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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

おいしいチーズはどう生まれたのか…「チーズと文明」

チーズと文明

チーズと文明

古代南西アジアで誕生したチーズは、ギリシャの神々に捧げられ、ローマ帝国の繁栄を享受し、キリスト教と共にヨーロッパ各地に広がり、時にはオランダ商船によって運ばれ、産業革命に立ち会い、ピューリタンと新大陸へと渡り、そして現代アメリカとヨーロッパの間では原産地名称と生乳使用をめぐって貿易紛争が繰り広げられる…、いつの時代もチーズは私たちの営みと共にある。

著者について
ポール・キンステッド(Paul S. Kindstedt)ヴァーモント大学食物栄養学部(the Department of Nutrition and Food Sciences)教授。乳産品化学とチーズ製造に関して、数々の論文や共著を執筆しているほか、様々な研究会を開催している。ヴァーモントチーズ協会との共著で『アメリカにおける農場作り(ファームステッド)のチーズ』(2005年)があり、研究と教育両面においてその専門領域は国内で高い評価を受けている。現在、同大学内に設立されたヴァーモント職人作り(アルチザン)チーズ研究所理事を務めている。

だいたい、ポピュラーな食べ物の歴史を描いた本って、なんでも読むと面白い。
自分はラーメン、トンカツ、うなぎ、カレー…などなどの本を読んだっけか。これ大体、新書に評価の定まった名著がある。
しかしこれは本格的ハードカバーだ。


ナチュラル」な乳酸菌のチーズから、家畜の胃の「レンネット」をつかうチーズに。

自分はチーズというと思い出す、忘れがたい場面。

何巻だったかな…日暮巡査が「2度目」に登場した回だ。
これでチーズというのは、牛乳を放置しておいてうまくいくと、出来るもんだと思ってしまった…だが、やってみると実際にはうまくできなかった(笑)
しかし、あながち100%ホラじゃないみたいよ?


この本によると、まずはこういう流れだ。
・そもそも人類は、牛乳のラクトースを分解できないのが普通で、今牛乳を飲めるのは、そういう特異な遺伝が広まってからの話。飲めない人も多い。
・だが、チーズやヨーグルトならば、ラクトースが乳酸に変わるので食べることができた。
・家畜の牛乳は毎日搾れるし、搾らなければいけないので、貯めて保存できる工夫が必要になる。バター、ヨーグルト、チーズなどは生乳より当然保存が利くので、これが役に立った。


・南西アジアの気候なら、バクテリアが乳酸を発生させ、発酵し、固体のカードと透明な液体のホエーに分離する。
・このカードだけを集める、ざる的な役割を果たす穴あき容器が紀元前7000-6500年ごろから発見されている。残留物質からも、乳製品加工道具とわかる。


しかし!これは「酸」で固めるものではなかったのか、といわれている。
乳を固めるときに乳酸や加熱だけでやろうとしても、できなくはないが…そもそもチーズとヨーグルト、どう違うんだ?という話になる。
でも思えば、原始的なチーズとヨーグルトって、どこに差があるんだ?という話になる。限りなくやわらかくてすっぱいチーズは、ヨーグルトと変わりないんじゃないか??…とね。
だからこの種のチーズは、作り立てをすぐに食べるしかなかった、のだろうと。
あるいは、塩を入れて密閉したり、中近東の焼けつく日光に当てて、カラカラに乾燥させればまた違うらしいし、今でもそういうチーズが中東にはあり、すりおろしてスープに入れるなどしている。


とまれ
チーズが”あのチーズ”となるのは、やはり「レンネット」の登場を待たねばならない。

レンネットチーズの登場

レンネットとは、反芻動物の胃の内膜を乾燥させたもので、ミルクを凝固させるという。狂牛病騒動のときは、牛の殺処分で胃が足りなくなり、チーズ生産に支障をきたした…という報道を見た。というかそれを見て「え?牛の胃がないとチーズを作れないの?」と驚いたのですよ。

そしていつも、チーズの歴史をたどると、「これは伝説だろうけど…」と前置きされつつ紹介される逸話がある。

学研まんが「発明・発見のひみつ」から紹介したい。(子供のころのをとっておいた、お宝本だよ)

この本では、そもそも「(成人が)ミルクを飲む⇒バターやチーズができる」でなく「バターやチーズ⇒生でミルクを飲む」だからこの伝説は間違い、と論じている。


ここから神話や聖書、神殿の記録などに「チーズ」はいろいろ登場し、メソポタミアなどでは神殿へのささげもの、税として収めるようなものになっていったそうだ。
そこから固くて保存が利くチーズは、レンネットを使って固めたものだろ・・・と推測できるのだが、結局確実にレンネットのチーズだろう、とわかるのは、例えば紀元前1400年ごろのヒッタイトだとされる。
そして、レンネットで固めたチーズはきわめて保存性が高まり、海外貿易や交易でチーズを取り扱えるようになったという。
海水などを使って、塩漬けにするという方法も編み出された。


旧約聖書の「ヨブ記」に言う。

http://www.logos-ministries.org/old_b/job9-11.html
10:8 あなたの御手は私を形造り、造られました。それなのにあなたは私を滅ぼそうとされます。10:9 思い出してください。あなたは私を粘土で造られました。あなたは、私をちりに帰そうとされるのですか。10:10 あなたは私を乳のように注ぎ出し、チーズのように固め、10:11 皮と肉とを私に着せ、骨と筋とで私を編まれたではありませんか。

