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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「国家と忠誠」補遺〜外務公務員などの国籍制限について。 或いは宗教的忠誠と、国家への忠誠について

もう、既に

「国家と忠誠」〜とある儀式の宣言文、などから再考 - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20160914/p1

で語ったことではあるけど、クローズアップしておくべき部分を確認

外務省職員にこういう制限があることはOK?それともこの規制を撤廃すべき?

http://www.mofa.go.jp/mofaj/ms/prs/page22_001875.html
次のいずれかに該当する者は,この試験を受けることができません。
国家公務員法第38条・外務公務員法第7条・人事院規則)
 (1)日本の国籍を有しない者又は外国の国籍を有する者(注)
(略)
 (5)日本国憲法施行の日以後において,日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し,又はこれに加入した者
受理した受験申込書は,いかなる場合でも返還しません。
受験申込書を受理した後は,試験地・受験外国語等の変更を認めません。
受験手続あるいは外務公務員の採用等についての照会は,上記4.の申込先に問い合わせてください。
 (注)国籍については,自国籍者から生まれた子に国籍を付与する国(血統主義),自国領域内で生まれた子に国籍を付与する国(出生地主義)等があります。この試験の受験を申し込まれる方は,本人が外国で生まれた場合,あるいは出生の時点で父または母が外国の国籍を有していた(二重国籍者を含む)場合には,日本にある当該国の大使館か領事館に照会する等,外国国籍の有無について確認してください。外国の国籍を有している場合には速やかに離脱の手続きをとってください。


蓮舫氏の問題で「何が問題であったか」或いは「何は問題ではなかったか」は論者によってさまざまなわけであったが、そもそも二重国籍者に関しての諸権利の制限が差別であり、時代遅れである―――――との議論もみられた。

その中でだが、そもそも論で語るなら、国会議員に明示的な禁止は無い。明示的な制限があるのは、上のようなある種の公務員だ。
この制限は合理的なものとして存続していいのか
差別的なものとして撤廃しなければならないのか。


話を進めていくなら、その議論も出てくるでしょう。
出てこないかもしれないが、ならば本気ではなかったのだろう(挑発)。



突き詰めれば「フィクションとしての忠誠」。では宗教的忠誠と国家的忠誠の相克は?

これもこの前の記事で書いた話なんだが、箇条書き風に再度要約してみます。

・現在の近代国家でも「国家への忠誠」を誓わせたり、前提としたりする場面がある。
・そもそも『宣誓』なんかしたって、ウソつくやつは嘘つく。裏切る奴は裏切る。あんなん突き詰めればフィクションでしかない
・でも、やっぱり忠誠の宣言とか誓約、宣誓というのはそれなりに重いものであるらしい。
・忠誠や宣誓に意味を持たせないと、近代国家そのものが回っていかないところがある


から、なんだけど…
自分の過去記事にこんなのあったです。

http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140706/p3

佐藤優氏と手嶋龍一氏の対談本−3冊目になる―のこれで、佐藤氏が非常に重大な発言をしている。

日本の外務省の場合は、創価学会員のリストを作っています。人事課にそのファイルが存在する。作った当人から直接聞きましたが、これもやはり二重忠誠を心配してのことです。国益に関わる事態になったとき、日本国より創価学会の言うことに従うんじゃないかと。外務人事当局の発想は、二重忠誠を忌避するという外交やインテリジェンスの根深い習性から来ているんです。それは同時に国家の本性でもあります。

知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551)

知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551)

同書の中でこの話は、イギリスの情報部やアメリカの大統領選挙で「カソリック信者は、教義的にはローマ法王に忠誠を誓い、その命令に従う義務がある。国家への忠誠とそれは両立するか」という問いからつながって出てきた話題です。
ぐあいのいいことに、以前この話題をかいた過去記事が当道場本舗にはある。

ケネディ時代「カソリック信徒は教皇への服従義務があるから大統領にするのは危険」という議論があった - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20130812/p2

たとえばバチカンにいるローマ教皇アメリカのカトリックの大統領に対して、あることを命令したとしたらどうなるのであろうか。ある国家との戦争突入や和平交渉の進展といった大きな国際問題でも良い。あるいはある種の犯罪者の釈放と言った細かなことかもしれない。その場合にアメリカの大統領がどのようにふるまうのであろうか。特にローマ教皇の意向とアメリカの国家としての利害が対立した場合、大統領はどうするのであろうか

