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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

ドイツで今も続く「旧東独秘密警察の資料公開しまーす。あなたを密告した人の実名丸わかり!」政策の余波がすさまじい…(毎日新聞「Sストーリー」2017.4/9)

毎日新聞には「ストーリー」という、1ページを使ったルポ記事が載ることは、以前何度か紹介した。
今回、4/9の記事が大層面白かったので紹介する。
同編集部のアカウントでの紹介を、まずお見せしよう。

@mainichistory
毎日新聞の日曜朝刊で2012年4月から掲載中の「S ストーリー」編集部です。記者が現場を歩き、見て、聞いて、そして感じながら、ニュースの深層、話題の人物、市井の人々の内面に迫ります。まるまる1ページを使い、記者の思いをこめたルポをお届けします






以下、当方の感想。twitterに投稿したものを、補足し再構成した

この「ストーリー」で紹介されている記事が凄かった。

ドイツでいま続いてる政策は簡単にいうと

「旧東独秘密警察資料、チキチキ大公〜開!
            あなたを密告した人の、実名丸わかり〜!」

パチパチパチ…いや笑いごとじゃない、ドイツ流のこの徹底ぶり…

2:記事で印象に残った部分を抜粋しよう。
現在80歳の、旧東独から追放された反体制歌手ビアーマン。彼のもとへドイツ統一(1990)の翌年、手紙が届く。

「親愛なるヴォルフ、あなたにシュタージ文書が開示されたことを新聞で知りました。(文書で)わたしを見つけたでしょう。「ヒバリ」とは私のことです」

その人は、かつての恋人。その接近は、すべて上官の指示だった…
だがそのビーアマン氏が、あらためて5万枚もの、自分への監視書類を調べ直すと「ヒバリ」による、上官への最終報告を発見する。

「これ以上、国家保安省のために働くことはできません。私はビーアマンを愛してしまいました」


80歳となったビアーマンは言う。
東独ではコードネームは自分で選べることが多い。

「シュタージは、密告者に自分でコードネームをつけさせた。ヒバリが上官の将校に『ビアーマンを愛してしまった』とささやくなんて、すてきなことだろ」
ビーアマンさんは、記者の手首を強く握った。


ちなみにこの歌手ビーアマンは追放後西独で活躍し、ついたマネージャーが筋金入りの東独スパイ、密告者だったりと徹底的にマークし、精神的にも追い詰められることが多かった。ほかならぬ密告者が「彼は間もなく精神的に破たんするだろう」との報告書を上げているぐらいだ。

そんな迫害の経験を持つ彼は、2014年に統一ドイツ議会に招かれて歌った時、旧東独の流れを汲む『左派党』の席を睨みつけ「敗者の惨めな残骸め!」と毒づく。鳴りやまない拍手の中、左派党席は完全沈黙していたという。というか、その党の議員の中に、例の元マネージャーにして密告者のディーター・ムーア氏がいる(笑)。彼はマイクロフィルムが改竄されているのだ、と協力や密告を否定する。
実はこれ、ドイツの「克服せざる歴史問題」なのだ。


ナチ糾弾は現体制の国是でだれも異論を唱えないが、東ドイツ評価が実は定まらない。


東ドイツの害は、ナチよりは少ない」
「何? シュタージに人生を破壊された人々を『2級被害者』扱いするのか」
「シュタージ関係者は公職追放だ。年金も減らせ!」
「それは不当な差別だ」


こんな議論が、今もなおあるのだという。
シュタージ元職員の名誉回復を目指す団体のシュミット事務長は「謝罪は現体制への屈服に過ぎない」と語る。
旧東独の流れを汲む左派党は、前述したとおり今でも国会に議席をもつち、密告者とおぼしき人物も議員だ。。ビーアマンを取材後、上記シュミット議長に記者が再取材を要請すると、ビーアマンを彼は「扇動者」と呼び、「そんなやつの宣伝に協力するつもりはない」と宣言し、以後連絡は途絶えた…

シュタージは、反体制派を心理的に追い込み精神を破壊する作戦をもマニュアル化していたという、
取材した中西啓介記者は、最後にこうつづった。

「歴史はこの街に英雄を生み、被害者と加害者を残した。加害者もまた、被害者になった。それぞれが今も、分断が置き去りにした苦しみを抱え、生きている。」

(了)

この記事は前後編の、後編で、先週「前編」が載ったのだという。(3回かな?)









しかしまあ、自分も史料の公開は積極的に進めるべきだと思うし、「民主主義国家にとっては、情報はかまどの灰まで主権者のものだ」と思っているけど、そこから見ても、ドイツのシュタージ資料までも公開する姿勢は控えめに言って「苛烈」である。とある女性議員の夫が密告者だとわかり、「家庭が一夜にして崩壊しました」というぐらいだから。
これを非公開なり制限なりすれば、それで円満に人生を過ごせた家族も無数にあったろう。それでもかまわず公開する、それがドイツの戦後の教訓なのだろうな。