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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

処理水を巡る対中の外交戦、日本が前半は”圧倒”してるが、油断は禁物……

【処理水】各国の記者から中国に賛同できない声 マレーシア「日本は透明性保ってる」タイ「ASEANは賛成しないと思う」

(略)
処理水の放出をめぐり、中国はこれまで連日のように日本を非難してきました。

中国外務省 汪文斌報道官
「日本政府は国際社会の強烈な疑問と反対を顧みず、一方的に核汚染水の海洋放出を強行した。中国はこれに断固とした反対と強烈な非難を表明する」

中国には処理水問題を対日外交カードにしたい狙いがあったとみられますが、国際社会で同調する国は少なく、その思惑は外れた格好です。各国の記者からも中国の主張には賛同できないという声が相次いでいます。

マレーシアのメディア
「日本は処理水放出について透明性を保っている。中国の外交は表面上では紳士的でも、行動はそうではない」
タイのメディア
ASEANは賛成しないと思う。攻撃的な外交ではなく、もっと適切な方法をとるべきだ」
newsdig.tbs.co.jp

処理水を巡る国際世論

処理水 岸田総理がASEANで“仲間”固め批判の声、中国以外で上がらず

(略)
岸田総理はこの場でALPS処理水の海洋放出についてマレーシア側の理解と協力を求め、アンワル首相からは日本の立場への理解が示されたということです。

 その後、東ティモールのグスマン首相とも短時間、言葉を交わし、ASEANへの加盟を支援する考えを伝えるとともに、放出に関する協力を求めました。

 7日午後には今回のホスト国のインドネシアをはじめ、ラオスカンボジアなど中国と関係が深い国々の首脳とも会談し、安全性をアピールしたい考えです。

 これまでの一連の会議の場で、中国以外の国から海洋放出への批判は上がっていません。

news.tv-asahi.co.jp


そもそも的にいうと、7月のASEAN関連会議の時からである。

中国、処理水の問題化狙うも不発?ASEAN関連会合で賛同広がらず

ジャカルタ=斎藤徳彦 半田尚子2023年7月11日 22時06分

(略)
日本が今夏にも実施する処理水の海洋放出に、中国は「日本は他の方法を十分に検討していない」などとして強く反発している。今回の会議でも問題化し、ASEAN外相会議や、日本や中国も参加するASEAN地域フォーラム(ARF)などの場で議題とするよう求めているという。

 ただ、ASEAN側でこの問題への関心は高くなく、応じる可能性は今のところ低い。会議関係者の一人は朝日新聞の取材に「議論を求めているのは中国だけで、一連の会議で議題にすることはない」と話した。共同声明や議長声明にこの問題を盛り込む考えについても否定した。

www.asahi.com

日本スゴイとか岸田スゴイではなく、この件も含めて中国の「戦狼外交」のつけが回ってきたなぁ……という感じ。
これも今となっては遠い昔だが、ウクライナ戦争が勃発した時、今後世界はどう変わっていくか、という予想で、米国の学者だったかシンクタンクだったかがこういう予測をしていた。

・中国がウクライナ支援、ロシア非難で欧米諸国、西側と足並みをそろえる。その結果、「中国は問題の多い国家だが、なんだかんだと最終的には現行国際秩序を維持する側と言ってもいい」と評価され、国際的地位が飛躍的に高まり、発言力を増す(という世界線がある)

自分はいかにもありそうなことだと思い、「ロシアは本当になんてことをしてくれたんだ。直接的な被害だけでなく、こういう形で日本に被害が及ぶな…」と憂鬱になった…だが、今からみれば例の
「でも、そうならなかった…ならなかったんだよ。だからこの話はこれでおしまいなんだ」
な状況である。
ウクライナ問題などで完全に足並みをそろえている中国がその「見返り」として、処理水で中国の立場を支持するように要請したら、今のアメリカ、欧米、ASEANの態度はありえただろうか?


さらにもう一つ、これは本当に岸田外交とか日本外交とかでなく、天運、幸運なのだけど、韓国の尹政権が、今のような立場をとったこと。いやもちろん、実際にこの問題の発生前に日韓関係を好転させたのは岸田首相の決断も大きかっただろうけど、まず大前提としての韓国保守政権が、本当につい最近、超僅差で成立したからこそである。韓国で「共に民主党」政権だったら、こうはならなかっただろう。




そう、「露中韓処理水反対枢軸」は、これは本当にありえた2023年の風景だったろう。そこは韓国の民意であると同時に、やはり運、偶然も左右する。


一方で韓国には2008年「狂牛病BSE)」を巡っての危機感が政権をも揺るがした、という反省、見方によっては「成功体験」もある。

韓国は国がひっくり返るくらい大騒ぎした狂牛病デモ(米国産牛肉輸入反対デモ)を経験した。その時は反対派、危険を訴える人たちが「意識高い人たち」「勇気ある」と喝采を受けた。

しかし数年経ってからは米国産牛肉の消費が爆増。反対者たちさえ米国産牛肉を食べる場面が目撃され、大ブーイング。本人たちも今は誰も牛肉のことを言わない。言ったらバカにされるだけだから🙄

「韓国人の遺伝子型はBSE牛海綿状脳症)に弱い」。科学が政治の主導する扇動に屈した例が韓国にある。

李明博(イ・ミョンバク)政権が08年に米国産牛肉の輸入再開に踏み切ろうとしたところ、デマを信じた市民が大規模な反対集会に加わった。

ありもしない言説がインターネットで拡散した背景には李政権と対立する勢力やメディアの存在があった。政権支持率は10%台まで下がった。

海に流れる処理水の影響を心配する人は6月末の韓国ギャラップの世論調査で8割近かった。日本の水産庁の統計をみると、韓国は主要国・地域のなかで年間1人当たり食用魚介類の消費量が最も大きい。

一般の国民には「将来、子どもたちに影響がないか心配だ」(ソウル市の40代会社員男性)といった不安な思いが当然ある。
www.nikkei.com


で、今の現状を…スポーツに例えると、こと処理水の、中国の主張との国際的支持をめぐる競争に限定するなら、野球なら4回を回って5-0、サッカーなら前半終了2-0、という感じだろうか。
もちろんゲームは後半次第で十分ひっくり返り得るし、ペナントレースとして考えたらはるかに道は遠い。


それに、中国はそもそも国際的な支持は求めるだろけど、そもそも「強さとはわがままを通す力(刃牙)」の通りに、自国単独で…たとえば今回の水産物全面禁止のように、単独で、しかもあからさまに力を見せつけて、賛同も支持もされないが畏怖させる、という戦略をとることもできる。いわゆる「シャープパワー論」にも通じる話。


だが、どちらにしても日本のやることは、処理水に関する透明性、客観性を高め、政治的にも技術的にも誠実にやっていくほかない。

もちろん中国の「突出(これは客観的にそうだろう)」を指摘するのも重要だが、本来的には、中国を敵視する必要も一対一の外交で考える必要もない。そのころには、中国の姿勢にも変化があるかもしれない。


「学べば、則ち固ならず」。