バチカンローマ教皇」が「創価学会名誉会長」であっても同じだ。


まあ、実際に外務省の中にいた佐藤優氏がバクロした、「外務省では人事課に創価学会員のリストがある。もし日本国の利益と創価学会の利益が相反したとき、後者への忠誠を優先させると困難になるからだ」というのは、もし本当だとしてもトップシークレットに近い話で、表立って問題になったら、チョー問題になる話かもしれません。
だから追及しても、事実関係を否定されるだけだろうね…
いわゆる墓場までもっていく話、だ。

しかしまあ、自公連立も15年近いんだっけ?それだけ「政」の世界で与党であっても、外務省という「官」の世界は独自で動く、ということでもある。



あ、しまった本題にもどらないと。
「忠誠」というものは内面の話で、憲法上でも「良心の自由」がある。

では、「国家に忠誠を誓う」必要と、それをなにかしらの形式=フィクションで示す必要が、公務員(国会議員を含むかはしらん)にはあるのか。
また「この国家にも忠誠心はあるが、私にはそれ以上に忠誠を誓うべき対象がある(かもしれない)」というものにはどう対処すべきなのか。

何度目かの語りだが、
小室直樹は、創価学会についてこう励まし(?)た。

国立戒壇憲法違反云々のとき『教義が憲法に違反して何で悪い、われわれにとって法華経が絶対である』と言わなかったのか。こう言わなければ信教の自由が犯されるでしょ。『宗教政党で何で悪い』となぜ言わなかったのか。こう言わなければ結社の自由が犯されるでしょ。

そういえば「結社の自由」といえば、上の外務省職員募集ではこう書いてあったな…

日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し,又はこれに加入した者

これだって、差別といえば差別になる。
「わたしはたしかにそういう団体に加入しています。しかし与えられた公務員としての仕事はきっちりやっている。『憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党』での活動は、完全にプライベートなものです、なにか問題が?」
「あるよ!!!」

・・・・・・・・・いや、だが良心の自由、内面の自由、結社の自由が・・・・・・


んでまあ、こういう「忠誠」の問題をほじくっていくと、結局矛盾にぶちあたる。国家か神か、なんてヨーロッパが千年議論して結論でてないもんな。

http://www.afpbb.com/articles/-/3061789

【9月30日 AFP】ローマ・カトリック教会のフランシスコ(Francis)法王が米国訪問中に、同性カップルへの結婚許可証発行を拒否したケンタッキー(Kentucky)州ローワン(Rowan)郡のキム・デービス(Kim Davis)書記官と秘密裏に面会していたと、米紙ニューヨーク・タイムズNew York Times)が30日、伝えた。デービス書記官の弁護士が明らかにしたという。

 デービス書記官の弁護士のマシュー・ステーバー(Mathew Staver)氏は同紙に対し、デービス書記官は今月24日、夫のジョー・デービス(Joe Davis)さんと共にバチカンローマ法王庁)大使館に内密に呼ばれ、約15分間ローマ法王と面会したことを明らかにした。面会はバチカン当局者を通じて準備されたものだという。

 ステーバー氏は「法王が来て(デービス書記官に)手を差し伸べた。法王は彼女の勇気に感謝し、『強くあり続けなさい』と語りかけた」と述べた。

 デービス書記官は今月、連邦裁判所による同性カップルへの結婚許可証発行の命令を拒否して収監され、5日後に釈放された。


人は地上のどこにいようが、
イスラム国」・・・ダーイシュに忠誠を誓い、心の中で自分をその国民と見なすことも出来るのである。

カリフ復活とイスラーム国(IS)を材料に「国・忠誠・正統性」とは何か—をあらためて考えてみる - http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20140817/p4

http://www.huffingtonpost.jp/2014/07/07/isis-leader-abu-bakr-al-baghdadi_n_5562501.html
「このイスラム国家に移住できる者は移住するべきだ。イスラムの地(House of Islam)への移住は義務なのだから」と、バグダディ容疑者は書面で述べている。
イスラム教徒よ、自らの国家へ急げ。これはあなたがたの国家だ。シリアはシリア人のものではなく、イラクイラク人のものではない。この地はイスラム教徒、すべてのイスラム教徒のものだ」
「これは私からあなたがたへの助言だ。屈することなく貫き通せば、ローマを征服し、世界を手に入れることができるだろう。インシャラー(アッラーの御心のままに)」

