毎日新聞には「ストーリー」という、1ページを使ったルポ記事が載ることは、以前何度か紹介した。
今回、4/9の記事が大層面白かったので紹介する。
同編集部のアカウントでの紹介を、まずお見せしよう。
@mainichistory
毎日新聞の日曜朝刊で2012年4月から掲載中の「S ストーリー」編集部です。記者が現場を歩き、見て、聞いて、そして感じながら、ニュースの深層、話題の人物、市井の人々の内面に迫ります。まるまる1ページを使い、記者の思いをこめたルポをお届けします1)今週のストーリーは「旧東ドイツの秘密警察シュタージの爪痕」後編です。ドイツ統一に伴い、東ドイツの恐怖政治を支えた秘密警察「シュタージ」も解体されました。あとには、並べると総延長111キロ超に及ぶ膨大な秘密文書が残されました…(続https://t.co/36cFEX1maA
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月8日
2)膨大な文書は一般市民に開示されることになりました。しかし、その内容は新たな悲劇や分断をもたらします。旧東ドイツが残した爪痕が今も残るベルリン。その取材に歩いた中西啓介記者の「ひと言」を紹介します(続https://t.co/pXskOOEEfI
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月8日
3)ベルリンで取材をしていてとりわけ気を使うのが旧東ドイツについての質問です。ベルリンは東独に囲まれた分断都市ですから、東独出身者が多く暮らします。ただ、東独時代の思い出は人それぞれ。独裁を批判しても、過去を肯定的に話しても、思わぬ不興を買うことがあります(続 pic.twitter.com/CLG4NoyFun
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月8日
4)シュタージ元将校のシュミットさんと同じように、東独独裁政党の幹部だったベルグホーファーさんもまた、「党はシュタージに罪を押しつけた」と話していました。同じ民族が暮らす二つの国の統一では、過去に向き合うドイツ人といえども、踏み込めない領域がありました(続
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月8日
5)日常には絶対的な悪も正義も存在しないこと。人間は圧政下でも希望やユーモア、芸術を愛する心を忘れないこと。目には見えないドイツ人の心の領域に踏み込む取材を通じ、人間、一人一人が持つ崇高さを見ました。人間が苦しむ姿にある尊さを知った1年半でした=ベルリン支局・中西啓介
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月8日
以下、当方の感想。twitterに投稿したものを、補足し再構成した
この「ストーリー」で紹介されている記事が凄かった。
ドイツでいま続いてる政策は簡単にいうと
「旧東独秘密警察資料、チキチキ大公〜開!
あなたを密告した人の、実名丸わかり〜!」パチパチパチ…いや笑いごとじゃない、ドイツ流のこの徹底ぶり…
2:記事で印象に残った部分を抜粋しよう。
現在80歳の、旧東独から追放された反体制歌手ビアーマン。彼のもとへドイツ統一(1990)の翌年、手紙が届く。「親愛なるヴォルフ、あなたにシュタージ文書が開示されたことを新聞で知りました。(文書で)わたしを見つけたでしょう。「ヒバリ」とは私のことです」
その人は、かつての恋人。その接近は、すべて上官の指示だった…
だがそのビーアマン氏が、あらためて5万枚もの、自分への監視書類を調べ直すと「ヒバリ」による、上官への最終報告を発見する。「これ以上、国家保安省のために働くことはできません。私はビーアマンを愛してしまいました」
80歳となったビアーマンは言う。
東独ではコードネームは自分で選べることが多い。「シュタージは、密告者に自分でコードネームをつけさせた。ヒバリが上官の将校に『ビアーマンを愛してしまった』とささやくなんて、すてきなことだろ」
ビーアマンさんは、記者の手首を強く握った。
ちなみにこの歌手ビーアマンは追放後西独で活躍し、ついたマネージャーが筋金入りの東独スパイ、密告者だったりと徹底的にマークし、精神的にも追い詰められることが多かった。ほかならぬ密告者が「彼は間もなく精神的に破たんするだろう」との報告書を上げているぐらいだ。そんな迫害の経験を持つ彼は、2014年に統一ドイツ議会に招かれて歌った時、旧東独の流れを汲む『左派党』の席を睨みつけ「敗者の惨めな残骸め!」と毒づく。鳴りやまない拍手の中、左派党席は完全沈黙していたという。というか、その党の議員の中に、例の元マネージャーにして密告者のディーター・ムーア氏がいる(笑)。彼はマイクロフィルムが改竄されているのだ、と協力や密告を否定する。
実はこれ、ドイツの「克服せざる歴史問題」なのだ。
ナチ糾弾は現体制の国是でだれも異論を唱えないが、東ドイツ評価が実は定まらない。
「東ドイツの害は、ナチよりは少ない」
「何? シュタージに人生を破壊された人々を『2級被害者』扱いするのか」
「シュタージ関係者は公職追放だ。年金も減らせ!」
「それは不当な差別だ」
こんな議論が、今もなおあるのだという。
シュタージ元職員の名誉回復を目指す団体のシュミット事務長は「謝罪は現体制への屈服に過ぎない」と語る。
旧東独の流れを汲む左派党は、前述したとおり今でも国会に議席をもつち、密告者とおぼしき人物も議員だ。。ビーアマンを取材後、上記シュミット議長に記者が再取材を要請すると、ビーアマンを彼は「扇動者」と呼び、「そんなやつの宣伝に協力するつもりはない」と宣言し、以後連絡は途絶えた…シュタージは、反体制派を心理的に追い込み精神を破壊する作戦をもマニュアル化していたという、
取材した中西啓介記者は、最後にこうつづった。「歴史はこの街に英雄を生み、被害者と加害者を残した。加害者もまた、被害者になった。それぞれが今も、分断が置き去りにした苦しみを抱え、生きている。」
(了)
この記事は前後編の、後編で、先週「前編」が載ったのだという。(3回かな?)
