5時00分日本と韓国の関係に、また大きな試練となる判決が出た。
ソウルの地方裁判所が昨日、元慰安婦らによる訴えに対し、日本政府に賠償を命じた。
日本政府は、この訴訟そのものに応じてこなかった。国家には他国の裁判権がおよばない、とする国際法上の「主権免除」の原則があるからだ。
だが、判決は慰安婦問題を「計画的、組織的に行われた犯罪行為」と認定し、主権免除は適用されないと判断した。
日本側が上訴せず、一審判決が確定すれば、政府資産の差し押さえの応酬に発展する恐れもある。極めて危うい事態だ。
韓国ではこの数年、植民地支配時代にさかのぼる慰安婦や徴用工などの問題で、司法が踏み込んだ判断をするケースが相次いでいる。
いずれも従来の韓国の対外政策の流れを必ずしも反映していない部分があり、日韓の対立要因として積み重なってきた。
確かに歴史問題は解決が難しい。一般的には第三国の仲裁や国際的な司法判断にゆだねる選択肢はあるが、できる限り、当事国間の外交で問題をときほぐすのが望ましい。
その意味で日韓両政府が省みるべきは、2015年の「慰安婦合意」とその後の対応だ。
粘り強い交渉の末、双方が互いに重視する点を織り込みあって結実させた合意だった。だが残念にも今は、たなざらしになっている。
前政権が結んだ合意を文在寅(ムンジェイン)政権が評価せず、骨抜きにしてしまったことが最大の原因だ。元慰安婦の傷を癒やすために日本政府が出した資金で設けた財団も解散させた。
歴史の加害側である日本でも、当時の安倍首相が謙虚な態度を見せないことなどが韓国側を硬化させる一因となった。
今回の訴訟は合意の翌年に起こされた。合意の意義を原告らに丁寧に説明していれば訴訟が避けられたかもしれない。
徴用工問題をめぐる18年の判決と、それに続く日本の事実上の報復措置により、互いの隣国感情は悪化している。今回の判決はさらに加速させる恐れがあり、憂慮にたえない。
最悪の事態を避けるためにも韓国政府はまず、慰安婦合意を冷静に評価し直し、今回の訴訟の原告でもある元慰安婦らとの対話を進めるべきだ。日本側も韓国側を無用に刺激しない配慮をする必要がある。
それでも接点が見つからねば国際司法裁判所への提訴も視野に入れざるをえないが、現状は日韓が和解のための最大の努力を尽くしたとは言いがたい。
日韓両政府の外交力が問われている。
【備忘メモ】先週のサンデーモーニングは映像資料あったので、あとで文字起こししときたい