一向一揆で、大名に叛旗を翻した武士たちはこういうスローガンを唱えた。
「主従の縁は一代、 弥陀の本願は永劫にたのむべきものなり」


というか、こういう悪夢におびえる世俗国家のせめてもの抵抗が「国家への忠誠」を求める宣誓なり、他国の国籍放棄を求めるなどの手続きなのだろう。それが究極において実効性のないフィクションであることと、表面的なものであってもそれを求める気持ちというかある種の合理性はともにあるようだ。
結局、蓮舫氏の問題は「その程度」である、というのが当方の印象。

アメリカの例、カナダの例

このリンク先がまったく興味深い

http://blog.so-net.ne.jp/canadian_history/2016-01-13

クルーズ候補はカナダのカルガリーで、アメリカ市民の母と亡命キューバ人の父との間に生まれた。合衆国憲法第2条は、大統領は「生まれながらの市民(natural born citizen)」でなければならないと定めている。アメリカの連邦裁判所はこれまで、「生まれながらの市民」の定義を明確にしたことはなかった。そのため「アメリカ国内で生まれた」か、「アメリカ人の親から生まれた」か、その両方なのか、定義が曖昧にされてきたため、その解釈をめぐってしばしば候補者の資格が問題にされてきた。副大統領から第21代大統領に昇格したチェスター・アーサーは、バーモント州ではなくケベックの生まれだと疑われた。1964年に共和党の大統領候補となり落選したバリー・ゴールドウォーターは、州になる前のアリゾナ準州で生まれたことが問題視された。1968年に共和党の大統領予備選に立候補しようとしたジョージ・ロムニーミット・ロムニーの父)は、メキシコの生まれだった。2008年に共和党の大統領候補となり落選したジョン・マケイン上院議員は、パナマ運河地帯の米軍基地で生まれたため資格を問われた。
(略)
クルーズ候補が子供のとき母が、彼のカナダ市民権のため手続きしなければならないと話していたため、彼はカナダ市民権を持っていないと思い込んでいた。ところがダラス・モーニング・ニュース紙が2013年8月、クルーズ上院議員はカナダ市民権を持つ二重国籍者だと暴露した。彼は2014年5月、カナダ市民権を放棄するとともに出生証明書を公表して、こう述べた。
「カナダに対抗するわけではないが、私は生まれながらのアメリカ人であり、合衆国上院議員である。私は、アメリカ人のみであるべきだと考えている。」
(略)
カナダ憲政史において、初期の首相たちは多くが外国籍を保持していた。そもそも当時のカナダは、国ではなかった。二重国籍の最後の首相は、ジョン・ターナー(イギリス国籍、在任1984年6月〜9月)である。カナダは、1982年憲法制定によって完全独立を果たしたと考えられており、それ以降では公職者の二重国籍はしばしば問題視された。自由党のステファン・ディオン元党首(現外務大臣)は、野党第一党党首に就任したときフランス国籍を放棄した。ミカエル・ジャン前総督も、就任するときフランス国籍を放棄した。新民主党は万年野党だが、トム・マルケア党首が党首選に出馬したときは、野党第一党だったため彼のフランス国籍が問題視されたものの、放棄していない。

北アイルランドシン・フェイン党は、「英国の選挙に当選」→「議員の義務である『王への忠誠』を拒否」→「登院しない(できない)」をずっと続けてるそうな。

http://empowerment884.cocolog-nifty.com/blog/2010/05/post-8f39.html
シン・フェイン党 登院しない国会議員たち

選挙で当選しても全く登院しない国会議員たちがいる。日本であれば税金の無駄遣いという大批判が巻き起こるでしょうし、懲罰動議が提出されるかもしれません。しかし、そうすることができない国があります。7日に総選挙が行われた英国です。
(略)
シン・フェイン党ですが、武装闘争を繰り返してきたアイルランド共和国軍IRA)に関係し、その主張は”アイルランド民族主義”です。北アイルランドの英国からの離脱とアイルランド共和国への併合を求めています。アイルランド共和国(エール)を本拠にするほか、北アイルランド議会、また英国議会にも代表を出しています。英国議会には、2005年の総選挙で5人の議員が当選し、今回も現有議席数を守りました。しかし、英国議会に選出された議員たちはこれまで議会には登院していません。それは議会において「女王陛下」への忠誠の宣誓を拒否しているからです。選挙民も議会で発言できないという不利よりも、女王陛下=英国を拒絶するという意思表示を重視しているのです。シン・フェイン党は当然、カトリックが地域が地盤ですが、英国議会の北アイルランドの全18選挙区のうち5つを押さえ、面積では半分ほどです。現在は平和に見える北アイルランドですが、問題は根深く、緊張をはらんでいます。