毎日新聞のストーリーです「ホーネッカー氏はチリへ亡命。「恐怖のマイスター」と恐れられた国家保安相のエーリッヒ・ミールケ氏は戦前の警察官殺害事件だけ罪に問われた。暗殺工作は記録がほとんど残らなかったため真相が解明されていない‥」https://t.co/rLUg3Qn1yo
— 小川一 (@pinpinkiri) 2017年4月1日
1)今週のストーリーは「旧東ドイツの秘密警察シュタージの爪痕」前編です。東ドイツは世界最大規模の監視国家とされ、その中枢がシュタージでした。尾行や盗聴、暗殺工作まで駆使し、反体制派を封じ込めました。取材した記者の「ひと言」です
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月2日
https://t.co/clA4nh8FJu
2)ドイツ人というと堅苦しいという印象を持たれることも多いですが、取材で出会った人たちは、シュタージ時代について語る時もユーモアを忘れません。東ドイツ時代、改革派の政治家として知られたベルクホーファーさんはこんな冗談を披露してくれました=写真はシュタージ本部の執務室(続 pic.twitter.com/qpNT1PrhcV
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月2日
3)日本で東ドイツ人が自動車工場を見学した時「車内に猫を入れ、窒息したら密閉性は大丈夫と判断します」と紹介されたといいます。後日、東独を訪れたその工場関係者にエンジニアは言います。「我々もあなた方の方式を採用しました。車に猫を入れ翌日まで中にいたら機密性があると判断します」(続
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月2日
4)「簡単に女の子とベッドインした」という「モテ男」ビーアマンさんは、大学生時代に仲間内で流行った冗談を教えてくれました。「同じやつと2回寝たら、そいつはもう特権階級だ」。圧政下におかれても、人間はユーモアを捨てないことで前向きに生きるのかもしれません=ベルリン支局・中西啓介
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月2日
4)「簡単に女の子とベッドインした」という「モテ男」ビーアマンさんは、大学生時代に仲間内で流行った冗談を教えてくれました。「同じやつと2回寝たら、そいつはもう特権階級だ」。圧政下におかれても、人間はユーモアを捨てないことで前向きに生きるのかもしれません=ベルリン支局・中西啓介
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月2日
ちなみにシュタージは旧東ドイツの独裁政党、ドイツ社会主義統一党(SED)の体制を支えましたが、SEDトップの不祥事まで握り、独自の存在感を発揮していました。写真はシュタージを指揮していたミールケ国家保安相が不祥事に関する文書を保管していたカバン。金庫で厳重に管理されていたそうです pic.twitter.com/idxRqSiSAw
— 毎日新聞ストーリー編集部 (@mainichistory) 2017年4月5日
しかしまあ、自分も史料の公開は積極的に進めるべきだと思うし、「民主主義国家にとっては、情報はかまどの灰まで主権者のものだ」と思っているけど、そこから見ても、ドイツのシュタージ資料までも公開する姿勢は控えめに言って「苛烈」である。とある女性議員の夫が密告者だとわかり、「家庭が一夜にして崩壊しました」というぐらいだから。
これを非公開なり制限なりすれば、それで円満に人生を過ごせた家族も無数にあったろう。それでもかまわず公開する、それがドイツの戦後の教訓なのだろうな。