また紀元前2世紀、ローマでカトーが「農業論」を描き、羊10頭あたり豚1頭を飼い、チーズつくりで出てくるホエーをえさにして「ホエー豚」を育てればいい、と推奨したりしているそうな。チーズつくりと豚の相乗効果は各地で見られる。
その後、コルメラというローマ人も紀元60年ごろ「農事論」をかき、ここでははっきりレンネット使用など、具体的に説明している。風味をつけるためにりんごの木でスモークするといい、とも。


この後、チーズの製法は複雑化細分化し、各地に広まっていくと同時に、専門家が専門的に大量にまとめてつくるようになってくる。
フレッシュチーズから「熟成チーズ」が枝分かれしていくことにもなる。

9世紀の神聖ローマ帝国初代皇帝・カール大帝はこの熟成チーズを食べたという記録が残っている。

これがちょっとドラマ。
これは、とある旅の途中で、教会に立ち寄ったところ、食事の時腐った?ように見えるチーズを出される。しかし慈悲深いカールは、恥をかかせないようにそれに文句をいわず、腐った部分=皮をナイフで取り除いて食べようとすると…

「なぜそのようなことをなさるのですか、皇帝陛下。そこは最もすばらしい部分でございますよ」
カール大帝は誰に対しても誠実で、したがって周りの人間も信頼なさるお方であるから、司教様のお勧めに従って皮の分を口に入れ…
(略)
「実にそのとおり、すばらしいもてなしである」
といわれた。そして「毎年私のところに馬車2台分、このようなチーズを届けるように」

(シャルルマールの伝記作家、ノートーカーの記録)


ここから、広大な農地がなく、遊牧をやるしかなかった山岳地帯(スイスなど)がその自然環境を利用して山岳チーズの一大産地になったり、逆に低地の灌漑を進めたオランダが、チーズ生産と貿易の一大拠点となったり(丸いエダムチーズの誕生は、貿易の際に角があると割れやすかったからだと。)
エダムチーズといえば…

http://number.bunshun.jp/articles/-/823019
1976年1月、'72年ミュンヘン五輪の柔道2階級王者ルスカが柔道を引退し、プロレスに転向することを表明して来日。新日本プロレスアントニオ猪木と「格闘技世界一決定戦」を行なうと発表した。その緊迫した会見の席上で、らしくないフード対決があって取材陣の笑いを誘った。

 柔道とプロレスの激突だ。互いに対戦の抱負をブチ上げる。ルスカが「俺の故郷エダムには、最高のチーズがある。それを食べて育って強くなった」と発言すると、猪木が間髪を入れず「日本には高タンパク質の納豆がある。負けるわけがない」と切り返したのだ。

 食文化の違いをこれほど端的に表した食材はない。思わず「プロレス担当も捨てたものではない」とほくそ笑んだ次第。


バターを搾った乳からつくるチーズと全乳チーズに分かれていく流れもあり、そして農家のおばちゃんの、伝統の技で作るというイメージのチーズが、発酵や酪農が「科学的」にわかるにしたがって、アメリカなどで「大規模な工場で作れるんじゃね??」という試みも出てくる。
最後は大貿易圏、自由貿易の中でどうやってご当地の伝統チーズを護るか…という話も登場してくる。


自分は「チーズの起源」や「各種のチーズの科学的な違い」に興味が集中していて、そっちを重点的に読んだから後半部分はやや物足りなかったが、やはり勉強になり「食べ物本シリーズ」の推薦リストにくわえることに躊躇しません。


関連の推薦図書

銀の匙 Silver Spoon (13) (少年サンデーコミックス)

銀の匙 Silver Spoon (13) (少年サンデーコミックス)

  • 作者:荒川 弘
  • 発売日: 2015/06/18
  • メディア: コミック
チーズつくりを志願する女の子が出てきて(八軒と、あらぬ誤解を受けることになった)、ついでに生徒に隠れてこっそりチーズを作り、貯蔵する先生も出てくる(笑)。

http://polyhedra.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/post-cd7f.html
そんなジャガイモも日本人の手にかかればこれこのとおり擬人化されました。ホンマ日本人は業のふかい連中やでぇ。
 さてジャガイモは西川の家のを買うことにきまりました。のこったのはチーズです。で、チーズといえばこの人たち…

上で猪木vsルスカの代理戦争になる納豆vsチーズを紹介したが、本当に納豆菌とチーズの酵母は相性が悪く、朝に納豆を食べた人はその日、チーズつくりができないんだって。へええええ。


http://samuraimoon.blog67.fc2.com/blog-entry-2048.html?sp
『乳糖が濃くなったホエーを1/3排出して、その分ぬるま湯を追加。さらに乳糖を抜きます。』
『浸透圧を利用して乳糖を抜くんだ、なるほど〜』
『チーズ作りって 化学の実験みたいで おもしろいな!』
へ〜!チーズ作りで「浸透圧」が出てきましたか〜
しかしチーズ作りを初めて体験して、これが「浸透圧」を利用していると即座に見抜くとは… 八軒くんスゴイ!
自分が高校生のときを思い返すと「浸透圧」を理解していたかな〜???
浸透圧を学校の勉強で 浸透圧-Wikipedia のように説明されたら、それを覚えておくのは(私を含む普通の人には)難しいですよね。でも、チーズ作りや漬け物作りのときに「これが浸透圧なんですよ〜」と説明されたら記憶に残りますよね。

推薦リンク kousyoublog

「チーズと文明」ポール・キンステッド 著 http://kousyou.cc/archives/6715

…生き残るための食への欲求がチーズ誕生の要因となり、信仰と共に育まれ、農業技術の発展によってチーズ製造が発達し、経済規模の拡大がチーズ製造を産業へと成長させ、市場経済の発展と大量生産を可能とする機械化が伝統的産業としてのチーズ製造を衰退させる。歴史上、例外を探すことが困難なほどに普遍的なサイクルを…